HOME > レビュー > 【第175回】音楽の言葉、オーディオの言葉

[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第175回】音楽の言葉、オーディオの言葉

公開日 2017/01/13 10:30 高橋 敦
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

「限らない」という部分も大切だ。ベースではなくそもそも高い音程を鳴らす楽器だったりすれば、その楽器の倍音は本当に超高域と呼んで差し支えないような周波数でも鳴っている。「倍音=超高音ではない」であって、「倍音は超高音ではない」ではないのだ。

しかし単なる誤用も含め、「現実問題、超高音という意味で倍音という言葉が使われている例も多い」ことも見落とすわけにいかない。オーディオの話で「倍音」という言葉が出てきた場合、話の流れなどからそこら辺は察していこう。

音楽における「倍音」は、もちろん音響的な意味そのままでも意識されているが、倍音を抽出・強調した音色を鳴らす技法において特に意識されることも多い。「ハーモニクス奏法」「フラジオレット奏法」「オーバーブロー奏法」などと呼ばれるものだ。

例えばギターの場合、5弦は一般的にはA=440Hzに調律される。それをそのまま弾いた時のAの音は、440Hzに様々な倍音が積み重なって生まれるもので、その積み重なり方がそのギターの音色の個性だ。

普通にピッキングしてその音を鳴らした後に、あるいは鳴らすと同時に、その張られている弦の両端の支点のちょうど中間、12フレット上で弦に触れると、2倍音、つまり一つ上のオクターブのAの音である880Hzが表に出てくる。同じく1/3の点でなら3倍音、1/4の点なら4倍音。

この技法で鳴らされた音は、単に基音よりオクターブが上がった音というだけではなく、その上に積み重なる倍音が大幅に減少し、倍音を含まない純音に近付く。また通常の奏法ではその楽器のそのポジションでは出せない高い音程を出せることもポイント。様々な意味から音楽表現の幅を広げられる奏法だ。

ところで、先ほどからさらりと使っている「基音」も、「倍音」と並べてオーディオでもしばしば使われている言葉なので、そちらも軽く押さえておくと良いかもしれない。

諸々説明してきたが「倍音」という言葉をオーディオにおいてどう扱うべきか?ということについては、前述で説明した以下の二点、
「本来は超高域など特定の周波数を指し示す言葉ではない」
「しかし超高域という意味に誤用されていることもある」

を押さえておけば良いのではないだろうかと思う。自分自身は誤用しないように注意しつつ、誤用に出会ったらそこは察して自分の側で解釈を整えて受け取っておこう。

次ページ多種多様な意味を持つ「ノイズ」と「歪み」

前へ 1 2 3 4 5 6 7 次へ

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE