公開日 2011/12/19 12:03
【連載レビュー第1回】音質ファーストインプレッション − クリプシュの歩みと確かな実績
独自技術“Tractrixホーン”の魅力とは?
■“全米No,1”ブランドの歩み |
「Image X10」、「ImageX5」といったカナル型ヘッドホンによって、ここ日本でもその名を知られるようになったクリプシュ。しかし、そもそもクリプシュはヘッドホンブランドではなく、1946年にアメリカ、アーカンソー州で創業した歴史あるスピーカーブランドである。
物理学者として著名なポール・W・クリプシュ氏によって創設された同社の歴史の中で、古くからのオーディオファンにも知られている名機が「Klipschorn」(クリプシュホーン)だ。「Klipschorn」はリスニングルームのコーナー部に設置し、床や両端の壁もホーンの延長として捉える、大型のオールホーン・3ウェイフロア型スピーカーとして、誕生から50年以上に渡って製造される、脅威のスーパーロングセラーモデルだ。
この「Klipschorn」以降も同社ではホーン型スピーカーシステムを伝統的に開発しており、現在の主要ラインナップもホーンスピーカーが占めている。
全米のコンシューマー市場において、クリプシュのスピーカーはオーディオ専門店や家電量販店での売り上げNo.1という実績を持つほか、コンシューマー向けラインナップ以外に映画館や設備向けを中心にした業務用ラインナップも展開している。これら業務用のシェアでもNo.1となっており、米国『ハードロック・カフェ』の公式スピーカーとしても指定されている。
さらに民生、業務用の各分野でTHX認証を得ており、クリプシュは北米や南米では実力のあるスピーカーブランドとして広く知られているのだ。
またクリプシュでは音響機器に関して30以上もの特許を保有しており、スピーカーやヘッドホン製品にもそうした技術が投入されている。クリプシュスピーカーは日本市場へも何度か紹介されているが、コンシューマー用としてよりも映画館(『ユナイテッドシネマ豊洲』ほか)などの業務用として採用された実績も数多くあり、まだまだ認知度は高くないが、ストレートで鮮度の高いホーンサウンドを味わえる数少ないスピーカーブランドとして注目に値する。
■ホーンスピーカーのメリットと音質特徴 |
クリプシュでは名機「Klipschorn」を含めてホーン型にこだわっていることを前項でもお伝えしたが、今現在、ブランドの特色として大きく取り上げているメーカーは多くはない。
ホーン型スピーカーが一番多く取り入れられているのは録音スタジオ、PA/SR用や劇場/映画館といった業務用の現場だろう。その理由としてホーン型は指向性が鋭く、特定のエリアへの伝播を行いやすいこと、そして小さい振動板を効率よくドライブできるため能率が高く、アンプ側の負担が少ないといった点が挙げられる。
そうしたメリットがある一方、コンシューマーユースではスイートスポットを広げる必要性もある。こうして、指向性の鋭さを緩和させるためマルチセルラーホーンやラジアルホーンなどが開発され、音響レンズといったユニットの前方へ取り付ける手法も登場した。
一般的にホーン型は中高域用ユニットに対して用いられることが多く、低域用では良く見かけるコーン型ユニットを用いて組み合わせるスタイルが普及している。
低域までホーン化しようとすると巨大なホーンを組み合わせなければ周波数特性を稼ぐことはできないため、大型化は免れない。そのためオールホーンスピーカーはハイエンドなもの中心となるわけである。
オーディオ全盛期には部屋を一つつぶして巨大なホーンを作ったという猛者もいたそうであるが、もっと単純に解決できる策として低域ユニットをエンクロージャー内部に収め、そのユニット前方から導かれるホーン部もエンクロージャー内部に折り畳んで収納するという手法が登場した。
この折り畳まれたホーンを開口部へ向けて徐々に断面積が広がっていくようにしたエクスポーネンシャルホーンを用いたシステムが、クリプシュの名機「Klipschorn」なのである。
現在のホーンスピーカーの主流は中高域用ユニットにホーンを取り付けたスタイルとなっており、クリプシュ製品もその例外ではない。能率が高いという大きなメリットによって、出力の低い管球式シングルパワーアンプとの組み合わせも有効であるが、クリプシュでは独自の“Tractrixホーン”によって、高能率でフラットな周波数特性と広いダイナミックレンジ、的確な指向特性を持たせている。また、より少ない振動板振幅とアンプパワーによって効率の良い再生を実現できるため、低歪なサウンドを獲得しているのである。
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