両社の技術者が最終製品とDACについて語る
「UD-503」はなぜDACに「AK4490」を採用したのか? ティアック × AKM 特別座談会
■AKMのDACを選んだのは「音が好きだから」
ーー DACの音の特徴についてユーザーさんが語る場面が増えてきていて、「あのDACを積んでいるからこういう音」と仰るユーザーさんも増えていると思います。
加藤:そうですね、確かによく言われます。ただそれは、我々としては不本意なんですね。DACにはそれぞれ固有の音色があり、それが反映されるのは確かですが、我々セットメーカーは、それもふまえながら、セット全体として音作りを行っています。それぞれの機器が個性を持ちながらも、再生する音楽をキチンとリスナーに届けられる正しい音楽表現力を持った製品となるように音質調整を行っています。
ーー なるほど、よくわかりました。ただ、各社からDACチップはいろいろなものが出ていますし、おそらく各社さんから売り込みもあるのだと思います。そういう中で、UD-503/NT-503でDACチップのベンダーを変え、AKMさんのものを選んだのにはどういった背景があるのでしょうか。
加藤:いや、単純に、好きだからです。
ーー なるほど、「好きだから」(笑)。とってもシンプルですね。
加藤:そうですね、音色が好きだからです。もちろん開発のスタート地点では、各社さんのDACを聴かせていただき、どういう音色のDACなのかということを見極め、「じゃあどれを使おうか」と決めていくんです。
■音の消え際などの階調が綺麗だからAKMを選んだ
加藤:たとえば、某人気DACチップベンダーさんの音も、もちろん聴いています。これが、良いんですよ。静かなところは静かだし、パーンと出るところは出るし。巷で良いと言われているのもわかります。一方、AKMさんのDACはと言いますと、無音のところから、音が出るところまでの階調がすごく綺麗で、そこが、我々がとても気に入っているところです。
ーー 無音部からの階調ですか。階調というと、どちらかというと画質を評価するときによく使う言葉ですよね。
加藤:そうかもしれませんね。私が階調と言ったのは、音の消え際とか、立ち上がってくるところとか。分解能でもありますし、音色の部分でもありますし。とにかく、音楽を聴いてワクワクしたりする部分を出して欲しいというのが、我々がDACベンダーさんに求める部分です。
佐藤:相互干渉を起こすような回路と共通インピーダンスを持つと動作が乱れて音の階調が崩れたり、音色が変わってしまいます。そうならないように、細心の注意を払って電源を分けています。クロック用の電源も用意していますし、電源ピンだけでも6個もあります。それにリターン用の電源もありますし…。これだけ電源を分けているDACはあまり例がないのではないかと思います。
ーー 電源ピンが多いと言うことになると、それだけ最終製品の開発も大変になりますね。
渡邊:そうですね。DACの性能をしっかり出し切るのには苦労しています。今回、基板のDAC周辺部分も、パーツを綺麗に並べたつもりではいたのですが、遠回りになったりしたものもあったので、それをどうやってやり繰りしようとか、音質の影響を抑えるためにどうしようとか、かなり知恵を絞った部分です。
加藤:それに加えて、AKMさんには何度もこの試聴室に足を運んで頂き、開発途中のものも聴かせていただいたりしています。そういう技術交流の中で、「ここの部分はもっとこうならないか」といった意見をお伝えし、それを反映していただいたり、といったことも日々行っています。
ーー なるほど。「ここをこうして欲しい」というのは、かなり具体的なことをお伝えするんですか?
加藤:そうです。「こういう音が欲しい」ということをお伝えしたり、色々とお話しさせていただいています。
渡邊:私は数年前TASCAM製品の開発を行っていたのですが、そこでショートディレイのデジタルフィルターが欲しいとお伝えしたことがありました。遅れが大きいと、自分の演奏した音がいったん機材に入り、それがまた耳まで戻ってくるまでにかなり時間がかかり、まともな演奏ができなくなるんですね。そのような機能が盛り込まれており、非常によく作り込んで頂いたなあ、というのが我々の感想です。いろいろな製品で使えるのではないかと思います。
安仁屋:ディレイの話で補足させていただきたいのですが、それまでディレイが長かったのは理由があって、その方がチップを小さく出来るからなんです。ただしそれでは使い勝手が悪いというご意見を伺いましたので、システムに冗長性を持たせることでディレイを短くできました。その技術をADCにもDACにも入れることで、いまでは業界で最短のディレイを実現しています。