公開日 2011/11/22 20:22
ソニーが新ビジネスユニットで開発中の「次世代テレビ」とは?
このところ苦境が続いている、国内AVメーカーのテレビ事業。ソニーやパナソニックなど、これまでテレビの販売台数拡大競争に鎬を削ってきたメーカーの多くが赤字に耐えかね、販売台数より利益を重視する戦略にシフトした。
この戦略変更に伴って、工場の生産休止を行って減損処理を行い、大きな赤字を計上するメーカーも現れた。また一部の国内メーカーが「テレビ撤退」という誤った内容の見出しで紹介されたこともあり、一気に敗戦ムードが強まった。
複数の大メーカーが事業規模を縮めるという決断を下したため、今後、少なくとも短期的には、国内テレビメーカーのプレゼンスが低下することは確実だ。
◇
もちろん、悲観すべき話題ばかりでもない。コモディティー化が進む薄型テレビに、もう一度確固たる価値を加える試みは、各メーカーが以前から競い合っている。それぞれが模索しながら蒔いた種は、まだ花開いたと言える時期ではないが、今後収穫の時期を迎える可能性は大いにある。
たとえば東芝は、4Kと裸眼3Dというこれまでにない視覚体験を提案した。また、タブレットやスマートフォン、PCなどと組み合わせる「REGZAワールド」という提案も行い、テレビ単体でなく、様々なデバイス群を連携させることでユーザーエクスペリエンスを高める戦略を鮮明に打ち出している。また東芝は録画についても、多チャンネル同時録画という独自コンセプトを展開して話題を集めている。
シャープは、テレビの設置性を高める“フリースタイルAQUOS”という提案を強化。また堺工場を持っている強みを活かし、70インチ以上の超大画面モデルの比率を高める戦略を採っている。
パナソニックはクラウド型ネットサービス「ビエラ・コネクト」を国内でも展開し、アプリマーケットも開始するなど、今後はいわゆる“スマートテレビ”的な独自サービスを強化する構えだ。また「お部屋ジャンプリンク」によるDIGAとVIERA、その他機器の連携機能も今後ますます高めていくだろう。
日立は録画機能を徹底に作り込み、使いやすさを磨き上げ、録画テレビの先頭を走り続けている。さらに三菱は高齢者にも使いやすい機能を取りそろえるなどして、ユニバーサルデザインを中心に差別化を図っている。
◇
さて、本稿で注目したいのはソニーのテレビ事業だ。かつてテレビの盟主の座に君臨していたソニーは、今後どのような戦略でテレビ事業を運営し、収益力を高めていくのか。
その基本的な戦略の一つが「4スクリーン戦略」だ。4スクリーンとはすなわち、テレビ、スマートフォン、タブレット、そしてPCの4画面を指す。この4デバイスの画面を窓にして、Sony Entertainment Network、PlayStation Networkといった、独自のネットサービスを展開し、これにより付加価値を加える。また各機種を互いに連携して動作させ、ソニー共通の「統合UX」でまとめ上げることで、ユーザー体験を高めるというのが基本コンセプトだ。
ソニーの場合、テレビはBRAVIA、タブレットはSony Tablet、PCはVAIOなどサブブランドはそれぞれ異なるが、コンセプト自体は東芝の「REGZAワールド」と同様と言って良いだろう。多デバイスによる独自の連携機能を強化し、囲い込みを図ることで、機器単体ではなく全体で収益バランスを取る戦略だ。世界的に見ても、テレビ、PC、タブレット、スマートフォンをすべて揃えているメーカーは多くない。ソニーは、4スクリーン戦略を強化することを大きな理由としてソニー・エリクソンから携帯電話事業を本体に組み入れたほどで、この戦略にかける同社の強い意気込みが伝わってくる。
◇
これだけではない。もう一つ、ソニーはテレビ事業で大きな隠し球を持っているようだ。
その隠し球は、ソニーが「独自開発の次世代パネル」と呼んでいるデバイス。このパネルが一体何なのか、現在のところ厚いベールに包まれているが、非常に興味をそそる存在であることは確かだ。
今回編集部では、次世代テレビを開発・展開するTV第3ビジネス部門(後述)へ取材を申し込んだが、「現時点でお話しできる内容がない」(同社広報部)とのことで取材は行えなかった。残念だが、いまお伝えできる範囲の情報として、これまでの発言内容を整理してみたい。
ソニーがこのパネルについて、恐らくはじめて言及したのは、2009年11月の経営戦略説明会(関連ニュース)のことだった。当時テレビ事業を率いていた石田佳久氏が「独自デバイスを用いた次世代ディスプレイの開発」を発表したのだ。ちなみに、同じときに発表されたのが「進化するテレビ」、のちの「Sony Internet TV」だ。
このとき石田氏は「有機EL以外にもいくつか進めている。非常にエキサイティングなデバイスを開発している」と発言。その高いポテンシャルを強調していた。
