世界でも類を見ないデジタル・テクノロジーの核に迫る
鬼才ロバート・ワッツ氏が語る、CHORD「Hugo」がレファレンスである理由
■アルゴリズムを開発し、徹底したリスニング評価により音を練り上げる
ワッツ氏のアルゴリズム開発の起点は音響心理学の検証に基づいている。人間が音を認識する際の脳内処理を事細かく分析することで、生の演奏に肉薄するリアリティをオーディオコンポーネントで再現することがワッツ氏の理想という。
「人間の視覚というものは、目で見た情報は10%しか使っておらず、残りの90%は脳内処理で認識しています。耳から入ってくる情報も同じで、10%ほどの音情報をベースに、残りは脳内処理で補っているということがこれまでの研究から分かっています。耳で聞いた音を基準に、脳内で立体的な位置情報を生成します。この処理は私たちが普段意識せず自然に行っていることですが、同じことをデジタル処理で実現するのは非常に難しいことです」(ワッツ氏)
理想のサウンドを追求してきた結果、ワッツ氏は可聴範囲外にあるノイズが、音楽を認識する際の脳内処理に悪影響を及ぼしているという仮設に辿り着いた。「オーディオグレードのものとして製品化されているシリコンチップも、多くは定められた技術仕様の基準を満たしているというだけで、音響心理学レベルでのノイズ対策については考察されていないものばかりです。私はFPGAによるカスタムアルゴリズムを、自身でヒアリングを繰り返しながら製作することで、可聴範囲外にあるノイズの課題にも取り組みたいと考えました」(ワッツ氏)
新しいアルゴリズムを組んではリスニングによるトライ&エラーを繰り返し、開発時間の多くを音質評価に費やしていることも独自の開発スタンスであると語るワッツ氏は、「私は感性でFPGAのアルゴリズムを評価、製作している唯一のエンジニアかもしれません」とはにかみながらも誇らしげに語った。
■原音の波形を忠実に再現するためのフィルタリング技術
DA変換の精度を高め、高品位なサウンドを再現するためには正確なオーディオ信号波形を再現することが大事であるとワッツ氏は語る。
「ホイタッカー=シャノンの補間公式によれば、原音の波形を完全に復元するためには無限のタップ数(処理精度)を持つFIRフィルターが必要であるといわれています。もっとも、そのようなフィルターを実際にはつくることはできないし、一般的なフィルターは数百タップの精度しか持ち合わせていません」(ワッツ氏)
タップ数の少なさゆえに、デジタルオーディオ信号の波形に階段状のエッジが多く残されていると、ジッターやノイズフロアを引き起こす要因となり、アナログ回路に送り込まれた後にノイズを増幅してしまう。そこで可能な限りタップ数を増やしながら波形のエッジを滑らかに処理し、原音の波形を忠実に再現するというアプローチが採られる。
一方で、ワッツ氏は独自にFPGAをベースに取り組んできたアルゴリズムにより、100万タップで16bitの精度が再現できるところにまで到達したという。
「アルゴリズムの精度を高めながら数百回のリスニングテストを繰り返して、遂に少ないタップ数でも音質を可能な限り、原音に近づける技術に辿り着きました。Hugoには26,368タップのフィルターと、カスタムデザインによる16コア×208MHzのDSPプロセッサーを搭載しています。これは一般的なハイエンドDACのおよそ100倍にあたる強力なスペックです。この独自のアルゴリズムにより、元音源のトランジェント(音の立ち上がり)のタイミングが精度を増し、力強い低域、正確なリズムと音場感の再現が可能になります。高精度なクロックが生成できることから、楽器ひとつひとつの音がより明確に聴こえるようになり、自然でありながらエモーショナルで、音楽的なサウンドを味わうことができます」(ワッツ氏)
CHORDの歴代DAコンバーターのタップ数と比較してみても、DAC64は約1,000、QuteHDは約10,000というから、Hugoではタップ数そのものを増やしながら、アルゴリズムの精度を高めるというアプローチが採られていることが分かる。
■FPGAでしか辿り着けなかった高精度なノイズシェイパー
ノイズを効率よく除去するためのノイズシェイパーについても、アルゴリズム設計とリスニングの繰り返しによるトライ&エラーを重ねながら、オーディオ的な品位を追求してきた姿勢もワッツ氏ならではだ。
デジタル入力信号にフィルターをかけてていねいにノイズ除去を行った後、2,048倍のオーバーサンプリングをかけてジッターを取り除く。その後、104MHz駆動の高周波クロックでリクロックした信号を、ディスクリート構成のパルスアレイDACに送り込む。FPGAのプロセスで徹底的にノイズを取り払って、ピュアなコンディションに磨き上げられた信号が生成されるため、アナログセクションの構成は抵抗とキャパシターが2基ずつという非常にシンプルな構成になっている。
「シンプルですが、とても複雑な処理を行っています。一般的なDACチップで同じことを試みるならば巨大なフィルターが必要になるでしょう。また、チップを使ってしまうと集積回路のノイズが乗ってしまいます。非常に洗練されたディスクリートのコンポーネントでなければ実現できません。またレファレンスの電源電流が一定になるようにコントロールされていなければ、信号にノイズが乗ってしまい、動作が不安定になります。まさにジョン(フランクス氏)の電源技術との出会いによって、CHORDのDAコンバーターは透明な音が再現できるようになりました」(ワッツ氏)。
デジタル入力が豊富に搭載されていることもHugoの特徴だ。USB端子はDSD128(5.6MHz)、および最大384kHz/32bitまでのPCM入力に対応する「HD USB」と、ポータブルリスニング用として最大48kHz/24bitのPCM信号まで対応する「SD USB」の2系統を備えた。「HD USB」はHugo内蔵のローカルクロックからPCへ同期信号を受け渡すアシンクロナス伝送に対応する。全てのクロック管理をFPGA上で行っているのも特徴だ。
一方で「SD USB」はシンクロナス再生となり、同期信号は全てPC側から送信されるが、面白いことにHD USBのアシンクロナス再生とクオリティを比較してみても、その違いがほとんど気づかない程であるとワッツ氏は語る。「なぜならHugo内部のFPGAで徹底的にジッター除去と高精度なリクロック処理を行っているので、例えば44.1kHzのソースを両方のUSBから再生してみても、違いはほとんど分からないと思います。ここにも洗練されたFPGAの実力が表れていると言えるのではないでしょうか」(ワッツ氏)
関連リンク
- ジャンルその他
- ブランドCHORD
- 型番HUGO
- 発売日2014年3月15日
- 価格¥OPEN(予想実売価格240,000円前後)
●入力端子:TOSLink、RCA同軸、USB×2 ●出力端子:6.3mmステレオヘッドホン×1、3.5mmステレオミニ×2、RCAアンバランス・ステレオ×1 ●THD:0.0005%(1kHz 3V出力時) ●ダイナミックレンジ:120dB ●外形寸法:132W×23H×97Dmm ●質量:332g