公開日 2023/03/09 12:00
VGP2023受賞:オーディオテクニカ 菊原靖仁氏
<インタビュー>オーディオテクニカならではの新たな価値提案で、お客様から選ばれる製品を提供し続ける
PHILEWEBビジネス 徳田ゆかり
VGP2023
受賞インタビュー:オーディオテクニカ
ヘッドホン・イヤホンのカテゴリーにおいて、常に高い注目を集めているオーディオテクニカ。2022年9月に投入した完全ワイヤレスイヤホン「ATH-TWX9」が、VGP2023ライフスタイル分科会においてイヤホン大賞を受賞した。同モデルは、オーディオテクニカが満を持して投入した完全ワイヤレスのフラグシップモデル。さまざまなこだわりが詰め込まれた製品づくりの背景や、カテゴリー展開における意気込みを、株式会社オーディオテクニカの菊原靖仁氏に語っていただいた。
株式会社オーディオテクニカ
商品開発部 BT開発課 マネージャー
菊原靖仁氏
プロフィール/2001年株式会社オーディオテクニカに入社後、業務用音響機器の開発に従事。2018年にBT製品の電気開発チームに参加、ATH-CKR7TWの立ち上げ以降のモデル開発に従事し電気・FW開発チームのマネジメントを担当。2022年BT開発課が発足し今に至る。
―― VGP2023ライフスタイル分科会で、御社の完全ワイヤレスイヤホンのフラグシップモデル「ATH-TWX9」が、イヤホン大賞を受賞されました。受賞モデルの企画の背景などをお伺いできますでしょうか。
菊原 このたびはすばらしい賞を頂戴しまして、誠に有難うございました。開発に携わる立場としても、大変な励みになります。
この商品を企画するにあたっては、世界的なコロナ禍の中での完全ワイヤレスイヤホン市場の成長が背景にあります。在宅勤務でのオンライン会議が当たり前のように行われる昨今、ヘッドホンやイヤホンがその必需品となり、特に完全ワイヤレスモデルは音楽を聴くデバイスというだけでなく、コミュニケーションツールとしても高性能で快適な使い心地が求められています。
2020年頃に他社製品を含むブランドシンボルとなるプレミアム帯の高価格モデルが著しく伸長してきている中、当社の高価格モデルである「ATH-ANC300TW」が生産終了とのタイミングとなりました。そこで完全ワイヤレスにおいても、当社の強みである音質と通話のパフォーマンスを極め、最新技術を融合した次世代のプレミアムモデルを企画するに至ったのです。
当社の完全ワイヤレスイヤホンの最初のモデルは、2018年の「ATH-CKS7TW」ですが、これは開発当初、自社で定めたブルートゥース接続性能の基準値に到達させることができませんでした。そこでまず接続性における基準の数値を定め、次の製品に備えました。電車の中や人混みで使用して音が途切れない基準値を求め、フィールドテストとして外で実際に使ってテストし、数値を定めたのです。以来それを基準として設計しており、これまでに完全ワイヤレスは12モデルを展開するに至っています。
―― 完全ワイヤレスモデルでは、限られたサイズの中に技術をつめこみ、装着感も追求する。開発のハードルが高いですね。
菊原 バッテリーと基板を搭載するので、どうしても本体のサイズが大きくなりがちです。RFの部分はバッテリーとある程度の距離を保たないと性能上好ましくないなど、技術的な細かい制約もあります。RFと電気回路設計、性能面と装着感との両立といった当社ならではのノウハウは、いくつものモデルを開発してきた中で蓄積されたものですね。
装着感も重要です。これは数値化が困難ですので、モニターテストを行っています。モックサンプルの段階から50名ほどの社員に協力をあおぎ、装着してもらって感想をフィードバックしてもらいながら調節するといった工程を踏んでいます。
―― さまざまなノウハウが受賞モデル「ATH-TWX9」に結集したのですね。製品の特長をご紹介いただけますか。
菊原 まず、どんな環境下でも音楽を良い音で楽しめる点。音質とノイズキャンセル効果のバランスを極限まで追い込んで設計した、自社設計のΦ5.8ミリのドライバーを採用して、高いノイズキャンセル効果を保ちながら高音質を実現しています。また硬質素材と軟質素材を3層に重ねたマルチレイヤーの振動版で雑味のない音表現を獲得しているほか、音質に寄与するさまざまな技術を投入しています。
