公開日 2022/08/13 06:35
手頃な価格でありながら、トレンドを押さえた機能性とスペックの高さを兼ね備えたプロダクトを数多く手がけてきたイギリス・iFi audio。そのラインナップの中でも近年大きな話題となったヒット作が「ZEN DAC」であろう。コロナ禍のなか、 “おうち時間” を有意義に過ごせるリーズナブルかつ本格的なデスクトップUSB-DACとして、発売から3年近く経つ現在でも人気に陰りは見えない。その間に「ZENシリーズ」も拡充されていったが、ZEN DACにおいてもいくつかのバリエーションが誕生している。
まず2021年には機能性や使用パーツの見直しによって音質の高さを目指した上位モデル「ZEN DAC Signature」、「ZEN DAC Signature V2」が登場。デスクトップサイズながら機能性を絞った据え置き型らしいセパレート思想を実現し、ミニマムな環境でもリッチなサウンドを目指す “こだわり派” に刺さるプロダクトとなっていた。
さらに本年になり、より手頃な新エントリーとして「ZEN Airシリーズ」が誕生し、その核となるモデルとして「ZEN Air DAC」が7月に発表されたのである。筐体構造をより軽量化するとともに、バランス回路を省くなど、基本的なDACとしての機能性に絞り込んで低価格化を実現させているが、音質を犠牲にしていないことが注目点だ。
今回、このZEN DACシリーズに焦点を当て、新製品であるZEN Air DACをはじめ、原点であるZEN DAC、そして最上位のZEN DAC Signature V2の3機種について、聴き比べを実施。3機種共通の要素であるRCAライン出力からの音質を中心にチェックするとともに、6.3mmシングルエンド接続のヘッドホン出力を持つZEN Air DAC、ZEN DACについてはヘッドホンを用いての音質も確認した。
まず基本となるZEN DACの構成について、おさらいしておこう。ZEN DACは手のひら大のアルミ筐体に収められたコンパクト設計のプロダクトであり、ACアダプターを用いた外部電源も使用できるが、USBバスパワーで駆動できる手軽さが最大の魅力となっている。そして心臓部ともいえるDA変換を担うDACチップは、多くのiFi audio製品で用いられてきたTI製「バーブラウンDSD1793」を搭載し、リーズナブルでありながら妥協のない設計を行っている点も特徴の一つだ。
さらにiFi audioといえば、価格の水準を超えたスペックの高さを持っていることに強みがあり、ZEN DACについてもディスクリート構成のフルバランス回路を取り入れた、まさにデスクトップ上での本格的な据え置き型モデルという提案性を実現。USB入力においても最高384kHz/32bit・PCM&11.2MHz・DSDに対応するとともに、MQAのフルデコード(2021年4月以降の出荷分より)も可能であり、現在流通している大多数のハイレゾ音源を網羅できる仕様を誇る。
では、今回新登場したZEN Air DACはどんな特徴を持つのだろうか。まず筐体は剛性の高さと衝撃吸収性を備えた2種類の熱可塑性ポリマーを合成した素材を採用。軽量なだけでなく、質感の良さや音質にも留意した樹脂素材となっている。DACチップはDSD1793を踏襲し、USB入力も384kHz/32bit・PCM&11.2MHz・DSDまで対応する点も変わりない。MQAについてはレンダラー対応であり、前述の通りバランス回路は省かれている。
しかし左右対称レイアウトやアンプ部にディスクリート構成を用いていることなど、iFi audioならではの音質へのこだわりの核となる部分はそのまま継承。フェムト秒精度のクロックを用いた低ジッターなデジタル部や、超低ノイズ・超低歪みを実現した独自のカスタムオぺアンプ「OV2637」を用いたバッファー部など、高音質化への取り組みにも妥協がない。
