「映画館で観るのと遜色ない」
『この世界の片隅に』BD/DVD本日発売! 片渕須直監督 単独ロングインタビュー
どんな形であれ出会うことが大事で、出会いがきっかけで開く世界がそこにあるということ。『この世界の片隅に』という、こうのさんの漫画との出会いもそうでしたし、あるいは『マイマイ新子と千年の魔法』を後押ししてくださったお客さんたちとの関係も、そういうものだった気がするんですね。
―― 私自身は、もともとこうの史代さんのファンだったのでこの作品に出会い、今回もまさに縁で、こうやって監督とお話しできるということになりました。
片渕氏 そうなんですよね。主演のすずさんの声優をのんちゃんと発表したのはクラウドファンディングより1年以上あとになります。すると今度はのんちゃんのファンの人たちがどんな作品なのかと観てくれたり、こうのさんの原作を読んでくれたり、あるいは僕の作品をさかのぼって観てくださって……。本当にそこに出会いがあればその先が開けるんだな、ということをもう一度繰り返し見ている気がするんですよね。
―― 作品の世界からどんどん外へ広がっていくような感じですね。のんさんの声が主人公のすずさんというキャラクターに非常に合っていました。
片渕氏 2010年の8月頃にこうのさんへお手紙を出して、まだ返事が返っていなかったくらいから、すずさんの声はどんな声なんだろうということはずっと気になっていました。すずさんというのは、一見快活でユーモアがあり、でもある意味での陰りというか、線の細さというのを同時に持っているはずだな、と思っていたんです。
また、すずさんの重要な要素として、10代である点。ティーンエイジャーなのにお嫁にいって、その先には大人の人ばかりで、唯一友達になるのは5歳の姪だという。そんなふうに人柄を絞り込んでいったときに、果たしてそういった声が存在するんだろうか、とずっと考えていたんです。のんちゃんのことは、テレビで彼女の芝居を観たときから、もしかしたら、と思うようになりました。
―― 監督の作品全般に言えますが、特に今作は時代背景や設定などのディテールへのこだわりが強く見受けられます。理由はあるのでしょうか。
片渕氏 『マイマイ新子と千年の魔法』の昭和30年の話までは、たとえば何年前はスマホはなかったなとか、その前はガラケーもなかったなという風に、どんな変化を遂げて今の時代に至るのかということを一つずつ逆算して辿っていける。いつかは遡っていけるんです。
ところが、その前の戦中・戦後の混乱期のところはそれが通用しないんです。知識としては相当知っているつもりでも、実際の肌触りがつかめない。あるいは、そこに生きている人たちの心情をうまく汲み取れないところがあったわけです。それを見つけることが出来れば、という思いだったんです。そうなると自分たちでその世界について想像しても始まらない。その世界は実際にどうだったかを知ることが、最初の挑むべきことだったわけです。
もう一つは、こうの史代さんが主人公のすずさんを、いわゆる普通の漫画やアニメの主人公にありがちな一面的じゃない、複雑で立体的で、本当に魂をもっているかのような人物として描いておられて。そんなすずさんに、さらに実在しているという手ごたえを得たかったわけです。すずさんには、本物の当時の世界の中で生きてほしいと思ったんです。
―― そのために実際どれくらいの方にお会いされたのでしょうか。
片渕氏 人に会ったということであれば、それほど多くはないと思います。ピンポイントでここが分からないということが出てくれば、最後の拠り所として、当時のことを知っていらっしゃる方にお話を伺いました。ただ、最初からそれを頼りにしようとは思いませんでした。
つまり、その方ひとりの意見でその世界がこうだったと鵜呑みにするのは早計だなと思ったわけです。我々はむしろ、客観的な当時の日記や写真、あるいは公文書のようなものから、こういうことだったんだと手ごたえを得て、それでも分からないパズルの最後のピースみたいなものを、もし知っている人がいるなら尋ねてお話を伺いました。
―― 私自身は、もともとこうの史代さんのファンだったのでこの作品に出会い、今回もまさに縁で、こうやって監督とお話しできるということになりました。
片渕氏 そうなんですよね。主演のすずさんの声優をのんちゃんと発表したのはクラウドファンディングより1年以上あとになります。すると今度はのんちゃんのファンの人たちがどんな作品なのかと観てくれたり、こうのさんの原作を読んでくれたり、あるいは僕の作品をさかのぼって観てくださって……。本当にそこに出会いがあればその先が開けるんだな、ということをもう一度繰り返し見ている気がするんですよね。
―― 作品の世界からどんどん外へ広がっていくような感じですね。のんさんの声が主人公のすずさんというキャラクターに非常に合っていました。
片渕氏 2010年の8月頃にこうのさんへお手紙を出して、まだ返事が返っていなかったくらいから、すずさんの声はどんな声なんだろうということはずっと気になっていました。すずさんというのは、一見快活でユーモアがあり、でもある意味での陰りというか、線の細さというのを同時に持っているはずだな、と思っていたんです。
また、すずさんの重要な要素として、10代である点。ティーンエイジャーなのにお嫁にいって、その先には大人の人ばかりで、唯一友達になるのは5歳の姪だという。そんなふうに人柄を絞り込んでいったときに、果たしてそういった声が存在するんだろうか、とずっと考えていたんです。のんちゃんのことは、テレビで彼女の芝居を観たときから、もしかしたら、と思うようになりました。
―― 監督の作品全般に言えますが、特に今作は時代背景や設定などのディテールへのこだわりが強く見受けられます。理由はあるのでしょうか。
片渕氏 『マイマイ新子と千年の魔法』の昭和30年の話までは、たとえば何年前はスマホはなかったなとか、その前はガラケーもなかったなという風に、どんな変化を遂げて今の時代に至るのかということを一つずつ逆算して辿っていける。いつかは遡っていけるんです。
ところが、その前の戦中・戦後の混乱期のところはそれが通用しないんです。知識としては相当知っているつもりでも、実際の肌触りがつかめない。あるいは、そこに生きている人たちの心情をうまく汲み取れないところがあったわけです。それを見つけることが出来れば、という思いだったんです。そうなると自分たちでその世界について想像しても始まらない。その世界は実際にどうだったかを知ることが、最初の挑むべきことだったわけです。
もう一つは、こうの史代さんが主人公のすずさんを、いわゆる普通の漫画やアニメの主人公にありがちな一面的じゃない、複雑で立体的で、本当に魂をもっているかのような人物として描いておられて。そんなすずさんに、さらに実在しているという手ごたえを得たかったわけです。すずさんには、本物の当時の世界の中で生きてほしいと思ったんです。
―― そのために実際どれくらいの方にお会いされたのでしょうか。
片渕氏 人に会ったということであれば、それほど多くはないと思います。ピンポイントでここが分からないということが出てくれば、最後の拠り所として、当時のことを知っていらっしゃる方にお話を伺いました。ただ、最初からそれを頼りにしようとは思いませんでした。
つまり、その方ひとりの意見でその世界がこうだったと鵜呑みにするのは早計だなと思ったわけです。我々はむしろ、客観的な当時の日記や写真、あるいは公文書のようなものから、こういうことだったんだと手ごたえを得て、それでも分からないパズルの最後のピースみたいなものを、もし知っている人がいるなら尋ねてお話を伺いました。