公開日 2020/07/23 07:00
生々しさに驚嘆、CHORDの新パワーアンプ「Ultima 5」が鳴らす高解像度サウンド
<連載>角田郁雄のオーディオSUPREME
皆さん、お元気ですか。そろそろ普段の生活に近づけたいところですが、東京は、まだまだ予断を許さない状況が続いています。嫌ですね、この先の見えない状況は…。私自身としては、さらに衛生面などに気をつけながら、仕事をしているところです。
■パワーアンプからスタートしたCHORD。航空機の電源開発技術を応用
さて今月は、イギリスのCHORD electronicsの最新パワーアンプ「Ultima 5」と「Ultima 6」が発売され、「Ultima 5」を自宅で使用できたので、紹介します。
この両モデル、サイズは全く同じで、重量は約22.4kg。私でも簡単に持ち運べる重さです。Ultima 5は出力300W(8Ω)で、Ultima 6は180W(8Ω)です。出力段にはMOS-FETが使用され、A/B級ステレオアンプ仕様となっています。再生周波数レンジは、0.5Hz〜100kHz(-1dB)で、全高調波歪率(THD)は、0.005%という性能値です。
さて、CHORDといえば、今ではDAC「DAVE」などが有名ですが、創業開始(1989年)の原点はパワーアンプでした。私は以前から創始者ジョン・フランクス氏とお会いしてきましたが、アンプの開発に関して印象深かったことを、ここで紹介しましょう。新作の両モデルの技術に繋がる内容で、まさに独創的な発想が理解できます。
もともとジョンは、CHORDを立ち上げる以前、さるエレクトロニクス会社で電源開発のエンジニアとして活躍していました。航空機、特に戦闘機の電源開発です。戦闘機には操縦関連機器、レーダーなどの通信機器、武器など数々の機器が搭載されています。そして、これらの機器には当然ながら電源が必要となりますが、それぞれの専門メーカーが勝手な仕様で電源を製作してしまうと、重量が重くなるだけではなく、多くのスペースも必要となります。
そこで戦闘機では、狭いスペースを有効に使うため、各機器の電源を一括収容する「モジュール方式電源ボックス」へ収めるようにしていたそうです。そして、ここで活躍したのは、超ローノイズで、安定した高精度スイッチング電源です。しかも、各機器が最大パワーで動作しても、その負荷変動に十分対応する信頼性は、安全面でも不可欠となります。
ジョンは、この電源装置の開発に携わっていたのです。そして趣味のオーディオでも、このスイッチング電源をアンプに使用できるはずと考え、夢中でアンプを製作したそうです。その後ジョンのパワーアンプは、音楽製作エンジニアにも評価され、1989年にブランドを立ち上げる事になりました。
さらに出力段の素子としては、MOS-FETが特性に優れて良い音質だと考え、創業以来、ずっと使い続けています。ちなみにジョンはお会いするたび、ポケットから、今では他社でほとんど使われていないはずの、自社向け仕様にオーダーメイドしたメタルカンタイプのMOS-FETを取り出し、見せてくれます。
詳しいエンジニアの話によると、この素子は、現在一般的に使われる樹脂モールドの3端子素子とは違い、金属シールドされているので、使い方によっては、外来電磁波の影響を受けにくく、今では通信用高周波増幅器や測定機器などに使われているそうです。これらは、まさにジョンの回路と音へのこだわりと言えるでしょう。
■高品位な電源を搭載。ブルーのLEDが回路の精密感を際立たせる
こうしたコア技術をさらに昇華させたのが、Ultima 5とUltima 6です。まず、デザインに一目惚れしてしまいます。正面から見るとシンプルなシルバーパネルが特徴で、アキュフェーズのA-75と比較すると薄型です。魅力的なのは、斜め上から見た姿です。放熱ネットから回路が少し見え、ブルーのLEDが回路の精密感を際立たせているように感じます。4本のインテグラレッグ(脚部)で全体が支えられ、航空機グレードなハイスピード・パワーアンプというイメージを想起させます。
私は内部回路にも興味津々で、トップパネルを開けましたが、それ以上分解すると元に戻せそうもないので、確認できる限りの内容と推察されることを紹介しておきます。
まずフロントには、同社独自の電源部を搭載しています。3分割されているようで、右には本体のLEDや保護回路用のスイッチング電源があり、中央には、前述の独自の出力段用スイッチング電源を装備。中央付近の黒色基板下には、複数の大容量コンデンサーを使用し、余裕のある高品位な電源を出力段に供給していると思われます。
ちなみに300Wを出力するアンプを考えた場合、かなり重量級の大型トランスを必要とするはずですが、スイッチング電源を使用すると、体積や熱量を減らし、軽量化できるだけではなく、立ち上がりが俊敏で、高効率の電源が実現できます。これはまさに航空機電源の技術を応用したもので、高品位なアナログ電源と同等の低ノイズ性能を実現していると推察されます。
一番左にも、トライダルトランスと大容量コンデンサーを使用した電源がありますが、これは、初段と電圧増幅段に使用されていると推察されます。見ているだけでもワクワクしてしまうほど、精密感に溢れた電源部を搭載しています。
肝心な出力段(電力増幅段)ですが、これはリア側に配置されています。資料によると、MOS-FETは左右合計で32式が使われているとのことです。わずかな隙間から観察すると、これらの素子が、左右の厚みのあるアルミプレートに取り付けられています。複数のプレートが棚のように間隔を開け、リアパネルの垂直な放熱器に、水平に設置されています。
また増幅回路では、「デュアル・フィードフォワード・エラー補正技術」が使用され、歪み成分をキャンセルさせていることが特徴です。それにしても、リアの放熱器ラインでは、一つ一つの放熱板が5cmに満たないほど短いですが、かなり音量を上げ、3時間ほど使用しても発熱量が少ないことに驚いてしまいます。重たいトランスや放熱器を使用せず、ハイパワーを実現していることに効率の良さを感じますね。
