公開日 2018/05/13 08:57
22.4MHz DSD対応
【HIGH END】ローム、初のオーディオ用DACチップを世界初披露。S/N 131dB超、開発者に詳細を聞いた
編集部:小澤貴信
ローム(株)は、独ミュンヘンで開催中のハイエンドオーディオ・イベント「hifideluxu」に出展。768kHz PCMや22.4MHz DSDに対応したオーディオ用DACチップを披露した。
同社は以前からオーディオ用DACチップを開発中であることをアナウンスしていたが(関連ニュース)、今回、開発中のDACチップが国内外を通じて初めて披露された。
今回披露されたDACチップ「BD37806TL」は量産前のプロトタイプとなるが、基本構成などはほぼ完成しており、量産に向けた施策や特性をさらに向上させるための追い込みが行われている状況だという。このDACの開発および音質チューニングを担当する同社の佐藤陽亮氏に、その詳細を聞いた。
本DACチップはΔΣ方式の2ch DACで、電流出力タイプとなる。PCMは最大768kHz、DSDは22.4MHzのネイティブ再生に対応。FIRフィルターは8つのプリセットを用意する。チップは0.5mmピッチの64pin仕様となっている。
このDACチップは、ハイエンドを含むHi-Fiオーディオ製品への採用を前提として音質を追求したフラグシップとして開発。優れた数値性能を追求する一方で、音楽信号の正確再現、そして自然かつ活気のある音楽表現を目指したという。
この音楽表現という点については具体的に、「情報量」「リアルなボーカル表現」「豊かな低域再生」という3要素を高次元でバランスさせることを狙っている。
これらを実現するために本DACチップが追求しているのが、電流の変動を排除し、D/A変換におけるカレント・セグメントのマッチング精度を引き上げることだ。カレント・セグメントとは、ΔΣ変調されたパルス密度変調波を多数のスイッチで切り変え、アナログ変換する方法だ。このときのスイッチングの精度が、数値性能はもちろん、音楽の時間軸再現=音質を大きく左右する。
このスイッチングの精度は、電流の変動をいかに抑えるかによって変化する。本DACは電源まわりを強化することで、この電流の変動を徹底して抑えている。そのための手法のひとつが、電流ラインをワイド化してインピーダンスを下げることだ。結果として、本DACはカレント・セグメントにおけるスイッチング精度を高めることに成功したという。
その成果は数値性能の面にも現れており、SN比131.6dB、THD+N 115dBという特性を実現している。SN比については、シングル・1chでこの値は“世界トップクラス”とのこと。THD+Nもトップクラスだが、最終的には120dBまで向上させることを目指しているという。
音質という点では、ロームがこれまでも電源などオーディオ向けICチップ製造で行ってきた、「28の音質に影響するパラメーター」の調整によって、聴感上の音質を向上させる手法も用いている。
このパラメーターの調整は、ICチップ製造における回路設計からICレイアウト、ウエハー形成プロセス、金型、パッケージに至るまでの一連の工程の中から、音質に影響する28の要素をピックアップして、音質をチェックしながらこの28パラメーターを追い込んでいくというものだ。
hifideluxでは、「BD37086TL」を含む評価ボードを用いての試聴デモも実施。実際にその音を確認することができた。
なお評価ボードにおいては、本DACへの電源供給用として、同社のオーディオ用電源「BD37210MUV」「BD37210NUX」(関連ニュース)が組み合わせて用いられていた。
試聴システムとして用意されたのは、ドイツの超ハイエンド・オーディオブランド「mbl」のプレーヤー、アンプおよびスピーカーシステムだ。mblは独自の全面放射型スピーカーで知られており、日本での流通は限られているが、そのサウンドは高く評価されている。このmblのサウンドをひとつの指標として、今回の披露のタイミングに合わせて音質の追い込みを行ったとのことだ。
