HOME > レビュー > Unique MelodyのカスタムIEM「MAVERICK」を導入した理由 - リスナーに寄り添うモニターサウンドとは?

開発の背景も担当者に聞いた

Unique MelodyのカスタムIEM「MAVERICK」を導入した理由 - リスナーに寄り添うモニターサウンドとは?

公開日 2015/09/18 16:49 編集部:小澤貴信
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
まずはAK380と組み合わせて最高峰のサウンドを確認する

それでは最後に、実際に私の手元に届いたMAVERICKカスタムを試聴しての印象について、詳しくレポートしたい。

ちなみにMAVERICKカスタムのインプレッション(耳型)は、宮永氏の薦めもあって東京・外苑前の「東京ヒアリングケアセンター」で採取した。同所は正確なインプレッション採取で定評がある。自分の耳に合わせて作られるカスタムIEMは、そもそも正確な耳型採取が品質の大前提となる。インプレッション採取を行う場所については、販売店などで相談した方がよいだろう。

まずはMAVERICKカスタムのポテンシャルを実感するためにAstell&Kern「AK380」を取り扱い元のアユートからお借りして組み合わせた。約50万円のハイレゾポータブルプレーヤーというのは私にとっては非現実的な組み合わせだが、宮永氏の「AK380との組み合わせのサウンドは聴いてみる価値があります」との言葉が気になってしまった。ちなみにMAVERICKカスタムの音作りは、AK380登場前ということもあり、AK240との組み合わせを中心に行ったとのことだった。

MAVERICKのサウンドは、解像感の高さは言わずもがな。しかし、細部の輪郭が浮き出すような平面的でモニターライクな高解像度とは異なる。その音を何よりも特徴づけるのは、「楽器や声の質感」と「立体的な音像と自然な音場の広がり」ではないだろうか。こうした特徴は、宮永氏の言う音質チューニングの成果であり、マルチドライバーながら位相管理を徹底していることによるものだろう。

Astell&Kern「AK380」と組み合わせたところ

そしてBA+ダイナミックの異種形式ドライバーによる低域は、適度な量感と立ち上がりの早さを両立する。前述したようにバスドラムやフロアタムは聴きどころで、他では味わえないリアルな質感を備えている。ベースギターは量感が控えめに感じる瞬間もあるが、音階は正確に聴き取ることができ、弦をピッキングするニュアンスまで表現する。ハイブリッド型ながら各帯域がシームレスに繋がる美点も強調しておきたい。

AK380との組み合わせではハイレゾを中心に聴いた。ノラ・ジョーンズ「Don't Knou Why」(192kHz/24bit)は、ギターやドラムなど各楽器の自然な響きの広がりが際立っている。一方で各楽器の分離が良く、音色もしっかり描き分ける。ベースはやはり量感より質感重視で、最低域までしっかり沈む。そもそもオンマイク気味なノラ・ジョーンズのボーカルは再生環境によってはちょっとノイジーに聞こえるが、本機は飽和させることなく、視覚的なイメージで描きだしてくれる。

パンチブラザーズ「Julep」(96kHz/24bit)は、冒頭のウッドベースでMAVERICKカスタムの強みが発揮される。アタックの立ち上がりの良さと、休符がつくり出す粘りが絶妙だ。ダイナミックドライバーが担っているであろう音色の自然さにも好感が持てる。

打ち込み系ではメトロノミー「HertBraker」(44.1kHz/16bit)を聴く。粘っこいベースのグルーブが印象的だ。シンセサイザーとボーカルによる中高域とのつながりも良い。この曲だけではないのだが、音の密度感が適度なのが好印象。各音の間に適度なスペースがあって、そこに気持ちよく余韻が広がるイメージだ。また高解像なのだが、耳に刺さるような感触がない。ここでも質感重視の再現が際立つ。

大げさな言い方になってしまうのだが、MAVERICKカスタムの音は私のイヤホン観をちょっと変えた。初めて作ったカスタムIEMという点を差し引いても、この音には驚かされた。

iPhoneで聴いたらその再現性は発揮できるのか

しかし、いくらAK380で良い音が聴けたとしても、それは非日常の話。自分の普段の環境では、MAVERICKカスタムのサウンドをどこまで引き出せるだろうか。最新世代「iPod touch」(私物iPhoneが「5s」なので、取材用により最新のiPod touchを使用)と、ハイレゾリスニング用のAstell&Kern「AK Jr」を用いて聴いてみた。

iPod touchについては、音楽再生アプリ「KaiserTone」を組み合わせた。AK380と比べれば、解像感やS/Nという点ではまったく別物になってしまう。しかし、MAVERICKの特徴と言える各楽器の音色や質感は十分に楽しめる。雑味が増える分、音には厚みが出て、むしろリラックスして聴ける音調だ。音場はAK380に比べると狭くなるが、自然な広がりは味わえる。駆動力の不足も全く感じない。

iPod touchと組み合わせたところ

iPod touchではむしろAK380と組み合わせたときとは異なった魅力が見えてくると感じた。宮永氏に確認したところ、MAVERICKカスタムのチューニングには、AK240と共に、iPhone 6も用いたのだという。

次にAstell&Kern「AK Jr」で聴くハイレゾを聴くと、各楽器の存在感が増して、音の密度が高くなる。一方でハイレゾ対応機ならではの繊細な余韻の美しさも楽しめる。AK380に比べると低域がふくよかになるのだが解像感は維持していて、屋外でのリスニングではこうした音調が特に好印象だった。

iPod touchとAK Jrで聴いてみて、自分のポータブル環境ではMAVERICKカスタムは鳴らしきれないのではという懸念は払拭できた。AK380で聴いた音は忘れがたいのだが、iPod touchでMAVERICKの魅力の本質が損なわれるとは感じなかった。

Astell&Kern「AK Jr」と組み合わせたところ

現状では、そのサウンドにこれといった不満は感じていない。音だけで考えれば、じっくりと試聴するときはもちろん、“ながら聴き”でもストレスを感じさせないのも本機の長所だ。ただし、カスタムIEMならではの耳への圧迫感や、極端な遮音性の高さ、着脱の手間という点では、日常的にはユニバーサル型イヤホンを併用することになるだろうと考えている。

◇◇◇


オーディオリスニングの王道を狙ったカスタムイヤホン

自分はこれまでカスタムIEMに対して、自分の耳型に最適化されたオーダーメイドである点には魅力を感じつつ、「プロ用ならではのモニターサウンド」は果たして自分には必要だろうかと考えていた。それがカスタムIEM導入に踏み切れなかった理由のひとつであった。

しかしMAVERICKカスタムは、忠実な再現性を確保した上で、音楽を楽しく聴かせてくれるカスタムIEMである。ミュージシャンのためのモニターサウンドではなく、よりリスナーに寄り添ったモニターサウンドを目指したという本機の意図は、特にその自然な音場や質感表現、低域再現において実感できる。

Unique Melodyの技術力と唯一無二な発想と、ミックスウェーブが第一線のカスタムIEMブランドとの交流の中で蓄積されたノウハウが高い次元で融合されたのがMAVERICKカスタムである。そして、本機はユニークなドライバー構成や音質チューニングを用いて、音質的にはオーディオリスニングの王道を狙った製品と言えるのではないだろうか。

前へ 1 2 3 4 5

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

トピック: