公開日 2024/12/04 06:35
【オーディオ銘機賞2025】ハイエンド大賞受賞モデル
ドイツの老舗真空管アンプブランド、オクターブの新境地。真に音楽性豊かな再現をもたらす「MRE220SE」
井上千岳
OCTAVE(オクターブ)のモノラル・パワーアンプ「MRE」シリーズのトップモデル「MRE220」が“SE”へと進化した。先進的な五極管回路はそのままに、高解像度・高忠実度を特徴とする現代のスピーカーのアンプに対する高い要求に応えることを目指し、ダンピングファクターなど各種設定を実現可能とした。本年度の「オーディオ銘機賞2025」で「ハイエンド大賞」を受賞した実力を検証する。
オクターブは、伝統的な真空管技術と、革新的な半導体エレクトロニクス技術を融合した新しい管球式アンプの追求を理念に掲げてきたドイツのハイエンド・メーカーである。その音質は古典的な真空管サウンドに寄りかかることなく、真に音楽性豊かな再現力の実現を理想とする。特にパワーアンプでは高純度な音調とともにスピーカーに対する駆動力や安定性、多様な対応力にも重点が置かれてきた。
そのオクターブでJubileeシリーズを別格とすれば、実質上これまでパワーアンプの最上位モデルとなってきたのが「MRE220」である。今回はそのリニューアル・バージョンである「MRE220SE」について紹介したい。
MREシリーズの最初のモデルは、1994年に発売された「MRE120」である。さまざまなスピーカーに対応すべく、先進的な五極管回路がここで開発された。この回路はその後同社の全てのアンプに採用され、基幹的な技術となっている。
10年後の2004年に設計変更が行われ、後継機「MRE130」が発売になった。さらに9年後の2013年、本機の前身であるMRE220が誕生する。出力管にKT120を搭載し、出力トランスと電源回路を新規に設計。パワーハンドリングとレンジを拡大し、パワフルな駆動力を獲得した。
MRE220の基本構成は6SN7を入力段とし、ECC802を2本ドライバーに使用。出力段はKT120、もしくはKT88のカーボンプレート仕様のパラレル・プッシュプルで構成する(今回の試聴はKT120で行った)。
この回路構成自体に変更はないが、本機では非常にドラスティックなステップアップが行われている。キーワードは3つ。ダンピングファクター、出力、そしてバイアスという3つの切り替えである。
ダンピングファクター(DF)はスピーカーのインピーダンスとアンプの出力インピーダンスの比だが、ネガティブフィードバック(NFB)と強い関連があるとオクターブでは言う。NFBを大きくかけると内部インピーダンスが減少し、DFも上がるという仕組みである。
だから本機のDF切り替えは、NFBの切り替えとして操作する。ハイとローでの切り替えである。一般にはローで対応するが、スピーカーによってはハイの方が収まりのいいこともあるそうだ。実際に切り替えて試してみたが、この試聴に関してはローで十分。ハイだとNFBがかかりすぎる気がしたが、それがいい場合もあるということである(試聴で使用したスピーカーはモニターオーディオ「Platinum 300 3G」)。
画期的なのはどちらの場合もゲインにほぼ違いがないということで、非常に完成度の高い技術であることを物語っている。
次の出力切り替え。これはハイで200W/4Ω、ローで140W/4Ωとなっている。通常はハイでよさそうに思うが、切り替えてみるとローの方が当たりが柔らかく円やかな印象がある。そういう音にしたいとき、あるいはスピーカーに応じて選択すればいい。
最後のバイアス切り替えだが、これは出力管のグリッド・バイアスのことで、MRE220のときからすでに搭載されている。出力やスピーカーとのマッチングで決める。
以上3つの切り替えによって、理論上8通りの組み合わせが可能になる。実際にはどれかを選ぶと他も決まってしまうことがあるだろうからそれほど多様ではないかもしれないが、スピーカーとの関係を最適に保つことでアンプとしての可能性を広げることが可能だ。従来にない画期的な機能性である。
なお、出力管はKT120またはKT88-SA4-Carbonを標準搭載。ほかにオリジナルのバイアス調整機能により、KT150/100/90/88、6550、EL34なども差し替え可能である。