そしてノイズキャンセルの効果にも大きく影響する自然なフィット感にもこだわりました。小型で 耳の窪みにすべり込んでしっかりと収まり、人間工学に基づいた装着しやすいデザインを採用しています。疲れにくく、耳からはずれにくい安定感を持った設計に注力いたしました。本体サイズをこれだけ小さくできたのも大きなポイントです。
さらに装着感を高めるため、お客様ひとりひとりの耳に最適な付け心地となるよう、12個のイヤーピースを付属しています。導管の長さが異なる3種類のイヤピースを4つのサイズごとに展開しているものです。
―― ケースにもたくさんのこだわりが詰まっていますね。
菊原 おかげさまでケースも高いご評価をいただいています。一番特徴的なのは、深紫外線LEDを使った除菌機能。イヤホンをしまった際に定期的に深紫外線LEDを照射し、イヤピースの除菌を行っています。イヤピースには意外に雑菌が多く付着していて、外耳炎の原因になったり、耳がかゆくなったりする場合があります。目には見えない体感しづらい部分ですが、こだわりをもって、快適にイヤホンを使い続けていただけるような配慮を施しております。
これまでの弊社のモデルでは対応していなかった、無線充電のQiの規格にも新たに対応しました。今のトレンドを、最上位機種に採用したかたちです。ケースの蓋を閉じるときにパチンといった大きな音が出ないような設計とするなど、外側はもちろん内側の質感にもこだわりました。本体も取り出しやすい形状となっています。
―― 「ATH-TWX9 」は昨年9月の発売ですが、手応えはいかがですか。またお客様に対するプロモーションはどんな形で展開されていますか。
菊原 おかげさまで順調に推移しております。導入当初は製造の問題などもあり、 また想定以上に初動がよく、しばらく需要に追いつかない状況もありましたが、昨今は供給面での問題はなくなりました。決して安い価格ではないですが、高いご評価をいただき、口コミで広がって実売に繋がったというところがありますね。
お客様とのコミュニケーションについては、「ATH-TWX9 」はさまざまな特徴をもつガジェット寄りのモデルでもあり、オンラインをメインに展開致しました。御社のファイルウェブも活用させていただきましたし、ユーチューバーさんを起用して動画で使用感を伝えるといった手法も活用しました。
また、発売日近辺に開催されたヘッドホンのイベントに出展して、製品を直接体感いただく場も設けることができました。当日は多くのお客様に来ていただくことができ、エンジニアに対応してもらってテクニカルな説明もしっかり行えましたし、お客様にも弊社の意気込みを感じていただけたと思います。
リアルでのイベントは生のお客様の声を聞ける大きなチャンスの場です。ネットの口コミも重要ですが、やはり目の前で使っていただいてのご意見は貴重です。エンジニアもそれをしっかり吸収して受け止め、ものづくりにさらにフィードバックして行きます。ここ3年はコロナ禍で厳しい状況でしたが、今回はイベントが実現できるちょうどいいタイミングに重なり、大変ありがたく思います。
―― 御社のヘッドホン、イヤホン展開における今後の方向性をお聞かせください。
菊原 完全ワイヤレスの市場はいまだ成長していますが、製品の機能はある程度成熟しているかと思います。しかしオーディオテクニカとしては、なお新しい付加価値をご提案してお客様から選ばれる製品を投入して行きたいと考えています。
そのためにも、音の途切れにくさや音質、装着感といった部分の高い品質を強固な土台としてしっかりと担保し、その上でお客様からのフィードバックをいただきながら、新たな付加価値の追求を続けて参ります。今回の深紫外線LEDのような新しいトピックもそのひとつですが、個性的で尖った製品を今後も導入して行きたいと思います。お客様に愛着を持っていただき、長く使える製品を目指し、頑張って参ります。
―― これからの展開も楽しみです。有難うございました。
受賞インタビュー:オーディオテクニカ
