公開日 2022/12/16 06:35
アップルのティム・クックCEOがソニー訪問、隠された2つの狙い
【連載】西田宗千佳のネクストゲート 第21回
12月13日、アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)は、ソニー熊本テクノロジーセンターを訪問した。
クックCEOは今週日本を訪問中だが、その中でも大手の企業としてまず、ソニーの半導体部門である「ソニーセミコンダクタソリューションズ」を選んだ、ということになる。そして以下のように、自らのTwitterアカウントでも訪問を紹介している。
この訪問にはどういう意味があるのだろうか? 筆者は2つの意図があると考えている。今回はその点について解説してみよう。
「iPhoneはソニーのイメージセンサーを使っている」という話は、少しスマートフォンに詳しい人なら割と知っていることかと思う。
だがこれまでアップルは、iPhoneの中に搭載されているパーツの供給先を明示してアナウンスすることはなった。もちろん、どのパーツを使っているかは分解すればわかることなので、事実としては知られていた。だが一般論として、最終製品メーカーがパーツの調達をアナウンスすることはないし、パーツメーカー側も、納入先を大々的にアナウンスすることはない。
ソニーも決算などでコメントを求められた際にも、公式には「大手納入先」とのみ回答してきた。今回、「2011年から使っている」とクックCEO自身がコメントし、製造元を訪れるというのは非常に珍しいことなのだ。
一方で、スマホのファンだと「でも、中国系メーカーは『ソニー製センサー採用』を大々的に謳っている」と思うだろう。実はこちらの方が例外だ。ある意味で「ソニー製採用」をブランド化している中国系メーカーに対し、iPhoneも「ソニー製」明示で対抗している……という穿った見方もできるだろう。
その意図は否定できないが、むしろ筆者が感じたのは別の点だ。それは、アップルが「ソニーとの関係」を長期かつ良好な形で維持したいと考え、ソニーもまたアップルに対し、半導体顧客としての最恵国待遇を維持したい、と考えた結果ということだ。クックCEOの訪問に対し、ソニー側もグループCEOの吉田憲一郎氏に十時裕樹CFO(最高財務責任者)、半導体事業責任者の清水照士氏など、トップエクゼクティブが勢揃いで対応している。イメージセンサー事業はソニーグループにとって経営の柱なので、そうなるのも当然ではある。
もちろん、ハイエンド向けイメージセンサーはソニーだけが作っているわけではない。だが、現状、シェアではソニーがトップ。サムスンなどのライバルを引き離している。
今後もセンサーの大型化・高解像度化・多眼化は進み、付加価値の高いセンサーを多数、安定定的に調達することの重要性は高まる。両社として、パートナーシップを強調することは、プラス面はあってもマイナスはない。
iPhoneは「画像の記録解像度を上げるよりも1画素あたりの精度を高める」というカメラ設計が得意で、その方向性は、どちらかといえばソニーがスマホ向けイメージセンサーで目指す方向性に近い。少なくともあと1、2世代は、今後も両社が歩調を合わせて開発する流れだと想定できる。
そして、もう1つの大きな柱が「サステナビリティ」だ。どの企業もCO2排出量削減を中心に、より持続性の高いビジネス環境の構築に取り組んでいる。その中でもアップルは、初期からこの問題に取り組み、目標も明確にしてきた。
具体的には、2030年までに「サプライチェーンの100%カーボンニュートラル達成を約束」と宣言している。
アップルはすでに、自社で利用するエネルギーのすべてを再生可能エネルギーで賄っている。さらに、温室効果ガスの排出量を2030年までに現在の75%減とする計画であり、残りの25%についても、CO2除去技術の開発でカバーする計画を持っている。
次にはそれを、アップル製品を作るために必要なパーツなどを供給する「サプライヤー」と「製造工程」にまで広げる。同社に関わる取引先すべてが2030年までに、CO2排出量と吸収量の合算でゼロとなる「カーボンニュートラル」となることを目指しているわけだ。
取引先に対してはかなり大きな圧力となり、企業への負担を懸念する声もあるのだが、CO2排出量削減自体は進めねばならないことでもある。
今回アップルは、日本でもサプライヤー29社が、同社に関わる事業について、2030年まで100%再生可能エネルギーでまかなうことを表明した、とコメントしている。その上でソニーについては、追加で次のようなコメントを出した。
「本日ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社は、2030年に向けて、直接排出と電力関連の排出を含むApple社関連の製造を完全に脱炭素化することを確認しました。これによりソニーは、Appleが近年推進しているグローバルサプライチェーンの脱炭素化に賛同する最初の日本企業となりました」
すなわち今回の熊本訪問は、日本での最大のサプライヤーであるソニーセミコンダクタソリューションズが、アップルの方針に同意して進んでいることをアピールする狙いもあったのだ。
ソニーグループもまた、グループ全体でのカーボンニュートラル達成について「2040年を目標とする」と定めている。ソニーグループでも、CO2排出量全体の9割を同社との取引先が占めており、アップル同様にサプライチェーン全体でのCO2削減が急務だ。
アップルの大手取引先としてカーボンニュートラルに取り組む姿勢をアピールすることは、同時に、自社が取引先に対してカーボンニュートラルを進める上で「身をもって示す」ような役割を担っているのだろう。
クックCEOは今週日本を訪問中だが、その中でも大手の企業としてまず、ソニーの半導体部門である「ソニーセミコンダクタソリューションズ」を選んだ、ということになる。そして以下のように、自らのTwitterアカウントでも訪問を紹介している。
