公開日 2011/05/12 11:01
Antelope AudioエンジニアLevin氏インタビュー − DAコンバーター「ZODIAC GOLD」の誕生背景
自社開発の高精度クロック&USBチップを搭載
英Antelope Audio(アンテロープ・オーディオ)社が初のコンシューマー・オーディオ製品となる、DAコンバーター内蔵ヘッドホンアンプ「ZODIAC GOLD」を完成させた。独自開発のUSBチップを搭載し、最大384kHzまでのストリーム再生に対応する本機は、専用の電源ユニット「VOLTIKUS」とともに、5月中旬に(株)フックアップを通じて日本国内で発売される。
今回は本機の開発者である、Antelope Audio社のFounder兼CEOのIgor Levin氏に、Antelope Audioブランドの開発コンセプトや、新製品の魅力についてインタビューを行った。
<インタビュー:音元出版オーディオアクセサリー編集部>
ー Antelope Audioの歴史からお聞かせ下さい。
Levin氏:Antelope Audio社の前身は、私が1990年代に設立したAardvark社に遡ります。当時はコンピューターの様々な技術が成熟しはじめてきており、コンピューターを使ったデジタルオーディオの可能性についても次第に注目が集まっていました。そんな中で私は、デジタルオーディオの高音質化のカギは高精度な“クロック”を追求することと考え、主にオーディオ用途のマスタークロックの製作に力を入れて取り組んでいました。
当時、プロフェッショナルオーディオのスタジオワークにおいて、デジタルオーディオはクロックの質がまだまだと言われていました。一方ではクロックの精度が、完成作品の音質に、およそ70%を占める影響を及ぼすということも指摘されていたのです。その頃は大手メーカーの製品ですら、クロックの性能についてはまだ信頼度が低く、当時から20年が経過した今でも、クロックの精度は基本的にまだまだ発展途上と私は思っています。一般のオーディオファイルの方々にも、デジタルオーディオにおけるクロック精度の重要性については、まだ認識が十分であるとは言えないのではないでしょうか。
デジタルオーディオは、PLL回路を使っているが故にジッターが発生すると言われていました。これを本格的なオーディオ用として最適化していく開発作業には多くの困難がありました。正しくデザインされていない回路は、大きなジッター発生の原因になります。そこで、私は自ら研究してきたデジタル・クロックの技術を投入したマスタークロック・ジェネレーター「AardSync」を自社で開発し、製品化しました。本機を発売したところ、世界のエンジニアから大きな反響があり、アメリカでは大手マスタリングスタジオやハリウッドのフィルムスタジオなどにも採用され、今もなお大事に使っていただいています。
ー その後、オーディオ製品の開発はどのように展開していったのでしょうか。
Levin氏:デジタルオーディオの製品を開発している段階で、私は当初、ジッターは“除去すること”が最も重要と考えていました。ところが開発を進めていく中で、ジッターは除去するだけでなく“うまくコントロールする”ことが、高品質なデジタルオーディオのサウンドに繋がっていくという考え方に変わっていきました。その頃、第2弾の製品となるクロック・ジェネレーターである「AardSync2」が誕生したのです。
オーディオ用デジタルクロックの技術、製品の開発が軌道に乗り、2002年にAntelope Audio社を設立しました。現在Antelope Audioブランドから販売しているマスタークロック・ジェネレーター「ISOCHRONE OCX」は、私にとって“3代目”のクロック・ジェネレーター製品に当たるモデルです。低ジッターのクロック発生器を研究していく段階で、クリスタルクロックやオーブンクロックを採用する製品も開発してきましたが、その後、より高精度なルビジウム・アトミックジェネレーターに到達し、これを採用した製品がAntelope Audioの「ISOCHRONE 10M」になります。そのクロック精度はクリスタルの約1万倍に匹敵し、かつ安定性にも優れているという長所があります。
近年、多くのデジタルオーディオ製品はジッターの除去性能の高さを魅力としてアピールしていますが、ジッターの問題は実際にはそれほど単純ではありません。とにかく全てのジッターを取り除けば良いというものではないのです。また、もちろん堅牢なアルミ筐体を用意すれば解決できるような簡単な問題でもありません。高精度なクロックを作り出すことと、成熟したジッター管理のノウハウこそが大事なのです。
トランジスター方式と真空管方式のオーディオアンプによる比較を例に挙げてみましょう。真空管と比較すると、トランジスターを使ったアンプの方が、スペック的には、より歪率において高い性能を出せますが、だからと言って、必ずしもトランジスターのアンプが全て真空管のアンプよりも音が良いということにはなりません。音質の善し悪しは、スペック的な数値だけでは語れるものではないのです。
