[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第78回】オーディオファンのための“コンプ”基礎知識 − 名曲で実例解説つき!
■コンプは一概に悪役ではなく、必要性があって使われているもの
さて、記事冒頭で触れた「ハイレゾ配信に伴ってコンプが話題に上がることが増えてきた」というのは、特にはマスタリング時のコンプのことだ。「ハイレゾ配信用にマスタリングをし直した」「CD用にマスタリングする前のスタジオミックスの生データでのハイレゾ配信」といったことを謳うハイレゾ音源が登場したことで、そこへの注目度が上がった。
それらの多くは既存マスターよりもコンプ控えめでダイナミクスレンジを広く確保している。これには「ハイレゾという器のダイナミックレンジの広さを生かす」「オーディオファン向けの企画なので一般層を考慮せずにオーディオ的に攻めた音作りをできる」といった意図や狙いがあると想像できる。
実際、特にマスタリング時の過剰なコンプは、オーディオファンや音楽ファンからの評判は悪い。ロック的な迫力のある音作りの範疇を超えて、ただただ音圧を稼いでいるだけにしか思えない音源があることは事実だ。
定説のひとつとしては、1990年代からの「音圧競争」がその発端と言われている。テレビや店頭試聴でのインパクトを重視してとにかく音量音圧を高めることが求められ、過度にコンプされた音源が量産されたという。また例えば「名盤のリマスター盤を買ってみたら旧来の盤より音量は明らかに上がっていたのだけれど、何かしっくりこなかった」という経験をしたことのある方もいらっしゃるかと思う。そういったリマスタリングは、表層的な迫力を稼ぐために音楽表現の一部であるダイナミクスまで切り捨ててしまっていたわけだ。
…といったような経緯もあり、現在では、コンプはちょっと悪役っぽい立ち位置に置かれがちだ。しかしここまでを読んでいただけたのであれば、一概にそうではないと理解してもらえたのではないだろうか。コンプは本来は必要性があって使われているもので、録音における技術的または音楽的な調整の一要素だ。適切に使われている限りは悪いものではない。
■様々な名曲で実例解説!コンプの効果を目と耳で検証する
実例を見ながら話していこう。様々な音源の音量レベルの推移(ダイナミクス)をアプリで可視化して確認しつつ、改めて試聴しての印象を付記していく。
音量レベルの可視化には「Sonic Visualiser」というアプリを使用した。ウィンドウ下部の小さなグラフが曲全体での音量レベルの推移で、ウィンドウ上部の大きなグラフはその一部分の拡大だ。
なおコンプ以前の問題として、「音楽的な間や余白を生かした曲のグラフは変化が大きくなる」「最初から最後まで音を高密度で詰め込んだハイスパートな曲のグラフは一律になる」等、曲によってダイナミクス表現は様々だ。それも踏まえて見ていってほしい。
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