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公開日 2016/10/06 12:00
連続企画:日本コロムビアのハイレゾ音源レビュー

GIGA MUSIC独占先行配信!ジャッキー吉川とブルー・コメッツのハイレゾで、あの熱狂のステージを再び

大橋伸太郎

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音楽配信サイト「GIGA MUSIC」にて、名門・日本コロムビアが擁する選りすぐりの未ハイレゾ化音源が、続々とハイレゾで登場している。しかも独占先行配信。既に様々なアーティストの音源が配信中で、今後も多彩なラインナップが予定されている。

Phile-webではこのハイレゾ音源を連続レビューする企画を展開している。リリース当時のエピソードや、ハイレゾになったからこそ注目したい聴きどころをたっぷりとご紹介したい。



ドーナツ盤メモリー ジャッキー吉川とブルー・コメッツ
ジャッキー吉川とブルー・コメッツ

96k/24bit FLAC[ 購入ページはこちら


1960年代のGSを代表する5人組バンド

今回配信開始されるのがジャッキー吉川とブルー・コメッツ。GSを知っている世代なら「何だ、”ブルコメ”で十分だ!」というかもしれない(以後そう略記)。ブルコメというバンドは活動歴が非常に長い。1959年に米進駐軍キャンプの巡業用ジャズバンドとして誕生。メンバーチェンジを繰り返し、ジャズ→ウエスタン→ロカビリーと洋楽の変遷に合わせて変身を重ね、GSブームが到来するや演奏と作曲の能力に物をいわせ東の横綱格に。その変遷に伴い、グループ名も少しずつ変わっているというわけだ。

今回フェイス・ワンダワークスからハイレゾ配信されるのは、彼らが日本コロムビアに在籍し「ジャッキー吉川と…」のバンド名でヒットを連発したGS時代、いわば黄金時代の代表曲だ。

GS(グループサウンズ)とは奇妙な和製英語だ。ロックグループやポップスグループといえばいいのに、なぜ「集団音響」なのか。GSは従来の歌手プラス楽団という従来の流行歌のスタイルと異なっていた。しかし、GSはレコード会社と芸能プロ中心の旧来のシステムの枠組みの中にあった。楽曲の世界観という点でも「歌謡曲」だ。演歌の義理人情や恨み節こそないが、涙、失恋、祈り、旅情、エキゾチシズムと、歌詞のテーマはセンチメンタルで大半がマイナー調。洋楽であって歌謡曲、スタイルこそ欧米風で中身が日本的。GSのユニークというか、一種矛盾した立ち位置だ。

一口にGSといってもベンチャーズが先導したエレキブームに触発されたバニーズ、ザ・ビートルズやストーンズら英国勢に憧れ名乗りを上げたザ・タイガースやザ・テンプターズ、R&Bやハードロック(当時はアートロックといった)に魅了されたザ・モップス、ゴールデンカップスとさまざまだが、ブルコメは戦後間もないジャズブームから活動を続ける古参の名門バンドだ。「ビー・バップ・ア・ルーラ」でロックンロール時代の幕を開けたジーン・ヴィンセント来日時にはバックバンドに指名され、ロカビリー全盛期には鹿内タカシや尾藤イサオのバックバンドを務めた実力派。

ギターサウンド中心の他GSに対し、音が持続するサックスやフルートといった管楽器をフィーチャーしているのも旋律主導のロカビリーの名残だ。アマチュアに毛が生えたような凡百のGSと違い、プロのバンドマン集団。音楽の基本が身に付いているから、クラシックを含め何でも演奏できてしまう。

プロデビューした以上売れなくてはいけない。ティーンエイジャーにだけ受けるのでなく、幅広い層つまり歌謡曲ファンにアピールする曲を演奏し、歌えば大ヒットが生まれる。GSブームの真っ只中にポップスに目覚めた筆者の世代(当時小学生)からするとブルコメは「優等生っぽくてちょっとなあ」が偽らざる印象だった。

楽曲も演奏も外見も端正でコンサバ、スクエア(堅苦しい)でどこか野暮ったい。当時のGSはストーンズのフォロワーが多く、ルックスはスキニーでユニセックス(中性的)、ヨーロピアンなひらひら衣装でもちろん長髪。オックスやザ・カーナビーツの熱唱に、女性ファンが興奮の余りしばしば失神し新聞ネタになったことも。

だがブルコメは違った。ステージもさぞかし行儀よかったろう。しかし「ブルー・シャトウ」が150万枚を売り上げ、レコード大賞を受賞した唯一のGSがブルコメだ。歌謡曲とロックンロールの折衷というかフュージョンを成し遂げた和魂洋才のブルコメこそ、冒頭に紹介したグループサウンズの何たるかを表現していた。だから異例の長寿バンドとなりブームが去った後も正調歌謡曲に転じヒットを生み続ける。井上忠夫(大輔。脱退後に作詞家湯川れい子とチームで数々のヒット曲を手掛けた。故人)というプロ作曲家を擁していたのもブルコメの強みだった。

GSブームは1960年代終わりに終息し、’70年代に入ると空前のフォークブーム(遠藤賢司、加川 良、吉田拓郎、泉谷しげる、井上陽水、赤い鳥、六文銭 他)が到来。歌謡曲はというと反動で演歌人気が台頭、藤 圭子(宇多田ヒカルの母)、石川さゆり、五木ひろし、前川 清らが人気歌手の筆頭に。それではGSが一過性の流行で何も残さなかったかというとそれは違う。自作自演に加え、リズム、アンサンブル、ハーモニー、コーラスという「日本人の苦手」を歌謡曲にもたらし現在のJ-POPの基礎を築いたのがGSといっていい。

GSが日本を席巻した1960年代半ばはアナログ4トラック録音の時代だった。今回ダウンロード配信される日本コロムビアの看板時代のヒットの数々が96kHz/24bitでどう聞こえてくるか興味が持たれる。ブルコメの楽曲、たとえば最も代表的な「ブルー・シャトウ」を現代のオーディオシステムで聴くと、CDの44kHzでもこんな低音が入っていたのかと新鮮な驚きがある。本質はロックンロールバンドなのだ。

バンドサウンドを前面に出した曲の方が断然魅力があり、興味深いのは5人の演奏だけで編曲が完璧に仕上がっていることだ。曲によって外部編曲者がベーストラックに弦や管を重ねているので、曲によってはカジュアルウェアの上に無理に背広を着ているような違和感があるのだ。

今回特筆大書したいのが、ハイレゾの広大な音空間を与えられブルコメのバンドサウンドが生々しく甦ったことだ。GSファンならずとも全ての音楽ファンにとって大きな収穫だ。弦を被せた曲もその向こうに音楽の肉体つまり彼らの演奏がくっきり聞こえてくるのだ。この後、各曲解説で紹介するが、5人だけの演奏によるライブステージでの再現性を考え、音色のバラエティと充実をいかに研究し編曲していたか、今回のハイレゾファイル版登場で痛切に分かった。

「ブルー・シャトウ」など、ブルコメの代表曲を96kHz/24bitで聴く

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