今と昔、ゲームの音楽はどう変わった?
『真・女神転生』25周年記念作に参加したゲーム作曲家たちは25年前なにを聴いていたの?
―― では、前段がかなり盛り上がってしまいましたが、ここから『真・女神転生』についてお伺いしたいと思います。ゲームやその音楽についてはどういった印象をお持ちですか?
坂本:まだあまりゲームを遊べてはいないんですが、もちろん音楽は知っていました。“暗い”ともまた違う印象ですが、全体を覆う雰囲気があって、それがカッコ良い。僕はアレンジする時にはなるべく原曲に忠実ということを決めているんです。作家性をあまり出しすぎると、結果として誰も喜んでくれないということが過去に何度もあったので。キーは絶対一緒で、テンポもなるべく一緒、感じるイメージも一緒なんだけど、自分がアレンジする意味のようなものは残すという。
―― 坂本さんは『真・女神転生II』の「戦闘」 のアレンジを担当されていますが、そういったイメージで作られたのでしょうか?
坂本:そうですね、先程オーケストラがベースと言いましたが、原曲になるべく忠実にしようとすると「これを弾ける奏者はいないな」と思いました(笑)。弦楽などで音楽として成り立たせる演奏にするためにはテンポを下げる必要があったので、シンセ主体でやっています。普段あまり作らないけれどやってみたかった4つ打ちにして、凄く速くて激しい曲で、やらせていただいて楽しかったです。
柴田:僕は最初にプレイしたのが中学生くらいで、独特な雰囲気のあるゲームだなと思っていました。周りにもプレイしている熱烈なファンがいて、『デビルメイクライ』とのコラボもあったり、個人的にもご縁があって。アレンジのお話をいただいたときに、ダークな世界観とか、僕のやってきたゲームと通じる部分があるかなと。
―― ここにいる小塚さんが作曲された『真・女神転生IV』の「市ヶ谷駐屯地」が、柴田さんがアレンジを担当された曲ですね。ちなみに、この曲が選ばれた理由は、選曲のご担当者がこの曲を好きで、柴田さんだったらカッコ良くしてくれると考えたからとのことです。
柴田:そうだったんですね(笑)。ゲームと一緒で、この曲も主張せずに主張しているような、独特な雰囲気でした。僕も坂本さんと一緒で出来るだけ原作を変えたくないんです。『真・女神転生』から切り離して、この曲は音楽としてはどうしたかったんだろうか、ということを考えて取り組みました。ギターのソロも抑えめにしたり、余計なことはしないようにして。本当はもっとサビが来てガッと盛り上がるアレンジにしようかとも思ったんですが、僕は面白くてもファンの方は喜ばないだろうなと思ったので、原曲の空気感を残して、最後になるにつれて少しずつ盛り上がるようにしました。
小塚:自分の曲をアレンジしていただく機会がなかったということもあるんですが、それを差し引いても、申し訳ないくらいにカッコ良くしていただいて、ありがとうございます。僕は『真・女神転生』シリーズを小学校くらいのときに本で見たんですが、ちょっと近寄らないでおこう、といった印象を受けました(笑)。その後で自分が携わるとは夢にも思っていませんでした。
―― 小塚さんはご自身が作った『真・女神転生IV FINAL』の「錦糸町地下街」をアレンジされていますが、そのイメージはどういったものになりますか?
小塚:『真・女神転生』はスーパーファミコンから始まったシリーズなので、当時の音源であれば、当時やりたかった音として生バンドなどのアレンジもアリだと思うんです。逆に、今回はスーパーファミコンの時代のようなテイストに出来ないかと考えました。スーパーファミコンは容量の制限もあって、ある意味で歪な音がしていたんですが、今聴くとそこがカッコ良いと思って、そういうところをあえて強調しました。
―― もう1曲、目黒さんが作った『真・女神転生 STRANGE JOURNEY』の「カオスのテーマ」も担当されていますね。こちらは?
