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公開日 2013/12/25 13:05

初音ミクの生みの親、伊藤博之氏に聞くヘッドホン/イヤホンへのこだわり

【特別企画】ゼンハイザー最新モデルを試聴
構成:編集部
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いまや老若男女に親しまれるようになった、ボーカロイドムーブメントの火付け役である「初音ミク」。2013年夏にはアリーナでコンサートを行ったり、パリでオペラ公演を行ったりなど、その活躍はとどまることを知らない。

その初音ミクの“生みの親”といえば、クリプトン・フューチャー・メディア(株)の社長である伊藤博之氏。功績が認められ、2013年の藍綬褒章を受章した。今回、札幌にある同社オフィスを訪ね、伊藤氏に音へのこだわり、そしてヘッドホンなど最新オーディオ機器への感想などを語っていただいた。

クリプトン・フューチャー・メディア(株)社長の伊藤博之氏

ボーカロイドムーブメントの火付け役である初音ミク。 illustration by iXima (C) Crypton Future Media, INC. www.piapro.net

95年の創業以来「音」にフォーカスしてきた

伊藤氏はまず、同社の事業内容についてこう説明してくれた。

「おかげさまで初音ミクについて取り上げていただく機会が多いのですが、我々が行っている事業はそれだけではありません。創業した1995年から18年間、一つのこと、つまり『音』にフォーカスし、事業を展開してきました」。

同社のサイトにアクセスすると、伊藤氏の思いが良く理解できる。まず会社のキャッチコピーは「音で発想するチーム」。なによりも音にこだわっていることが、ストレートに伝わってくる。そして事業紹介のコーナーでは「サウンド素材・ソフト音源」が一番目に挙げられている。ちなみに初音ミクに代表される「キャラクター」事業は4番目だ。

「我々は音の素材、材料を提供する会社です。映画であれドラマであれ、動画コンテンツを作る際には音が必須となります。効果音などについても、サンプリングデータを使って作品を作り上げることが必要になってきます。我々は世界的にも有数な規模のダウンロードサイトを運営しており、音源の質の高さや量の豊富さをご評価頂いています」と自信を見せる。

ネットとPC、そしてクリプトンの音源でコンテンツ制作が激変


こういった音素材の制作・販売事業は、創業当初から同社の基幹事業だった。「創業した1995年頃を境目に、録音環境は大きく変わりました。それまでは音源制作にコンピュータが使われることは稀で、ソニーやスチューダーの機材を使って原盤を作っていました」。

だが、ソニーやスチューダーの録音機材は、当然ながら一般家庭に置くことはできない。また非常に高価なため、限られた人しか使えない。

「1995年はWindows 95が発売された年です。多くのインターネットプロバイダーが登場し、PCやインターネットが、一般の方々にとって身近なものになりました。それにともなって、音作りに関する状況も劇的に変わりました。1995年以降は映画やドラマ、ゲーム、そしてもちろん音楽など、あらゆるコンテンツをパソコンで制作することがスタンダードになりました。一般の方々も、コンピューターを使って手軽に音楽を作れるようになったのです。その象徴の一つが初音ミクと言えるのではないでしょうか」。

クリプトン・フューチャー・メディアの活躍により、一般ユーザーが楽曲を作り、それにボーカロイドによる歌声も乗せることができるようになった。そのインパクトは計り知れないが、伊藤氏はネットとPCを活用して音楽制作するもう一つのメリットとして、地理的なハードルを越えられる点を強調する。「東京でも札幌でも、もっと田舎にお住まいの方でも、同じ条件で制作できる。みんなに平等にチャンスがある。非常に民主的になったと思いますね」。

音のクオリティに対する強いこだわり

さて、一般ユーザー向けの製品の知名度が高い同社だが、顧客の多くはプロのクリエイターだ。それだけに、クオリティに対するこだわりは非常に強い。「ハリウッドのメジャースタジオと同等のクオリティの音源を提供しています。スタジオについても、ハリウッドと同レベルのMAスタジオをご提供しています」と胸を張る。

