「映画館で観るのと遜色ない」
『この世界の片隅に』BD/DVD本日発売! 片渕須直監督 単独ロングインタビュー
本編は戦争中の物語ではあるんですけど、戦前には世の中や人のまわりにはこんなものがあったんだ、という点を描いています。それが戦争によってどんどん蝕まれて失っていくということを描きました。
物語自体は昭和21年1月の、その時点では戦争中より貧しく物資がない生活に人が陥ったところで終わります。でもそうではなくて、もっと先まで描く必要があるんじゃないか、と思ったのが最初のエンディングだったわけです。つまり、そこから新たに取り戻す生活が始まるわけですね。
映画の冒頭ではまだ着物を着ていたすずさんが、小学校の途中くらいからはスカートをはくことが出来た。それから戦後、モンペを脱いでもう一度スカートをはけるようになったすずさんを描いたところで終わりたいと考えたのが最初のエンディングでした。
しかし、ふと彼女たちは新しい生活、時代に入っていくわけですけど、いくつものものを戦争中に置き去りにしてしまったということも切り離してはいけないんじゃないかなと思ったんです。だから戦争中に友人となり、戦争の中で失ってしまったリンさんのエピソードを最後に入れたいなと思ったんです。つまりすずさんはこの先も生きていくけれども、きっと心の中に、このことがずっと残っているんだよ、ということなんです。
―― 爆弾の爆発や空襲などの映像は非常に印象的です。
片渕氏 こうの史代さんは単純に絵を描いて物語を紡ぐのではなくて、絵を使ってどんな表現が出来るかということをすごく意欲的にどの作品にも取り入れていらっしゃいます。例えば、自分の名字の印鑑を押しまくって、それで絵を描いて、あるいは写真を使うこともあります。あえて左手で描いてみたページもありますし、インクのかわりに口紅を使っていたところもあります。漫画の表現っていろんな技法があるんだよ、とそれを実験的に冒険的に試す場がマンガ『この世界の片隅に』だったとしたら、アニメーションであり映画である『この世界の片隅に』はどのように冒険するべきなのか。
その冒険心を取り入れなければ、こうの史代さんの『この世界の片隅に』を原作にしたことにならないんじゃないか、と思ったわけです。なので、アニメーションならどんなことが可能だろうかということを色々と考えて、いろんな技法を表現として取り入れてみました。
―― そのシーンは、とてもインパクトある絵でした。
片渕氏 すずさんも心の中では表現者なんですね。こうの史代さんや僕らの仲間と言ってもよいかもしれないですけど、ただ絵を描くのではなく、そこにすごく表現を凝らした、彼女ならではの絵心に満ちたものを描くわけです。そういう人を描くときには、映像もそうであるべきかな、と思いました。それは彼女の心の中を描いているといってもよいのかもしれないです。
―― こうのさんとは制作途中でお話などされたのでしょうか。
片渕氏 こうのさんは一時期、呉に住んでいらっしゃって、また広島出身でもおられて土地について僕らの知らないこともご存じなので、そのことはいくつか伺ったりしました。
―― 出来上がった作品を観て、こうのさんの反応はいかがでしたか?
片渕氏 やっぱり、こうのさんご自身が描かれた作品とは違うものだな、という風に思われたんじゃないでしょうか。僕らも出来るだけこうのさんの作品に近いものとして書こうと思ったんですけど、それでも、こうのさんにはこうのさんの、この作品を生み出すに至るいろんなものがあると思うんです。それは原作を読んでいただければ、皆さんも辿りついていただけるんじゃないかなと思います。ですので、ぜひ原作も読んでいただきたいですね。
―― 制作していく過程で、苦労した点はどんなところでしょうか?
片渕氏 時間的なことですね。基本的には制作費を限ったところで作ろうとするんですけど、我々の作業の場合に費用というのは、何人かの人間がずっと机に向かってやっている作業にどれくらいの時間をかけられるかがまず大きなものを占めます。今作は短い時間の中で本来やらなければならないことをやろうとしたので、その点は苦労しましたね。
物語自体は昭和21年1月の、その時点では戦争中より貧しく物資がない生活に人が陥ったところで終わります。でもそうではなくて、もっと先まで描く必要があるんじゃないか、と思ったのが最初のエンディングだったわけです。つまり、そこから新たに取り戻す生活が始まるわけですね。
映画の冒頭ではまだ着物を着ていたすずさんが、小学校の途中くらいからはスカートをはくことが出来た。それから戦後、モンペを脱いでもう一度スカートをはけるようになったすずさんを描いたところで終わりたいと考えたのが最初のエンディングでした。
しかし、ふと彼女たちは新しい生活、時代に入っていくわけですけど、いくつものものを戦争中に置き去りにしてしまったということも切り離してはいけないんじゃないかなと思ったんです。だから戦争中に友人となり、戦争の中で失ってしまったリンさんのエピソードを最後に入れたいなと思ったんです。つまりすずさんはこの先も生きていくけれども、きっと心の中に、このことがずっと残っているんだよ、ということなんです。
―― 爆弾の爆発や空襲などの映像は非常に印象的です。
片渕氏 こうの史代さんは単純に絵を描いて物語を紡ぐのではなくて、絵を使ってどんな表現が出来るかということをすごく意欲的にどの作品にも取り入れていらっしゃいます。例えば、自分の名字の印鑑を押しまくって、それで絵を描いて、あるいは写真を使うこともあります。あえて左手で描いてみたページもありますし、インクのかわりに口紅を使っていたところもあります。漫画の表現っていろんな技法があるんだよ、とそれを実験的に冒険的に試す場がマンガ『この世界の片隅に』だったとしたら、アニメーションであり映画である『この世界の片隅に』はどのように冒険するべきなのか。
その冒険心を取り入れなければ、こうの史代さんの『この世界の片隅に』を原作にしたことにならないんじゃないか、と思ったわけです。なので、アニメーションならどんなことが可能だろうかということを色々と考えて、いろんな技法を表現として取り入れてみました。
―― そのシーンは、とてもインパクトある絵でした。
片渕氏 すずさんも心の中では表現者なんですね。こうの史代さんや僕らの仲間と言ってもよいかもしれないですけど、ただ絵を描くのではなく、そこにすごく表現を凝らした、彼女ならではの絵心に満ちたものを描くわけです。そういう人を描くときには、映像もそうであるべきかな、と思いました。それは彼女の心の中を描いているといってもよいのかもしれないです。
―― こうのさんとは制作途中でお話などされたのでしょうか。
片渕氏 こうのさんは一時期、呉に住んでいらっしゃって、また広島出身でもおられて土地について僕らの知らないこともご存じなので、そのことはいくつか伺ったりしました。
―― 出来上がった作品を観て、こうのさんの反応はいかがでしたか?
片渕氏 やっぱり、こうのさんご自身が描かれた作品とは違うものだな、という風に思われたんじゃないでしょうか。僕らも出来るだけこうのさんの作品に近いものとして書こうと思ったんですけど、それでも、こうのさんにはこうのさんの、この作品を生み出すに至るいろんなものがあると思うんです。それは原作を読んでいただければ、皆さんも辿りついていただけるんじゃないかなと思います。ですので、ぜひ原作も読んでいただきたいですね。
―― 制作していく過程で、苦労した点はどんなところでしょうか?
片渕氏 時間的なことですね。基本的には制作費を限ったところで作ろうとするんですけど、我々の作業の場合に費用というのは、何人かの人間がずっと机に向かってやっている作業にどれくらいの時間をかけられるかがまず大きなものを占めます。今作は短い時間の中で本来やらなければならないことをやろうとしたので、その点は苦労しましたね。