[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第216回】声DAP×声ホン×声ソンで大スクランブルテストッ!A&norma SR15と声イヤホンを声優ソングで聴きまくる
■山崎エリイさん「全部キミのせいだ」
SR15とのコンビネーションで山崎エリイさん「全部キミのせいだ」の魅力を最も引き出した優勝イヤホンは……
Ar;tio RK01!
優勝の決め手は、エリイさんの声と歌、この曲のアレンジ、すべての要素とのマッチングに優れていたこと。「エリイホン」である以上に、「全部キミのせいだホン」であると言えるかもしれない。そして実は「十代交響曲ホン」としてもおすすめ。それらを含めて評価点を説明しよう。
こちらは山崎エリイさんのデビューアルバムのリードトラックなのだが、この時点でもう、歌の細かな表現がすごい。
例えばまずは冒頭、
歌の第一印象となる第一声のフレーズ、「突然夢を見た 準備ができてないよ」に注目!
「突然」の「ん」を母音の響きに素直に沈ませるのに対して、「見た」の「た」は母音「あ」の響きをさらに強めた明るさで高域側に抜く、ここまではスタッカート気味。
そこから「準備が」の「が」は、母音の「あ」を強調して瞬間的にしゃくりあげ、「ないよ」の「よ」は沈めるでも抜くでもなく、すっと真横に伸ばしながらの綺麗なビブラート。
この一瞬のワンフレーズの歌い回しに、
「突然への戸惑い」
「見た夢への喜び」
「準備ができてないことへの動揺」
「でもやっぱり嬉しい……かも」
みたいな感情の揺れ動きを詰め込んでいる。
その間、実に5秒!!!これが当時もうじき19歳を迎えようとしていた少女、山崎エリイ、デビューアルバムでの姿である!!
しゃくりやビブラートは今時カラオケの採点システムだって理解している技術だが、肝心なのはその技術をどのタイミングで何のために使うのか。表現技術の技術は手段であり、目的は表現。歌の意味合いを引き出すタイミングに投入し、使いこなすのが歌い手の力量だ。
エリイさんは若くして意識的にか感覚的にか、それを理解し使いこなしている。松田聖子さんの大ファンとのことで、歌謡曲としてのニュアンスも色濃く残していた当時のポップスの影響を自然と受けているのかもしれない。この世代なのにその雰囲気を備えることは、山崎エリイという歌い手の稀有な個性であり、この点はイヤホン側でもぜひ強く生かしたいところだ。
一方この曲、歌い回しは極めて繊細だが、曲調やアレンジに注目するとその華やかさも生かしたい。特にサビ周辺でのキラキラ感は、そこで盛り上がることでそこまでの繊細な表現も改めて際立つ。なのでそのキラキラ感、楽器を明るく適度にシャープに表現する高域というのも、この曲の再生にはほしいところ。
それらを全クリアしたのがRK01を今回優勝の「エリイホン」として讃えたい。…とはいえこの曲でも、特定のポイントを見れば「ここはこっちのイヤホンの方が良い!」というところもある。
E5000は実は、声の感触や歌の表現だけを見れば優勝クラスの実力者だ。なので同じ山崎エリイさんでも、他の曲や記事公開時には発売されているであろう新曲「Starlight」であったら、このイヤホンが優勝していたかもしれない。
しかしこの曲のサウンドとの相性がよろしくなかった。ベースのゴリゴリとした感触が強く出すぎてしまい、その主張の強さが歌と拮抗してしまうのだ。エリイさんに限らず、他の多くの曲ではベースのゴリゴリが目立つことはないので、ピンポイントでこの曲のベースとの相性問題だろう。
CW-U12aEXは、エリイさんの表現はもちろん、声そのもののナチュラルかわいい感じの描き出し方においては、最も優れているかもしれない。ありのままのかわいさだ。ただ、声も楽器も全体をうまくなじませるところが持ち味なこのイヤホン。キラキラした音も全体に素直になじませる傾向で、パッと目立って輝くアクセント的なコントラストは弱め。この曲については、もっと華やかな描き方の方が合うか。
ESTは歌の表現の機微を正確、かつ神経質にはせずに届けてくれるというところでは、誰のどの曲でも安定した力を発揮。その上でこの曲では、歌を後ろから彩る背景の描き方に優れ、それによってエリイさんの歌の魅力をさらにぐっと押し上げてくれるところが好印象。キラキラと強い輝きっぷりではないのだが、細かな音の一つ一つまで丁寧に描き出し、それでいて存在感のバランスは崩さずあくまでも歌が主役。背景美術として理想的だ。
W80はこれだけ別枠というか、サウンドのキラキラ感がどうとかはどうでもよくなるくらい、エリイさんの声がより耳元で、より大柄に、より肉声的に聴こえてくる。曲全体として評価するならこれはあまりよろしくないかもしれないが、だがしかし!かわいい!!!
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