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フラグシップ“S3000”と異なる個性をレポート

【レビュー】ヤマハ新Hi-Fi「CD-S2100」「A-S2100」を大橋伸太郎が徹底解剖

公開日 2014/05/02 14:28 大橋伸太郎
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■S2100の実力は?− フラグシップS3000とキャラクターの違う音作り

試聴は品川区のヤマハ高輪スタジオで行った。実機を一見して印象付けられるのは、CD-S2100のスリムさ。S3000系がフルサイズのコンポーネントの外寸をフルに活かして余裕で作られた印象なのに対し、S2100系はヤマハの新しい看板機種としての独自のバランス感覚を堅持、その中で新世代の音質を追及した印象だ。

試聴はCD-S2100+A-S2100の組み合わせで、同スタジオのリファレンススピーカーシステムB&W「802Diamond」を鳴らした。最初に試聴したのが田部京子(pf)の「ブラームス後期小品集」(SACD)だが、これが驚くべき体験だった。昨秋CD-S3000+A-S3000の初試聴も同じ部屋の同じスピーカーとの組み合わせでこのSACDから試聴を始めた。筆者自身がCD-S3000で日常聴いている音も、アンプこそ違うがスピーカーシステムは全く同じだから、そこには比較再現性がある。新S2100コンビの音質は、S3000コンビとは明らかに別の方向を向いていた。

CD-S2100+A-S2100で再生するソロピアノは、聴き手の目の前すぐに音像がくっきりした描線で立体的に現れ楽器の実在感があって響きの肉付きがいい。S3000コンビで聴いた同じ曲は、ピアノがやや奥まった地点に精密な描線で立体的に描き出されそこから風のように響き渡る。つまりS2100とS3000は<音場感覚>自体が対照的なのである。もっと分りやすく表現すると、田部京子の弾くピアノの位置がS2100コンビの方が同じ部屋で2mくらい聴き手に近い。S3000コンビはステージサイトで演奏を聴いている(みつめている)のに対し、S2100はほんの目の前で田部京子がピアノを奏でている(傍らにいる)。

ポップス系ソースを聴いてみよう。エレクトロニカのグループXXの「THE XX」は、打ち込みによる重低音と男女ヴォーカルの対比がサウンドの特徴を作るが、S2100コンビが低域再生能力、ことに量感表現にこだわったことは明らかで、試聴室の天井や壁がミシミシと反応し、試聴にアテンドしたご担当者が苦笑するほどだった。

筆者の試聴に欠かせないカサンドラ・ウィルソンのジャズボーカルは、肉声の質感を生々しい近さで再生、加えてエレキベースの音程が下降していっても輪郭が滲まず完璧に聴き取れ、音程による音量変化が抑えられて音量が一定でムラがない。高輪スタジオの伝送特性が優れている以前にウーファーの制動が出来ている。しかも、響きの質感があって弾んで歌う。A-S2100がダンピングファクターに優れている証左である。

「S3000のトロイダルトランスの落ち着いた音質でなく、大型EIトランスの躍動感のある音質ですね」とご担当者に訊くと、「実はA-S3000とA-S2100は開発担当者が違うのです。年代の若い技術者がS2100を作りました。ローインピーダンス設計は共通ですが、ご指摘のようにダンピングを高め躍動感ある音質を狙っています。開発のリソース以前に音作りの方向が違います」という答えが返ってきた。

S3000コンビの<厳しさ>さえ感じさせる厳密に研ぎ澄まさされた音質(筆者はそれが好きなのだが)に対し、S2100コンビは伸び伸びと歌う活力に溢れたよい意味でおおらかな音質。この個性の違いは見事だ。しかし、DSD 5.6MHz音源を入力した時の透明感と緻密な解像力、音場の空気感の表現は共通。一貫すべき所はいささかも譲歩していない。

S3000コンビとS2100コンビのどちらを選ぶかは聴き手の感性と音楽ジャンル如何なのだが、アコースティック楽器の音色追求にこだわるなら前者、幅広い音楽ジャンルを聴くならむしろ後者つまりS2100を筆者は薦めたい。しかし、驚くべきはCD-S2100、A-S2100共に価格は25万円(税抜)。S3000の6割程度の価格でヤマハがこの<好対照>を実現したということだ。

◆大橋伸太郎 プロフィール
1956年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年にはホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。2006年に評論家に転身。西洋美術、クラシックからロック、ジャズにいたる音楽、近・現代文学、高校時代からの趣味であるオーディオといった多分野にわたる知識を生かした評論を行っている。

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