公開日 2012/07/31 15:29
【海上忍のAV注目キーワード辞典】第6回:LTE − 「新しいiPad」が日本でLTE非対応なのはなぜ?
LTEが普及するとAVはどう変わる?
【第6回:LTE】
今年後半から一気に普及しはじめるとの見方が強い、移動端末向け次世代通信規格「LTE」。LTEとはいったい何者なのか、そしてLTEが普及するとAVファンにメリットはあるのか?その特徴と主な規格について、かんたんにまとめてみよう。
■LTEは「第4世代」か?
LTE(Long Term Evolution)は、国際標準化団体の3GPPが仕様を策定した移動端末向けの通信規格。W-CDMAやCDMA2000など、現在主流とされる第3世代規格(3G)の「次」に来る規格であり、理論上の最大速度は基地局から端末(下り)が326.4Mbps、端末から基地局(上り)が86.4Mbpsにも達する。第3.5世代とされるHSDPA/HSUPA(HSPA)の最大14.4Mbpsに比較すれば、その圧倒的な速さがわかるだろう。
このLTE、従来は第4世代(4G)とみなされず、3Gと4Gの間に位置付けられる「第3.9世代」とされてきた。その理由は3Gと4G両方の側面を備えるからにほかならない。
たとえば、LTEが使用する周波数帯は1.5GHz帯、1.7GHz帯および2GHz帯だが、これは3Gと同じ周波数帯で、3.4〜3.6GHz帯を使用する4Gとは別だ。
その一方、旧来の交換機を必要としない「オールIP化」を実現し、周波数利用効率を向上させる「OFDMA(直交周波数分割多元接続)」を採用するなど、技術仕様面では4Gを先取りした部分がある。
しかし、2010年末には国際電気通信連合(ITU)がLTEとWiMAXを4Gと呼ぶことを認めたため、一部の携帯電話会社や端末メーカーはLTEを「4G」と呼ぶようになった。日本でも、ソフトバンクがLTEの一種であるサービスを「4G」と呼んでいる。ちなみに、サービスインしたばかりのソフトバンクのプラチナバンドは3Gでのサービスだ。
■「新しいiPad」が日本でLTE非対応なのは何故? − FDD方式とTDD方式
「LTE」および「4G」という言葉を巡っては、若干の混乱がある。2012年3月に発売された新しいiPad(第3世代)は、その好例だ。このデバイスは「4G対応」とされているが、ここ日本では現状3Gでの通信となる。これは、米国のAT&TやVerizonなど欧米の主要キャリアが採用するLTEが「FDD方式」であり、ソフトバンクの採用する「TDD方式」(TD-LTE)と互換性がないためだ。
FDD(Frequency Division Duplex)は周波数分割多重を意味し、上りと下りの通信をそれぞれ別の周波数帯で行なうことが特徴。周波数帯ごとに「バンド」と呼ばれる概念があり、国や地域により違いがあるため、同じFDD方式だからといって世界中のFDD端末が利用できるわけではないが、今秋あたりからマルチバンド対応端末が登場しはじめる見込み。日本では、すでにNTTドコモが「Xi」で採用し、au/KDDIも年内には同方式によるサービスを提供開始する予定だ。
もう一方の、時分割多重を意味するTDD(Time Division Duplex)では、時間ごとに上り/下りの通信を分割する。FDDのように周波数の組み合わせが問題とならないほか、上りと下りとで帯域をアンバランスに分割できるメリットが存在する。たとえば、全帯域のうち上りを25%、下りを75%に配分してダウンロードを速くするということが可能だ。
ところが、2012年4月、ソフトバンクはFDD方式の通信サービスを今秋以降に開始することを発表した。2011年秋のTD-LTEをベースとした「Softbank 4G」サービスを開始してから日が浅いこともあり、その真意は謎だが、今秋以降に登場する期待の端末がFDD方式だからでは…などと、まことしやかに語られている。
■LTEがAV機器に与えるメリット
LTEには携帯電話会社の思惑が付いて回るが、結局のところ「通信帯域の拡大と速度向上」という短い言葉にまとめられる。それがエンドユーザにとってメリットになることは言うまでもなく、それはオーディオ&ビジュアルの分野にとっても決して無縁ではない。
メリットを得られるサービスには、たとえば音楽配信サービスが挙げられる。たとえば現在、ソニーの「Music Unlimited」では、ビットレートが最大48kbpsというHE-AACが採用されているが、これには回線状況への配慮も理由のひとつになっているとのことだった。現行の3Gより帯域幅が広いLTEが普及すれば、音質向上のためより高いビットレートへと移行する可能性も考えられるかもしれない。LTEの普及はビットレート上昇に直結しないものの、プラスの材料にはなるだろう。
動画サービス拡大への貢献も期待される。著作権保護された動画の再生に利用されるプロトコルDTCPの次バージョン「DTCP+」(DTCP 1.4)では、外から自宅のコンテンツを視聴できる「リモートアクセス」をサポートするが、LTEのような広い帯域を持つ通信網が普及すれば、通勤途中にスマートフォンで自宅のビデオレコーダにアクセス、昨晩録画した番組を楽しむ……などという使い方も可能になる。
LTEが本格展開を始める今秋以降、AV機器の動向にも要注目だ。