開発の背景も担当者に聞いた
Unique MelodyのカスタムIEM「MAVERICK」を導入した理由 - リスナーに寄り添うモニターサウンドとは?
■MAVERICKカスタムにはユニバーサルモデルとは異なる音質チューニングが施された
前述のようにMAVERICKはまずユニバーサルタイプが先に完成され、その後にカスタムIEM版が発売された。しかし、MAVERICKカスタムは、ユニバーサルモデルをただ単純にカスタム化したものではないのだと宮永氏は強調する。「すでにMAVERICKユニバーサルは完成していましたが、そこからMAVERICKカスタムを完成させるまでに、合計12回もの試作機の作り直しと7ヶ月の時間を要したのです」。
そもそもMAVERICKはユニバーサルモデルとして開発された。シェルもユニバーサルタイプで、当然イヤーチップを装着して音質チューニングが行われた。こうして開発されたイヤホンをそのままカスタム化したところで、音はまったく別のものになってしまうのだ。
カスタムIEMはユニバーサルモデルに比べて密閉性が格段に高く、低域も外に逃げない。一方で、ユニバーサルモデルは低域が外に逃げることを想定して低域のチューニングを行うのだという。ユニバーサルモデルをそのままカスタムIEMにすると、まず低域過剰なサウンドになってしまうと宮永氏は説明する。
またカスタムIEMは音孔が鼓膜に近いため、中高域のレスポンス(宮永氏は“スピード感”という言葉で説明していた)が、ユニバーサル機と同じにはならない。
通常、カスタムIEMのインプレッション(耳型)は鼓膜の2センチ手前までを採取する。これは耳穴の第二カーブと呼ばれる場所の手前で、鼓膜に非常に近い。対してユニバーサルモデルの音孔の位置は第一カーブ程度である。これだけ距離が違うと、耳の内部での反射もまったく異なる。この差から生じるレスポンスの違いまで計算して改めて音作りをしなければ、位相は絶望的に狂ってしまう。
宮永氏は「カスタムとユニバーサルは全然違う、まったくの別物ということなのです」と繰り返し語っていた。「僕はリモールド(ユニバーサルモデルをカスタムIEMに改造すること)は好きじゃありません。理由は音が悪くなるからです。だからMAVERICKにしても、イチから7ヶ月かけて開発することにしたのです」。
■モニターサウンドから一歩先に踏み込んだ音場再現
MAVERICKカスタムを試聴して感じたのは、いわゆるモニターサウンドとは一線を画した音作りを行っているということだ。宮永氏は、演奏者やエンジニアが“モニター”として用いるための忠実な音質再現を第一義とするカスタムIEMにおける「モニターライクな音」と、コンシューマーユーザーが音楽を楽しむ上で必要な「モニターライクな音」を明確に区別して、その音質チューニングを行っていると説明する。
「MAVERICKカスタム開発を行っている7ヶ月の間にも、国外の展示会に足を運んだり、国内の様々なスタジオの音にも触れることができました。そうした体験のなかで、満足していたはずのMAVERICKユニバーサルの音にも、気になるところがでてきました。それは主に高域のスピード感とも言うべきものです」。ここで宮永氏が言うスピード感とは、やはり“レスポンス(応答速度)”の意であると私は解した。
MAVERICKカスタムは、ユニバーサル機に比べて遮音性と音孔の鼓膜までの距離が近い。そのためS/Nが稼げて、ダイナミックレンジの確保の点でも有利だ。このカスタムIEMならではの環境を上手く利用して、もう一段上のサウンドを狙いたかったのだという。
「MAVERICKユニバーサルは音が優等生というか、音がまとまりすぎているのではと感じ始めたのです。基準は満たしたけれども、何かリアリティーに欠けていると。その時、具体的な音作りの方向性として思い至ったのが、モニタースピーカーで聴いたときのような音場感をカスタムIEMで出すにはどうすればいいのか、ということだったのです」(宮永氏)。
スピーカーが再現するような音場感。それを実現する上で重要だったのが高域のチューニングだった。MAVERICKユニバーサルの音は、スピーカーで試聴するときの感覚と比べると、高域が耳に届くまでの速度がわずかに遅いのでは。宮永氏はそう感じたようだ。
