公開日 2023/09/21 06:30
VGP2023SUMMER受賞:ティアック 加藤徹也氏
【インタビュー】V.R.D.Sメカ搭載、ティアック渾身のCDプレーヤー「VRDS-701」。新代表が語るブランドの展開
PHILEWEBビジネス 徳田ゆかり
VGP2023SUMMER
受賞インタビュー:ティアック
アワード「VGP2023 SUMMER」にて、同社70周年を記念するCDプレーヤー「VRDS-701」が「批評家大賞」を受賞したティアック。今年6月にエソテリック株式会社の代表取締役社長に就任、ティアックおよびエソテリックブランドを擁するプレミアムオーディオの展開のビジネスユニット長を務める加藤徹也氏に、受賞モデルへの思いと、オーディオビジネスにおける意気込みを語っていただいた。
エソテリック株式会社
代表取締役社長 兼 ティアック(株)音響機器事業部 プレミアム・オーディオ・ビジネスユニット長
加藤徹也氏
プロフィール/1991年にティアック株式会社に入社、ティアック製品のテープレコーダーやコンポなどの基板設計/ファームウェア開発などを手掛け、2000年よりESOTERIC製品の開発に携わる。フラグシップであるGrandiosoシリーズを筆頭に同社製品の開発、SACDのためのマスタリングスタジオ「エソテリック・マスタリング・センター」開設にも尽力。2023年6月現職に就任。
ーー 今年6月に社長にご就任された加藤さんに、受賞インタビューで初めてご登場いただきました。このたびのアワードVGP2023SUMMERにおいて、TEACブランドのCDプレーヤー「VRDS-701」が「批評家大賞」を受賞されましたが、ご感想をお聞かせいただけますか。
加藤 ありがとうございます。就任早々に大きな賞を頂戴することができ、大変光栄ですし、社内のメンバーとありがたく栄誉をわかち合っております。
ーー 受賞モデルは御社独自のドライブメカニズムである「V.R.D.Sメカニズム」を搭載していて、これはティアックブランドとして20年ぶりだそうですね。今再びこうしたモデルが誕生した経緯を、お聞かせいただけますでしょうか。
加藤 ティアックという会社では、コンシューマーオーディオの分野でエソテリックとティアックの2ブランドを展開しています。純粋なハイファイオーディオとしてのあゆみでは、20年ほど前からエソテリックブランドに軸足を置いていました。V.R.D.Sもティアックではなく、エソテリックブランドのSACDプレーヤーに継承されてきました。一方ティアックブランドではこの20年の間、ストリーミングオーディオ、ファイルオーディオといった新しいオーディオ再生に積極的に対応してきまして、ディスクプレーヤーの展開からは遠ざかっていたわけですね。
けれども、ティアックブランドでもハイファイのCDプレーヤーのご要望は常にありました。そこで創業70周年記念モデルの701のシリーズの展開で、満を持してCDプレーヤーを、V.R.D.S搭載で世に出すことにしたのです。ティアックの701シリーズは、妥協なくいいものを仕上げるスタンス、つまりエソテリック製品と同様の感覚で設計していますから、当然のようにV.R.D.Sははずせない思いでした。
ーー この20年間、オーディオ業界はファイルオーディオやストリーミングオーディオの再生に向けた動きを積極的に行ってきましたし、特に御社はいち早く着手されてきました。けれども20年間で、ディスクメディアの存在感もあらためて再認識されたように思われます。
加藤 ディスクメディアは消えてしまうと言われてきましたが、結局そんなことはないですよね。特に国内では、ディスクに思い入れをお持ちのオーディオファンの方々が数多くいらっしゃいます。昔愛聴したディスクを今でも聴きたい、当時よりもいい音で聴きたい、自分がオーディオファイルとして成長した姿を感じたい、という思いをお持ちなのではないでしょうか。私も40年近く前のCDを大切にもっていますが、ディスクごとに思い出があり、どうしても手放せません。聴けばその時に戻れるのもオーディオの魅力のひとつで、そんな音を出すことを目指してもいます。
ーー VRDS-701の開発にあたって、どんな思いがおありだったでしょうか。
加藤 実は我々の仲間であったメカの設計者の、“卒業制作”になりました。その方はティアックでPC関連の製品を手がけ、10年ほど前にオーディオの部署に異動して我々と一緒にやってきたのですが、ものすごくオーディオがお好きなんですね。ティアックには、測定器や、プロオーディオや、ミュージシャン関連機器などいろいろな部門がありますが、ピュアオーディオが好きだという社員はたくさんいるんです。
彼はまさに最終出社の退職日に、残業していいですか?と聞くぐらい仕事に熱心で、のめりこむと時間も忘れてしまうような方でした。彼と一緒に、VRDS-701のメカの設計を半年以上やったでしょうか。ご本人も最後の製品という思いがあったかと思いますが、熱のこもった卒業制作になりました。またこんなこともありました。もう一段音質を向上させたいというときに、彼がなかなか答えを見つけられずにいたところ、彼の後任になる後輩のメカ担当者がアイデアを提案し、すっと解決に導かれたんですね。そういう新旧の絆の受け渡しといったところも、この製品が誕生する過程で育まれたと思います。
ーー ティアック製品に搭載されたV.R.D.Sの技術として、20年前と今ではどんな違いがあるでしょうか。
加藤 20年前のティアックのV.R.D.S搭載機、私も設計に参加しました。剛性を高めて振動を低減する考え方で、ごつくてしっかりとした作りですが、今のものはそれとはまったく異なります。
音は振動であり、物には必ず固有の振動があります。気持ちよく音楽を奏でる上では、どんな振動を良しとするか。振動することを前提として、それぞれの固有の振動を理解した上で、どう振動したらもっとも気持ちのいい音を発することになるかを考慮しながら、ねじ留めの場所を決めたり、留め方を工夫したり、といった作り方をしたのがVRDS-701です。ティアックやエソテリックで、さまざまな製品をつくってきた経験が活かされています。
車に例えてみますと、昔の車はボディそのものの剛性が高いですが、今の車は外から加わる力を逃すつくりで、安全性を高めていますね。オーディオもそんなふうに進化してきましたから、今のメカを昔ながらのオーディオファンの方が見たら驚かれるでしょう。けれども、これが今導き出されているよりよい解なのです。
ーー V.R.D.Sはエソテリックブランドでいろいろな製品に展開されてきましたが、ティアックブランドではどのように差別化されるのでしょうか。
加藤 エソテリックでもティアックでも、めざす音の方向性は同じです。音楽がストレートにハートに飛んでくるような音。ただ、数百万円クラスのエソテリックの製品と、もっとお求めやすい価格帯のティアックの製品の違いは歴然としています。エソテリック製品の販売台数はティアック製品よりもずっと少ないですから、初期投資の考え方も双方でまったく違います。
V.R.D.Sのブリッジも、エソテリックは物量で剛性を確保するような考え方ですが、ティアックではトラス構造により強度は維持し、振動を抑えながらも軽さを求めていく考え方です。そういう意味でも、ティアック製品の方が工夫を必要とされているわけです。
そして今までどおり、エソテリックではピュアオーディオ再生を極限まで突き詰めて参りますし、ティアックはもう少しお求め安い価格帯でより多くのお客様に訴求していく方向性です。そして2つのブランドで、互いの強みを活かし合うこともできます。エソテリックの技術を応用して、ティアックで一定以上の水準の品質を確保していく。また、ある程度の数量が求められるような技術は、ティアックで開発し、エソテリック製品に活かすといったこともあります。
たとえば、ブルートゥースの技術などはエソテリック単体で開発するよりも、ティアックで培ってきた技術を応用する方がスムーズです。製品の方向性やお客様層が異なる2つのブランドですが、だからこそうまくかみ合わせていけば、いい相乗効果を生みますね。コンシューマー以外にも、タスカムなどプロ用のブランドもあるのはグループの強みで、いろいろな要素がもってきやすいですね。
ーー 同じグループ内とはいえ、異なる事業体での展開がうまくコラボレーションできるのは、容易ではないと思われるのですが。
加藤 当社では、各事業体で商品を企画する際に、収支予測をたてて企画を実現させられるかどうか、全社で判定する機会があります。そこで他部門がやろうとしていることがわかれば、別の部門がもつ技術が使えるのではないかとか、意見を出し合えるわけです。各事業の成果物を他の事業でも使った方が効率的ですし、互いに留意すべきことも伝えられます。
ーー このたびエソテリックの社長に就任されました。あらためて抱負をお聞かせいただけますでしょうか。
加藤 オーディオの文化が昨今、揺らいでいると感じています。けれども人生の中で、聴いてきた音楽と自分の体験や思いがリンクして、ずっと残るような素晴らしい体験を担うことができるのは、オーディオならではのこと。それを継承しながら、若い人にもかっこいいと思っていただけるように、そして素敵な趣味としてオーディオが続けられるように。
これからも、エソテリックやティアック製品の音質チューニングや製品づくりは続けていくつもりです。結局私は製品を作るのが好きなんですね。今全国の販売店様もオーディオ文化の継承に意欲的に取り組んでおられますから、ぜひ一緒にオーディオ文化の推進のお手伝いをさせていただければと思います。
ーー 益々のご活躍が楽しみです。有難うございました。