ブースでmblシステムと組み合わせて鳴らされたサウンドは、非常に印象的なものだった。部屋自体はむしろ狭く、決して良好なルームアコースティックとは言えない環境なのだが、音場が驚くほど奥行き深く展開し、透明度も極めて高い。ボーカルは生々しく眼前に現れて最高域まで滑らかに伸びる。その一方で低域はエネルギー感に溢れている。11.2MHz DSDを聴くとこうした印象はさらに強まり、ダイナミックレンジの広さ、弱音の精緻な再現性、眼前で演奏されるかのような明快な定位に驚かされた。
こうした音の傾向の多くは、もちろんmblあってのものだろうが、その上流のDACチップがボトルネックになっていては、ここまでの再現はできないはずだ。
DACチップというと、製品によっては、電源回りの使いこなしが難しいものがあるという話を耳にすることも多い。今回のDACチップについてはどうなのだろうか。佐藤氏に聞いてみると、ロームでは、そうしたDACチップの使いこなしも当初から想定した上で、先行してオーディオ用電源の開発を行ってきたのだという。
本DACチップは今後、2019年6月の発売を目標に量産化が進められていくという。また、こうしたICチップはプロトタイプから量産版に至る過程で仕様変更が起こり、プロトタイプで評価を行って実装を決めたメーカーが困る場合もあるそうだが、本DACはプロトタイプから量産版へスムーズな置き換えができるようにも配慮されるという。なお、価格帯的には他社の最上位DACと同クラスを想定しているようだ。
今回のプレゼンテーションのなかでは、ロームが長年にわたってクラシック音楽および音楽家を様々なかたちで支援してきたことも紹介された。音楽ホールの建設、音楽家への奨学金制度創設、録音のスポンサードなどを同社は行ってきた。
同社はこうした取り組みをバックボーンにしながら、オーディオ用ICの開発していくにあたって、「MUS-IC」(MUSICとICのダブルミーニングだ)というスローガンを掲げていくという。
DACチップの選択肢が少なくなっていく中で、オーディオ用ICに長年取り組みつつ、音楽へのバックアップを企業として行ってきた同社が新しいDACチップを手がけるということは大きな意義がある。今回はプロトタイプの披露だったが、近日中に国内での正式発表もあるとのこと。今後の展開に期待したい。
同社は以前からオーディオ用DACチップを開発中であることをアナウンスしていたが(関連ニュース)、今回、開発中のDACチップが国内外を通じて初めて披露された。
今回披露されたDACチップ「BD37806TL」は量産前のプロトタイプとなるが、基本構成などはほぼ完成しており、量産に向けた施策や特性をさらに向上させるための追い込みが行われている状況だという。このDACの開発および音質チューニングを担当する同社の佐藤陽亮氏に、その詳細を聞いた。
本DACチップはΔΣ方式の2ch DACで、電流出力タイプとなる。PCMは最大768kHz、DSDは22.4MHzのネイティブ再生に対応。FIRフィルターは8つのプリセットを用意する。チップは0.5mmピッチの64pin仕様となっている。
このDACチップは、ハイエンドを含むHi-Fiオーディオ製品への採用を前提として音質を追求したフラグシップとして開発。優れた数値性能を追求する一方で、音楽信号の正確再現、そして自然かつ活気のある音楽表現を目指したという。
この音楽表現という点については具体的に、「情報量」「リアルなボーカル表現」「豊かな低域再生」という3要素を高次元でバランスさせることを狙っている。
これらを実現するために本DACチップが追求しているのが、電流の変動を排除し、D/A変換におけるカレント・セグメントのマッチング精度を引き上げることだ。カレント・セグメントとは、ΔΣ変調されたパルス密度変調波を多数のスイッチで切り変え、アナログ変換する方法だ。このときのスイッチングの精度が、数値性能はもちろん、音楽の時間軸再現=音質を大きく左右する。
このスイッチングの精度は、電流の変動をいかに抑えるかによって変化する。本DACは電源まわりを強化することで、この電流の変動を徹底して抑えている。そのための手法のひとつが、電流ラインをワイド化してインピーダンスを下げることだ。結果として、本DACはカレント・セグメントにおけるスイッチング精度を高めることに成功したという。
