公開日 2024/04/26 11:00
エイプリルフール企画が現実に!?2大カスタムIEMブランドの粋を感じる「SUPERIOR EX」速報レビュー
qdc「SUPERIOR」をベースにハウジングやケーブルなどをリチューン
カスタムIEMブランド・奇跡のコラボが実現
2大カスタムIEMブランドによる史上初の共同開発が実現した。(株)アユートは、中国のカスタムIEMブランド「qdc」と日本のカスタムIEMブランド「FitEar」が共同開発したユニバーサルIEM「SUPERIOR EX」を5月11日に発売する。
SUPERIOR EXは好評のqdc「SUPERIOR」をベースに、FitEarの技術協力を得てチューニングやパーツの改良を重ね、“音楽が持つ本来の広大なダイナミクスを忠実に再現する”ことを目指した製品だ。プロユースがメインとなるカスタムIEMブランド同士という異色の組み合わせによる共同開発は珍しい。
その開発は、FitEarの須山慶太氏が発売されたばかりのSUPERIORを試聴し、その基本的な音の良さに感心した時に始まった。須山氏はSUPERIORの音の素性の良さに感心したが、同時に思うところもあり独自の調整を施したところ、思わぬ伸び代を発見。チューニングのアイデアを得たという。そこで代理店のアユートを介してqdcに正式にコラボを提案したのだ。
qdcはODMやOEMは基本的に行わないが、コラボには前向きな姿勢を示した。須山氏からの提案を快諾して、とんとん拍子で開発が進んだとのこと。
qdcとFitEarの役割分担は、まずFitEarの須山氏が基本的なチューニングコンセプトを考え、それをqdcがハウジングの変更やケーブル選定なども含めたハード面の細かな設計を担当して製品化するというものだ。このqdc側の作業には代理店のアユートも参加して製品化のための最終調整を行った。
その須山氏のチューニングコンセプトとは“ピークを調整して音楽のダイナミクスを存分に再現する”というものだ。須山氏は少しピークが大きい周波数ポイントに対してフィルタリングを施すことで、より音圧を上げられるようなチューニングを思いついた。さらにSUPERIORの元々持っている音質的魅力をなるべく活かすように必要最小限の調整となるように努めたという。
音にピークがあることは個性の上では必ずしも悪ではないが、ピークがあるとその分余裕が減って音圧を上げにくくなり音楽のダイナミックレンジを損なうことにもつながってしまう。今回のチューニングは特定のジャンルを狙ったものではないが、音楽のダイナミクスを大きく取った録音などでその効果を発揮するということだ。
筐体とケーブル、それにチューニングを再検討
SUPERIOR EXの特徴を説明する前に、まずオリジナルのSUPERIORを簡単に説明する。SUPERIORはqdc初になる10mm径シングルフルレンジのダイナミックドライバーを搭載した有線イヤホンだ。ダイアフラム(振動板)には真空成膜技術を使用した複合膜を採用している。
ドライバーは正確な音楽再現を可能とするために過度特性を重視した設計が行われ、振動板駆動用の磁気回路をドライバーの内外にそれぞれ使用することで磁束密度を高める工夫がなされている。
このように本格的な設計がなされたイヤホンだが、プロ製品のイメージが強いqdcとしては戦略的なエントリー価格製品であるということもポイントだ。
SUPERIOR EXの“EX”とは、EXECUTIVE、EXTRA、EXPERIENCEの3つの意味が込められているという。
オリジナルのSUPERIORと新しいSUPERIOR EXは大きく3つの点が異なる。まず前述したピークを抑えてダイナミクスを向上させるチューニング、アルミ筐体の採用、そして新しい銀メッキOFCケーブルである。
筐体素材はステンレスやチタンなど様々な素材も評価した上で、今回の音のコンセプトにマッチするようにアルミを選択したとのこと。ケーブルは音のメリハリをつけるためと低音を深めるために3種類の線材から選択したという。
ケーブルはSUPERIORと同じ2ピン端子で互換性がある。これは今回同時発売する4.4mmバランス接続ケーブル「SUPERIOR EX Cable 4.4-IEM2pin」も同じで、SUPERIORとSUPERIOR EXを持つユーザーはそれぞれケーブルを組み換えて楽しむこともできる。
SUPERIOR EXの付属品はキャリングケースとS/M/Lのシリコンイヤーピース、S/M/Lのダブルフランジのシリコンイヤーピース、他にクリーニングツールがついてくる。ダブルフランジのイヤーピースやクリーニングキットなどハイクラスイヤホンのような付属品がついてくるのはqdc製品らしいところではある。
SUPERIOR EXはクリアで躍動感のあるサウンドが魅力
試聴はAstell&Kern「A&norma SR35」を使用した。SUPERIOR EXはまず手に持った時点でSUPERIORとは明確な違いを感じる。アルミ筐体の冷やっとした手触りはプラスチック筐体のSUPERIORよりもひとランク上のモデルという印象を受ける。筐体デザインは耳の形に沿った形状でフィット感も良い。装着感も軽く、金属化で重くなった感じはない。
またケーブルが撚り対タイプとなっているのもSUPERIORに比べて高級感を感じられる点だ。ケーブルのタッチノイズはほとんどない。
SUPERIOR EXのサウンドは、クリアでかつダイナミックドライバーらしい躍動感が持ち味だ。低音がたっぷりあってパーカッションやドラムスの連打が気持ち良い。ダイナミックドライバーモデルにありがちな甘さが少なく、楽器音の歯切れが良いのはオリジナルのSUPERIORゆずりである。
SUPERIOR EXとオリジナルSUPERIORの音の違いは、やはり高い音のピークの部分で強く表れる。同じ曲で比べてみるとオリジナルSUPERIORでは女性の声やヴァイオリンの高い音が甲高いキツめの音になりがちなのに対して、SUPERIOR EXではそこが抑えられている。オリジナルSUPERIORでは音が大きくなるほどキツさが耳についてくるのだが、それが無いSUPERIOR EXは音量を上げやすい。プロサウンドに手慣れたメーカーのチューニングらしいように感じられる。
これはクラシックのようなダイナミックレンジに優れた録音がなされた音楽で効果的なように思えるが、実のところはジャンルを問わず恩恵を受けられる。例えばメタルバンドのEluveitieの曲を聴いてみると、SUPERIOR EXではオリジナルSUPERIORよりもSR35の目盛りで5ステップくらい音量を上げることができる。これによって畳み掛けるようなドラムスなどのパワーと破壊力がいっそう高く感じられ、SUPERIORの持ち味がさらに活きているように思えた。
高域成分は減ったのだが、ハウジングやケーブルの変更で加えられたシャープネスのおかげなのか、サウンド自体が鮮明さに欠けることはない。実際にSUPERIOR EX付属のケーブルをオリジナルSUPERIORにリケーブルして使用してみると、音の輪郭の鮮明さが増してよりシャープになるように感じられる。このようにチューニング調整だけではなく、ハウジング材質やケーブル線材の変更も相まって新しいSUPERIOR EXのサウンドを作り上げていることがわかる。
一方でオリジナルSUPERIORでは、それほど音量を上げなくとも女性ヴォーカルのやや高めのアクセントが気持ちよく聴こえることもあるので、最終的にはやはり好み次第という面はある。
別売のバランスケーブルで音楽のスケールが一段とアップ
別売の「SUPERIOR EX Cable 4.4-IEM2pin」で4.4mmバランス対応にして、再度SR35で聴いてみると期待通りに音楽のスケールがいっそう大きくなり、ますます迫力のあるサウンドが楽しめた。SUPERIOR EXの方が音に余裕を感じられるので、より駆動力のある4.4mmバランスとの相性も良いだろう。
SUPERIOR EXに4.4mmバランスケーブルをつけて楽しむメタルサウンドは、一際パワフルで気持ちが良い。女性ヴォーカルのSHANTIの歌声も細かなニュアンスが聴き取れて感情豊かに楽しむことができる。アニソンでヴォーカルだけでなくバックのバンドサウンドも楽しみたいという人にも向いているだろう。
SNSをよくチェックしている方は「あのエイプリルフール企画が本当に」と思うかもしれないが、実際のところ異なるイヤホンメーカー同士のコラボはそう簡単ではないはずだ。
さきに「カスタムIEMブランド同士という異色の組み合わせ」と書いたが、須山氏に聞いてみると今回のコラボでは明確なゴールがない中でお互いに「阿吽の呼吸」のような理解で進むことができたという。カスタムIEMブランド同士という共通の土台を持ち、互いにリスペクトする関係だからこそ、この「エイプリルフールのような企画」が可能だったのだろう。
端的にまとめるとSUPERIOR EXは、“ちょっと大人になったSUPERIOR”と言えるかもしれない。多少やんちゃなオリジナルSUPERIORにも良さがあるが、SUPERIOR EXは大人の余裕でオリジナルSUPERIORの持っていた可能性をさらに広げてくれる。音楽好きなオーディオファンにとっては音楽の持つダイナミクスを存分に堪能させてくれるSUPERIOR EXは魅力的なモデルだ。2大カスタムIEMブランドの粋が感じられる注目作と言えるだろう。