早速、ZEN Air DACのRCAライン出力からの音を確認してみよう。ソース入力はハイレゾDAPのAstell&Kern「SP1000M」を用いOTGケーブルを介して接続。外部電源を用いないバスパワー駆動で試聴を行った。【編集部注:なお、Astell&KernのDAPはバスパワー駆動は動作保証外となります。取材時においては音声は問題なく出力されております】
その音質は適度に肩の力を抜いたような、スムーズで伸びやかな傾向であり、低域の制動力も十分で音場をクリアに描写。音像と空間性のバランスが絶妙であり、iFi audioのサウンド自体が洗練されてきていると実感した次第だ。オーケストラは管弦楽器のハリが鮮やかで、ローエンドはコシのある弾力を持ったダンピング良い響きをみせる。緻密なハーモニーの重なりや、ふくよかな余韻の表現など、ハイレゾ音源の持つ解像感を的確に引き出し、音場感豊かに聴かせてくれた。
ロック音源のリズム隊は密度良く太い描写であり、エレキギターのリフも厚みがある。スカッとヌケの良いスネアドラムやブライトに輝くシンバルの響き、シャープに定位するボーカルの明瞭さがキレ良くスピード感あるサウンドに繋がっているようだ。DSDのジャズ音源ではホーンセクションの鮮明な浮き立ちと、まろやかに音場へ溶け込む余韻の対比が耳当たり良い。ピアノの響きは朗らかで分離良く、シンバルワークも丁寧に描く。11.2MHz音源の女性ボーカルは肉付き良くナチュラルで、口元の輪郭をくっきりと表現。リヴァーブの収束は早く、音離れ良い描写だ。
ここで外部電源として iFi Audio独自のノイズキャンセリング技術ANC IIを搭載したオーディオグレードのACアダプター「iPower II」を繋いでみる。するとS/Nが圧倒的に改善され、オーケストラの余韻の爽やかさや音場の静寂感、抑揚感もより明確になった。ロック音源のドラムセットはキックドラムのアタック感もより鮮明に捉えており、エアー感まで掴めるほど見通しが良くなっている。音像の分離も向上し、リアルなサウンドへ進化。11.2MHz音源では一層落ち着きが増し、ボーカルの艶や潤い感もより良く描かれている。息継ぎの生々しさも的確に捉え、ディテールの粗っぽさのない上質なサウンドとなった。予想以上にその変化の度合いが高く驚いたが、ハイレートなハイレゾ音源の持つ情報量の多さ、空間性を正確に引き出してくれる、より上位の価格帯製品に比肩するサウンドクオリティであると感じた。
続いては人気の原点でもあるZEN DACである。まずバスパワー駆動でのサウンドであるが、ZEN Air DACと比べると音像描写性に重きを置いている印象で、ボーカルや楽器が前方へとせり出す。オーケストラの旋律も力強く浮き立ち、ローエンドも太く逞しい。ロック音源のリズム隊は密度も高くどっしりと構えるが、適度に引き締めもあり、アタックも明瞭に表現。質感描写はややドライな傾向で、ボーカルはシャープなタッチで描く。色付けを抑えたニュートラルなバランスであり、広がりの良い基本に忠実なサウンドだ。
こちらも外部電源としてiPower IIを繋いでみたが、音像の切れ味が増し、分離良くメリハリ良いサウンドとなる。余韻の滲みもなくスマートな描写であり、オーケストラの細部の見通しも良く丁寧で落ち着きのあるハーモニーが展開。解像度の高さも十分に感じ取れた。
音場感やしなやかな音運びという点においては、最新モデルであるZEN Air DACが世代的にも優位な感触である。また音の変化率についてもZEN Air DACとiPower IIの組み合わせにおける衝撃はすさまじいものであったが、ZEN DACの本領はバランス接続にあり、その正確な空間表現力や音像のリアリティについては価格以上のクオリティを持つ。またリッチな音像描写性、輪郭の明瞭なサウンドという点においてはRCA接続でもZEN DACに分があるので、優劣ではなく個性の違いとして捉えることができる範疇といえよう。