その成果は数値性能の面にも現れており、SN比131.6dB、THD+N 115dBという特性を実現している。SN比については、シングル・1chでこの値は“世界トップクラス”とのこと。THD+Nもトップクラスだが、最終的には120dBまで向上させることを目指しているという。
音質という点では、ロームがこれまでも電源などオーディオ向けICチップ製造で行ってきた、「28の音質に影響するパラメーター」の調整によって、聴感上の音質を向上させる手法も用いている。
このパラメーターの調整は、ICチップ製造における回路設計からICレイアウト、ウエハー形成プロセス、金型、パッケージに至るまでの一連の工程の中から、音質に影響する28の要素をピックアップして、音質をチェックしながらこの28パラメーターを追い込んでいくというものだ。
hifideluxでは、「BD37086TL」を含む評価ボードを用いての試聴デモも実施。実際にその音を確認することができた。
なお評価ボードにおいては、本DACへの電源供給用として、同社のオーディオ用電源「BD37210MUV」「BD37210NUX」(関連ニュース)が組み合わせて用いられていた。
試聴システムとして用意されたのは、ドイツの超ハイエンド・オーディオブランド「mbl」のプレーヤー、アンプおよびスピーカーシステムだ。mblは独自の全面放射型スピーカーで知られており、日本での流通は限られているが、そのサウンドは高く評価されている。このmblのサウンドをひとつの指標として、今回の披露のタイミングに合わせて音質の追い込みを行ったとのことだ。
ブースでmblシステムと組み合わせて鳴らされたサウンドは、非常に印象的なものだった。部屋自体はむしろ狭く、決して良好なルームアコースティックとは言えない環境なのだが、音場が驚くほど奥行き深く展開し、透明度も極めて高い。ボーカルは生々しく眼前に現れて最高域まで滑らかに伸びる。その一方で低域はエネルギー感に溢れている。11.2MHz DSDを聴くとこうした印象はさらに強まり、ダイナミックレンジの広さ、弱音の精緻な再現性、眼前で演奏されるかのような明快な定位に驚かされた。
こうした音の傾向の多くは、もちろんmblあってのものだろうが、その上流のDACチップがボトルネックになっていては、ここまでの再現はできないはずだ。
DACチップというと、製品によっては、電源回りの使いこなしが難しいものがあるという話を耳にすることも多い。今回のDACチップについてはどうなのだろうか。佐藤氏に聞いてみると、ロームでは、そうしたDACチップの使いこなしも当初から想定した上で、先行してオーディオ用電源の開発を行ってきたのだという。
本DACチップは今後、2019年6月の発売を目標に量産化が進められていくという。また、こうしたICチップはプロトタイプから量産版に至る過程で仕様変更が起こり、プロトタイプで評価を行って実装を決めたメーカーが困る場合もあるそうだが、本DACはプロトタイプから量産版へスムーズな置き換えができるようにも配慮されるという。なお、価格帯的には他社の最上位DACと同クラスを想定しているようだ。
今回のプレゼンテーションのなかでは、ロームが長年にわたってクラシック音楽および音楽家を様々なかたちで支援してきたことも紹介された。音楽ホールの建設、音楽家への奨学金制度創設、録音のスポンサードなどを同社は行ってきた。
同社はこうした取り組みをバックボーンにしながら、オーディオ用ICの開発していくにあたって、「MUS-IC」(MUSICとICのダブルミーニングだ)というスローガンを掲げていくという。
DACチップの選択肢が少なくなっていく中で、オーディオ用ICに長年取り組みつつ、音楽へのバックアップを企業として行ってきた同社が新しいDACチップを手がけるということは大きな意義がある。今回はプロトタイプの披露だったが、近日中に国内での正式発表もあるとのこと。今後の展開に期待したい。
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