その後しばらく、この独自デバイスに関する発表は途絶えていたが、水面下でプロジェクトは着実に進んでいたと考えられる。
今年11月1日、ソニーはテレビ関連のビジネスユニットを「TV第1事業部」「TV第2事業部」「TV第3ビジネス部門」の3つに分けると発表。その翌日行われたテレビ事業の収益改善プラン発表の記者会見(関連ニュース)では、平井一夫副社長がTV第3ビジネス部門について「次世代テレビを開発し、展開する部門」と説明した。パネルの量産に目途が立ち、いよいよ事業化に向けてギアを入れ替えたと捉えられる。
平井氏は会見の場で「いまの液晶パネルから次世代パネルへ変わる時代が必ずやってくる。そのときに業界をリードできる製品を作れるよう、次世代テレビの開発を推進していく」とコメント。期待感の強さが伝わってきた。ただしパネルの特徴については「競合他社もあるので、今日時点では、これ以上詳しくは言えない」と口を閉ざした。
ただし、石田氏が語っていた、有機ELではない「非常にエキサイティングなデバイス」と、平井氏が発表した「次世代テレビ」が、必ずしもイコールとは限らない。
たとえばソニーは有機ELについても、その大型化を諦めたわけではない。今年7月の会見で、加藤CFOは「色々なオプションを検討している段階」としながらも、「(有機ELの)大型化については鋭意努力を続けている。現状ではまず業務用で実績を積み、将来の展開を検討している」とコメントした(関連ニュース)。大型有機ELテレビの開発を継続している可能性も高そうだ。
実際、液晶パネルの「次」として真っ先に名前が上がるのは有機ELだ。LG電子は、2012に55型の有機ELテレビを発売する計画と一部で報道されている。ほかにも韓台メーカーが有機ELテレビ用パネルを生産するという報道は数多い。
◇
だが、平井氏の言う次世代テレビが単なる大型有機ELテレビならば、「次世代」という言葉を使い、有機ELと明言しないのは少々不可解だ。やはり新デバイスの事業化を狙っていると考えるのが妥当だろう。もちろん、たとえばシート型で曲げられるテレビなど、使い勝手の面で特徴を持たせた有機ELテレビを開発しているのなら話は別なのだが。
かつてソニーは、ブラウン管時代にトリニトロンで一斉を風靡し、テレビ市場を席巻した。この10年ほどはPALCを捨て、FEDを手放すなど、しばらく独自開発パネルの本格事業化から縁遠かったソニーだが、石田氏の2009年当時の「有機EL以外にもいくつか進めている。非常にエキサイティングなデバイスを開発している」という言葉から、未知のパネルで我々を驚かせてくれることを期待したくなる。願わくは、来年初頭のCESなどで、その開発成果の一端を早々に公開して欲しいものだ。
この戦略変更に伴って、工場の生産休止を行って減損処理を行い、大きな赤字を計上するメーカーも現れた。また一部の国内メーカーが「テレビ撤退」という誤った内容の見出しで紹介されたこともあり、一気に敗戦ムードが強まった。
複数の大メーカーが事業規模を縮めるという決断を下したため、今後、少なくとも短期的には、国内テレビメーカーのプレゼンスが低下することは確実だ。
もちろん、悲観すべき話題ばかりでもない。コモディティー化が進む薄型テレビに、もう一度確固たる価値を加える試みは、各メーカーが以前から競い合っている。それぞれが模索しながら蒔いた種は、まだ花開いたと言える時期ではないが、今後収穫の時期を迎える可能性は大いにある。
たとえば東芝は、4Kと裸眼3Dというこれまでにない視覚体験を提案した。また、タブレットやスマートフォン、PCなどと組み合わせる「REGZAワールド」という提案も行い、テレビ単体でなく、様々なデバイス群を連携させることでユーザーエクスペリエンスを高める戦略を鮮明に打ち出している。また東芝は録画についても、多チャンネル同時録画という独自コンセプトを展開して話題を集めている。
シャープは、テレビの設置性を高める“フリースタイルAQUOS”という提案を強化。また堺工場を持っている強みを活かし、70インチ以上の超大画面モデルの比率を高める戦略を採っている。
パナソニックはクラウド型ネットサービス「ビエラ・コネクト」を国内でも展開し、アプリマーケットも開始するなど、今後はいわゆる“スマートテレビ”的な独自サービスを強化する構えだ。また「お部屋ジャンプリンク」によるDIGAとVIERA、その他機器の連携機能も今後ますます高めていくだろう。
日立は録画機能を徹底に作り込み、使いやすさを磨き上げ、録画テレビの先頭を走り続けている。さらに三菱は高齢者にも使いやすい機能を取りそろえるなどして、ユニバーサルデザインを中心に差別化を図っている。
さて、本稿で注目したいのはソニーのテレビ事業だ。かつてテレビの盟主の座に君臨していたソニーは、今後どのような戦略でテレビ事業を運営し、収益力を高めていくのか。
