公開日 2024/04/18 06:30
ソフトウェアの使いこなしが高音質への鍵。LINNの純正操作アプリ&「Manage Systems」の活用方法をチェック
【特別企画】ネットワークプレーヤー「SELEKT DSM」で追求するオーディオの楽しみ
ハードウェアからソフトウェアまですべて自社開発
ネットワークプレーヤーという新たなオーディオジャンルを切り開いた、スコットランドのオーディオブランド、LINN(リン)。ファイル再生はもちろん、音楽再生の主要ソースがストリーミングへ移行してからも、コンポーネントからコントロール・ソフトまですべてを内製する同社ならではのアドバンテージを武器に、音質はもちろんのこと、操作性や機能面でもネットワーク再生をリードし続ける存在だ。
本記事では、同社のネットワークプレーヤー運用に欠かせない最新世代コントロールアプリ「LINN app」の機能や利便性、同じく最新の管理ツールである「Manage Systems」の特長を概観するとともに、最新バージョンに加わった「サブソニックフィルター」及び「カスタムフィルター」を使った音質追求についても実践して、改めてその魅力を探ってみたい。
LINNは「DS(デジタルストリーマー)」、つまりはネットワークプレーヤーを2007年に具現化して以降、そのコントロールソフトも、再生メディアやハードの進化に伴い数世代にわたってアップデートさせてきた。
その歴史を簡単に振り返ると、同社がネットワークプレーヤー分野でいかにUp To Dateな存在であったかが理解できる。
始まりは、2007年に初代フラグシップ「KLIMAX DS」と同時にリリースされた初のコントロールアプリ「LINN GUI」だ。シンプルなテキストベースのツリー構造ファイルブラウザやプレイリスト操作を実現したコントロールアプリであり、画面を360度回転させられるコンバーチブル型ノートPCやPDA端末用に開発されていた。2007年というと、Appleから初代iPhoneが発表されたばかりの時期であり、コントロールアプリという発想がいかに先進的であったかが分かる。
翌2008年、LINN GUIはより洗練されたグラフィカルなインターフェイスを持つKinskyへと進化。続く2011年にはWindowsやPDA版に加え、iOS版もリリースし動作プラットフォーム拡大を果たした。
その後、プレーヤーにアンプ機能が内蔵された一体型ソリューションである「DSM」の主流化を受け、アンプのボリューム操作や入力切替機能を加えるとともに、ストリーミングサービスやインターネットラジオにも対応する「Kazoo」を2014年に登場させる。このDSMという形態も、今流行しているHDMI搭載ネットワークレシーバーをまさに先取りするものと言えるだろう。
グローバルサーチ機能を備える最新世代のコントロールアプリ
そして2020年、異なるストリーミングサービスやローカルネットワークファイルから楽曲の横断検索が可能な「グローバルサーチ」機能を備える、現行の「LINN app」へとアップデートされ今に至るという流れだ。
この流れを追うだけでも、LINNのDSシリーズやそのコントロールアプリが、ネットワークプレーヤー黎明期から現在のストリーミング再生時代へと、常に適切な進化発展を遂げてきたということを再確認できるのではないだろうか。
世代を重ねて醸成された最新バージョンの「LINN app」は、視認性良い上質なデザインや軽快な動作はそのままに、メイン画面のメニュー項目を刷新するなど、より快適な音楽再生操作が追求されたものとなっている。
中でも、リスニング体験を高める注目すべき特徴が「LINNアカウント」の存在である。これは、LINN のWebサイトからユーザー登録して自分専用のアカウントを持つことで、クラウド上にプレイリストが保存でき、使用するプレーヤーや操作端末にとらわれることなく、どのプレーヤーに接続しても常に自分のお気に入りの音楽ライブラリを楽しむことができる機能だ。
ほかにも、アプリ側からの本体ファームウェア更新も含め、LINN製品であれば全く同じ使用感でコントロール可能な点も「LINN app」の大きな特徴といえる。
管理ソフトも「Konfig」から「Manage Systems」に進化
