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公開日 2024/01/25 11:27
【連載】佐野正弘のITインサイト 第93回
Googleが一本化を図るファイル共有、「AirDrop」との共通化が進む可能性はあるか
佐野正弘
毎年、国内の携帯電話業界は動きが非常に少ない1月だが、その一方で販売の現場は大きく盛り上がるシーズンでもある。なぜならこの時期から、4月の新入学を予定している学生をターゲットにした学割商戦が本格化するためだ。
少子高齢化が進む日本において、初めてスマートフォンを手にする学生は数少ない純粋な新規契約者でもある。それだけに携帯各社は、新入学シーズンに向け学生を獲得するためのさまざまな施策を打つことから、販売の現場が大いに盛り上がるわけだ。
すでに携帯各社は、学生の獲得に向けた学割キャンペーンを打ち出しているが、より注目されるのはスマートフォン端末に関する動向だ。従来であればこの時期は、スマートフォンの大幅値引きが過熱するのだが、2023年末に政府が「1円スマホ」を規制するなど、新たな値引き規制を打ち出したばかりということもあって、2024年は従来ほど値引き施策に力を入れることはできないだろう。
それだけにスマートフォン関連の施策では、従来にない動きも出てきている。それを示しているのが、NTTドコモが先日1月19日に発表した「Xperia 10 V Fun Edition」である。これは、2023年発売のソニー製スマートフォン「Xperia 10 V」にオリジナルカラーのミストグレーを採用したもので、「Google One」の「ベーシック100GBプラン」が1年間無料で利用できる特典などが付与されるという。
それだけに、端末性能としてはXpria 10 Vと変わらないのだが、携帯電話会社が既存モデルを活用して若い世代に向けた限定モデルを出す、というのはこれまであまり見られなかった動きだ。若い世代を狙ったXperiaといえば「Xperia 5 V」が挙げられるのだが、この時期はとりわけ低価格が求められることもあり、ハイエンドのXperia 5 VではなくミドルクラスのXperia 10 Vが選ばれたといえそうだ。
ただXperia 10 V Fun Editonに、ターゲットとなる若い学生がどれだけ関心を示すか難しい部分もある。ミドルクラスで端末性能があまり高くないこともあるのだが、より大きな要因として挙げられるのが、「iPhoneではない」ことだ。
本連載でも何度か触れているが、若い世代はとりわけ女性を中心として、iPhoneの支持が非常に強い傾向にある。そうした人達はiPhone、ひいてはアップルのエコシステムに囚われているため、Androidスマートフォンに全く関心を示さない傾向にもあり、加えて同調圧力も非常に強いことから、仲間外れになるのを避けるためにiPhoneを選ぶケースが少なくないという話も耳にする程だ。
iPhoneがユーザーを囲い込む要素はいくつかあるのだが、とりわけここ数年来耳にするのが「エアドロ」、つまりは「AirDrop」の存在である。AirDropはWi-FiやBluetoothといったiPhoneの無線通信機能を活用し、近くにいるユーザー同士でファイルを送り合える機能。とりわけ、動画の視聴などでモバイルデータ通信を多く利用する若い世代は、通信量を消費する必要なく友達とファイル交換できるAirDropの利用頻度が高く、それがiPhone支持を高める要因の1つとなっているようだ。
もちろん、同種のファイル共有機能はAndroidにも存在しており、「ニアバイシェア」がそれに当たる。だが、ニアバイシェアの提供は2020年と比較的最近のことで、10年以上前から提供されているAirDropと比べると認知や利用に大きな差がある。
そして何より、AirDropと互換性がなく、Androidユーザー同士でしかファイル共有ができないことから、日本では多数派のiPhoneユーザーとのファイル交換に活用できない。どれだけニアバイシェアの利用が進んでも、Androidユーザーが仲間外れになってしまう状況は変わらないわけだ。
ただ、Androidを提供するGoogleも、そうした状況に危機感を覚えたのか、米国時間の1月9日に新たな動きを起こしている。それはニアバイシェアを、サムスン電子の「クイック共有」に統合するというものだ。
クイック共有は、サムスン電子の「Galaxy」シリーズ独自のファイル共有機能。無線で近くのユーザーとファイルを送り合えるだけでなく、遠くに離れたユーザーに対しても、同社のクラウドを活用してファイルを送る仕組みなど、付加機能が追加され高度化がなされているのが大きな特徴だ。