ヘッドホン・イヤホンのカテゴリーにおいて、常に高い注目を集めているオーディオテクニカ。2022年9月に投入した完全ワイヤレスイヤホン「ATH-TWX9」が、VGP2023ライフスタイル分科会においてイヤホン大賞を受賞した。同モデルは、オーディオテクニカが満を持して投入した完全ワイヤレスのフラグシップモデル。さまざまなこだわりが詰め込まれた製品づくりの背景や、カテゴリー展開における意気込みを、株式会社オーディオテクニカの菊原靖仁氏に語っていただいた。
株式会社オーディオテクニカ
商品開発部 BT開発課 マネージャー
菊原靖仁氏
プロフィール/2001年株式会社オーディオテクニカに入社後、業務用音響機器の開発に従事。2018年にBT製品の電気開発チームに参加、ATH-CKR7TWの立ち上げ以降のモデル開発に従事し電気・FW開発チームのマネジメントを担当。2022年BT開発課が発足し今に至る。
■音楽を聴くに止まらず、生活に密着したアイテムとしての要求が高まる完全ワイヤレスイヤホン
―― VGP2023ライフスタイル分科会で、御社の完全ワイヤレスイヤホンのフラグシップモデル「ATH-TWX9」が、イヤホン大賞を受賞されました。受賞モデルの企画の背景などをお伺いできますでしょうか。
菊原 このたびはすばらしい賞を頂戴しまして、誠に有難うございました。開発に携わる立場としても、大変な励みになります。
この商品を企画するにあたっては、世界的なコロナ禍の中での完全ワイヤレスイヤホン市場の成長が背景にあります。在宅勤務でのオンライン会議が当たり前のように行われる昨今、ヘッドホンやイヤホンがその必需品となり、特に完全ワイヤレスモデルは音楽を聴くデバイスというだけでなく、コミュニケーションツールとしても高性能で快適な使い心地が求められています。
2020年頃に他社製品を含むブランドシンボルとなるプレミアム帯の高価格モデルが著しく伸長してきている中、当社の高価格モデルである「ATH-ANC300TW」が生産終了とのタイミングとなりました。そこで完全ワイヤレスにおいても、当社の強みである音質と通話のパフォーマンスを極め、最新技術を融合した次世代のプレミアムモデルを企画するに至ったのです。
当社の完全ワイヤレスイヤホンの最初のモデルは、2018年の「ATH-CKS7TW」ですが、これは開発当初、自社で定めたブルートゥース接続性能の基準値に到達させることができませんでした。そこでまず接続性における基準の数値を定め、次の製品に備えました。電車の中や人混みで使用して音が途切れない基準値を求め、フィールドテストとして外で実際に使ってテストし、数値を定めたのです。以来それを基準として設計しており、これまでに完全ワイヤレスは12モデルを展開するに至っています。
―― 完全ワイヤレスモデルでは、限られたサイズの中に技術をつめこみ、装着感も追求する。開発のハードルが高いですね。
菊原 バッテリーと基板を搭載するので、どうしても本体のサイズが大きくなりがちです。RFの部分はバッテリーとある程度の距離を保たないと性能上好ましくないなど、技術的な細かい制約もあります。RFと電気回路設計、性能面と装着感との両立といった当社ならではのノウハウは、いくつものモデルを開発してきた中で蓄積されたものですね。
装着感も重要です。これは数値化が困難ですので、モニターテストを行っています。モックサンプルの段階から50名ほどの社員に協力をあおぎ、装着してもらって感想をフィードバックしてもらいながら調節するといった工程を踏んでいます。
■性能に尖った個性を加えた完全ワイヤレスのフラグシップ。こだわりをふんだんに詰め込んだ「ATH-TWX9」
―― さまざまなノウハウが受賞モデル「ATH-TWX9」に結集したのですね。製品の特長をご紹介いただけますか。
菊原 まず、どんな環境下でも音楽を良い音で楽しめる点。音質とノイズキャンセル効果のバランスを極限まで追い込んで設計した、自社設計のΦ5.8ミリのドライバーを採用して、高いノイズキャンセル効果を保ちながら高音質を実現しています。また硬質素材と軟質素材を3層に重ねたマルチレイヤーの振動版で雑味のない音表現を獲得しているほか、音質に寄与するさまざまな技術を投入しています。
