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公開日 2022/12/10 07:00

2022年の特撮締めは『4Kラドン』で決まり! “開かずのフィルム”も活用した制作の裏側をレポート

「午前十時の映画祭12」にて上映
編集部:松永達矢
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映画館に足繁く通っている方であれば、一度は耳にしたであろう上映イベント「午前十時の映画祭」。今年で12回の開催を数え、現在開催中の第12回では計29作もの名作映画を全国の映画館で上映している。

振り返れば2022年『シン・ウルトラマン』『仮面ライダーBLACK SUN』、そして『タローマン』など、挑戦的な特撮作品を目にすることが出来た1年だったが、その “大トリ” を飾るかのように12月16日(金)からの4週間かけて『空の大怪獣ラドン 4Kデジタルリマスター版』が「午前十時の映画祭」企画タイトルとして上映される。

オリジナル版は1956年の公開で、1954年の初代『ゴジラ』の公開から僅か2年後にして「初のカラー東宝怪獣映画」として上映。歴史的に見ても挑戦的であるが、この度劇場上映される4Kデジタルリマスター版の製作においても「上映当時の色彩の再現」を念頭としたこれまでに無い挑戦が成された。

『空の大怪獣ラドン』オリジナル版は1956年の公開となる (C)1956 東宝



本作の4Kリマスタリング作業は、2021年に「日本映画専門チャンネル」で行われた『ゴジラ』シリーズ4K特集放送も記憶に新しい東京現像所にて実施。作品の試写に先駆けて、本作の作業工程がマスコミに向けて披露された。フィルムのスキャニング工程について同所スタッフの三木良祐氏が説明を行った。

デジタルリマスター化作業は、フィジカルデータであるフィルムに刻まれた情報をデジタル化する「スキャニング」からスタート。今回の『4Kラドン』は撮影用カメラに収められた「オリジナルネガ」を元にした4Kスキャン素材を使用する。

スキャン作業で用いられるDigital Film Technology社製フィルムスキャナー「SCANITY HDR」

一般的にフィルムに収められた情報は4K超を有するとされているが、元となるフィルムの撮影年代や、フィルム自体の感度によって解像度は変わってくるとのこと。ちなみにオリジナルのネガから3回に渡るアナログコピーを経た当時各劇場で上映されたフィルム(プリント)には、コピーを繰り返す内に4Kの解像度は無くなってしまったという。

スキャンにおいては、映画フィルム1枚1枚すべてを、映画業界のデファクトスタンダートとなっている静止画フォーマット「DPX」拡張子の画像データとしてスキャニング。デジタル画像化した物に対して、フィルムの傷、汚れ、しみ、スプライス(フィルムの繋ぎ痕)などを修復していく「パラ消し」といったレストアや、カラーコレクションといった作業が行われる。

───のだが、66年前のフィルムとなると避けられないのが経年による劣化。現在流通している市販Blu-rayの映像にも表れるように、『ラドン』はフィルムに刻まれた色素の劣化が進んでしまっており全体的に黄色掛かった色彩となっているのだ。

写真左が従来のメディアに収められた『ラドン』の1シーン。全体的に黄色掛かった映像が今回のリマスターを経て、澄んだ画質(写真右)で蘇るのだ (C)1956 東宝

通常、スキャン工程では、フィルムに収められた色情報を忠実にデータ化することが一般的だが、今回は相談の上でスキャンの段階で特別に色の調整を実施。以降の作業で使用する編集ソフトの色調整値の上限なども鑑みて、素材となるデジタルデータ作成の段階で色味の土台を固める作業を行ったという。

公開以来手付かずのフィルムを解禁。明らかになる『ラドン』本来の色彩



こうしたスキャン工程を経て「オリジナルスキャンデータ」が完成。これを使用して、以降のフローでレストアやカラーコレクションを行うことで美麗なラドンが完成するのだが、大元となるオリジナルネガが劣化している状況で何をリファレンスとしたのか? ここで登場するのが、フィルムアーカイブに所蔵の記載がありながら、これまで触れられてこなかった計27ロールのモノクロフィルムだ。

手前に並ぶフィルムが今回のリマスターにおける、カラーマスターの元となる「三色分解フィルム」

実は、本作が「初のカラー東宝怪獣映画」であったことから、撮影用のカラーネガ(イーストマン・コダック社製)とは別に、赤、青、緑の三原色それぞれを1本ずつフィルムに記録したテクニカラー方式のモノクロフィルムという形でもフィルムが保存されていたのだ。これについて東京現像所の小森勇人氏は、当時数の多くないカラー映画を保存する為の試行錯誤として、褪色という概念の無いモノクロフィルムに、三原色の情報を焼き付けた「三色分解フィルム」を用意したのでは、と推測している。

