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公開日 2014/09/01 11:05

ケヤキによる美しい木製スピーカー、カネキン小椋製盆所「明日香」を検証する

【特別企画】日本の伝統技術「ろくろ」を駆使
炭山アキラ
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昨年の「音展」で初めてお目見えし、多くのファンから注目を浴びていた円筒状の木製スピーカー、 それが今回紹介する「明日香」である。日本古来からの伝統技術を応用しつつ開発を行い、 ついに完成した本スピーカーを2回に渡って紹介したい。 第1回目の今回では、その概要と音質を炭山アキラ氏がレポートする。


明日香
スピーカーシステム
¥120,000(ペア・税別)
【Specifications】
●型式:回折型フルレンジバスレフ ●ユニット:PARK AUDIO DCU‐F121W ●耐入力:30W ●音圧レベル:86.5dB ●インピーダンス:6Ω ●再生帯域:80Hz〜16kHz ●サイズ:210φ×300D×40H(スタンド 含む)cm ●樹種:ケヤキ ●仕上げ:くり抜き・オイル仕上げ ●専用スタンド付属

【取り扱い】
カネキン小椋製盆所 
TEL:0264-58-2021  
http://www.kanekin-ogura.co.jp

●「明日香」の成り立ちと概要
伝統工芸と地の利を利用し完成
美しい仕上げも素晴らしい


「あ、このスピーカー、見たことある!」とお思いになった人は、おそらく昨年の「音展」へ足を運ばれていたのではないか。カネキン小椋製盆所というおおよそオーディオとは何の関係もなさそうな名前のこの社は、社名から推測できる通り木工でお盆や木椀、匙などを製作するのが本業の会社である。

同社が得意とする「ろくろ」、現代でいうところの木工旋盤を操る「木地師」の技は、信濃国、木曽の土地で文徳天皇の時代、西暦にして800年代の半ば頃からの歴史をつないできた伝統工芸であるという。木曽の地は良質の天然木が入手しやすく、そういう意味でも木地師にとって理想郷というべき土地だったのであろう。そんな伝統ある同社がスピーカーを作るのだから、それはもう「ろくろ細工」に決まっている。

材質は目の詰んだケヤキで内部キャビネットは3つに分割されているという。直径21cm、奥行き40cmの先端が丸い円筒という格好のキャビネットだ。後端にダクトを備えたバスレフ型である。非常に丹念なラウンド加工の上にオイルフィニッシュが施され、見た目も手触りもしっとりと滑らかなのが素晴らしい。本機には基礎にV字型の羽がついたような格好のスタンドが付属しているが、それがまた材質といい仕上げといいキャビネットとよくマッチしている。美しく頑丈なスタンドである。


カネキン小椋製盆所による「ろくろ」を使った「明日香」の製作風景。作っているのは、日本の伝統工芸士にも認定されている小椋浩喜さん。長くに渡ってオーディオを愛してきた方である
ユニットにはウッドコーンを採用
キャビネットになじみ質感も良好


ユニットはパークオーディオのDCU - F121W。同社が得意とする「ウッドコーン」を持つ10cm口径のフルレンジである。振動板の材質はアフリカ産の「サペリ」というマホガニーに似た材だが、これがまた色調といい木目といいキャビネットにしっくりと馴染み、まるで最初から共同開発されたような質感を備えている。パークオーディオの冨宅社長も自社ユニットがこんな絶妙のキャビネットに収まるとは想像されていなかったのではないか。

●「明日香」の音に触れる
精度と丹念な仕上げの効果により
高解像度なサウンドを実現した


試聴は本誌試聴室で行った。最初からかなりワイドレンジで大編成のクラシックを聴いてみたが、大編成オケのスケールを表現するにはローエンドがほんのわずか不足するのを除けば、これは大した再現性である。オケは弦やコーラスの人数が見えてきそうな大変な高解像度で、フルレンジ1発だというのに高域も荒れず伸びやかな音を聴かせる。

このスピーカーユニットは私自身も自作スピーカーに使ったことがあるし、それはそれは、いろいろなキャビネットにマウントされたものを聴いてきたものだが、ここまで端正に整ったサウンドを聴かせてくれたキャビネットはなかったと断言できる。これはぜいたくな無垢のケヤキ削り出しという項目に加え、削りの精度、そして仕上げの丹念さが音にはっきりと表れているのである。平面の板を張り合わせて作る四角いキャビネットでは真似のできない表現ということもできるだろう。思わず知らず、ずいぶん長い時間を費やして聴いてしまった。

ジャズも聴くと一流の資質を感じ
声の通りが小音量時でも極めて良い



本機の背面端子部。シングルワイヤー専用でバナナラグに対応する高品位ターミナルを装備
続いてジャズを聴く。ピアノはどことなく可愛らしい音質で、ウッドベースは結構低いところまでしっかりと再現、ドラムスはスネアの切れ味が素晴らしい。得てしてこの手の円筒形スピーカーは特にウッドベース辺りの帯域に凹凸を生じやすく、それが時として耳障りな音になりがちなのだが、この「明日香」にそれはまったく当たらない。ごく素直な表現をものにしているのは、内部を3分割したり、といった形状の工夫が効いているのであろう。ライヴ会場の客席のさざめきがまたよく聴こえ、しかもそれが音楽と渾然一体となって耳に障らないのは、このスピーカーが一流の質感を持つことの証といってよいだろう。

ポップスは声がほんの少しハスキーになる傾向だが、これは鳴らし込むと徐々に収まってくる質のものだ。フルレンジ・ユニットは鳴らし込みに時間が掛かるから、少し気長に「育てる」つもりで鳴らしていかれるとよい。

いろいろな音楽を、ボリュームを上げたり下げたりしながら聴き続けたが、音量を下げても音楽がボケないこと、特に声の通りが小音量時でも極めて良いことが印象に残る。素性の良いユニットの力量を存分に発揮させ、ジャンルを問わず音楽を生き生きと楽しませてくれる。これは本当に逸品だと思う。

● 本機はこんな人にお薦めしたい
フルレンジで定位の良さも抜群なので
家族みんなで時間と空間を共有できる


何といっても1,000年を超える日本の伝統工芸だ。濃厚な和のテイストをまず楽しみたい。といって和室でなければ合わないということもなかろう。ウッディなテイストの洋間リビングにもこの「明日香」がしっくりと馴染んでくれることは推測に難くない。それに何より、この「空間にすんなりと馴染む音」は、オーディオマニアの独占物とするにはもったいない。昨今はとかくオーディオというと「お父さんの趣味」と化しているきらいがあるが、こういうサウンドで奏でる音楽こそ、家族みんなで時間と空間を共有してもらいたいと思うのだ。フルレンジで定位の良さも抜群だし、リビングの薄型テレビと併せてシアター的な使用もよいのではないだろうか。

(炭山アキラ)

※本記事は季刊「オーディオアクセサリー」154号 所収記事から転載したものです

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