そして3モデル目は最上位のZEN DAC Signature V2である。ZEN DACからヘッドホンアンプ回路を省き、ディスクリート構成のフルバランス回路によるライン出力に特化させたつくりであり、Version 2となってiPower IIも同梱されることになった。基板に載せられたパーツもパナソニック製OS-CONやエルナー製Silmic IIコンデンサーなど、よりグレードの高い高音質部品に置き換えるとともに、信号経路も短くして、より洗練された回路構成へと改められている。USB入力は384kHz/32bit・PCM&11.2MHz・DSD対応でMQAはフルデコードを行う。
こちらのRCA接続試聴もまずはバスパワー駆動で確認してみる。非常に丁寧で余裕のあるサウンドであり、解像度の高さや音像の分離度、S/Nの良さも申し分ない。ロック音源のリズム隊は密度も高く低重心でひきしまっている。オーケストラのハーモニーは伸びやかで管弦楽器の旋律はキレ良く爽やか。ローエンドまでスムーズに伸びる安定的な描写が落ち着きを生む。
DSD音源は楽器の質感をリアルの捉え、空間の広がりも自然で穏やかな余韻を感じる。11.2MHz音源でも抑揚良く潤いのある流麗なサウンドで、緻密で分離良い音を楽しめた。ボーカルは音離れ良く滑らかなタッチで描かれ、口元の輪郭はクールかつウェットに表現。丁寧なリヴァーブの階調性が清々しく、音場のクリアさも印象に残る。
さらに同梱品であるiPower IIを繋ぐとさらに静けさが増し、S/N良く重心の低いサウンドに進化。落ち着き感も一際高く、楽器やボーカルのディテールもよりナチュラルで瑞々しい描写となる。スタジオの残響感やキックドラムの余韻など、エアー感の再現度も高まり、ハイレゾ音源の持つリアルな空間性と、一音一音丁寧に紡ぎ出す誇張のない自然な音像の佇まいを味わうことができた。
本機も4.4mmバランス・ライン出力が用意されているので、ポテンシャルとしては今以上の音を期待できるとすると、5万円以下でこの生々しいサウンドを得られるという事実は驚異という外ない。
【特別企画】ACアダプター「iPower II」でさらにリアルなサウンドへ進化
驚異的ハイCPを誇る入門機、iFi「ZENシリーズ」。“ZEN DAC3兄弟”に通底するサウンド思想を徹底レビュー
岩井 喬「ZEN Airシリーズ」発売記念!ZEN DACの兄弟ラインナップ3モデルを一気試聴
手頃な価格でありながら、トレンドを押さえた機能性とスペックの高さを兼ね備えたプロダクトを数多く手がけてきたイギリス・iFi audio。そのラインナップの中でも近年大きな話題となったヒット作が「ZEN DAC」であろう。コロナ禍のなか、 “おうち時間” を有意義に過ごせるリーズナブルかつ本格的なデスクトップUSB-DACとして、発売から3年近く経つ現在でも人気に陰りは見えない。その間に「ZENシリーズ」も拡充されていったが、ZEN DACにおいてもいくつかのバリエーションが誕生している。
まず2021年には機能性や使用パーツの見直しによって音質の高さを目指した上位モデル「ZEN DAC Signature」、「ZEN DAC Signature V2」が登場。デスクトップサイズながら機能性を絞った据え置き型らしいセパレート思想を実現し、ミニマムな環境でもリッチなサウンドを目指す “こだわり派” に刺さるプロダクトとなっていた。
さらに本年になり、より手頃な新エントリーとして「ZEN Airシリーズ」が誕生し、その核となるモデルとして「ZEN Air DAC」が7月に発表されたのである。筐体構造をより軽量化するとともに、バランス回路を省くなど、基本的なDACとしての機能性に絞り込んで低価格化を実現させているが、音質を犠牲にしていないことが注目点だ。
今回、このZEN DACシリーズに焦点を当て、新製品であるZEN Air DACをはじめ、原点であるZEN DAC、そして最上位のZEN DAC Signature V2の3機種について、聴き比べを実施。3機種共通の要素であるRCAライン出力からの音質を中心にチェックするとともに、6.3mmシングルエンド接続のヘッドホン出力を持つZEN Air DAC、ZEN DACについてはヘッドホンを用いての音質も確認した。
ZEN DACとZEN Air DACの仕様を確認。主要パーツは踏襲しながらコストダウンを実現
まず基本となるZEN DACの構成について、おさらいしておこう。ZEN DACは手のひら大のアルミ筐体に収められたコンパクト設計のプロダクトであり、ACアダプターを用いた外部電源も使用できるが、USBバスパワーで駆動できる手軽さが最大の魅力となっている。そして心臓部ともいえるDA変換を担うDACチップは、多くのiFi audio製品で用いられてきたTI製「バーブラウンDSD1793」を搭載し、リーズナブルでありながら妥協のない設計を行っている点も特徴の一つだ。
さらにiFi audioといえば、価格の水準を超えたスペックの高さを持っていることに強みがあり、ZEN DACについてもディスクリート構成のフルバランス回路を取り入れた、まさにデスクトップ上での本格的な据え置き型モデルという提案性を実現。USB入力においても最高384kHz/32bit・PCM&11.2MHz・DSDに対応するとともに、MQAのフルデコード(2021年4月以降の出荷分より)も可能であり、現在流通している大多数のハイレゾ音源を網羅できる仕様を誇る。
では、今回新登場したZEN Air DACはどんな特徴を持つのだろうか。まず筐体は剛性の高さと衝撃吸収性を備えた2種類の熱可塑性ポリマーを合成した素材を採用。軽量なだけでなく、質感の良さや音質にも留意した樹脂素材となっている。DACチップはDSD1793を踏襲し、USB入力も384kHz/32bit・PCM&11.2MHz・DSDまで対応する点も変わりない。MQAについてはレンダラー対応であり、前述の通りバランス回路は省かれている。
しかし左右対称レイアウトやアンプ部にディスクリート構成を用いていることなど、iFi audioならではの音質へのこだわりの核となる部分はそのまま継承。フェムト秒精度のクロックを用いた低ジッターなデジタル部や、超低ノイズ・超低歪みを実現した独自のカスタムオぺアンプ「OV2637」を用いたバッファー部など、高音質化への取り組みにも妥協がない。
ZEN Air DACは洗練されスムーズで伸びやかな音質が魅力。外部電源も効果◎
早速、ZEN Air DACのRCAライン出力からの音を確認してみよう。ソース入力はハイレゾDAPのAstell&Kern「SP1000M」を用いOTGケーブルを介して接続。外部電源を用いないバスパワー駆動で試聴を行った。【編集部注:なお、Astell&KernのDAPはバスパワー駆動は動作保証外となります。取材時においては音声は問題なく出力されております】
その音質は適度に肩の力を抜いたような、スムーズで伸びやかな傾向であり、低域の制動力も十分で音場をクリアに描写。音像と空間性のバランスが絶妙であり、iFi audioのサウンド自体が洗練されてきていると実感した次第だ。オーケストラは管弦楽器のハリが鮮やかで、ローエンドはコシのある弾力を持ったダンピング良い響きをみせる。緻密なハーモニーの重なりや、ふくよかな余韻の表現など、ハイレゾ音源の持つ解像感を的確に引き出し、音場感豊かに聴かせてくれた。
ロック音源のリズム隊は密度良く太い描写であり、エレキギターのリフも厚みがある。スカッとヌケの良いスネアドラムやブライトに輝くシンバルの響き、シャープに定位するボーカルの明瞭さがキレ良くスピード感あるサウンドに繋がっているようだ。DSDのジャズ音源ではホーンセクションの鮮明な浮き立ちと、まろやかに音場へ溶け込む余韻の対比が耳当たり良い。ピアノの響きは朗らかで分離良く、シンバルワークも丁寧に描く。11.2MHz音源の女性ボーカルは肉付き良くナチュラルで、口元の輪郭をくっきりと表現。リヴァーブの収束は早く、音離れ良い描写だ。
ここで外部電源として iFi Audio独自のノイズキャンセリング技術ANC IIを搭載したオーディオグレードのACアダプター「iPower II」を繋いでみる。するとS/Nが圧倒的に改善され、オーケストラの余韻の爽やかさや音場の静寂感、抑揚感もより明確になった。ロック音源のドラムセットはキックドラムのアタック感もより鮮明に捉えており、エアー感まで掴めるほど見通しが良くなっている。音像の分離も向上し、リアルなサウンドへ進化。11.2MHz音源では一層落ち着きが増し、ボーカルの艶や潤い感もより良く描かれている。息継ぎの生々しさも的確に捉え、ディテールの粗っぽさのない上質なサウンドとなった。予想以上にその変化の度合いが高く驚いたが、ハイレートなハイレゾ音源の持つ情報量の多さ、空間性を正確に引き出してくれる、より上位の価格帯製品に比肩するサウンドクオリティであると感じた。