オーディオ製品の良きエンジニアであるということは、良き料理人であることに似ていると私は思います。ジッターには良いジッターと悪いジッターがあって、オーディオ回路をデザインする際、良いジッターのオーディオ的な効果を十分に活かしながら、いかにして音を作り込んで行くかという手腕が大事になります。オーディオにおけるジッター調整のテクニックついては、すぐにノウハウが得られるものではありません。ジッターの性質に対して常に疑問を投げかけながら、開発経験を重ねて行くことでしか修得できないないものであり、ジッターのハンドリングや“味付け”に関する豊富な経験がAntelope Audioの強みです。
ー 新製品「ZODIAC GOLD」の魅力と、本機で高品位なデジタルオーディオを楽しむためのベストな環境を教えてください。
Levin氏:オーディオのマスタークロック・ジェネレーターとDAコンバーターは、一般的には別々のコンポーネントを組み合わせて使うことが多いと思いますが、Antelope Audioではこれらを一体型の製品にすることで、よりオーディオ的にハイクオリティな製品をつくることができると考えました。個別のコンポーネントどうしの組み合わせでは、例えばDAコンバーターの性能がクロック・ジェネレーターの性能に追いつけなかったり、あるいは接続ケーブルの所でロスが生じたりということがあります。Antelope Audioの「ZODIAC GOLD」は、当社の第4世代クロックジェネレーター「TRINITY」の高性能なクロックを性能を備えながら、DAコンバーターとしてのパフォーマンスをベストに発揮できる一体型モデルです。
本機に搭載したUSBチップは、Antelope AudioがPCオーディオのサウンドクオリティーのために、独自に開発したものです。このチップはデジタル音源を480Mbpsでストリーミングし、ネイティブドライバーで最大384kHzのサンプルレートに対応しています。
当社製品のサウンドコンセプトは「音に余計な色づけをしない」製品であるということです。DAコンバーターはマスタリングに用いるメインの製品なので、サウンドに余計な色付けをしてはなりません。エンジニアの製作したサウンドを、ピュアに、忠実に再現できることが最も大事なことです。当社のDAコンバーターをお使いいただいたエンジニアの方々からは“今まで聴こえなかった音が聴こえる”という評判を多くいただきます。中にはAntelope Audioの製品を使って、自作のマスタリングを再度やり直した方も実際にいるほどです。
ZODIAC GOLDでハイクオリティなデジタルオーディオを楽しんでいただくために、いくつかおすすめしたい環境設定があります。まず、まだ製品数はそう多くありませんが、USB3.0のポートを搭載したパソコンと組み合わせていただくと、ZODIAC GOLDのパフォーマンスが十分に発揮されます。USB2.0では480Mbpsの伝送に対応していません。USB3.0はより高速・大容量のデータ伝送に対応しているので、仮にケーブルがUSB2.0対応であっても、より安定した信号伝送が可能です。また、パソコンにアンチウィルスソフトなどをインストールしている場合は、オーディオに悪い影響を与えてしまいますので、ぜひアンインストールをお願いします。
DAコンバーターからのオーディオ出力はバランス接続で伝送した方が、グラウンドループの影響をより一層回避でき、有利です。ZODIAC GOLDはバランス、アンバランス両方の接続に対応しています。
より高品位な電源を供給することも大事な要素になります。多くのオーディオ機器はグランドループの問題を抱えています。そこでZODIAC GOLDでは、専用電源ユニットの「VOLTIKUS」を開発し、本機との組み合わせを推奨しています。本機ではグラウンド/リフトの選択スイッチを搭載していますので、これを切り替えて使うことによってグラウンドループの影響が回避できます。
パソコンから本機をコントロールできるよう、Windows/Macintosh/Linuxの各OSに対応するバーチャルコントローラーも用意しました。またファームウェアのアップグレードにも対応していますので、ソフトの更新を行うことで、最新のOSやUSBインターフェースの環境に最適な状態で、本機を楽しんでいただけると思います。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Antelope Audioの新製品「ZODIAC GOLD」、「VOLTIKUS」によるデモンストレーションは、5月13日から東京有楽町「東京交通会館」で開催されるハイエンドショウ東京2011スプリングに出展する(株)フックアップのブースでも体験することができる。ぜひ会場に足を運んでみて欲しい。
