今と昔、ゲームの音楽はどう変わった?
『真・女神転生』25周年記念作に参加したゲーム作曲家たちは25年前なにを聴いていたの?
小塚:いまはマルチで流せるから、自由度がさらに高くなりましたね。
坂本:ゲーム音楽というよりも、効果音なども含めたサウンドデザインと考えるとまったく様変わりしてしまいましたね。いかにリアルに、自分がその世界に入っているかを表現するために色々なことをするわけです。例えば足音ひとつとっても複雑化していて、水に入ったら音は当然変わるし、1歩歩くときのカカトと爪先で別にデータを持っていたりして。でもサウンドデザインの寂しいところは、“気づかれないことが美徳”なんですよ。
―― リアルさを求めるあまり、自然すぎて気づかれない。
坂本:気づかれるということは、違和感があるということですからね。まったく褒められない(笑)。何か言われるときは、不満を言われるときですね。SNSでも、何も指摘されないことを喜んでいます。何も感じないサウンドデザインこそが優れている、という風に思います。
目黒:僕はSEを作らなくなって10年くらいになりますが、2000年くらいには、衣擦れ音をいっぱい録っていましたね(笑)。気づかれないけれどリアリティを増す、ということにつながっていると思います。あとは空調音とか、『魔剣X』が出たくらいのころにやたらと。
小塚:あのくらいのグラフィックって、衣擦れ音とか一番付けづらそうですね。鳴らすと不自然だけど、鳴らないのも不自然だったり(笑)。自分はSEも音楽もやっていますが、うちのゲームはそれほどフォトリアルという感じではないので、違和感を持たれないことが正解ということは理屈としてすごく分かるんですが、実際に体験してはいないんですよね。
坂本:完全な写実表現ではないなかで、『ペルソナ』ではどういったことを気をつけられているんですか?
小塚:SEは土屋というスタッフがメインでやっているんですが、衣擦れにしても鳴らすべきか鳴らさないべきか、どのくらいリアルに寄せるかは毎回悩んでいると思います。作ってみたけど、この画だといらないと削ったり。環境音も、漫画っぽいキャラクターが行き来しているところにリアルなガヤを乗せたりするのはやっぱり違うかな、となったりしますね。
坂本:ガヤは難しいですよね。急に人の声がしちゃうから。
小塚:その辺で録ってくると、実写の人が歩き回っている画が浮かんでしまうんですよね。飲食店とかでも、BGMが鳴ってなくてガヤだけがしていると、「ここは良いガヤだな」って思っちゃいます(笑)。常にそういったことを気にするようになりました。
坂本:あんまりリアルだと、リアルじゃなくなるということがありますよね。コントローラーを持った瞬間にゲームだと思って遊ぶわけで、自分のなかで設定が出来てから望むと思うんです。そこにそぐわないといけないのが難しい。
小塚:例えば歌だと生の人が歌っていて、画面にはデフォルメされたキャラクターがいると、そこがうまく接着出来ているか、といったことが気になりませんか?
目黒:日本向けのゲームは英語の歌詞で、というのはありますね。もちろんサントラとゲーム中ではボーカルのバランスも変えます。あと象徴的だなと思ったのは、コンソール(据え置き用)のゲーム機と携帯ゲーム機でも音は変えるんですよ。割りと携帯ゲーム機ではSEとBGMの音像バランスが平面的に並ぶように作っていて、コンソールだとリッチな再生環境なので、前後にも置くことが意識されて作られている。
小塚:ファミコンのころは有無を言わさず“面”で鳴っていましたけど、いまは絵が手前にあるのか音が手前にあるのか、曲がどこで鳴っているかを考え出すと不思議な気分になります。
坂本:カメラ位置から音を聴いている、というサウンドデザインになりますよね。
―― いまは据え置き機も携帯ゲーム機も、スマホゲームもありますが、どこに照準を合わせるのが一般的ですか?
坂本:スピーカーを中心にバランスを取るか、ヘッドホンを中心にするかは、非常に議論の分かれるところなんですよ。スピーカーで遊ぶ人が多いので母数に合わせてそちらを選ぶ人もいれば、ヘッドホンを使う人は音を聴きたいはずだからそちらに合わせる、というディレクターさんもいたり。ヘッドホンをさしたことを検出できるハードもあって、それによって音のソースを切り替えることも出来るのですが、そこまでするべきかという話にもなったり。タイトルによって変わりますね。
柴田:ゲーム音楽ならではかもしれませんが、アーケードゲームをコンシューマーに移植するときに、コンシューマーはストリームだったんですが、アーケードは内蔵音源で開発されているんです。アーケードの音質になってしまうのが嫌で、全部打ち込み直して差し替えたんですが、「オリジナルじゃない」とクレームが来てしまった。単純に音が良いから満足しているわけではなく、最初に遊んだ思い入れがあるんですよね。
坂本:サントラを出すときもそうですよね。ちょっとカッコ良くしたりして、こちらとしてはそれが良いと思って出すと、クレームにつながる。
目黒:うちは結構やりますよ。最初はもちろん、そのさじ加減をどこにしたら良いんだろう、というのはあったんですけど、いまは「意外と気づかないんじゃないか?」と(笑)。『ペルソナ5』のサントラは、ボーカルの出具合を2dBくらい上げています。Twitterとか逐一見ていますけど、これはまだ指摘されたことがないですね。
坂本:目黒さんとしては、それが音楽として正しいすがたで、ゲームに乗せるときにぶつかってしまうから下げている、ということですよね。
柴田:でも、2dBって、凄く良い数字ですよね(笑)
目黒 坂本 小塚:(笑)
坂本:ちょっとだけ抑える。
小塚:使いますよね、2dB。
目黒:2dBにするのは最後まで悩みました(笑)
坂本:そうやって調整させてもらえる、というのはありがたいですよね。全然話題にも登らず、いつの間にか違うハードで出てるということもありますから。「出すならいじりたかったな」という気持ちになります。
―― ゲーム音楽は、音楽としてやりたかったことが出来るのは稀ということでしょうか?
坂本:うーん、僕個人の意見では、ゲーム音楽はほかのどのメディアよりも自分の好きに出来ると思っています。もちろんメインテーマともなれば色々な方の意見が入ってきますが、ゲームのなかの曲は作り手に任せてもらえるうえに、たくさん曲数を書けるというのは、ほかにはないと思うんです。
―― なるほど、Jポップなどに比べると作り手が自由にできる部分が多いということですね。反面、戦闘曲だけで10曲、といった場合は「戦闘っぽい」といったゲーム音楽ならではの縛りがあるのでは?
坂本:その話をしちゃいますか(笑)。