続いては人気の原点でもあるZEN DACである。まずバスパワー駆動でのサウンドであるが、ZEN Air DACと比べると音像描写性に重きを置いている印象で、ボーカルや楽器が前方へとせり出す。オーケストラの旋律も力強く浮き立ち、ローエンドも太く逞しい。ロック音源のリズム隊は密度も高くどっしりと構えるが、適度に引き締めもあり、アタックも明瞭に表現。質感描写はややドライな傾向で、ボーカルはシャープなタッチで描く。色付けを抑えたニュートラルなバランスであり、広がりの良い基本に忠実なサウンドだ。
こちらも外部電源としてiPower IIを繋いでみたが、音像の切れ味が増し、分離良くメリハリ良いサウンドとなる。余韻の滲みもなくスマートな描写であり、オーケストラの細部の見通しも良く丁寧で落ち着きのあるハーモニーが展開。解像度の高さも十分に感じ取れた。
音場感やしなやかな音運びという点においては、最新モデルであるZEN Air DACが世代的にも優位な感触である。また音の変化率についてもZEN Air DACとiPower IIの組み合わせにおける衝撃はすさまじいものであったが、ZEN DACの本領はバランス接続にあり、その正確な空間表現力や音像のリアリティについては価格以上のクオリティを持つ。またリッチな音像描写性、輪郭の明瞭なサウンドという点においてはRCA接続でもZEN DACに分があるので、優劣ではなく個性の違いとして捉えることができる範疇といえよう。
パーツを強化したZEN DAC Signature V2。安定的な描写が落ち着きを生む
そして3モデル目は最上位のZEN DAC Signature V2である。ZEN DACからヘッドホンアンプ回路を省き、ディスクリート構成のフルバランス回路によるライン出力に特化させたつくりであり、Version 2となってiPower IIも同梱されることになった。基板に載せられたパーツもパナソニック製OS-CONやエルナー製Silmic IIコンデンサーなど、よりグレードの高い高音質部品に置き換えるとともに、信号経路も短くして、より洗練された回路構成へと改められている。USB入力は384kHz/32bit・PCM&11.2MHz・DSD対応でMQAはフルデコードを行う。
こちらのRCA接続試聴もまずはバスパワー駆動で確認してみる。非常に丁寧で余裕のあるサウンドであり、解像度の高さや音像の分離度、S/Nの良さも申し分ない。ロック音源のリズム隊は密度も高く低重心でひきしまっている。オーケストラのハーモニーは伸びやかで管弦楽器の旋律はキレ良く爽やか。ローエンドまでスムーズに伸びる安定的な描写が落ち着きを生む。
DSD音源は楽器の質感をリアルの捉え、空間の広がりも自然で穏やかな余韻を感じる。11.2MHz音源でも抑揚良く潤いのある流麗なサウンドで、緻密で分離良い音を楽しめた。ボーカルは音離れ良く滑らかなタッチで描かれ、口元の輪郭はクールかつウェットに表現。丁寧なリヴァーブの階調性が清々しく、音場のクリアさも印象に残る。
さらに同梱品であるiPower IIを繋ぐとさらに静けさが増し、S/N良く重心の低いサウンドに進化。落ち着き感も一際高く、楽器やボーカルのディテールもよりナチュラルで瑞々しい描写となる。スタジオの残響感やキックドラムの余韻など、エアー感の再現度も高まり、ハイレゾ音源の持つリアルな空間性と、一音一音丁寧に紡ぎ出す誇張のない自然な音像の佇まいを味わうことができた。
本機も4.4mmバランス・ライン出力が用意されているので、ポテンシャルとしては今以上の音を期待できるとすると、5万円以下でこの生々しいサウンドを得られるという事実は驚異という外ない。