「効果音は、クオリティを問わなければiPhoneでも作れます。ただしそれでは品質が伴いません。音もピンからキリまでありますが、我々は世界のライブラリーの中でもトップクラスのものを用意し、データベース化して、オンラインで配信しています」。

イヤホンはゼンハイザー「IE 80」を愛用中

さて、ここまで強く音にこだわり、音を生業にしている伊藤氏。ふだんはどういったイヤホン、ヘッドホンを使っているのだろうか。

伊藤氏がふだん使っているイヤホンは、ゼンハイザーの「IE 80」で、約1年前から愛用している。それまで使っていたモデルも高価格帯の製品だったが、「IE 80に変えたら、こっちの方が断然良いなと思ったんです」。

店頭ではふだん聴いている音楽を再生し、じっくりと時間をかけて選んだという。

「ふだんiPhoneに入れているのは、アダルトな曲が多いんです。ジャズとかAOR、リズムがしっかりとしたロックが好みですね。店頭でもスティーリー・ダンなどをレファレンスにして音を聴き込みました」。

その結果、IE 80の良さが浮き彫りになったという。「真ん中から下がずっしりしていて、まずはそこが良いな、と。ジャズではギターの音に注意して聴いたのですが、IE 80ではフレットの擦れ、指使いなどまで再現され、繊細さとがっしりさが両立していると感じました」。こうしてIE 80の音に出会ってからは、もっぱらIE 80をポータブルリスニングに愛用しているという。

ゼンハイザーについては「玄人受けするブランド」というイメージを持っていたという。ゼンハイザーはマイクの世界的メーカーでもあるので、録音のプロである伊藤氏は、ブランドにも以前から親しみがあったようだ。

「MOMENTUM」と「IE 800」を試聴

今回、最新ヘッドホンの実力もぜひ試してもらおうと、ゼンハイザー「MOMENTUM」と「IE 800」の2機種を聴いてみてもらった。

MOMENTUMを手にすると、そのデザインや質感がかなり気に入った様子だ。アルカンターラ製のヘッドバンド、微妙な輝きを放つイヤーカップ部などのディテールを一つ一つ丁寧に確認して「これはいいなぁ」と顔がほころぶ。

だが、レファレンスのスティーリー・ダン「ガウチョ」の試聴を始めると表情が一変。さっきまでとはうって変わって厳しい顔つきになり、真剣にヘッドホンの音に耳を傾ける。

ゼンハイザー「MOMENTUM」のデザインや仕上げがかなり気に入った様子だ

真剣に試聴し、MONENTUMの音を確かめる

じっくりと試聴した後、ヘッドホンを耳から外し、出てきた言葉は「音がキラキラしていますね!」。とても満足げな表情だ。「IE 80と、音の味付けが似ていますね。ゼンハイザーとして音作りのコンセプトが一貫しているということなんでしょうね。これを聴いて、あらためてIE 80の良さが分かった気がします」。

続いて、ゼンハイザーのイヤホン最上位機「IE 800」を試聴してもらった。「ガウチョ」だけでなく、ジョー・パス「ナイト・アンド・デイ」もレファレンスとして、じっくりと耳を傾ける伊藤氏の姿は、真剣そのものだ。

ゼンハイザーのイヤホン最上位機「IE 800」も試聴してもらった

試聴を終えたあと、感想を細かく語ってもらった。「IE 80に比べてリッチで、より骨格がどっしりした印象ですね。ベースラインも安心して聴けます」と気に入った様子だ。

「こんなに小さな筐体なのに、オーバーヘッド型ヘッドホンやスピーカーのような中低域の安定感があるのは驚きです。スティーリー・ダンでは分解能の高さが、ジョー・パスでは締まりのある低音が、それぞれ印象的でした。あとは定位がしっかりしているのも良いですね」。



札幌から、「音」の世界的企業に上り詰めたクリプトン・フューチャー・メディア。その音へのこだわりの強さは、伊藤氏のイヤホン/ヘッドホンに対する的確なコメントからも伝わってきた。今後のさらなる活躍を期待したい。



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