HOME > レビュー > 【第201回】これを読めばBluetoohの規格/用語/注目点が分かる! BTオーディオの基礎知識 2018

[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第201回】これを読めばBluetoohの規格/用語/注目点が分かる! BTオーディオの基礎知識 2018

公開日 2018/01/19 09:30 高橋 敦
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

例えば再生中に両耳を手で覆ってみると、この方式を採用するほとんどの製品で接続が途切れて音が途切れる。これは、「Bluetoothの電波は人間の身体を通り抜けられない」ため、左右の接続は電波をユーザーの頭の周囲を回り込ませるようにして行われているからだ。そしてその回り込んでいる電波は手のひら一枚で遮断されるほどのものである。人混みと電波に囲まれる満員電車などにおいて、本方式の完全ワイヤレスの接続が不安定になりがちなのは、おそらくそのせいだろう。

しかし、そこがメーカーの発想や腕の見せ所でもある。例えばイヤホンとしての装着感や外観を損なわない範囲で、いかに「アンテナ」を大型化し、そして頭を回り込みやすい場所に配置するかなど、設計の工夫によってかなりの安定性を備えた製品も出始めてきている。発売後のファームウェアアップデートで安定性を高めた例もあるので、ソフトウェア制御でも差を出せるようだ。

ということで、一概に「左右連結方式は不安定」というわけではない。それぞれの製品をしっかりチェックする必要がある。

Bluetooth 左右個別方式(仮)

名称は本記事における便宜上のもの。こちらも英語っぽくするなら「Bluetooth LR Individual(BtLRI)」方式とかだろうか(LとIって少し紛らわしいが…)。

クアルコムは、イヤホンの左右両方にBluetoothモジュールを搭載し、スマートフォン等から左のイヤホンには左、右のイヤホンには右のオーディオ信号を伝送し、左右個別の接続方式を実現するという完全ワイヤレスイヤホンのための新SoC「QCC5100」を発表した(関連記事「<CES>クアルコム担当者に聞いた、「完全ワイヤレスイヤホンに革命をもたらす新チップ」とは」)。

新チップは、接続の安定性・消費電力・レイテンシーなど全ての面においてメリットがあるとのことなので、今後要注目だ。

近距離磁気誘導(NFMI)/MiGLO

電波ではなく近距離磁気誘導という原理を利用して、人間の頭を通り抜けて左右の伝送を行う方式。NXP社の「MiGLO」技術がその代表であり、各社製品への採用例も増えつつある。Bluetoothに対して、周辺環境等からの影響を受けにくく接続の安定性に優れ、また消費電力、さらにはレイテンシーの面でも優位とのこと。

実際に現時点では、この技術を採用している製品は全般に、安定性とレイテンシーの面においては特に高水準な印象。

レイテンシー(遅延)

完全ワイヤレスに限らず、Bluetoothオーディオ全般の課題としてのレイテンシー(遅延)。例えば「動画再生時に映像から声が少し遅れて聞こえる」という形で問題となっている。

音楽の映像作品で口や演奏の手元と音がずれるのは当たり前、レイテンシーが特に大きな製品となると、トーク番組での身振り手振りと声が明らかにずれることもある。「_あれあれ_声が_遅れて_聞こえるよ」という状態だ。音ゲーともなれば、0.1秒や0.2秒だなんて“巨大な”遅延があればゲームが成り立たないことだろう。0.125秒はBPM120の曲における16分音符にあたる、つまり音符1個分もずれるわけだ。

現時点での完全ワイヤレスは、そうではない普通のBluetoothイヤホンと比べても、全体にレイテンシーがさらに大きい傾向と感じる。推測だが、左右間の伝送でもレイテンシーが発生し、そこで遅れる分を遅れる側に合わせて同期する必要があるためではないだろうか。

また、その同期が不安定で左右の発音タイミングがずれてしまいがち…という製品も、残念ながら完全ワイヤレス黎明期の現在ではいくつか見受けられる。Bluetooth全般での「再生ソースに対しての遅延」という問題の他、完全ワイヤレスでは「左右間の遅延」も問題として表面化する場合があるということだ。ここも注意しておきたい。

しかし前述のaptX LL、NFMI、左右個別接続など、メーカー側もこの課題への具体的な取り組みを進めており、改善は進むと期待して良いだろう。さすがに音ゲーに関しては、まだしばらく有線でないと対応できないだろうが…。

Apple W1チップ

Appleが「AirPods」、そして傘下のBeatsの最新世代製品に搭載しているワイヤレスオーディオチップ。iPhoneとiPad、MacといったApple製品との組み合わせにおいて、ペアリングの超簡略化、iPhoneでの音楽鑑賞からiPadでの動画鑑賞へといった場面でのシームレスな切り替え、そして低消費電力など、使い勝手の面での大きなメリットを実現する。

…のだが、最初に述べたようにAppleとBeatsのイヤホンやヘッドホンにしか搭載されておらず、製品の選択肢が少なすぎる。iCloudが絡むようなのでセキュリティ等の面からも難しいのかもしれないが、Lightningチップと同じように、サードパーティへの提供も期待したい。

Google Fast Pair

GoogleがAndroid向けに提供し始めた新機能。AppleのW1ほど広範なメリットをもたらすものではないが、ペアリングの簡略化というところでは同等レベルに便利。

そしてこの機能はBluetooth LEとGoogleのクラウド処理のみで実現されており、特別なチップの追加搭載等は必要なし。加えてGoogleはAppleとは異なり、今後幅広くパートナーを求めていく方針のようだ。発展を期待したい。

高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi
趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。


[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域 バックナンバーはこちら

前へ 1 2 3 4 5

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE