【特別企画】画質・音質を徹底検証
パイオニア「SC-LX88/78」レビュー − 想像以上の進化を遂げた革新的AVアンプ
『007 スカイフォール』、『ホワイトハウス・ダウン』、『ホビット』など複数の映画を見終わったときに一番強く印象に残ったのは、効果音、音楽、台詞のバランスの良さと情報量の豊かさである。いずれの作品も動きのある場面を選ぶとすべてのチャンネルを駆使した大音圧の信号が飛び出してくるが、LX88はその音数の多さと音圧感にアンプ側が余裕を持って応えるところがあり、相当な大音量で聴いても音(ね)を上げることがない。『スカイフォール』の地下鉄が突っ込んでくる場面をここまでのスケール感で描き出すアンプは数えるほどしかなく、衝撃音を含む低音の音色を正確に描写する能力の高さにも感心させられた。
『ホビット』の戦闘場面は効果音に加えて低音楽器を大音圧で鳴らして切迫感を煽る演出が多いのだが、その一音一音が団子状につながらず、小気味良いリズムを刻むことに注目したい。立ち上がりの正確さもさることながら、音が出たあとに消えるときに制動が効き、余分な音を残さないことがその躍動感につながっている。その低音のふるまいはLX78もLX88に劣らず正確で、特に立ち上がりがなまらない点は他のAVアンプに比べて明確な利点になると思う。
『ホビット』の雷鳴の広がり、後方から前方に移動する狼の群れの動きと遠吠えなど、空間描写の精度の高さ、スケールの大きさはMCACC Proがもたらす恩恵の一例だ。聴き慣れた試聴室で音質の検証に常用している作品なので、どの場面でどんな音が出てくるのか、ほぼ想像できるのだが、LX88とLX78が引き出す空間スケールの大きさは、その予想をいい意味で裏切ってくれた。思っていたよりもひとまわり大きな空間が広がり、想像以上に深い遠近感が実感できるのだ。映像のクオリティが上がり、画と音の相乗効果が高まるほど、この余裕が生きてくる。
音楽のライヴプログラムでは、LX78とLX88の表現力の微妙な違いを聴き取ることができた。90歳を超えても演奏の集中度が衰えるどころか、いっそうの輝きを見せるプレスラーが独奏を弾いたモーツァルトのピアノ協奏曲、オーケストラはパーヴォ・ヤルヴィ指揮のパリ管だ。
このディスクに収録されているサウンドは音数が少なく絶対的なダイナミックレンジもけっして大きくないのだが、コンサートホールの余韻は聴衆の気配など、微小信号がたくさん入っていて、それをどこまで忠実に再現できるかがカギを握る。LX88は音が出る直前の緊張した空気やピアノの余韻のなかの微妙な揺らぎなど、本当に微細な情報の再現力が優れていて、それが演奏の臨場感に磨きをかける。もちろんLX78の音からも演奏の素晴らしさは伝わってくるのだが、同じ条件で聴き比べてみると、息遣いなどはLX88の方が生々しい。アコースティックな情報をたくさん含むライヴ音源ではそうした差が出やすいのだ。電源トランスの漏洩磁束対策など、一見すると地味な音質対策が効果を生んでいるのだろう。