公開日 2014/12/15 16:40
伝統技術「ろくろ」を駆使した木製スピーカー、カネキン小椋製盆所「明日香T-02」を聴く
伝統工芸士が一つずつ削り出す
昨年の「音展」で初めてお目見えし、多くのファンから注目を浴びていた円筒状の木製スピーカー、それが「明日香」である。
日本古来からの伝統技術を応用しつつ開発を行い、ついに完成したスピーカーシリーズを2回に渡って紹介したい。第2回目となる今回は、最新モデルについて、概要と音質を炭山アキラ氏がレポートする。
●ブランドについて
伝統工芸士の資格を持つ職人がひとつずつ削り出すスピーカー
カネキン小椋製盆所は長野県・南木曽に本拠を定める木工ろくろ細工の工房だ。そんな同工房がまさに突然といった風情でオーディオ業界へ飛び込んできたのは2013年、「音展」の展示が始まりだった。
オーロラサウンドやロジフル、タイムドメインといった、わりあい知られたメーカーとの共同ブースに展示されていたスピーカー「明日香」が目に飛び込んできた時の衝撃は忘れない。円筒と球で構成された、まるで海に放てば泳ぎ出しそうな曲面美だ。それは即ち「完璧なラウンドバッフル」も意味する。まさに「良い音の形」というわけである。実際にデモで音が出た瞬間、数十畳はあろうかという会議室にわずか10cm口径のスピーカーから放たれた音が浸透し、離れた場所の耳へもすんなりとなじむことに驚いた。「これは本物だ!」と一聴して確信した次第だ。
会場で「オレ、伝統工芸士なんですよ」と声をかけてもらったのが同工房の小椋浩喜さんとの出会いだった。その時は「ヘェ、そういう資格があるんだなぁ」としか思わなかったものだが、調べてみて驚いた。南木曽は平安時代から1000年以上にわたる木工ろくろ細工の伝統を保持する土地で、経済産業省の定める「伝統的工芸品」へも1980年に指定された由緒正しい「日本の工芸技術」である。そんな伝統的工芸品を製作する職人に対して厳しい試験を課し、合格した後に認定されるのが「伝統工芸士」という資格だ。小椋さんはまさに“日本の誇り"というべき職人なのである。
●新製品T-02の概要と音質
2つのキャビを持つ2ウェイ方式。複雑で優美なスタンドで構成される
そして2014年の音展では、カネキン小椋製盆所は独立したブースを構え、新作スピーカーが3機種登場していた。マークオーディオのフルレンジをマウントした「明日香 F-02」と大ぶりな2ウェイフロア型「明日香T-02」、そしてさらなる究極を目指した試作スピーカーである。ここでは主にフラッグシップの明日香T-02について語っていこう。
明日香T-02はフルレンジの明日香よりも大きく削り出したウーファー用キャビネットの上に相似形のトゥイーター用キャビネットを配し、複雑で優美な彫刻を思わせるスタンドでその両者を空間に配した構成の堂々たるフロア型である。ユニットはスキャンスピークの高級シリーズのもので、世界のハイエンド・スピーカーに採用実績を重ねる銘機といってよいものだ。
肌当たりは柔らかく緻密な音。歌い手の存在がごく自然に浮かび上がる
まずクラシックから聴いたが、小口径のユニットとは思えない重心の低さを持ちながら重くならず、抜けの良いオケの表現が素晴らしい。肌当たりはあくまでも柔らかく、しかし細かな情報を緻密に空間へ織り合わせていくような表現は、現代ハイエンド・スピーカーでもなかなか巡り合うことのない域へ到達している。これは明らかに“究極"のラウンドバッフルが空間へフリー配置されていることの旨味であろう。他をもって代えられない音の境地である。ポップスは女性ヴォーカルを聴いたが、歌い手の存在がスピーカーの間へごく自然に浮かび上がるさまは、普通の形状を持つスピーカーにはなかなか真似のできない至芸といってよい。声の質感は非常に細やかに表現してくれる。
どこかでこれと共通する味わいを体験したことがあったなと思っていたら、一緒に聴いていた知人が「これはソナス・ファベールだね」と一言。確かに「オマージュ」シリーズの美しい木の響きに彩られた響きの美しさは明日香と共通するものを感じさせる。