そしてノイズキャンセルの効果にも大きく影響する自然なフィット感にもこだわりました。小型で 耳の窪みにすべり込んでしっかりと収まり、人間工学に基づいた装着しやすいデザインを採用しています。疲れにくく、耳からはずれにくい安定感を持った設計に注力いたしました。本体サイズをこれだけ小さくできたのも大きなポイントです。
さらに装着感を高めるため、お客様ひとりひとりの耳に最適な付け心地となるよう、12個のイヤーピースを付属しています。導管の長さが異なる3種類のイヤピースを4つのサイズごとに展開しているものです。
―― ケースにもたくさんのこだわりが詰まっていますね。
菊原 おかげさまでケースも高いご評価をいただいています。一番特徴的なのは、深紫外線LEDを使った除菌機能。イヤホンをしまった際に定期的に深紫外線LEDを照射し、イヤピースの除菌を行っています。イヤピースには意外に雑菌が多く付着していて、外耳炎の原因になったり、耳がかゆくなったりする場合があります。目には見えない体感しづらい部分ですが、こだわりをもって、快適にイヤホンを使い続けていただけるような配慮を施しております。
これまでの弊社のモデルでは対応していなかった、無線充電のQiの規格にも新たに対応しました。今のトレンドを、最上位機種に採用したかたちです。ケースの蓋を閉じるときにパチンといった大きな音が出ないような設計とするなど、外側はもちろん内側の質感にもこだわりました。本体も取り出しやすい形状となっています。
■リアルイベントの開催は貴重な機会。お客様の生の声が今後の製品づくりに活かされる
―― 「ATH-TWX9 」は昨年9月の発売ですが、手応えはいかがですか。またお客様に対するプロモーションはどんな形で展開されていますか。
菊原 おかげさまで順調に推移しております。導入当初は製造の問題などもあり、 また想定以上に初動がよく、しばらく需要に追いつかない状況もありましたが、昨今は供給面での問題はなくなりました。決して安い価格ではないですが、高いご評価をいただき、口コミで広がって実売に繋がったというところがありますね。
お客様とのコミュニケーションについては、「ATH-TWX9 」はさまざまな特徴をもつガジェット寄りのモデルでもあり、オンラインをメインに展開致しました。御社のファイルウェブも活用させていただきましたし、ユーチューバーさんを起用して動画で使用感を伝えるといった手法も活用しました。
また、発売日近辺に開催されたヘッドホンのイベントに出展して、製品を直接体感いただく場も設けることができました。当日は多くのお客様に来ていただくことができ、エンジニアに対応してもらってテクニカルな説明もしっかり行えましたし、お客様にも弊社の意気込みを感じていただけたと思います。
リアルでのイベントは生のお客様の声を聞ける大きなチャンスの場です。ネットの口コミも重要ですが、やはり目の前で使っていただいてのご意見は貴重です。エンジニアもそれをしっかり吸収して受け止め、ものづくりにさらにフィードバックして行きます。ここ3年はコロナ禍で厳しい状況でしたが、今回はイベントが実現できるちょうどいいタイミングに重なり、大変ありがたく思います。
―― 御社のヘッドホン、イヤホン展開における今後の方向性をお聞かせください。
菊原 完全ワイヤレスの市場はいまだ成長していますが、製品の機能はある程度成熟しているかと思います。しかしオーディオテクニカとしては、なお新しい付加価値をご提案してお客様から選ばれる製品を投入して行きたいと考えています。
そのためにも、音の途切れにくさや音質、装着感といった部分の高い品質を強固な土台としてしっかりと担保し、その上でお客様からのフィードバックをいただきながら、新たな付加価値の追求を続けて参ります。今回の深紫外線LEDのような新しいトピックもそのひとつですが、個性的で尖った製品を今後も導入して行きたいと思います。お客様に愛着を持っていただき、長く使える製品を目指し、頑張って参ります。
―― これからの展開も楽しみです。有難うございました。
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