We’ve been partnering with Sony for over a decade to create the world’s leading camera sensors for iPhone. Thanks to Ken and everyone on the team for showing me around the cutting-edge facility in Kumamoto today. pic.twitter.com/462SEkUbhi
— Tim Cook (@tim_cook) December 13, 2022
この訪問にはどういう意味があるのだろうか? 筆者は2つの意図があると考えている。今回はその点について解説してみよう。
「iPhoneのカメラはソニー製」と明示する意味
「iPhoneはソニーのイメージセンサーを使っている」という話は、少しスマートフォンに詳しい人なら割と知っていることかと思う。
だがこれまでアップルは、iPhoneの中に搭載されているパーツの供給先を明示してアナウンスすることはなった。もちろん、どのパーツを使っているかは分解すればわかることなので、事実としては知られていた。だが一般論として、最終製品メーカーがパーツの調達をアナウンスすることはないし、パーツメーカー側も、納入先を大々的にアナウンスすることはない。
ソニーも決算などでコメントを求められた際にも、公式には「大手納入先」とのみ回答してきた。今回、「2011年から使っている」とクックCEO自身がコメントし、製造元を訪れるというのは非常に珍しいことなのだ。
一方で、スマホのファンだと「でも、中国系メーカーは『ソニー製センサー採用』を大々的に謳っている」と思うだろう。実はこちらの方が例外だ。ある意味で「ソニー製採用」をブランド化している中国系メーカーに対し、iPhoneも「ソニー製」明示で対抗している……という穿った見方もできるだろう。
その意図は否定できないが、むしろ筆者が感じたのは別の点だ。それは、アップルが「ソニーとの関係」を長期かつ良好な形で維持したいと考え、ソニーもまたアップルに対し、半導体顧客としての最恵国待遇を維持したい、と考えた結果ということだ。クックCEOの訪問に対し、ソニー側もグループCEOの吉田憲一郎氏に十時裕樹CFO(最高財務責任者)、半導体事業責任者の清水照士氏など、トップエクゼクティブが勢揃いで対応している。イメージセンサー事業はソニーグループにとって経営の柱なので、そうなるのも当然ではある。
もちろん、ハイエンド向けイメージセンサーはソニーだけが作っているわけではない。だが、現状、シェアではソニーがトップ。サムスンなどのライバルを引き離している。
今後もセンサーの大型化・高解像度化・多眼化は進み、付加価値の高いセンサーを多数、安定定的に調達することの重要性は高まる。両社として、パートナーシップを強調することは、プラス面はあってもマイナスはない。
iPhoneは「画像の記録解像度を上げるよりも1画素あたりの精度を高める」というカメラ設計が得意で、その方向性は、どちらかといえばソニーがスマホ向けイメージセンサーで目指す方向性に近い。少なくともあと1、2世代は、今後も両社が歩調を合わせて開発する流れだと想定できる。
「カーボンニュートラル達成への協力」を示す意味合いも
そして、もう1つの大きな柱が「サステナビリティ」だ。どの企業もCO2排出量削減を中心に、より持続性の高いビジネス環境の構築に取り組んでいる。その中でもアップルは、初期からこの問題に取り組み、目標も明確にしてきた。
具体的には、2030年までに「サプライチェーンの100%カーボンニュートラル達成を約束」と宣言している。
アップルはすでに、自社で利用するエネルギーのすべてを再生可能エネルギーで賄っている。さらに、温室効果ガスの排出量を2030年までに現在の75%減とする計画であり、残りの25%についても、CO2除去技術の開発でカバーする計画を持っている。
次にはそれを、アップル製品を作るために必要なパーツなどを供給する「サプライヤー」と「製造工程」にまで広げる。同社に関わる取引先すべてが2030年までに、CO2排出量と吸収量の合算でゼロとなる「カーボンニュートラル」となることを目指しているわけだ。
取引先に対してはかなり大きな圧力となり、企業への負担を懸念する声もあるのだが、CO2排出量削減自体は進めねばならないことでもある。
今回アップルは、日本でもサプライヤー29社が、同社に関わる事業について、2030年まで100%再生可能エネルギーでまかなうことを表明した、とコメントしている。その上でソニーについては、追加で次のようなコメントを出した。
「本日ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社は、2030年に向けて、直接排出と電力関連の排出を含むApple社関連の製造を完全に脱炭素化することを確認しました。これによりソニーは、Appleが近年推進しているグローバルサプライチェーンの脱炭素化に賛同する最初の日本企業となりました」
すなわち今回の熊本訪問は、日本での最大のサプライヤーであるソニーセミコンダクタソリューションズが、アップルの方針に同意して進んでいることをアピールする狙いもあったのだ。
ソニーグループもまた、グループ全体でのカーボンニュートラル達成について「2040年を目標とする」と定めている。ソニーグループでも、CO2排出量全体の9割を同社との取引先が占めており、アップル同様にサプライチェーン全体でのCO2削減が急務だ。
アップルの大手取引先としてカーボンニュートラルに取り組む姿勢をアピールすることは、同時に、自社が取引先に対してカーボンニュートラルを進める上で「身をもって示す」ような役割を担っているのだろう。