「高域は、原理として中低域よりも伝達する速度が早いですよね。その速度の差を埋めるために、例えばJH AUDIOは、独自のチューブ機構で各帯域のレスポンスを徹底的に揃える技術を開発しました。全帯域がぴったりそろって出ないと、演奏を行うアーティストのモニターとしては役目を果たせません。実に理に適っています。しかしMAVERICKはアーティスト向けのカスタムモニターではありません。そもそもダイナミックドライバーを積んでいて、バスレフポートが空いている。これはオーディオ向け、コンシューマー向けの製品なのです」。
「MAVERICKが目指した『モニターライクな音』とは、ミュージシャンのためではなく、リスナーとなるコンシューマーユーザーのためのサウンドです。一般の方々は日常の生活において、環境音にしてもエンターテイメントの音にしてもですが、低域・中域・高域の位相がぴったりと合った環境に身を置いてはいません。それならコンシューマー向けに『モニターライクな音』を伝えるとすれば、位相を普段自分が感じ取っている感覚に、例えばマスタリングスタジオのモニター環境で聴いた時の感覚に近づけられればと考えました」(宮永氏)。
各帯域のレスポンスが合うことはオーディオリスニングにおいても重要である。しかし現実問題として、高度なスピーカー再生にしても生演奏にしても、音の波が空気を伝わる以上、高域は低域より早く耳に届く。「自然環境ではむしろ、低域が少し遅れるほうが自然で、耳もそれに慣れています。その点を意識して高域のチューニングを変えました。MAVERICKカスタムの低域レスポンスを遅くしているわけではありませんが、少しだけ高域が耳に早く届くイメージで味付けをしたのです。それが、MAVERICKカスタムの音場再現に寄与しています」と宮永氏は語る。MAVERICKユニバーサルでは実現できなかったこの音場再現を、7ヶ月かけてチューニングしたのだ。
実際に試聴してみて、MAVERICKカスタムの音場感は、数あるその長所の中でもことさら秀でたものだと感じた。音孔が鼓膜に近いことは聴感でもわかるのだが、そこから耳介の外側に向かって的確に各楽器が配置され、頭の外側へ音が自然に広がって行くような印象なのだ。
「音色のちがいはイヤホンだけの周波数特性では計れませんよね。だからMAVERICKカスタムは測定に頼ることなく、聴感テストをメインに音作りを行いました」(宮永氏)。
前述のようにMAVERICKはまずユニバーサルタイプが先に完成され、その後にカスタムIEM版が発売された。しかし、MAVERICKカスタムは、ユニバーサルモデルをただ単純にカスタム化したものではないのだと宮永氏は強調する。「すでにMAVERICKユニバーサルは完成していましたが、そこからMAVERICKカスタムを完成させるまでに、合計12回もの試作機の作り直しと7ヶ月の時間を要したのです」。
そもそもMAVERICKはユニバーサルモデルとして開発された。シェルもユニバーサルタイプで、当然イヤーチップを装着して音質チューニングが行われた。こうして開発されたイヤホンをそのままカスタム化したところで、音はまったく別のものになってしまうのだ。
カスタムIEMはユニバーサルモデルに比べて密閉性が格段に高く、低域も外に逃げない。一方で、ユニバーサルモデルは低域が外に逃げることを想定して低域のチューニングを行うのだという。ユニバーサルモデルをそのままカスタムIEMにすると、まず低域過剰なサウンドになってしまうと宮永氏は説明する。
またカスタムIEMは音孔が鼓膜に近いため、中高域のレスポンス(宮永氏は“スピード感”という言葉で説明していた)が、ユニバーサル機と同じにはならない。
通常、カスタムIEMのインプレッション(耳型)は鼓膜の2センチ手前までを採取する。これは耳穴の第二カーブと呼ばれる場所の手前で、鼓膜に非常に近い。対してユニバーサルモデルの音孔の位置は第一カーブ程度である。これだけ距離が違うと、耳の内部での反射もまったく異なる。この差から生じるレスポンスの違いまで計算して改めて音作りをしなければ、位相は絶望的に狂ってしまう。
宮永氏は「カスタムとユニバーサルは全然違う、まったくの別物ということなのです」と繰り返し語っていた。「僕はリモールド(ユニバーサルモデルをカスタムIEMに改造すること)は好きじゃありません。理由は音が悪くなるからです。だからMAVERICKにしても、イチから7ヶ月かけて開発することにしたのです」。
■モニターサウンドから一歩先に踏み込んだ音場再現
MAVERICKカスタムを試聴して感じたのは、いわゆるモニターサウンドとは一線を画した音作りを行っているということだ。宮永氏は、演奏者やエンジニアが“モニター”として用いるための忠実な音質再現を第一義とするカスタムIEMにおける「モニターライクな音」と、コンシューマーユーザーが音楽を楽しむ上で必要な「モニターライクな音」を明確に区別して、その音質チューニングを行っていると説明する。
「MAVERICKカスタム開発を行っている7ヶ月の間にも、国外の展示会に足を運んだり、国内の様々なスタジオの音にも触れることができました。そうした体験のなかで、満足していたはずのMAVERICKユニバーサルの音にも、気になるところがでてきました。それは主に高域のスピード感とも言うべきものです」。ここで宮永氏が言うスピード感とは、やはり“レスポンス(応答速度)”の意であると私は解した。
MAVERICKカスタムは、ユニバーサル機に比べて遮音性と音孔の鼓膜までの距離が近い。そのためS/Nが稼げて、ダイナミックレンジの確保の点でも有利だ。このカスタムIEMならではの環境を上手く利用して、もう一段上のサウンドを狙いたかったのだという。
「MAVERICKユニバーサルは音が優等生というか、音がまとまりすぎているのではと感じ始めたのです。基準は満たしたけれども、何かリアリティーに欠けていると。その時、具体的な音作りの方向性として思い至ったのが、モニタースピーカーで聴いたときのような音場感をカスタムIEMで出すにはどうすればいいのか、ということだったのです」(宮永氏)。
スピーカーが再現するような音場感。それを実現する上で重要だったのが高域のチューニングだった。MAVERICKユニバーサルの音は、スピーカーで試聴するときの感覚と比べると、高域が耳に届くまでの速度がわずかに遅いのでは。宮永氏はそう感じたようだ。
「高域は、原理として中低域よりも伝達する速度が早いですよね。その速度の差を埋めるために、例えばJH AUDIOは、独自のチューブ機構で各帯域のレスポンスを徹底的に揃える技術を開発しました。全帯域がぴったりそろって出ないと、演奏を行うアーティストのモニターとしては役目を果たせません。実に理に適っています。しかしMAVERICKはアーティスト向けのカスタムモニターではありません。そもそもダイナミックドライバーを積んでいて、バスレフポートが空いている。これはオーディオ向け、コンシューマー向けの製品なのです」。
「MAVERICKが目指した『モニターライクな音』とは、ミュージシャンのためではなく、リスナーとなるコンシューマーユーザーのためのサウンドです。一般の方々は日常の生活において、環境音にしてもエンターテイメントの音にしてもですが、低域・中域・高域の位相がぴったりと合った環境に身を置いてはいません。それならコンシューマー向けに『モニターライクな音』を伝えるとすれば、位相を普段自分が感じ取っている感覚に、例えばマスタリングスタジオのモニター環境で聴いた時の感覚に近づけられればと考えました」(宮永氏)。
各帯域のレスポンスが合うことはオーディオリスニングにおいても重要である。しかし現実問題として、高度なスピーカー再生にしても生演奏にしても、音の波が空気を伝わる以上、高域は低域より早く耳に届く。「自然環境ではむしろ、低域が少し遅れるほうが自然で、耳もそれに慣れています。その点を意識して高域のチューニングを変えました。MAVERICKカスタムの低域レスポンスを遅くしているわけではありませんが、少しだけ高域が耳に早く届くイメージで味付けをしたのです。それが、MAVERICKカスタムの音場再現に寄与しています」と宮永氏は語る。MAVERICKユニバーサルでは実現できなかったこの音場再現を、7ヶ月かけてチューニングしたのだ。
実際に試聴してみて、MAVERICKカスタムの音場感は、数あるその長所の中でもことさら秀でたものだと感じた。音孔が鼓膜に近いことは聴感でもわかるのだが、そこから耳介の外側に向かって的確に各楽器が配置され、頭の外側へ音が自然に広がって行くような印象なのだ。
「音色のちがいはイヤホンだけの周波数特性では計れませんよね。だからMAVERICKカスタムは測定に頼ることなく、聴感テストをメインに音作りを行いました」(宮永氏)。
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