<山本敦のAV進化論 第42回>人気ヘッドホンとの相性もチェック
ウォークマン新旧フラグシップガチンコ対決!「NW-ZX2」&「NW-ZX1」を聴く
ビル・エヴァンス・トリオのウッドベースは音符のキレが鋭く、Z5の持ち味である弾力感のある低域をふくよかに描き出す。ピアノの音色は硬くならず、繊細さと適度な膨らみを併せ持った響きの豊かさが魅力。ドラムスのハイハットやスネアは音の粒立ちが良く、残響の消え入り際も柔らか。オーケストラでは弦楽器のハーモニーが滑らかに溶け合うような感覚が心地良かった。
空気感も含めて低域が強く出るイヤホンだが、力のないプレーヤーだとその真価がなかなか発揮されない。ZX2はどっしりとした量感を引き出すだけでなく、低域に含まれるディティールの表情も浮き彫りにする力強さを備えているようだ。優等生的なサウンドではなく、音楽のバイタリティを積極的に引き出す組み合わせだ。オーケストラも楽器の立体的な位置関係が的確に把握でき、奥行き方向の透視図もくっきりと描かれる。
■“MDR-1”シリーズの最新モデル「MDR-1A」で聴いてみる
続いて昨年に世代交代を遂げた、プレミアムヘッドホン“MDR-1”シリーズの最新モデル「MDR-1A」で聴いてみる。40mm口径のドライバーユニットに、振動板はアルミをコーティングしたLCP(液晶ポリマー)を搭載。高域は最高100kHzまでのワイドレンジ再生を実現した“元祖ハイレゾ対応ヘッドホン”だ。色づけがなくクリアな中高域と、低域における通気抵抗を最適化するビートレスポンスコントロールなどによる鋭くタイトなリズムの再現を得意とするヘッドホンだ。
オーケストラは中高域の余力が高く、弦楽器のハーモニーが伸びやかに昇華していく。Z5と比べて縦横方向に音場がぐんと広がって、低域はずっしりと重心の低いZ5のキャラクターに対して、1Aではクリアで爽快な印象だ。
ビル・エヴァンス・トリオは全体のバランスがフラットで、ワイドなステレオイメージの広がりと楽器の音のセパレーションが高まる印象。中低域の音も高域へとスムーズにつながり、ディティールの粒立ちも一層高まる実感がある。ドラムスのスティックも細部の動きにスポットが当たって、音が立体的に迫ってくる。ノラ・ジョーンズのクリアなボーカルもいい。
全体のフラットなバランスで、ソースの持ち味を素直に引き出す組み合わせだ。元々鳴らしやすくオールラウンダーなヘッドホンだが、ZX2とタッグを組むことで音楽のインスピレーションが華開く。絶好のマリアージュだ。
■70mmドライバー搭載「MDR-Z7」で聴く
最後は現在のソニーが誇るキング・オブ・ヘッドホン「MDR-Z7」だ。人間の耳とほぼ同じ大きさである大口径70mmのドライバーユニットを搭載。スピーカーで音楽を聴くときのように平面波に近い波面が再現できることから、より自然な聴感が得られるところが最も大きな特徴だ。本機も高域は100kHzまでの広帯域をカバー。アルミコートLCP振動板やビートレスポンスコントロールによる鮮度の高いサウンドを聴かせる。
大口径のドライバーを鳴らし切るパワーが求められるヘッドホンなので、通常のポータブルプレーヤーの場合はポータブルヘッドホンアンプを併用したいところだが、ZX2は単体でもがっしりとドライブされた力強いサウンドが得られる。最初のうちは優等生っぽい鳴り方をしていたが、聴き込むうちに相性の良さが深まっていく実感があった。
ビル・エヴァンス・トリオのウッドベースは音像の立体感に富み繊細な表情を見せる。ミロシュのギターはサスティーンの伸びが美しく、余韻の深さと濃さは随一。元々クリアで歪みのないZX2の中高域の持ち味を存分に引き出す組み合わせだ。S/Nが見事に高く、DSDのピアノは山奥の冷たい清流につま先を浸した時のように、キリッと身が引き締まるほどピュアで精彩な音が耳の奥に飛び込んでくる。ノラ・ジョーンズのボーカルもニュートラルな声質が味わい深い。楽しく聴くなら1A、リアリティをとことん追求するならZ7との組み合わせがおすすめと言えるかもしれない。
もともとZX1が持っていたニュートラルでバランスの良い音楽再生のセンスに、いっそうの力強さが加わったため、組み合わせるヘッドホンの持ち味もグンと活きてくる。DSD再生まわりの機能も広がったうえ、DSD配信もはじまった「mora」から専用アプリで端末に楽曲を直接ダウンロードして楽しむこともできる。「ここら辺で一丁、DSDでも聴いてみるかな!」という気持ちにさせられる舞台は整ったわけだ。
ウォークマンのラインナップの中では価格ともども“超ハイエンドクラス”のモデルだが、音楽の真の魅力に一番ショートカットで迫れるプレーヤーなので、できれば全ての音楽ファンに使ってみてもらいたい。