「削りの厚みならいくらでも薄くできますよ」と小椋さんは微笑む。その辺は伝統工芸士の技ならお手の物であろうが、そうやって試作を重ねていまの響きへ到達されたのであろう。小椋さんはもともとオーディオがお好きでずっと取り組んでこられたとか。それで、ご自分の技術がオーディオへ生かせないかと明日香の製作へ踏み切られたというから、やはり「ちゃんと音が分かった人」の手による作品だったということだ。
唯一ほんのわずかに惜しむらくは、ヴォーカル系を聴いていると、ごく稀にウーファーとトゥイーターで音源位置が分離するような印象を受けることだが、あの空間性がユニット配置からもたらされていることを思えば個人的には、これでよいと思う。あるいは、ヴォーカル用のバリエーションとしマークオーディオのフルレンジをウーファー代わりに取りつけ、トゥイーターを10kHz以上で使うというバージョンを展開されてもよいのではないか。それならヴォーカルの定位が揺らぐことはなく、素晴らしい“歌"を楽しむことがかなうだろう。
●本機の魅力と可能性
「人間らしさの回復」に効果を発揮。安息のひと時に深い安らぎを与えてくれる
そもそも、日本の自然とそれに深く親和した日本的工芸技術は音楽とよくなじむものではないか、と漠然と考えることがあった。カネキン小椋製盆所のスピーカーはまさにそれを3次元的に具現化した産物といってよいのではないかと思う。「日本の伝統工芸」の底力と、職人・小椋浩喜のオーディオ的感性の冴えをはっきりと耳へ伝えてくれる素晴らしい作品である。持てるキャラクターからして「音楽と対峙を迫る」というものではなく、仕事に疲れた夕食後のひと時に深い安らぎを与えてくれるタイプであろう。現代社会に最も必要な「人間らしさの回復」へストレートに効く感性の持ち主といって過言ではない。同工房の次回作も楽しみにしている。
Specifications
●型式:2ウェイ回折型スピーカー●ユニット:スキャンスピーク●音圧レベル:83dB●インピーダンス:4Ω●サイズ:600W×1000H×800Dmm●樹種:ケヤキ●仕上げ:くり抜き・オイル仕上げ●専用スタンド付属
【取り扱い】
カネキン小椋製盆所
TEL/0264-58-2021
http://www.kanekin-ogura.co.jp/
日本古来からの伝統技術を応用しつつ開発を行い、ついに完成したスピーカーシリーズを2回に渡って紹介したい。第2回目となる今回は、最新モデルについて、概要と音質を炭山アキラ氏がレポートする。
●ブランドについて
伝統工芸士の資格を持つ職人がひとつずつ削り出すスピーカー
カネキン小椋製盆所は長野県・南木曽に本拠を定める木工ろくろ細工の工房だ。そんな同工房がまさに突然といった風情でオーディオ業界へ飛び込んできたのは2013年、「音展」の展示が始まりだった。
オーロラサウンドやロジフル、タイムドメインといった、わりあい知られたメーカーとの共同ブースに展示されていたスピーカー「明日香」が目に飛び込んできた時の衝撃は忘れない。円筒と球で構成された、まるで海に放てば泳ぎ出しそうな曲面美だ。それは即ち「完璧なラウンドバッフル」も意味する。まさに「良い音の形」というわけである。実際にデモで音が出た瞬間、数十畳はあろうかという会議室にわずか10cm口径のスピーカーから放たれた音が浸透し、離れた場所の耳へもすんなりとなじむことに驚いた。「これは本物だ!」と一聴して確信した次第だ。
会場で「オレ、伝統工芸士なんですよ」と声をかけてもらったのが同工房の小椋浩喜さんとの出会いだった。その時は「ヘェ、そういう資格があるんだなぁ」としか思わなかったものだが、調べてみて驚いた。南木曽は平安時代から1000年以上にわたる木工ろくろ細工の伝統を保持する土地で、経済産業省の定める「伝統的工芸品」へも1980年に指定された由緒正しい「日本の工芸技術」である。そんな伝統的工芸品を製作する職人に対して厳しい試験を課し、合格した後に認定されるのが「伝統工芸士」という資格だ。小椋さんはまさに“日本の誇り"というべき職人なのである。
●新製品T-02の概要と音質
2つのキャビを持つ2ウェイ方式。複雑で優美なスタンドで構成される
そして2014年の音展では、カネキン小椋製盆所は独立したブースを構え、新作スピーカーが3機種登場していた。マークオーディオのフルレンジをマウントした「明日香 F-02」と大ぶりな2ウェイフロア型「明日香T-02」、そしてさらなる究極を目指した試作スピーカーである。ここでは主にフラッグシップの明日香T-02について語っていこう。
明日香T-02はフルレンジの明日香よりも大きく削り出したウーファー用キャビネットの上に相似形のトゥイーター用キャビネットを配し、複雑で優美な彫刻を思わせるスタンドでその両者を空間に配した構成の堂々たるフロア型である。ユニットはスキャンスピークの高級シリーズのもので、世界のハイエンド・スピーカーに採用実績を重ねる銘機といってよいものだ。
肌当たりは柔らかく緻密な音。歌い手の存在がごく自然に浮かび上がる
まずクラシックから聴いたが、小口径のユニットとは思えない重心の低さを持ちながら重くならず、抜けの良いオケの表現が素晴らしい。肌当たりはあくまでも柔らかく、しかし細かな情報を緻密に空間へ織り合わせていくような表現は、現代ハイエンド・スピーカーでもなかなか巡り合うことのない域へ到達している。これは明らかに“究極"のラウンドバッフルが空間へフリー配置されていることの旨味であろう。他をもって代えられない音の境地である。ポップスは女性ヴォーカルを聴いたが、歌い手の存在がスピーカーの間へごく自然に浮かび上がるさまは、普通の形状を持つスピーカーにはなかなか真似のできない至芸といってよい。声の質感は非常に細やかに表現してくれる。
どこかでこれと共通する味わいを体験したことがあったなと思っていたら、一緒に聴いていた知人が「これはソナス・ファベールだね」と一言。確かに「オマージュ」シリーズの美しい木の響きに彩られた響きの美しさは明日香と共通するものを感じさせる。
「削りの厚みならいくらでも薄くできますよ」と小椋さんは微笑む。その辺は伝統工芸士の技ならお手の物であろうが、そうやって試作を重ねていまの響きへ到達されたのであろう。小椋さんはもともとオーディオがお好きでずっと取り組んでこられたとか。それで、ご自分の技術がオーディオへ生かせないかと明日香の製作へ踏み切られたというから、やはり「ちゃんと音が分かった人」の手による作品だったということだ。
唯一ほんのわずかに惜しむらくは、ヴォーカル系を聴いていると、ごく稀にウーファーとトゥイーターで音源位置が分離するような印象を受けることだが、あの空間性がユニット配置からもたらされていることを思えば個人的には、これでよいと思う。あるいは、ヴォーカル用のバリエーションとしマークオーディオのフルレンジをウーファー代わりに取りつけ、トゥイーターを10kHz以上で使うというバージョンを展開されてもよいのではないか。それならヴォーカルの定位が揺らぐことはなく、素晴らしい“歌"を楽しむことがかなうだろう。
●本機の魅力と可能性
「人間らしさの回復」に効果を発揮。安息のひと時に深い安らぎを与えてくれる
そもそも、日本の自然とそれに深く親和した日本的工芸技術は音楽とよくなじむものではないか、と漠然と考えることがあった。カネキン小椋製盆所のスピーカーはまさにそれを3次元的に具現化した産物といってよいのではないかと思う。「日本の伝統工芸」の底力と、職人・小椋浩喜のオーディオ的感性の冴えをはっきりと耳へ伝えてくれる素晴らしい作品である。持てるキャラクターからして「音楽と対峙を迫る」というものではなく、仕事に疲れた夕食後のひと時に深い安らぎを与えてくれるタイプであろう。現代社会に最も必要な「人間らしさの回復」へストレートに効く感性の持ち主といって過言ではない。同工房の次回作も楽しみにしている。
Specifications
●型式:2ウェイ回折型スピーカー●ユニット:スキャンスピーク●音圧レベル:83dB●インピーダンス:4Ω●サイズ:600W×1000H×800Dmm●樹種:ケヤキ●仕上げ:くり抜き・オイル仕上げ●専用スタンド付属
【取り扱い】
カネキン小椋製盆所
TEL/0264-58-2021
http://www.kanekin-ogura.co.jp/