公開日 2017/12/28 10:00
1998年の放送当時からの担当者にインタビュー
4Kスキャン「CCさくら」は“思い出補正”を超える! 新世代BD BOXに込められたこだわりを聞いた
インタビュアー:秋山 真 構成:押野 由宇
1998年にNHKでアニメ放送がスタートした『カードキャプターさくら』は、キャラクターやストーリー、楽曲、さらにはその映像美においても、アニメ史に残る人気作品だ。
原作漫画の連載開始20周年を迎えた今もなお絶大な人気を誇っており、2018年1月7日からはNHK BSプレミアムで新章「クリアカード編」が放送開始することも決定している。
さて、カードキャプターさくら(以下、CCさくら)は、これまでVHS、LD、DVD、Blu-rayと様々なかたちでパッケージ化されてきたが、この度、その決定版とも呼べる“さくら史上最高画質”なBlu-ray BOXが登場した。2009年に発売したBlu-ray BOX(以下、2009年版)ですら一瞬で霞んでしまうようなハイクオリティな画質は、一体どうやって作られたのか。今回は4Kスキャンからリマスター作業まで、全行程で総指揮を執った株式会社キュー・テックの岡田和憲氏へのインタビューから、その秘密を明らかにしていきたい。
岡田氏の名前、もしくはその手による映像は、アニメ好きの方であれば知らず知らずのうちに刷り込まれているはずだ。それだけ多数の作品の編集やリマスター化に携わっており、CCさくらにおいてもオンエア編集を手掛け、その後に続くCCさくら高画質化の歴史のキーマンでもある。
アニメ放映から18年。岡田氏に最新版Blu-ray BOXに込められたこだわりと、監督指名で再びオンエア編集を担当することになった「クリアカード編」に対する思いを伺ってみた。なお本記事ではインタビュアーを、今回のエンコード作業にも関わっている秋山 真氏にお願いしている。
▼『CCさくら』は全70話に35mmフィルムが使われた奇跡的作品
ーーCCさくらは、キュー・テックにとっても伝統的な作品と言えるコンテンツですが、今回また新たにBlu-ray化されることになった理由を教えてください。
岡田:作品が20周年ということ。新作「クリアカード編」がスタートするタイミングだったこと。そして弊社の4KスキャニングとFORSリマスターの組み合わせによって、これまでにない新しいCCさくらを作ることが出来ると考えたこと。それが主な理由ですね。
ーー当時のテレビアニメは16mmフィルムが使われることが多かったですが、CCさくらでは全編35mmフィルムが使われていました。このこと自体が奇跡的ですよね?
岡田:テレビシリーズ全70話のすべてに35mmフィルムが使われているのは異例中の異例だと思います。想像ですが当時、高画質を売りにしていたBS放送の影響があったからなのかもしれません。
ーー今回はその35mmネガフィルムを4Kスキャンしたというのが最初のポイントになってくると思いますが、まずはそのあたりのお話しからお聞かせください。
岡田:2009年版に使われたハイビジョンマスターには、HDテレシネ(CCDカメラを用いてフィルムをリアルタイムで撮影しながら、ビデオ信号へ変換する方式)が使われています。この時は“オンエア時に潰れてしまった階調をしっかり出そう”というのがメインコンセプトでした。それに対して4Kスキャンを行った今回は、どこかを意図的に変えるのではなく、“フィルムにある情報をそのまま取り出す”ということを第一に考えました。
ーー同じBlu-rayでも2009年版とは解像度が全く違いますね。情報量も桁違いです。このあたりは4Kスキャンの威力をまざまざと感じます。それから色に関しても今回のものは非常に端正ですよね。2009年版は今見ると若干色が派手目に感じられます。
岡田:2009年版の大元になったHDテレシネのデータは、2005年に発売したDVD BOXを製作する際に作成されたものですが、リマスター作業自体は全てやり直しています。しかし当時はブラウン管がまだまだ現役だったこともあり、それも考慮した色設定になっていました。今回はフラットでナチュラルなバランスを意識してカラーコレクション(映像の色彩補正作業)を行っています。カラリストには「カット単位ではOKだけど通しで見ると上手く繋がらない」といった箇所が無いように、かなり細かく調整してもらいました。
差が分かりやすい例では、知世ちゃん(大道寺知世)の髪の毛ですね。本来は黒髪なのに、2009年版ではフラットディスプレイだと少し青みがかって見えてしまっていたのが、最新版では自然な色合いになっているのがお分かりいただけると思います。
ーー自分はまずこの色合いにヤラれましたね。すごく上品です。それにしても、全70話という大ボリュームを4Kスキャンするだけでも相当大変な作業だったと思いますが、苦労した点はありましたか?
岡田:他の作品で4Kスキャンの画質検証を行っていたので、4Kスキャンによって起こりうる問題は知っていたんです。ですので、CCさくらだと「ここが大変だろうな」という予想はある程度出来ていました。
ーー具体的には?