そしてサムスン電子は、2023年に一部調査でスマートフォン出荷台数トップの座をアップルに明け渡したとはいえ、10年以上にわたってトップの座を維持しており、世界的に見れば同社製スマートフォンの利用者は非常に多い。そこで、利用者の多いクイック共有にファイル共有機能を統合し、認知と利用を拡大したいというのがGoogleの狙いといえるだろう。
ただ、サムスン電子のシェアが大きい海外ではともかく、アップルのシェアが圧倒的な日本においては、クイック共有への統合が進められたとしてもAirDropの優位性は全く変わらない。「エアドロが使えないからiPhone以外選ばない」という人達の意識を変えるには、より踏み込んだ施策、具体的に言えばAirDropとクイック共有の仕様共通化が必要だろう。
もちろん、AirDropの優位性が働き顧客を強固に囲い込みアップルが、自社にとって何のメリットもない仕様の共通化にすんなり合意するとは考えにくい。ただ周辺状況を見るに、Googleの対応次第で共通化を実現できる可能性がないとも言い切れない印象もある。
それを示しているのが、RCS(Rich Communication Services)を巡る動向だ。RCSはSMSの強化版というべきもので、携帯電話番号を通じて長文やファイルを送り合えるなど、SMSより高度なコミュニケーションを実現できる技術だ。日本は携帯3社が提供する「+メッセージ」や、楽天モバイルの「Rakuten Link」に採用されいていることで知られている。
そしてGoogleも、Androidの「メッセージ」アプリでRCSをサポートしているのだが、アップルの「iMessage」はRCSをサポートしていない。それゆえ、双方のメッセージアプリでやり取りする際はSMS等を用いることとなり、プラットフォームを跨いだリッチなコミュニケーションができないという課題を抱えていた。
そこでGoogleは、Webサイトなどでキャンペーンを展開するなどして、アップルにRCSの採用を迫っていたのだが、2023年11月にアップルが今後RCSをサポートする方針を打ち出したと伝えられている。その背景には、欧州連合(EU)のデジタル市場法(DMA)が影響したとされており、メッセージアプリの相互運用を求めるDMAの対象に、iMessageを指定するかどうか調査し始めたことで、DMAの指定を避けるためアップルがRCSの採用に動いたと見る向きが多いようだ。
そうしたことからファイル共有機能に関しても、GoogleがAirDropとクイック共有との相互運用を求め、EUなどの国家が相互運用への関心を高めるようになれば、仕様の共通化が進む可能性はあり得るかもしれない。それだけに今後、ファイル共有を巡ってGoogleがより踏み込んだ一手を打つのかどうかが注目される。
■新入学シーズンに向けたスマートフォン関連の施策
少子高齢化が進む日本において、初めてスマートフォンを手にする学生は数少ない純粋な新規契約者でもある。それだけに携帯各社は、新入学シーズンに向け学生を獲得するためのさまざまな施策を打つことから、販売の現場が大いに盛り上がるわけだ。
すでに携帯各社は、学生の獲得に向けた学割キャンペーンを打ち出しているが、より注目されるのはスマートフォン端末に関する動向だ。従来であればこの時期は、スマートフォンの大幅値引きが過熱するのだが、2023年末に政府が「1円スマホ」を規制するなど、新たな値引き規制を打ち出したばかりということもあって、2024年は従来ほど値引き施策に力を入れることはできないだろう。
それだけにスマートフォン関連の施策では、従来にない動きも出てきている。それを示しているのが、NTTドコモが先日1月19日に発表した「Xperia 10 V Fun Edition」である。これは、2023年発売のソニー製スマートフォン「Xperia 10 V」にオリジナルカラーのミストグレーを採用したもので、「Google One」の「ベーシック100GBプラン」が1年間無料で利用できる特典などが付与されるという。
それだけに、端末性能としてはXpria 10 Vと変わらないのだが、携帯電話会社が既存モデルを活用して若い世代に向けた限定モデルを出す、というのはこれまであまり見られなかった動きだ。若い世代を狙ったXperiaといえば「Xperia 5 V」が挙げられるのだが、この時期はとりわけ低価格が求められることもあり、ハイエンドのXperia 5 VではなくミドルクラスのXperia 10 Vが選ばれたといえそうだ。
ただXperia 10 V Fun Editonに、ターゲットとなる若い学生がどれだけ関心を示すか難しい部分もある。ミドルクラスで端末性能があまり高くないこともあるのだが、より大きな要因として挙げられるのが、「iPhoneではない」ことだ。
