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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第78回】オーディオファンのための“コンプ”基礎知識 − 名曲で実例解説つき!

公開日 2014/03/07 14:42 高橋敦
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■録音の中で「いつ」「どのように」コンプを使うのか?

音楽作品の録音は、生楽器を中心とした録音の場合、

1)レコーディング
2)ミキシング
3)マスタリング

…の3つの行程を踏んで完成される。現在は生楽器をほぼ使わず、作曲からマスタリングまでをDAW(PCベースの音楽制作システム)内で可逆的に融合させている録音、というか制作環境も普通なのだが、話がややこしくなるので今回はそれは脇に置いておく。

「1)レコーディング」は、歌や楽器をまさに録音する行程。マイクを使って音を拾って電気信号に変換してマイクプリアンプで適当に増幅してレコーダーに記録する。電子楽器ならマイクを使わないでの録音も可能だ。ここでのコンプの役割、使われ方は主に「A)音声信号を録音再生機器に合わせて落とし込むため」「C)かっこいい音にするため」が多い。後者については、電子楽器の演奏者が自分の演奏機材にコンプを組み込んで自分の音色の一要素としている場合もある。

「2)ミキシング」は、録音した各楽器の音色や音量や定位のバランスを整え、曲として適当に組み立てる行程。例えば「ベースはアタックを強めて音場の真ん中に少し大きめの音量で」「ギターのアルペジオは透明感のある音色で音場の左から中央にかけて広がるようにうっすらとした音量で」といった配置をしていく。

例えばポップスの場合、楽器はそれぞれ適当な存在感で役割を果たしつつもボーカルの邪魔をしないことが鉄則なので、それに沿って各楽器のバランスを整えていくわけだ。そのためにこの工程では各楽器を個別にもコンプするし、全体のステレオミックスが出来上がったらそれに対して、その全体を整えてまとめるための「トータルコンプ」も行われる。

ここでのコンプの役割、使われ方は「A)音声信号を録音再生機器に合わせて落とし込むため」「B)他の楽器の音とのバランスを調整するため」「C)かっこいい音にするため」の全てということになる。

「3)マスタリング」は、ミキシングを終えてステレオにまとめられた音源の、最終的な音量や音質を調整する仕上げの行程。この行程でも「トータルコンプ」が行われる。

では、ミキシング時のそれとは何が異なるのかというと、ミキシング時のトータルコンプを含めての処理は、「その曲だけを見たときにうまく仕上げる」ことが目的だ。対してマスタリングは「他にどんな曲と一緒にシングルやアルバムに入ってどんなメディアに収録して配信されるのか」といった大枠を考慮しての調整となる。

例えばアルバムの中に異なるシングルとして録音した曲が混在する場合、それぞれの音作りや音圧にはバラツキがある。そのバランスを調整してひとつの作品としての統一感や流れを整えるのがマスタリングの役割であり、その際のコンプの使い方だ。

また、最終的にCDに収録するか、AACで配信するか、ハイレゾで配信するかなど、「器」の特性に合わせての調整もマスタリングの役割。さらにはリスナーの再生環境として付属イヤホンを想定するのか本格オーディオを想定するのかといったことでもマスタリングでの調整方針は変わる。

というわけで、ここでのコンプの役割、使われ方はまずは、「A)音声信号を録音再生機器に合わせて落とし込むため」ということになるが、「C)かっこいい音にするため」のニュアンスが加わる場合もある。どちらにせよこの工程で行われる処理は音量音質の「最終調整」といったようなものであり、本来であれば音調を激変させるものではないはずだ。

次ページコンプは一概に悪役ではなく、必要性があって使われているもの

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