【Antelope Audio製品に関する問い合わせ先】
(株)フックアップ
TEL/03-6420-1213
今回は本機の開発者である、Antelope Audio社のFounder兼CEOのIgor Levin氏に、Antelope Audioブランドの開発コンセプトや、新製品の魅力についてインタビューを行った。
<インタビュー:音元出版オーディオアクセサリー編集部>
ー Antelope Audioの歴史からお聞かせ下さい。
Levin氏:Antelope Audio社の前身は、私が1990年代に設立したAardvark社に遡ります。当時はコンピューターの様々な技術が成熟しはじめてきており、コンピューターを使ったデジタルオーディオの可能性についても次第に注目が集まっていました。そんな中で私は、デジタルオーディオの高音質化のカギは高精度な“クロック”を追求することと考え、主にオーディオ用途のマスタークロックの製作に力を入れて取り組んでいました。
当時、プロフェッショナルオーディオのスタジオワークにおいて、デジタルオーディオはクロックの質がまだまだと言われていました。一方ではクロックの精度が、完成作品の音質に、およそ70%を占める影響を及ぼすということも指摘されていたのです。その頃は大手メーカーの製品ですら、クロックの性能についてはまだ信頼度が低く、当時から20年が経過した今でも、クロックの精度は基本的にまだまだ発展途上と私は思っています。一般のオーディオファイルの方々にも、デジタルオーディオにおけるクロック精度の重要性については、まだ認識が十分であるとは言えないのではないでしょうか。
デジタルオーディオは、PLL回路を使っているが故にジッターが発生すると言われていました。これを本格的なオーディオ用として最適化していく開発作業には多くの困難がありました。正しくデザインされていない回路は、大きなジッター発生の原因になります。そこで、私は自ら研究してきたデジタル・クロックの技術を投入したマスタークロック・ジェネレーター「AardSync」を自社で開発し、製品化しました。本機を発売したところ、世界のエンジニアから大きな反響があり、アメリカでは大手マスタリングスタジオやハリウッドのフィルムスタジオなどにも採用され、今もなお大事に使っていただいています。
ー その後、オーディオ製品の開発はどのように展開していったのでしょうか。
オーディオ用デジタルクロックの技術、製品の開発が軌道に乗り、2002年にAntelope Audio社を設立しました。現在Antelope Audioブランドから販売しているマスタークロック・ジェネレーター「ISOCHRONE OCX」は、私にとって“3代目”のクロック・ジェネレーター製品に当たるモデルです。低ジッターのクロック発生器を研究していく段階で、クリスタルクロックやオーブンクロックを採用する製品も開発してきましたが、その後、より高精度なルビジウム・アトミックジェネレーターに到達し、これを採用した製品がAntelope Audioの「ISOCHRONE 10M」になります。そのクロック精度はクリスタルの約1万倍に匹敵し、かつ安定性にも優れているという長所があります。
近年、多くのデジタルオーディオ製品はジッターの除去性能の高さを魅力としてアピールしていますが、ジッターの問題は実際にはそれほど単純ではありません。とにかく全てのジッターを取り除けば良いというものではないのです。また、もちろん堅牢なアルミ筐体を用意すれば解決できるような簡単な問題でもありません。高精度なクロックを作り出すことと、成熟したジッター管理のノウハウこそが大事なのです。
トランジスター方式と真空管方式のオーディオアンプによる比較を例に挙げてみましょう。真空管と比較すると、トランジスターを使ったアンプの方が、スペック的には、より歪率において高い性能を出せますが、だからと言って、必ずしもトランジスターのアンプが全て真空管のアンプよりも音が良いということにはなりません。音質の善し悪しは、スペック的な数値だけでは語れるものではないのです。
オーディオ製品の良きエンジニアであるということは、良き料理人であることに似ていると私は思います。ジッターには良いジッターと悪いジッターがあって、オーディオ回路をデザインする際、良いジッターのオーディオ的な効果を十分に活かしながら、いかにして音を作り込んで行くかという手腕が大事になります。オーディオにおけるジッター調整のテクニックついては、すぐにノウハウが得られるものではありません。ジッターの性質に対して常に疑問を投げかけながら、開発経験を重ねて行くことでしか修得できないないものであり、ジッターのハンドリングや“味付け”に関する豊富な経験がAntelope Audioの強みです。
ー 新製品「ZODIAC GOLD」の魅力と、本機で高品位なデジタルオーディオを楽しむためのベストな環境を教えてください。
