同一ドライバー機と比較試聴!
64 AUDIOのカスタムIEMはどれくらい変わった? 実際に作って聴き比べてみた
■耳に有害な音圧を外へ逃がすapexテクノロジーのキーパーソン
一番魅力的だったのが、開発者であるヴィタリー・ベロノズイコ氏が過去にサウンドエンジニアであり、音楽家だったということだ。かつて採用されたADELテクノロジーは、ワイヤレスIEM技術の生みの親ともいえるスティーブン・アンブローズ氏との協同開発で誕生したもので、今回採用されたapexテクノロジーは同社のCEOであるヴィタリー・ベロノズイコ氏がユーザーからの意見を元に改良を施したものだ。
iPod以降、プレーヤーに膨大な楽曲を入れて持ち運ぶことが可能となったことで、音楽をイヤホンやヘッドホンで聴く時間は以前よりも圧倒的に長くなった。その半面で懸念されるのが難聴である。かねてより音に密接に関わる生活を送ってきたベロノズイコ氏が、このことを危惧したことは想像に難くない。apexテクノロジーには、そんなベロノズイコ氏のマインドが感じられたのだ。
このapexテクノロジーは「Air Pressure Exchange」の略。IEM側に音圧を逃がすためのモジュール(これが「第二の鼓膜」)を用いて、耳に有害な音圧を抑えつつ広い音場の確保を実現した。実は以前のADELテクノロジー採用機も聴いたことがあるのだが、進化したapexテクノロジーを採用したIEMを聴いた時に、「どこまでも伸びる低域」を実感できたことに驚いた。当初はピンとこなかった「第二の鼓膜」のサウンドを、自分自身の体験として納得できたことも大きかった。
1964 EARS時代の魅力は第一に「ハイコストパフォーマンス」というのがあったのも事実だが、64AUDIOはそれとは大きく異なり、あくまでハイエンドIEMの開発を前提としている。基本的な音の傾向は個人的にも気に入っていたが、「さらなるアップグレードを」と思った時は一般的なカスタムIEMの場合はブランドを変えるか、ドライバーを増やすかという選択肢しかなかった。
しかし、ドライバーの数を増やしてレンジを稼ぐよりも、それぞれのドライバーのつながりやバランスを重視する筆者にとって、以前制作した4ドライバーモデルは魅力的なものだった。いまでは1964 EARSブランドでの製品展開は終了しているようだが、あくまでも筆者の場合は基本的な構造を変えずにそのままアップグレードできるといったこともポイントとなったのである。
さて、そうして出来上がってきたのが、「A4」である。ここでは以前に制作した1964 EARSの4ドライバーモデル「1964-Q」からどのような進化を見せているのかを中心にご紹介したい。