出だしからいきなり、いい音がするなぁ、と思ってしまう。バロックである。ヴァイオリンやチェロの瑞々しさ。張りがあって艶やかで、しかも繊細で軽い。録音からCDになって再生回路を通ってやっと出てきたという損失がまったく感じられず、細かなところまで音楽が生き生きと息づいている。
S/Nがいい。そして歪みがない。周囲がしんとして、音の隅々まで汚れや濁り皆無だ。それだけではない。ディテールのダイナミズム。微細な凹凸がくっきりして、どんな小さな音も彫りが深い。それが息遣いの生々しさを引き出しているのである。
古楽器の世界に浸った後でピアノを聴くと、魂が現代の世界に引き戻されたように現実感がある。一音一音のタッチが介在物なしにすぐそこにあるように聴こえるからで、それほどこの音には無理がない。それに表情の豊かなこと! 音を通して語りかけてくる演奏のさまざまな表現が、これ以上ないほどじかに心に伝わってくる。音楽の至福とも言うべき瞬間である。
コーラスはまた生の空間そのもので、女声3部のハーモニーが空間に満ち渡り、ひとりひとりの声が見えるかのように流れがくっきりしている。その存在感が、オーディオを聴いているとは思えないリアルな手触りを感じさせるのである。
室内オーケストラは位置感が非常によく分かる。奥行きが深く、その距離感が明確なのだ。小編成だけに、それぞれの楽器の存在が明瞭に浮かび上がってくる。そして質感が澄んで響きが美しい。
大編成のオーケストラはぞくぞくするようなリアリティに溢れている。調弦を普通と変えて狂ったような調子を聴かせるヴァイオリンや肉感的な木管楽器、くっきりしているが柔らかな暖かさを感じさせる打楽器、そして意外に渋く厚い弦楽器。それぞれが華やかに絡み合いながら、異様な雰囲気に包まれた音楽を美しく盛り上げる。
クライマックスのトゥッティや大太鼓も強靭だが、とにかくどの楽器も鮮やかで、しかも音楽がひとりでに鳴っているような自然さに富んでいる。スピーカーを力任せに押さえつけて音を引き出してくるのではなく、好きなようにさせて破綻がない。あらゆる制約が取り払われて、音だけが生きて動くのを目のあたりにする思いである。
(提供:フューレンコーディネート)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.194』からの転載です
■真に音楽性豊かな再現力の実現を理想とする真空管アンプブランド
オクターブは、伝統的な真空管技術と、革新的な半導体エレクトロニクス技術を融合した新しい管球式アンプの追求を理念に掲げてきたドイツのハイエンド・メーカーである。その音質は古典的な真空管サウンドに寄りかかることなく、真に音楽性豊かな再現力の実現を理想とする。特にパワーアンプでは高純度な音調とともにスピーカーに対する駆動力や安定性、多様な対応力にも重点が置かれてきた。
そのオクターブでJubileeシリーズを別格とすれば、実質上これまでパワーアンプの最上位モデルとなってきたのが「MRE220」である。今回はそのリニューアル・バージョンである「MRE220SE」について紹介したい。
MREシリーズの最初のモデルは、1994年に発売された「MRE120」である。さまざまなスピーカーに対応すべく、先進的な五極管回路がここで開発された。この回路はその後同社の全てのアンプに採用され、基幹的な技術となっている。
10年後の2004年に設計変更が行われ、後継機「MRE130」が発売になった。さらに9年後の2013年、本機の前身であるMRE220が誕生する。出力管にKT120を搭載し、出力トランスと電源回路を新規に設計。パワーハンドリングとレンジを拡大し、パワフルな駆動力を獲得した。
■ダンピングファクター、出力、バイアスの調整に対応
MRE220の基本構成は6SN7を入力段とし、ECC802を2本ドライバーに使用。出力段はKT120、もしくはKT88のカーボンプレート仕様のパラレル・プッシュプルで構成する(今回の試聴はKT120で行った)。
この回路構成自体に変更はないが、本機では非常にドラスティックなステップアップが行われている。キーワードは3つ。ダンピングファクター、出力、そしてバイアスという3つの切り替えである。