■パワーアンプからスタートしたCHORD。航空機の電源開発技術を応用
さて今月は、イギリスのCHORD electronicsの最新パワーアンプ「Ultima 5」と「Ultima 6」が発売され、「Ultima 5」を自宅で使用できたので、紹介します。
この両モデル、サイズは全く同じで、重量は約22.4kg。私でも簡単に持ち運べる重さです。Ultima 5は出力300W(8Ω)で、Ultima 6は180W(8Ω)です。出力段にはMOS-FETが使用され、A/B級ステレオアンプ仕様となっています。再生周波数レンジは、0.5Hz〜100kHz(-1dB)で、全高調波歪率(THD)は、0.005%という性能値です。
さて、CHORDといえば、今ではDAC「DAVE」などが有名ですが、創業開始(1989年)の原点はパワーアンプでした。私は以前から創始者ジョン・フランクス氏とお会いしてきましたが、アンプの開発に関して印象深かったことを、ここで紹介しましょう。新作の両モデルの技術に繋がる内容で、まさに独創的な発想が理解できます。
もともとジョンは、CHORDを立ち上げる以前、さるエレクトロニクス会社で電源開発のエンジニアとして活躍していました。航空機、特に戦闘機の電源開発です。戦闘機には操縦関連機器、レーダーなどの通信機器、武器など数々の機器が搭載されています。そして、これらの機器には当然ながら電源が必要となりますが、それぞれの専門メーカーが勝手な仕様で電源を製作してしまうと、重量が重くなるだけではなく、多くのスペースも必要となります。
そこで戦闘機では、狭いスペースを有効に使うため、各機器の電源を一括収容する「モジュール方式電源ボックス」へ収めるようにしていたそうです。そして、ここで活躍したのは、超ローノイズで、安定した高精度スイッチング電源です。しかも、各機器が最大パワーで動作しても、その負荷変動に十分対応する信頼性は、安全面でも不可欠となります。
ジョンは、この電源装置の開発に携わっていたのです。そして趣味のオーディオでも、このスイッチング電源をアンプに使用できるはずと考え、夢中でアンプを製作したそうです。その後ジョンのパワーアンプは、音楽製作エンジニアにも評価され、1989年にブランドを立ち上げる事になりました。
さらに出力段の素子としては、MOS-FETが特性に優れて良い音質だと考え、創業以来、ずっと使い続けています。ちなみにジョンはお会いするたび、ポケットから、今では他社でほとんど使われていないはずの、自社向け仕様にオーダーメイドしたメタルカンタイプのMOS-FETを取り出し、見せてくれます。
詳しいエンジニアの話によると、この素子は、現在一般的に使われる樹脂モールドの3端子素子とは違い、金属シールドされているので、使い方によっては、外来電磁波の影響を受けにくく、今では通信用高周波増幅器や測定機器などに使われているそうです。これらは、まさにジョンの回路と音へのこだわりと言えるでしょう。
■高品位な電源を搭載。ブルーのLEDが回路の精密感を際立たせる
こうしたコア技術をさらに昇華させたのが、Ultima 5とUltima 6です。まず、デザインに一目惚れしてしまいます。正面から見るとシンプルなシルバーパネルが特徴で、アキュフェーズのA-75と比較すると薄型です。魅力的なのは、斜め上から見た姿です。放熱ネットから回路が少し見え、ブルーのLEDが回路の精密感を際立たせているように感じます。4本のインテグラレッグ(脚部)で全体が支えられ、航空機グレードなハイスピード・パワーアンプというイメージを想起させます。
私は内部回路にも興味津々で、トップパネルを開けましたが、それ以上分解すると元に戻せそうもないので、確認できる限りの内容と推察されることを紹介しておきます。
まずフロントには、同社独自の電源部を搭載しています。3分割されているようで、右には本体のLEDや保護回路用のスイッチング電源があり、中央には、前述の独自の出力段用スイッチング電源を装備。中央付近の黒色基板下には、複数の大容量コンデンサーを使用し、余裕のある高品位な電源を出力段に供給していると思われます。
ちなみに300Wを出力するアンプを考えた場合、かなり重量級の大型トランスを必要とするはずですが、スイッチング電源を使用すると、体積や熱量を減らし、軽量化できるだけではなく、立ち上がりが俊敏で、高効率の電源が実現できます。これはまさに航空機電源の技術を応用したもので、高品位なアナログ電源と同等の低ノイズ性能を実現していると推察されます。
一番左にも、トライダルトランスと大容量コンデンサーを使用した電源がありますが、これは、初段と電圧増幅段に使用されていると推察されます。見ているだけでもワクワクしてしまうほど、精密感に溢れた電源部を搭載しています。
肝心な出力段(電力増幅段)ですが、これはリア側に配置されています。資料によると、MOS-FETは左右合計で32式が使われているとのことです。わずかな隙間から観察すると、これらの素子が、左右の厚みのあるアルミプレートに取り付けられています。複数のプレートが棚のように間隔を開け、リアパネルの垂直な放熱器に、水平に設置されています。
また増幅回路では、「デュアル・フィードフォワード・エラー補正技術」が使用され、歪み成分をキャンセルさせていることが特徴です。それにしても、リアの放熱器ラインでは、一つ一つの放熱板が5cmに満たないほど短いですが、かなり音量を上げ、3時間ほど使用しても発熱量が少ないことに驚いてしまいます。重たいトランスや放熱器を使用せず、ハイパワーを実現していることに効率の良さを感じますね。
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