今と昔、ゲームの音楽はどう変わった?
『真・女神転生』25周年記念作に参加したゲーム作曲家たちは25年前なにを聴いていたの?
坂本:曲に持っていかれたりすることもありますね。演出面でマイナスになるんだったら、そこはもちろん差し控えます。あと、流行もあると思います。昔はメロディが立っているものがあって、今は演出の解釈をユーザーに任せるために、音楽は主張しないよう静かめにしておいて、感じるままに感じてもらう。特に洋ゲーに多いと思います。時代の流れで変わっていく、ゲーム音楽のアイデンティティというのはあります。
柴田:変わった点では、昔はプログラマーにお願いして色んなことをやっていました。シーンが変わったら音楽を流す、ということを自分ではなかなか出来なくて、プログラマーのところに「こういうことがしたいんだ」とお願いするんです。プログラマーも技術的にチャレンジしたいとやってくれるんですけど、それを企画サイドに持っていくとどれだけ費用対効果があるのか、という話になるので、なかなか出来ない。なので、こっそりプログラマーのところに持っていっていました。
小塚:企画は通さずに(笑)
柴田:気がつくかつかないか、ギリギリのところなので。レースゲームで車を選んで、次にガレージにいって色んなパーツを選んで、と進むごとにちょっとずつ楽器が増えていって、戻っていくと減っていく。それで最後のところまで行くと、リズムが倍の速さになっている。1個1個やるとバッファ分ずれるので、プログラマーにお願いして同時に全部流してもらって、ポーズをとりながらやります。
目黒:力技ですね。
柴田:今はそれがツールで出来るようになりました。それなので、あまりプログラマーの手を借りなくても出来るようになってきた、というのが最近の流れですね。もう一点変わったなと思ったのは、パッケージのゲームでも、例えば締め切りだというときに、最悪後から足せますからと言われることです。その2点が凄く変化を感じましたね。
坂本:昔はプログラマーさんにお願いするのに、気難しい人だとちょっとその前に焼肉をおごって、「次の日にちょっとお願いがあるんですけど」ってやってたんですけど。今はサウンドクリエイターが考えた通りの音が出るよう非常に合理的な作りになってきた分、あまり人と人との暖かみが(笑)。
柴田:人間関係ってのはありましたね。ちょっと怖い人には頭を下げながら入って・・・。
―― プログラマーの方も音楽を作る方も、両方が同じ会社に在籍しているという場合は、そういったやり取りもスムーズにいきやすい、ということはあるのでしょうか?
坂本:僕が外から見ている感じだと、会社の中にサウンドチームがある場合、サウンドチームに託される部分が多いですよね。あまり指示が無く、良い意味でサウンド側の意見を尊重してくれると言うか、サウンド側が気付いことがあったら入れていける、というのが絶対ある。外部だと、しっかりした発注書があって、それに従って作ることになります。
目黒:昔は我々サウンドの人間がメモリの配分から何から作っていたので、基本的にはプランナーが介在することはなく、プログラマーに直で「こういうことをやりたいですけど、コストはこれぐらいです」っていうのをやっていて。僕らみたいな古い人間はプログラマーと話す、“プログラマー言語”というような気難しい言語を喋れるのですが、若い方はやっぱりそのあたりは難しいところではないでしょうか。人間関係もそうだし、最近どうなの?(笑)
小塚:(笑)。そうですね、確かにミドルウェアとかツールを使うと、かなりこちらで作ってしまえるので、あとはかなり簡単な説明で済むようになったのかな、というのはありますね。実際僕は、プログラマーさん言語的なのをあまり分かっていないけど、一応やりとりは出来てしまう状態なのかなと。
坂本:完全に分業されたということですよね。前は、プログラマーからも「この音良いね」ということもあったんですよね。
小塚:プログラマーさんからのそういう反応もあったんですね。
坂本:はい、皆ゲームが好きで作っているので、ゲームで遊んだときに、「こんな音の方がいいんじゃない?」といったやり取りがあって、結構その中でアイディアが出たりしたんですけどね。
小塚:それは逆に面白そうです。「この音を組み込んで下さい」と持っていった、その場でそういったやり取りがあるってことですよね。うちだけかもしれないですが、ディレクターは当然言ってくるんですけど、プログラマーに言われたというのは無い気がしますね。
坂本:勝手に工夫して鳴らし方を決めちゃってるプログラマーというのもいて、それを直したりとか、誰が物を決めているのか結構めちゃくちゃなんですよ。
小塚:それはありますね。こちらが意図しないものをプログラマーがやっていてくれて、あとで聴いたらこんなつもりじゃなかったけど、これ良いからこのままでいきましょう、という。こっちからも好き勝手に突っ込んだりして、あとでそれでOKになって、というのはお互いにありますよね。
坂本:どっちがいいか分からないですよね。
小塚:会社にもよるんでしょうかね。
柴田:僕が入った頃も、作り方は同じだと思います。プログラマーさんにお願いしに行って、機嫌が良ければいいし、良くなかったら難しい。人間関係がどうしても上手くいかない人もいて、僕が代わりに「やらせてあげて下さい」とお願いしにいったりとかはありましたね。
坂本:変わった話では、宇宙モノの戦闘機が出てくるようなゲームの効果音を作ったときに、何回データを送っても実装されなかったんですよ。なんでだろうと思ってプログラマーさんに聞きに行ったら、「宇宙では音が鳴らないんですよ」と超真顔で言われました。「でもこれゲームですよね」「いや、でもこれは許せなくて、宇宙では音が鳴らないからこの音は鳴らしません」みたいな。本当にそういう人もいますよね。
目黒:プログラマーにありがちです。
坂本:企画とか社長のような立場の人に入ってもらって、なんとか音を出してもらったという。
小塚:ガンダムも音鳴っているじゃないですか!みたいな(笑)
坂本:そうそう、色々引き合いに出して。良くも悪くも、こだわりを持っているんだと思います。全員が良いゲームを作ろうとしている。意見が活発に交わされているのは、今でもあると思うんですけどね。あと、外注会社をやっている体感として、発注者側のスキルがどんどん下がっている気がします。分からないから音はお任せします、みたいな。
柴田:会社によって差が大きいかもしれません。用意しているところもあれば、ゲームを作るのがまったく初めてに近い会社だったら、どういう効果音にするのかなど主要は全部こちらで書いて、ということがあります。
坂本:「タイトル曲」「バトル1」「バトル2」「バトル3」「エンディング」しか書いてないリストとか。僕らは「ここはオーケストラ調ですか?」「曲の長さはどれくらいですか?」「どの曲の次にどの曲が流れますか?」というのを確認してリストにします。こういったことが、前より作業としては多いなと。
小塚:それはゲームを新しく作り始めた会社が増えてきたから、ということですか?
坂本:それもありますし、長い会社でもなかで引き継ぎが行われていないということもありますね。こういったところも、以前から変わったところでしょうか。ただ、サウンドのことが分からなくても当然だと思いますので、頼っていただけたら僕らとしても嬉しいです。それも含めて僕らの仕事だと思います。
小塚:リスト通りの音を実際に当てたら、音が全然足らないということが多いんですよね。
坂本:「ここでこの音を当ててる!」と驚くこともあります。エンディング曲が開始5分で流れていたり(笑)。
柴田:オープニングムービーで、良いところで曲が切れたり。ゲームの進化と同時に音源の進化もありますね。内蔵音源しかなかった時代からストリームに変わって、音源もパソコンで作れるようになった。ずっと内蔵音源をやっていた人で、パソコンを使ってリアルな音を作ることがしんどくなって辞めてしまった人がいましたね。一方で新しく入ってくる人は、パソコンを使う人が自然になっている。
坂本:逆に、普通に音楽を作っている人がゲームの世界に入って来たときに、内蔵音源の仕様を見て「音を出すのにこんなに面倒くさいんですか」と辞めたことがありました。
柴田:リアルな音をパソコンで作るためには、リアルな楽器を知っておかなければいけない。オーケストラを作りたいなら、オーケストラの全楽器の知識が必要になるんですが、そこについて行けないという人もいましたね。求められるスキルが、より音楽の方にシフトしたのかな。
坂本:目黒さんが仰っていたように、CDが回るようになってから事情が変わった。PSのようなハードの出現が、ゲーム音楽の歴史を変えたと思います。