ダンピングファクター(DF)はスピーカーのインピーダンスとアンプの出力インピーダンスの比だが、ネガティブフィードバック(NFB)と強い関連があるとオクターブでは言う。NFBを大きくかけると内部インピーダンスが減少し、DFも上がるという仕組みである。
だから本機のDF切り替えは、NFBの切り替えとして操作する。ハイとローでの切り替えである。一般にはローで対応するが、スピーカーによってはハイの方が収まりのいいこともあるそうだ。実際に切り替えて試してみたが、この試聴に関してはローで十分。ハイだとNFBがかかりすぎる気がしたが、それがいい場合もあるということである(試聴で使用したスピーカーはモニターオーディオ「Platinum 300 3G」)。
画期的なのはどちらの場合もゲインにほぼ違いがないということで、非常に完成度の高い技術であることを物語っている。
次の出力切り替え。これはハイで200W/4Ω、ローで140W/4Ωとなっている。通常はハイでよさそうに思うが、切り替えてみるとローの方が当たりが柔らかく円やかな印象がある。そういう音にしたいとき、あるいはスピーカーに応じて選択すればいい。
最後のバイアス切り替えだが、これは出力管のグリッド・バイアスのことで、MRE220のときからすでに搭載されている。出力やスピーカーとのマッチングで決める。
以上3つの切り替えによって、理論上8通りの組み合わせが可能になる。実際にはどれかを選ぶと他も決まってしまうことがあるだろうからそれほど多様ではないかもしれないが、スピーカーとの関係を最適に保つことでアンプとしての可能性を広げることが可能だ。従来にない画期的な機能性である。
なお、出力管はKT120またはKT88-SA4-Carbonを標準搭載。ほかにオリジナルのバイアス調整機能により、KT150/100/90/88、6550、EL34なども差し替え可能である。
■演奏のさまざまな表現がじかに心に伝わってくる
出だしからいきなり、いい音がするなぁ、と思ってしまう。バロックである。ヴァイオリンやチェロの瑞々しさ。張りがあって艶やかで、しかも繊細で軽い。録音からCDになって再生回路を通ってやっと出てきたという損失がまったく感じられず、細かなところまで音楽が生き生きと息づいている。
S/Nがいい。そして歪みがない。周囲がしんとして、音の隅々まで汚れや濁り皆無だ。それだけではない。ディテールのダイナミズム。微細な凹凸がくっきりして、どんな小さな音も彫りが深い。それが息遣いの生々しさを引き出しているのである。
古楽器の世界に浸った後でピアノを聴くと、魂が現代の世界に引き戻されたように現実感がある。一音一音のタッチが介在物なしにすぐそこにあるように聴こえるからで、それほどこの音には無理がない。それに表情の豊かなこと! 音を通して語りかけてくる演奏のさまざまな表現が、これ以上ないほどじかに心に伝わってくる。音楽の至福とも言うべき瞬間である。
コーラスはまた生の空間そのもので、女声3部のハーモニーが空間に満ち渡り、ひとりひとりの声が見えるかのように流れがくっきりしている。その存在感が、オーディオを聴いているとは思えないリアルな手触りを感じさせるのである。
室内オーケストラは位置感が非常によく分かる。奥行きが深く、その距離感が明確なのだ。小編成だけに、それぞれの楽器の存在が明瞭に浮かび上がってくる。そして質感が澄んで響きが美しい。
大編成のオーケストラはぞくぞくするようなリアリティに溢れている。調弦を普通と変えて狂ったような調子を聴かせるヴァイオリンや肉感的な木管楽器、くっきりしているが柔らかな暖かさを感じさせる打楽器、そして意外に渋く厚い弦楽器。それぞれが華やかに絡み合いながら、異様な雰囲気に包まれた音楽を美しく盛り上げる。
クライマックスのトゥッティや大太鼓も強靭だが、とにかくどの楽器も鮮やかで、しかも音楽がひとりでに鳴っているような自然さに富んでいる。スピーカーを力任せに押さえつけて音を引き出してくるのではなく、好きなようにさせて破綻がない。あらゆる制約が取り払われて、音だけが生きて動くのを目のあたりにする思いである。
(提供:フューレンコーディネート)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.194』からの転載です