その基本的な戦略の一つが「4スクリーン戦略」だ。4スクリーンとはすなわち、テレビ、スマートフォン、タブレット、そしてPCの4画面を指す。この4デバイスの画面を窓にして、Sony Entertainment Network、PlayStation Networkといった、独自のネットサービスを展開し、これにより付加価値を加える。また各機種を互いに連携して動作させ、ソニー共通の「統合UX」でまとめ上げることで、ユーザー体験を高めるというのが基本コンセプトだ。
ソニーの場合、テレビはBRAVIA、タブレットはSony Tablet、PCはVAIOなどサブブランドはそれぞれ異なるが、コンセプト自体は東芝の「REGZAワールド」と同様と言って良いだろう。多デバイスによる独自の連携機能を強化し、囲い込みを図ることで、機器単体ではなく全体で収益バランスを取る戦略だ。世界的に見ても、テレビ、PC、タブレット、スマートフォンをすべて揃えているメーカーは多くない。ソニーは、4スクリーン戦略を強化することを大きな理由としてソニー・エリクソンから携帯電話事業を本体に組み入れたほどで、この戦略にかける同社の強い意気込みが伝わってくる。
これだけではない。もう一つ、ソニーはテレビ事業で大きな隠し球を持っているようだ。
その隠し球は、ソニーが「独自開発の次世代パネル」と呼んでいるデバイス。このパネルが一体何なのか、現在のところ厚いベールに包まれているが、非常に興味をそそる存在であることは確かだ。
今回編集部では、次世代テレビを開発・展開するTV第3ビジネス部門(後述)へ取材を申し込んだが、「現時点でお話しできる内容がない」(同社広報部)とのことで取材は行えなかった。残念だが、いまお伝えできる範囲の情報として、これまでの発言内容を整理してみたい。
ソニーがこのパネルについて、恐らくはじめて言及したのは、2009年11月の経営戦略説明会(関連ニュース)のことだった。当時テレビ事業を率いていた石田佳久氏が「独自デバイスを用いた次世代ディスプレイの開発」を発表したのだ。ちなみに、同じときに発表されたのが「進化するテレビ」、のちの「Sony Internet TV」だ。
このとき石田氏は「有機EL以外にもいくつか進めている。非常にエキサイティングなデバイスを開発している」と発言。その高いポテンシャルを強調していた。
その後しばらく、この独自デバイスに関する発表は途絶えていたが、水面下でプロジェクトは着実に進んでいたと考えられる。
今年11月1日、ソニーはテレビ関連のビジネスユニットを「TV第1事業部」「TV第2事業部」「TV第3ビジネス部門」の3つに分けると発表。その翌日行われたテレビ事業の収益改善プラン発表の記者会見(関連ニュース)では、平井一夫副社長がTV第3ビジネス部門について「次世代テレビを開発し、展開する部門」と説明した。パネルの量産に目途が立ち、いよいよ事業化に向けてギアを入れ替えたと捉えられる。
平井氏は会見の場で「いまの液晶パネルから次世代パネルへ変わる時代が必ずやってくる。そのときに業界をリードできる製品を作れるよう、次世代テレビの開発を推進していく」とコメント。期待感の強さが伝わってきた。ただしパネルの特徴については「競合他社もあるので、今日時点では、これ以上詳しくは言えない」と口を閉ざした。
ただし、石田氏が語っていた、有機ELではない「非常にエキサイティングなデバイス」と、平井氏が発表した「次世代テレビ」が、必ずしもイコールとは限らない。
たとえばソニーは有機ELについても、その大型化を諦めたわけではない。今年7月の会見で、加藤CFOは「色々なオプションを検討している段階」としながらも、「(有機ELの)大型化については鋭意努力を続けている。現状ではまず業務用で実績を積み、将来の展開を検討している」とコメントした(関連ニュース)。大型有機ELテレビの開発を継続している可能性も高そうだ。
実際、液晶パネルの「次」として真っ先に名前が上がるのは有機ELだ。LG電子は、2012に55型の有機ELテレビを発売する計画と一部で報道されている。ほかにも韓台メーカーが有機ELテレビ用パネルを生産するという報道は数多い。
だが、平井氏の言う次世代テレビが単なる大型有機ELテレビならば、「次世代」という言葉を使い、有機ELと明言しないのは少々不可解だ。やはり新デバイスの事業化を狙っていると考えるのが妥当だろう。もちろん、たとえばシート型で曲げられるテレビなど、使い勝手の面で特徴を持たせた有機ELテレビを開発しているのなら話は別なのだが。
かつてソニーは、ブラウン管時代にトリニトロンで一斉を風靡し、テレビ市場を席巻した。この10年ほどはPALCを捨て、FEDを手放すなど、しばらく独自開発パネルの本格事業化から縁遠かったソニーだが、石田氏の2009年当時の「有機EL以外にもいくつか進めている。非常にエキサイティングなデバイスを開発している」という言葉から、未知のパネルで我々を驚かせてくれることを期待したくなる。願わくは、来年初頭のCESなどで、その開発成果の一端を早々に公開して欲しいものだ。