本連載でも何度か触れているが、若い世代はとりわけ女性を中心として、iPhoneの支持が非常に強い傾向にある。そうした人達はiPhone、ひいてはアップルのエコシステムに囚われているため、Androidスマートフォンに全く関心を示さない傾向にもあり、加えて同調圧力も非常に強いことから、仲間外れになるのを避けるためにiPhoneを選ぶケースが少なくないという話も耳にする程だ。
■「AirDrop」対抗策を打ち出したGoogle
iPhoneがユーザーを囲い込む要素はいくつかあるのだが、とりわけここ数年来耳にするのが「エアドロ」、つまりは「AirDrop」の存在である。AirDropはWi-FiやBluetoothといったiPhoneの無線通信機能を活用し、近くにいるユーザー同士でファイルを送り合える機能。とりわけ、動画の視聴などでモバイルデータ通信を多く利用する若い世代は、通信量を消費する必要なく友達とファイル交換できるAirDropの利用頻度が高く、それがiPhone支持を高める要因の1つとなっているようだ。
もちろん、同種のファイル共有機能はAndroidにも存在しており、「ニアバイシェア」がそれに当たる。だが、ニアバイシェアの提供は2020年と比較的最近のことで、10年以上前から提供されているAirDropと比べると認知や利用に大きな差がある。
そして何より、AirDropと互換性がなく、Androidユーザー同士でしかファイル共有ができないことから、日本では多数派のiPhoneユーザーとのファイル交換に活用できない。どれだけニアバイシェアの利用が進んでも、Androidユーザーが仲間外れになってしまう状況は変わらないわけだ。
ただ、Androidを提供するGoogleも、そうした状況に危機感を覚えたのか、米国時間の1月9日に新たな動きを起こしている。それはニアバイシェアを、サムスン電子の「クイック共有」に統合するというものだ。
クイック共有は、サムスン電子の「Galaxy」シリーズ独自のファイル共有機能。無線で近くのユーザーとファイルを送り合えるだけでなく、遠くに離れたユーザーに対しても、同社のクラウドを活用してファイルを送る仕組みなど、付加機能が追加され高度化がなされているのが大きな特徴だ。
そしてサムスン電子は、2023年に一部調査でスマートフォン出荷台数トップの座をアップルに明け渡したとはいえ、10年以上にわたってトップの座を維持しており、世界的に見れば同社製スマートフォンの利用者は非常に多い。そこで、利用者の多いクイック共有にファイル共有機能を統合し、認知と利用を拡大したいというのがGoogleの狙いといえるだろう。
ただ、サムスン電子のシェアが大きい海外ではともかく、アップルのシェアが圧倒的な日本においては、クイック共有への統合が進められたとしてもAirDropの優位性は全く変わらない。「エアドロが使えないからiPhone以外選ばない」という人達の意識を変えるには、より踏み込んだ施策、具体的に言えばAirDropとクイック共有の仕様共通化が必要だろう。
もちろん、AirDropの優位性が働き顧客を強固に囲い込みアップルが、自社にとって何のメリットもない仕様の共通化にすんなり合意するとは考えにくい。ただ周辺状況を見るに、Googleの対応次第で共通化を実現できる可能性がないとも言い切れない印象もある。
それを示しているのが、RCS(Rich Communication Services)を巡る動向だ。RCSはSMSの強化版というべきもので、携帯電話番号を通じて長文やファイルを送り合えるなど、SMSより高度なコミュニケーションを実現できる技術だ。日本は携帯3社が提供する「+メッセージ」や、楽天モバイルの「Rakuten Link」に採用されいていることで知られている。
そしてGoogleも、Androidの「メッセージ」アプリでRCSをサポートしているのだが、アップルの「iMessage」はRCSをサポートしていない。それゆえ、双方のメッセージアプリでやり取りする際はSMS等を用いることとなり、プラットフォームを跨いだリッチなコミュニケーションができないという課題を抱えていた。
そこでGoogleは、Webサイトなどでキャンペーンを展開するなどして、アップルにRCSの採用を迫っていたのだが、2023年11月にアップルが今後RCSをサポートする方針を打ち出したと伝えられている。その背景には、欧州連合(EU)のデジタル市場法(DMA)が影響したとされており、メッセージアプリの相互運用を求めるDMAの対象に、iMessageを指定するかどうか調査し始めたことで、DMAの指定を避けるためアップルがRCSの採用に動いたと見る向きが多いようだ。
そうしたことからファイル共有機能に関しても、GoogleがAirDropとクイック共有との相互運用を求め、EUなどの国家が相互運用への関心を高めるようになれば、仕様の共通化が進む可能性はあり得るかもしれない。それだけに今後、ファイル共有を巡ってGoogleがより踏み込んだ一手を打つのかどうかが注目される。