三色分解フィルムは色情報をモノクロフィルムに焼き付けたもの。こちらは青色の情報を焼いたフィルムとなる (C)1956 東宝

青色の情報を焼き付けたモノクロフィルムに青色の光を当てることでカラーを抽出 (C)1956 東宝

そこで、カラーコレクションのリファレンスになり得るとして、モノクロの「三色分解フィルム」のスキャンを実施。映画1本で9ロール、これが三原色分あるので計27ロールのスキャンを追加で行うこととなった。ちなみにフィルムのスキャンは10フレームの速度で行われるとのことで、秒間24コマの映画換算でいうと半分以下の読み取り速度という。上映尺にもよるがスキャニングの工程では1作品丸一日掛けてデジタルデータを取れるかどうかという所だそうだ。

追加で行った「三色分解フィルム」27ロール分のスキャンデータを合成したところ、これまでの『ラドン』には無かった発色再現性を確認。これをカラーマスター(リファレンス)とし、オリジナルネガを使用してのカラー作業が進められることとなった。数多くのフィルムのリマスタリングを手掛けて来た東京現像所であるが、三色分解フィルムをスキャンし、合成したものをカラーマスターとしたのは今回が初の試みだという。

三色分解フィルムプロセス図 (C)1956 東宝

それならば「三色分解フィルム」を合成した物をそのままマスターデータとすればよいのでは? と疑問に思うところだが、これらのフィルムは撮影用フィルム(オリジナルネガ)からの一世代コピーであるポジフィルムであることから、収められた映像の解像感は大元には及ばないという。

オリジナルネガをスキャンした『空の大怪獣ラドン』タイトル画面 (C)1956 東宝

三色分解フィルムを合成したタイトル画面。各色情報を褪色とは無縁のモノクロで焼き付けている為、劣化の著しいオリジナルネガと比較しても鮮やかな色合いを魅せる (C)1956 東宝

加えて、色情報を劣化せずに残せたとしても、フィルムであることには変わらず、それぞれが異なる形で経年に伴う収縮や劣化をしていた為、同じシーンを刻んだコマを重ねたところでキレイに絵が一致しないという事情があったそうだ。

オリジナルネガをスキャンした『空の大怪獣ラドン』タイトル画面 (C)1956 東宝

三色分解フィルムで作成したカラーマスターを基準に、オリジナルネガを調整した『空の大怪獣ラドン 4Kデジタルリマスター版』タイトル画面 (C)1956 東宝



現在市販されている『ラドン』のBlu-rayは、オリジナルネガからBlu-ray用のプリントを作成し、それをテレシネ変換したものから作成しているとのこと。プリントはオリジナルネガよりも色情報が狭いので、オリジナルネガほどの画質の追い込みが難しい上に、元々のフィルムが経年で劣化して色味のバランスが全体的に黄色掛かった色彩として表れる。

一方、挑戦的な工程を経て蘇った『空の大怪獣ラドン 4Kデジタルリマスター版』は、ラドンや自衛隊機が飛翔する空の青、ラドンに急襲される福岡市街のミニチュアセットの奥行き感、これまで埋もれてしまっていた怪獣スーツのディテール、佐原健二や白川由美、平田昭彦といった出演キャストの顔や衣裳に至るまで、澄んだ色味を獲得するに至った。

メガヌロンの背中の斑点など、従来のパッケージでは潰れて見えづらかったディテールが4Kリマスタリングで蘇る (C)1956 東宝

これまで、ディスクメディアやストリーミングでの画質を『ラドン』のデフォルトと捉えていた記者。試写で本作を鑑賞した際には、冒頭のタイトル画面から鮮やかな本作を前に「すげえ…」と、マスクの下で思わず口走ってしまったほどだ。

「初のカラー東宝怪獣映画」として、当時の撮影スタッフが魅せるミニチュアセットによる特撮技巧。そして「上映当時の色彩の再現」を至上命題に、文字通り鮮やかに作品を蘇らせた東京現像所の挑戦が『空の大怪獣ラドン 4Kデジタルリマスター版』として結実した。

今年2022年は例年にも増して挑戦的な特撮作品が公開・放送されてきた1年であったが、年の瀬に本作を劇場の大スクリーンで存分に浴びれてしまうのだ。特撮オタクやっていて良かったと言える締めくくりを、お近くの上映館で迎えてみてはいかがだろうか? ラドンも「そうだそうだ」と言っている。

(C)1956 東宝

■「午前十時の映画祭12」
『空の大怪獣ラドン 4Kデジタルリマスター版』


■上映日程
グループA劇場:12月16日(金)〜29日(木)
グループB劇場:2022年12月30日(金)〜2023年1月12日(木)

上映館の詳細は「午前十時の映画祭12」公式サイトに記載。上映開始時間、および鑑賞料金は劇場ごとに異なるため、上映を実施する各劇場にて確認されたい。

(C)1956 東宝

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