また、LINNアカウントと密接に結びつくのが、管理ソフト「Manage Systems」である。これは従来の「Konfig」に置き換わるものだ。これまで「Konfig」はユーザーのコンピューターにインストールして使用するローカルなソフトウェアだったのに対し、webブラウザ上で動作させるクラウドソフトウェアへと進化し、各種設定をLINNアカウントから一元的に管理することが可能となった。
「Manage Systems」には、機器の名称やディスプレイの明るさ、各入力のゲイン調整、ピンアサインなど、プレーヤーの使い勝手を調整可能な機能が多数備わっている。そして最大のポイントは、「Space Optimisation」の進化版である「Account Space Optimisation」機能を実現したことだ。
「Space Optimisation」は、リスニングルーム内に発生する80Hz以下の定在波の制御と、各スピーカーからのタイムアラインメントを行うLINN独自のプログラムである。それが「Account Space Optimisation」へと進化することで、プログラムの演算がLINNのサーバー上で行われることになり、 部屋のサイズや壁の素材、スピーカーの種類、スピーカーの位置、リスニングポイント、温度や湿度までなどを細かく入力し、従来よりも格段に高精細な音場最適化処理が実現できるようになったのである。
またManage Systemsで加わった注目機能が、「カスタムフィルター」と呼ぶ新たなフィルター処理だ。再生環境や好みに応じてトーンコントロール的に使用できるトレブルシェルフ(高域)とベースシェルフ(低域) 、超低域成分をコントロールする「サブソニックフィルター」が追加され、さらなる音質追求が可能となっている。
また、同じく最新のアップデート項目としては、「Roon Ready」認定となったことが挙げられる。加えて、Roonの再生プロトコルである「RAAT」を使用せずに、LINN独自の再生プロトコルである「Songcast」を使用してのRoon再生を実現するなど、さらに再生機能の幅が広がっている。
SELEKT DSMを使用して実際のアプリの使用感をテスト
ここで、実機を使って実際の使い勝手を試してみよう。LINNのSELEKT DSM、Edition Hubモデル、ORGANIK DAC搭載バージョンであるSELEKT DSM-EOAを使用してBowers&Wilkins「803 D4」を駆動した。オーディオサーバーにはfidata「HFAS2-X40」を用いている。
はじめにアプリの使用感だが、ハードウェア同様の洗練されたグラフィックが心地よい見た目である。最新バージョンでアップデートされたというインターフェイスだが、旧バージョンと比べると、メイン画面下部のメニュー項目が整理されシンプル化されている。
「部屋」、「探検する」、「プレイリスト」、「もっと」の4項目となっているのだが、再生操作に直接関係のない項目が「もっと」の中にまとめられているので、ユーザーはより直感的に音楽再生操作だけに集中することができるだろう。
それから個人的に好ましく感じたのが「探検する」という項目名だ。登録したストリーミングサービスやオーディオサーバーを横断的に検索するグローバルサーチによって、まさに音楽の大海原や深海へと潜っていくかのような、そんなワクワクする音楽体験を想像させてくれるのだ。この「探検」という一言の選び方にもLINNの思想が現れていると筆者は感じた。
肝心のグローバルサーチ機能も大変使いやすい。取材時は複数のストリーミングサービスを登録して使用していたが、楽曲名やアーティスト名などから、ローカルサーバーを含めた横断的な検索をレスポンスよく行なうことができた。
Space Optimisationやフィルターで音質をさらに追い込める
次に、「Manage Systems」を使用するために、Linnアカウントを作成する。 LINN Japanサイトのトップ画面にあるバナーから登録画面に入るのだが、アカウントといってもメールアドレスを入力するだけなので、細かな個人情報を入力する必要がなく素早く登録が可能だった。
登録完了後、当該機にアカウントを紐付けし、「Manage Systems」にログインすると、現在取材で使用している「SELEKT DSM-EOA」にすぐさまアクセス可能となった。項目としては実に多岐にわたり、残念ながらまだ日本語対応はしていないが、操作やメニュー階層自体は至ってシンプルで、目的の項目にたどり着くのは難しくないだろう。
先述の「Account Space Optimisation」を実際に使用すると、その綿密さに驚かされる。進化した 「Account Space Optimisation」では、部屋の寸法を細かく入力していくことで、部屋形状を緻密に再現していくことができる。たとえば、試聴室内にある窓枠の僅かな張り出しや、換気扇の出っ張り部分なども再現が可能なのだ。
その他、先述した様々な項目を入力していくのだが、時間を通しての定在波の振る舞いや減衰までもが考慮に入れられているといい、これはまさに部屋を再現する「モデリング」に他ならない作業である。一般的な音場補正ソリューションは、マイクを使った測定値を元にするが、そこにつきまとう不確定な要素(測定タイミングや設置環境等による測定結果の微細なばらつきなど)をできるだけ排除して、あくまで綿密なシミュレーションに基づいた演算を行なおうというのが、LINNならではのアプローチと言える。
加えて、湿度や温度という不確定要素の一部を反映させられたり、計算値の適用度合いを細かいステップ幅で調整できるというのも、一般的な音場補正ソリューションと一線を画す、本機能ならではのものといえるだろう。
これらの適用作業を終えて、実際に「Account Space Optimisation」のオンとオフを聴き比べてみると、その効果は一聴瞭然である。部屋に由来していた中低域のブーミングや濁りが大幅に抑えられ、音楽描写の透明度が向上している。ベース帯域自体はもちろんだが、それにともなって、音楽の主役である「声」の明瞭度が大きく変わる点が、音楽のリスニング体験を大きく変えるものだと推察する。
中でも特に強力に作用したのが、バロックオーケストラとコーラスによる、バッハ・コレギウム・ジャパン『J.S.バッハ:ロ短調ミサ』(BIS)の再生で、ホールの残響が明快になって音楽の立体感が増すとともに、コーラスの歌声にさらに生き生きとした躍動感が引き出された。
続いて試したのが、新たに加わった「サブソニックフィルター」機能だ。これは、ソースに含まれる超低周波成分をロールオフさせるもの。スピーカーの再生限界値F0(エフゼロ)を下回る低音域のドライブユニットの動きを制限することにより、低音/中音域全体でより優れたリニアリティを実現するという。サブソニックフィルターのカットオフ周波数はかなり低く設定する必要があるため、LINNでは大型スピーカーの場合約7-12Hz、中から小型 スピーカーの場合は20-30Hz を推奨している。
今回の試聴環境では、これが実に効果的であった。もっとも顕著に現れたソースがChristian Grøvlenによるソロ・ピアノアルバム『BACH - Inside Polyphony』(2L)で、収録会場の教会空間の広さ表現が大幅に拡大された。スカッと抜け亘る余韻が快く、実に清涼で透明なピアノの音色に魅了される。立体的で、やはり生き生きとした音楽が展開するのだ。
制作アプローチ的に暗騒音成分が多く含まれることの多いクラシックソースには、特に有用なのかも知れない。もちろん、一般的なポップスのボーカルでももちろん有用で、声の明瞭度の向上を実感することができた。
さらに、「カスタムフィルター」機能の「トレブルシェルフ(高域)」と「ベースシェルフ(低域)」 も試してみたが、こちらはまさにトーンコントロール的に使える便利な機能であった。好みに応じた音質調整に有用な機能だろう。
DSの誕生から15年を超え、いまも最先端をゆくネットワークソリューション
以上のように、「LINN app」と「Manage Systems」によるLINNのネットワーク再生ソリューションは、実に画期的かつ魅力的なものであることを改めて実感した。
LINNならではの優美な音質やハードウェアデザインに始まり、快適な操作が味わえるコントロールアプリや、DSシリーズやスピーカーの魅力を更に引き出す「Account Space Optimisation」や「サブソニックフィルター」機能など、まさにこれらはハードウェアからソフトウェアまでをすべて内製できるLINNだからこそ実現できる、濃密なリスニング体験であろう。
このようなLINNの開発体制やソリューションは、とりわけ規格や機能のアップデートが短いスパンで繰り返されるネットワーク再生分野において、もっとも理想的なプロダクトの在り方と言えるのではないだろうか。
(提供:リンジャパン)