<山本敦のAV進化論 第50回>LDACキーマンインタビュー(1)
ソニー「LDAC」がハイレゾ相当のデータ量をワイヤレス伝送できる理由 − 開発者が語る技術的特徴
LDACでは最大96kHz/24bitまでの周波数帯域とビット深度を維持しながら、Bluetoothによるワイヤレス伝送の仕組みを使ってハイレゾ音源を高音質に再現できる。その符号化技術の仕組みを鈴木氏に訊ねた。
「LDACの場合は96kHz/24bitの“ハコ”はそのままにデータを送っています。ただ、完全に100%ビット一致のデータは送れないので、高域と低域との間で“ビットの貸し借り”を行うことで、990kbpsのビットレートの範囲内に信号を符号化しています」(鈴木氏)
鈴木氏によれば、人間の耳が音を認識する際に重要な低域については24bitビット精度を確保しながら、S/Nカーブを変えて高域のビット情報を削り、低域については16bit以上のS/Nとダイナミックレンジが出るように処理を行うことでCD以上の音質を実現しているのだという。そこにはソニーが開発した、20bitマスターテープの信号をCDの記憶容量である16bitに高品位なまま変換処理をかけて記録する高音質化技術である『スーパービットマッピング』に近い手法が採り入れられているそうだ。
「LDACの場合もロスレスの可逆圧縮方式であるFLACと同様に、第一段階としては高域側でデータが空いている領域を削ります。ただそれだけではFLACなみに、元の情報量から半分ぐらいの容量にしか落とせないので、そこから音質を保ったままさらに半分ぐらいのデータ量に落とし込む方法を考えた時に、人間の耳は周波数の低い音に敏感で、比較的高域の音に感度が低いという聴覚上の特性を利用しながら、さらにデータを効率化する処理を行っています」(鈴木氏)
FLACと同様にまず高域側でデータが空いている領域を削り、それに加えて人間の聴覚上の特性を利用しながら、さらにデータを効率化するというLDAC。高域の情報を削ってしまうことでリスニング感に影響は出てこないのか心配になるところでもあるが、鈴木氏によれば「高域に含まれる重要な音楽成分は犠牲にせず、しっかりと残しているため聴感上の影響はない」という。文章が長くなったため今回はいったんここで切り、このあたりの技術的詳細は、今後のLDAC対応製品の展開も含めて次回に紹介することにしたい。