Levin氏:オーディオのマスタークロック・ジェネレーターとDAコンバーターは、一般的には別々のコンポーネントを組み合わせて使うことが多いと思いますが、Antelope Audioではこれらを一体型の製品にすることで、よりオーディオ的にハイクオリティな製品をつくることができると考えました。個別のコンポーネントどうしの組み合わせでは、例えばDAコンバーターの性能がクロック・ジェネレーターの性能に追いつけなかったり、あるいは接続ケーブルの所でロスが生じたりということがあります。Antelope Audioの「ZODIAC GOLD」は、当社の第4世代クロックジェネレーター「TRINITY」の高性能なクロックを性能を備えながら、DAコンバーターとしてのパフォーマンスをベストに発揮できる一体型モデルです。
本機に搭載したUSBチップは、Antelope AudioがPCオーディオのサウンドクオリティーのために、独自に開発したものです。このチップはデジタル音源を480Mbpsでストリーミングし、ネイティブドライバーで最大384kHzのサンプルレートに対応しています。
当社製品のサウンドコンセプトは「音に余計な色づけをしない」製品であるということです。DAコンバーターはマスタリングに用いるメインの製品なので、サウンドに余計な色付けをしてはなりません。エンジニアの製作したサウンドを、ピュアに、忠実に再現できることが最も大事なことです。当社のDAコンバーターをお使いいただいたエンジニアの方々からは“今まで聴こえなかった音が聴こえる”という評判を多くいただきます。中にはAntelope Audioの製品を使って、自作のマスタリングを再度やり直した方も実際にいるほどです。
ZODIAC GOLDでハイクオリティなデジタルオーディオを楽しんでいただくために、いくつかおすすめしたい環境設定があります。まず、まだ製品数はそう多くありませんが、USB3.0のポートを搭載したパソコンと組み合わせていただくと、ZODIAC GOLDのパフォーマンスが十分に発揮されます。USB2.0では480Mbpsの伝送に対応していません。USB3.0はより高速・大容量のデータ伝送に対応しているので、仮にケーブルがUSB2.0対応であっても、より安定した信号伝送が可能です。また、パソコンにアンチウィルスソフトなどをインストールしている場合は、オーディオに悪い影響を与えてしまいますので、ぜひアンインストールをお願いします。
DAコンバーターからのオーディオ出力はバランス接続で伝送した方が、グラウンドループの影響をより一層回避でき、有利です。ZODIAC GOLDはバランス、アンバランス両方の接続に対応しています。
より高品位な電源を供給することも大事な要素になります。多くのオーディオ機器はグランドループの問題を抱えています。そこでZODIAC GOLDでは、専用電源ユニットの「VOLTIKUS」を開発し、本機との組み合わせを推奨しています。本機ではグラウンド/リフトの選択スイッチを搭載していますので、これを切り替えて使うことによってグラウンドループの影響が回避できます。
パソコンから本機をコントロールできるよう、Windows/Macintosh/Linuxの各OSに対応するバーチャルコントローラーも用意しました。またファームウェアのアップグレードにも対応していますので、ソフトの更新を行うことで、最新のOSやUSBインターフェースの環境に最適な状態で、本機を楽しんでいただけると思います。
Antelope Audioの新製品「ZODIAC GOLD」、「VOLTIKUS」によるデモンストレーションは、5月13日から東京有楽町「東京交通会館」で開催されるハイエンドショウ東京2011スプリングに出展する(株)フックアップのブースでも体験することができる。ぜひ会場に足を運んでみて欲しい。
【Antelope Audio製品に関する問い合わせ先】
(株)フックアップ
TEL/03-6420-1213
関連リンク
クローズアップCLOSEUP
-
高音質と機能性を両立する新たなスタンダード機!AVIOT完全ワイヤレス「TE-V1R」レビュー
-
初めてのスクリーンなら シアターハウス「WCBシリーズ」が推し!高コスパで“王道シアター”
-
ファッション性と機能性のバランスが抜群なヘッドホンAVIOT「WA-Q1」レビュー
-
【読者限定割引クーポンあり】多彩なコーデックと強力なANCで快適リスニング!「EarFun Air Pro 4」レビュー
-
ソニーの新ながら聴きイヤホン「LinkBuds Fit」徹底レビュー!スピーカーとも連携
-
ソニー「BRAVIA Theatre Quad」“本格”シアターを“手軽に”実現
-
ソニー「BRAVIA Theatre Bar 9/Bar 8」は「リビングシアターの理想形」
アクセスランキング
RANKING
11/21 10:37 更新