受賞インタビュー:ティアック
アワード「VGP2023 SUMMER」にて、同社70周年を記念するCDプレーヤー「VRDS-701」が「批評家大賞」を受賞したティアック。今年6月にエソテリック株式会社の代表取締役社長に就任、ティアックおよびエソテリックブランドを擁するプレミアムオーディオの展開のビジネスユニット長を務める加藤徹也氏に、受賞モデルへの思いと、オーディオビジネスにおける意気込みを語っていただいた。
エソテリック株式会社
代表取締役社長 兼 ティアック(株)音響機器事業部 プレミアム・オーディオ・ビジネスユニット長
加藤徹也氏
プロフィール/1991年にティアック株式会社に入社、ティアック製品のテープレコーダーやコンポなどの基板設計/ファームウェア開発などを手掛け、2000年よりESOTERIC製品の開発に携わる。フラグシップであるGrandiosoシリーズを筆頭に同社製品の開発、SACDのためのマスタリングスタジオ「エソテリック・マスタリング・センター」開設にも尽力。2023年6月現職に就任。
■ティアックブランドで20年ぶりにプレーヤーに搭載したV.R.D.Sメカの進化とは
ーー 今年6月に社長にご就任された加藤さんに、受賞インタビューで初めてご登場いただきました。このたびのアワードVGP2023SUMMERにおいて、TEACブランドのCDプレーヤー「VRDS-701」が「批評家大賞」を受賞されましたが、ご感想をお聞かせいただけますか。
加藤 ありがとうございます。就任早々に大きな賞を頂戴することができ、大変光栄ですし、社内のメンバーとありがたく栄誉をわかち合っております。
ーー 受賞モデルは御社独自のドライブメカニズムである「V.R.D.Sメカニズム」を搭載していて、これはティアックブランドとして20年ぶりだそうですね。今再びこうしたモデルが誕生した経緯を、お聞かせいただけますでしょうか。
加藤 ティアックという会社では、コンシューマーオーディオの分野でエソテリックとティアックの2ブランドを展開しています。純粋なハイファイオーディオとしてのあゆみでは、20年ほど前からエソテリックブランドに軸足を置いていました。V.R.D.Sもティアックではなく、エソテリックブランドのSACDプレーヤーに継承されてきました。一方ティアックブランドではこの20年の間、ストリーミングオーディオ、ファイルオーディオといった新しいオーディオ再生に積極的に対応してきまして、ディスクプレーヤーの展開からは遠ざかっていたわけですね。
けれども、ティアックブランドでもハイファイのCDプレーヤーのご要望は常にありました。そこで創業70周年記念モデルの701のシリーズの展開で、満を持してCDプレーヤーを、V.R.D.S搭載で世に出すことにしたのです。ティアックの701シリーズは、妥協なくいいものを仕上げるスタンス、つまりエソテリック製品と同様の感覚で設計していますから、当然のようにV.R.D.Sははずせない思いでした。
ーー この20年間、オーディオ業界はファイルオーディオやストリーミングオーディオの再生に向けた動きを積極的に行ってきましたし、特に御社はいち早く着手されてきました。けれども20年間で、ディスクメディアの存在感もあらためて再認識されたように思われます。
加藤 ディスクメディアは消えてしまうと言われてきましたが、結局そんなことはないですよね。特に国内では、ディスクに思い入れをお持ちのオーディオファンの方々が数多くいらっしゃいます。昔愛聴したディスクを今でも聴きたい、当時よりもいい音で聴きたい、自分がオーディオファイルとして成長した姿を感じたい、という思いをお持ちなのではないでしょうか。私も40年近く前のCDを大切にもっていますが、ディスクごとに思い出があり、どうしても手放せません。聴けばその時に戻れるのもオーディオの魅力のひとつで、そんな音を出すことを目指してもいます。
ーー VRDS-701の開発にあたって、どんな思いがおありだったでしょうか。
加藤 実は我々の仲間であったメカの設計者の、“卒業制作”になりました。その方はティアックでPC関連の製品を手がけ、10年ほど前にオーディオの部署に異動して我々と一緒にやってきたのですが、ものすごくオーディオがお好きなんですね。ティアックには、測定器や、プロオーディオや、ミュージシャン関連機器などいろいろな部門がありますが、ピュアオーディオが好きだという社員はたくさんいるんです。
彼はまさに最終出社の退職日に、残業していいですか?と聞くぐらい仕事に熱心で、のめりこむと時間も忘れてしまうような方でした。彼と一緒に、VRDS-701のメカの設計を半年以上やったでしょうか。ご本人も最後の製品という思いがあったかと思いますが、熱のこもった卒業制作になりました。またこんなこともありました。もう一段音質を向上させたいというときに、彼がなかなか答えを見つけられずにいたところ、彼の後任になる後輩のメカ担当者がアイデアを提案し、すっと解決に導かれたんですね。そういう新旧の絆の受け渡しといったところも、この製品が誕生する過程で育まれたと思います。