岡田:昔のアニメはトレース線が太いものが多いのですが、CCさくらはとても繊細なタッチで描かれています。なので同じスキャンのやり方では全然キレイに見えません。あちこちにマダラが出たり、シミだらけになってしまうんです。CCさくらの絵柄に合ったスキャン設定を見つけるのに時間を掛けましたね。
ーー私はテストエンコードの時に初めて新マスターを観たのですが、これまでのどのフィルムアニメよりも、良好なフォーカスと、高い色純度、美しいフィルムグレインに目を奪われました。4Kスキャンのあとのリマスター作業はどのようなものだったのでしょうか?
岡田:35mmネガフィルムを使用しているとは言え、4Kでスキャンしたデータを見ると、かなりフィルムグレインが乗っていることが分かります。そこで上質な粒子感と高いS/Nを両立させるために、弊社のFORS技術を使って特別なノイズリダクション(以下、NR)を施しました。
特にCCさくらのようにペールトーン(淡い色彩)が多い作品は、NRをかけ過ぎると低コントラスト部分がすぐに溶けてしまいます。例えば顔の肌色と目の白い部分に光が入って来たりすると、そこの境界線がほとんど分からなくなる。かと言って中途半端なNRでは平坦な部分がマダラになったり、グラデーションがゴワゴワしてしまいます。
そこで、あれこれ試行錯誤した結果、ついに「低コントラスト部分が溶けない」「平面やグラデーションが滑らか」「高コントラスト部分がキレイ」という条件を満たすNRを完成させました。なかでも「高コントラスト部分がキレイ」を実現出来たのは、実はかなり画期的なことなんです。
ーー画期的と言うのは具体的にはどういったところですか?
岡田:輪郭部分を狙い撃ちしたかの様にキレイになるんです。従来の手法だと、どうしてもジラジラしたグレイン由来のノイズ成分がトレース線の周りに残ってしまいます。それが見事に消えるので、フィルムアニメでは特に効果を発揮しますね。これは今後、他の作品にも流用可能な技術になります。
ーーたしかに、このトレース線の美しさは何度見ても惚れ惚れします!
岡田:ただ、この新NRのおかげで画全体がすごくクリーンになった反面、フィルムらしさがあまり感じられなくなってしまいました。グレインが消え過ぎてしまって、デジタルアニメのような画調に変わってしまうんです。そこで「クリアな映像」と「程よいフィルム感」を両立させるために、同じスキャン素材からグレインの量だけを別途調整したものを用意して、2つを慎重にブレンドしました。これも新しく試してみたら上手くいった方法です。
とにかくCCさくらはすでに2009年版が出ているので、その上を目指すためにはどうすれば良いか、これまで出来なかったことを実現したい、とあれこれ考えましたね。
原作漫画の連載開始20周年を迎えた今もなお絶大な人気を誇っており、2018年1月7日からはNHK BSプレミアムで新章「クリアカード編」が放送開始することも決定している。
さて、カードキャプターさくら(以下、CCさくら)は、これまでVHS、LD、DVD、Blu-rayと様々なかたちでパッケージ化されてきたが、この度、その決定版とも呼べる“さくら史上最高画質”なBlu-ray BOXが登場した。2009年に発売したBlu-ray BOX(以下、2009年版)ですら一瞬で霞んでしまうようなハイクオリティな画質は、一体どうやって作られたのか。今回は4Kスキャンからリマスター作業まで、全行程で総指揮を執った株式会社キュー・テックの岡田和憲氏へのインタビューから、その秘密を明らかにしていきたい。
岡田氏の名前、もしくはその手による映像は、アニメ好きの方であれば知らず知らずのうちに刷り込まれているはずだ。それだけ多数の作品の編集やリマスター化に携わっており、CCさくらにおいてもオンエア編集を手掛け、その後に続くCCさくら高画質化の歴史のキーマンでもある。
アニメ放映から18年。岡田氏に最新版Blu-ray BOXに込められたこだわりと、監督指名で再びオンエア編集を担当することになった「クリアカード編」に対する思いを伺ってみた。なお本記事ではインタビュアーを、今回のエンコード作業にも関わっている秋山 真氏にお願いしている。
▼『CCさくら』は全70話に35mmフィルムが使われた奇跡的作品
ーーCCさくらは、キュー・テックにとっても伝統的な作品と言えるコンテンツですが、今回また新たにBlu-ray化されることになった理由を教えてください。
岡田:作品が20周年ということ。新作「クリアカード編」がスタートするタイミングだったこと。そして弊社の4KスキャニングとFORSリマスターの組み合わせによって、これまでにない新しいCCさくらを作ることが出来ると考えたこと。それが主な理由ですね。
ーー当時のテレビアニメは16mmフィルムが使われることが多かったですが、CCさくらでは全編35mmフィルムが使われていました。このこと自体が奇跡的ですよね?