小塚:「カオスのテーマ」はコーラスとオーケストラ編成だったのですが、コーラスが『真・女神転生 STRANGE JOURNEY』の特徴だと思ったので、そのコーラスはそのままに、オーケストラの方だけを全然違う音にして組み合わせられないかなと。どちらかと言うと、趣味を出して作ってみました。
目黒:僕は、『真・女神転生』は音楽込みで、独特な雰囲気が出ていたのかな、と思っています。作品に完全に合わせてしまったら、あの雰囲気にはならなかったんじゃないかな。音楽も個性が強いので、それが良い方向に働いたんじゃないかと。アレンジに関しては、僕も昔は原曲に忠実にしていたんですが、『ペルソナ』のアレンジをやらせていただいたときの反響を見ていると、あまり変えなかったものに対して、「良いね」という方と「これなら原曲を聴くよ」という方が半々くらいだったんです。だから、変えてしまっても良いんだな、というのがいまの僕の考えです。
―― 目黒さんは『真・女神転生IV』の「東京」 と、『真・女神転生III-NOCTURNE』の「大マップ〜現実世界〜」のアレンジをされていますが、結構変えている?
目黒:どういう風に変えるのかは難しいところですが、今回は最近やっていた僕の仕事風にしました。『ペルソナ5』のアシッドジャズ風、『真・女神転生 DEEP STRANGE JOURNEY』のオーケストラ風だったので、「東京」 はアシッドジャズ、「大マップ〜現実世界〜」はオーケストラっぽく。そういうテーマを決めて、楽しくやれました。
―― それでは、最後に読者の方に向けてコメントをお願いします。
坂本:ゲームの歴史において、楽曲が特徴的で評価されているタイトルは数えるくらいしかないと思うんです。そこに名を連ねるタイトルの、アレンジを任せていただけたことはとても光栄ですし、ゲーム音楽が大好きな人間として、仕事ですが趣味のようにアレンジ出来ました。お客さんが喜んでもらえるものになっていれば幸いです。
柴田:僕はつい最近セルフアレンジをしていたんですが、やっぱり人の曲をアレンジする方が「こういうことがやりたかったんじゃないかな」とか想像できて楽しいんです。アレンジで変えて欲しい派のファンには申し訳ないんですが、今回いただいたのが凄く雰囲気のある曲だったので、その原曲の良いところを残しながら、自分らしい要素を入れられたと思います。ぜひ楽しんでいただければ嬉しいです。
小塚:今回、本当に実力のある方々にアレンジしていただくことができ、実際にマスタリングを通して聴いたんですが、お二人のアレンジもそれぞれのカラーが出ていて、純粋に素晴らしくて感動しました。25周年を迎えた『真・女神転生』シリーズについては、今後もサウンドも含めて独自の感覚をご提供出来るタイトルとして続いていったら嬉しいですね。
目黒:外部の方が気軽に『メガテン』をアレンジしてくれたら、それはそれで万々歳だと思っていたんですが、皆さん本当に丁寧にアレンジしていただいて、「ありがとうございます」という気持ちです。凄く楽しめるアルバムになっていると思います。あと、25周年で『真・女神転生IV』までしか出ていないのですが、早めにV、VI、VII…と出せるように音楽も含め新しい人に頑張って欲しいです。
環境が目まぐるしく変化していくなかで、ゲームを取り巻く状況も変わってきたが、それでも本筋にある「ゲームの音楽」であるという部分は変わらない。対談に同席し、その柱のようなものを感じることが出来た。
さて、今回参加いただいた方以外にも、伊藤賢治、岩田匡治、古代祐三、サカモト教授、高田雅史、並木 学、なるけみちこ、細江慎治、小西利樹(敬称略)といったアレンジャーが手掛ける「レアサントラ&メモリアルアレンジトラックス」は、初回生産限定版のみに付属する。
作品のファンならずとも、これだけの面々が関わっているというだけでも価値があるだろう。少しでも関心を持たれた方は、この機を逃さず入手すべきだ。予約はこちら。