ーー ティアック製品に搭載されたV.R.D.Sの技術として、20年前と今ではどんな違いがあるでしょうか。
加藤 20年前のティアックのV.R.D.S搭載機、私も設計に参加しました。剛性を高めて振動を低減する考え方で、ごつくてしっかりとした作りですが、今のものはそれとはまったく異なります。
音は振動であり、物には必ず固有の振動があります。気持ちよく音楽を奏でる上では、どんな振動を良しとするか。振動することを前提として、それぞれの固有の振動を理解した上で、どう振動したらもっとも気持ちのいい音を発することになるかを考慮しながら、ねじ留めの場所を決めたり、留め方を工夫したり、といった作り方をしたのがVRDS-701です。ティアックやエソテリックで、さまざまな製品をつくってきた経験が活かされています。
車に例えてみますと、昔の車はボディそのものの剛性が高いですが、今の車は外から加わる力を逃すつくりで、安全性を高めていますね。オーディオもそんなふうに進化してきましたから、今のメカを昔ながらのオーディオファンの方が見たら驚かれるでしょう。けれども、これが今導き出されているよりよい解なのです。
■エソテリックとティアック、2つのブランドの強みを違いに活かすものづくりを展開
ーー V.R.D.Sはエソテリックブランドでいろいろな製品に展開されてきましたが、ティアックブランドではどのように差別化されるのでしょうか。
加藤 エソテリックでもティアックでも、めざす音の方向性は同じです。音楽がストレートにハートに飛んでくるような音。ただ、数百万円クラスのエソテリックの製品と、もっとお求めやすい価格帯のティアックの製品の違いは歴然としています。エソテリック製品の販売台数はティアック製品よりもずっと少ないですから、初期投資の考え方も双方でまったく違います。
V.R.D.Sのブリッジも、エソテリックは物量で剛性を確保するような考え方ですが、ティアックではトラス構造により強度は維持し、振動を抑えながらも軽さを求めていく考え方です。そういう意味でも、ティアック製品の方が工夫を必要とされているわけです。
そして今までどおり、エソテリックではピュアオーディオ再生を極限まで突き詰めて参りますし、ティアックはもう少しお求め安い価格帯でより多くのお客様に訴求していく方向性です。そして2つのブランドで、互いの強みを活かし合うこともできます。エソテリックの技術を応用して、ティアックで一定以上の水準の品質を確保していく。また、ある程度の数量が求められるような技術は、ティアックで開発し、エソテリック製品に活かすといったこともあります。
たとえば、ブルートゥースの技術などはエソテリック単体で開発するよりも、ティアックで培ってきた技術を応用する方がスムーズです。製品の方向性やお客様層が異なる2つのブランドですが、だからこそうまくかみ合わせていけば、いい相乗効果を生みますね。コンシューマー以外にも、タスカムなどプロ用のブランドもあるのはグループの強みで、いろいろな要素がもってきやすいですね。
ーー 同じグループ内とはいえ、異なる事業体での展開がうまくコラボレーションできるのは、容易ではないと思われるのですが。
加藤 当社では、各事業体で商品を企画する際に、収支予測をたてて企画を実現させられるかどうか、全社で判定する機会があります。そこで他部門がやろうとしていることがわかれば、別の部門がもつ技術が使えるのではないかとか、意見を出し合えるわけです。各事業の成果物を他の事業でも使った方が効率的ですし、互いに留意すべきことも伝えられます。
■これからもずっと、オーディオを素敵な趣味として楽しんでいただけるように
ーー このたびエソテリックの社長に就任されました。あらためて抱負をお聞かせいただけますでしょうか。
加藤 オーディオの文化が昨今、揺らいでいると感じています。けれども人生の中で、聴いてきた音楽と自分の体験や思いがリンクして、ずっと残るような素晴らしい体験を担うことができるのは、オーディオならではのこと。それを継承しながら、若い人にもかっこいいと思っていただけるように、そして素敵な趣味としてオーディオが続けられるように。
これからも、エソテリックやティアック製品の音質チューニングや製品づくりは続けていくつもりです。結局私は製品を作るのが好きなんですね。今全国の販売店様もオーディオ文化の継承に意欲的に取り組んでおられますから、ぜひ一緒にオーディオ文化の推進のお手伝いをさせていただければと思います。
ーー 益々のご活躍が楽しみです。有難うございました。