岡田:テレビシリーズ全70話のすべてに35mmフィルムが使われているのは異例中の異例だと思います。想像ですが当時、高画質を売りにしていたBS放送の影響があったからなのかもしれません。
ーー今回はその35mmネガフィルムを4Kスキャンしたというのが最初のポイントになってくると思いますが、まずはそのあたりのお話しからお聞かせください。
岡田:2009年版に使われたハイビジョンマスターには、HDテレシネ(CCDカメラを用いてフィルムをリアルタイムで撮影しながら、ビデオ信号へ変換する方式)が使われています。この時は“オンエア時に潰れてしまった階調をしっかり出そう”というのがメインコンセプトでした。それに対して4Kスキャンを行った今回は、どこかを意図的に変えるのではなく、“フィルムにある情報をそのまま取り出す”ということを第一に考えました。
ーー同じBlu-rayでも2009年版とは解像度が全く違いますね。情報量も桁違いです。このあたりは4Kスキャンの威力をまざまざと感じます。それから色に関しても今回のものは非常に端正ですよね。2009年版は今見ると若干色が派手目に感じられます。
岡田:2009年版の大元になったHDテレシネのデータは、2005年に発売したDVD BOXを製作する際に作成されたものですが、リマスター作業自体は全てやり直しています。しかし当時はブラウン管がまだまだ現役だったこともあり、それも考慮した色設定になっていました。今回はフラットでナチュラルなバランスを意識してカラーコレクション(映像の色彩補正作業)を行っています。カラリストには「カット単位ではOKだけど通しで見ると上手く繋がらない」といった箇所が無いように、かなり細かく調整してもらいました。
差が分かりやすい例では、知世ちゃん(大道寺知世)の髪の毛ですね。本来は黒髪なのに、2009年版ではフラットディスプレイだと少し青みがかって見えてしまっていたのが、最新版では自然な色合いになっているのがお分かりいただけると思います。
ーー自分はまずこの色合いにヤラれましたね。すごく上品です。それにしても、全70話という大ボリュームを4Kスキャンするだけでも相当大変な作業だったと思いますが、苦労した点はありましたか?
岡田:他の作品で4Kスキャンの画質検証を行っていたので、4Kスキャンによって起こりうる問題は知っていたんです。ですので、CCさくらだと「ここが大変だろうな」という予想はある程度出来ていました。
ーー具体的には?
岡田:昔のアニメはトレース線が太いものが多いのですが、CCさくらはとても繊細なタッチで描かれています。なので同じスキャンのやり方では全然キレイに見えません。あちこちにマダラが出たり、シミだらけになってしまうんです。CCさくらの絵柄に合ったスキャン設定を見つけるのに時間を掛けましたね。
ーー私はテストエンコードの時に初めて新マスターを観たのですが、これまでのどのフィルムアニメよりも、良好なフォーカスと、高い色純度、美しいフィルムグレインに目を奪われました。4Kスキャンのあとのリマスター作業はどのようなものだったのでしょうか?
岡田:35mmネガフィルムを使用しているとは言え、4Kでスキャンしたデータを見ると、かなりフィルムグレインが乗っていることが分かります。そこで上質な粒子感と高いS/Nを両立させるために、弊社のFORS技術を使って特別なノイズリダクション(以下、NR)を施しました。
特にCCさくらのようにペールトーン(淡い色彩)が多い作品は、NRをかけ過ぎると低コントラスト部分がすぐに溶けてしまいます。例えば顔の肌色と目の白い部分に光が入って来たりすると、そこの境界線がほとんど分からなくなる。かと言って中途半端なNRでは平坦な部分がマダラになったり、グラデーションがゴワゴワしてしまいます。
そこで、あれこれ試行錯誤した結果、ついに「低コントラスト部分が溶けない」「平面やグラデーションが滑らか」「高コントラスト部分がキレイ」という条件を満たすNRを完成させました。なかでも「高コントラスト部分がキレイ」を実現出来たのは、実はかなり画期的なことなんです。
ーー画期的と言うのは具体的にはどういったところですか?
岡田:輪郭部分を狙い撃ちしたかの様にキレイになるんです。従来の手法だと、どうしてもジラジラしたグレイン由来のノイズ成分がトレース線の周りに残ってしまいます。それが見事に消えるので、フィルムアニメでは特に効果を発揮しますね。これは今後、他の作品にも流用可能な技術になります。
ーーたしかに、このトレース線の美しさは何度見ても惚れ惚れします!
岡田:ただ、この新NRのおかげで画全体がすごくクリーンになった反面、フィルムらしさがあまり感じられなくなってしまいました。グレインが消え過ぎてしまって、デジタルアニメのような画調に変わってしまうんです。そこで「クリアな映像」と「程よいフィルム感」を両立させるために、同じスキャン素材からグレインの量だけを別途調整したものを用意して、2つを慎重にブレンドしました。これも新しく試してみたら上手くいった方法です。
とにかくCCさくらはすでに2009年版が出ているので、その上を目指すためにはどうすれば良いか、これまで出来なかったことを実現したい、とあれこれ考えましたね。
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