公開日 2020/03/02 06:40
耳慣れた曲の、新たな扉が開いた ー ZARDハイレゾ誕生の舞台裏をふたりのキーマンに聞く
制作当時の坂井さんとのエピソードも
2021年2月10日にデビュー30周年を迎えるZARD。2020年は「30周年YEAR」として、CDの再発売やイベント、書籍の発売など様々な記念企画が行われる。
そんななか注目したいもののひとつが、2月10日からe-onkyo music / mora / レコチョクでスタートしている「ハイレゾ配信」だ。『負けないで』『揺れる想い』などの大ヒット曲 全52曲を収めたベスト盤『ZARD Forever Best 〜25th Anniversary〜』を、ハイレゾ用に新たにマスタリング。配信開始以来、アルバムランキングで1位を連続獲得し続けている。
今回、デビュー当時からZARDの楽曲制作に携わったディレクターの寺尾 広氏と、レコーディング/マスタリングエンジニアの島田勝弘氏にインタビュー。ハイレゾ化にあたってこだわった点や、坂井さんとのやりとりなど制作当時のエピソードなどをうかがった。
ハーフインチアナログマスターテープをもとに
ハイレゾ用に新規マスタリングを実施
—— ZARDのハイレゾ配信が決定したというニュースが流れた際は、オーディオファンからも喜びの声が多数あがりました。1991年のデビュー以来色あせないZARDサウンド、そして坂井さんの歌声をより味わい尽くせるハイレゾでの配信。ファンにとっては嬉しい知らせだったと思います。
寺尾さん(以下敬称略):音楽をより良い音で聴きたい、より良い音で届けたいという流れが大きくなって来ています。そんななか、ZARDの音源をハイレゾにしたらどんな風になるのかな、というのに興味を持っていたんです。
今回のハイレゾは、2016年…デビュー25周年のときに出したベスト盤『ZARD Forever Best 〜25th Anniversary〜』と同じ曲をセレクトしています。というのもこのアルバムは、いわばZARDの“代表選手”たちを集めたもの。春も夏も秋も冬も、どの季節でも、いつでもずっとZARDを聴いていただきたいという思いから選んだ“代表選手”たちを、もう一度ハイレゾで味わってほしい、と考えました。
—— このアルバムはBlu-spec CD2でも発売するなど音質にこだわって作られていることで知られていますが、高音質CD版が既に発売されているだけに、ハイレゾ版はCDをアップコンバートしただけなのかな?と思う方もいらっしゃるかも知れませんが……。
寺尾:いえいえ、違います。新しくハイレゾ用にマスタリングし直しているんです。
—— そうなんですね!
島田さん(以下敬称略):実は10年以上前から、当時のアナログマスターテープをアーカイブするプロジェクトをしていたんです。1980〜90年代のミックスマスターは、ハーフインチのアナログマスターがデフォルト。でもテープは傷みが進んで、新しくマスタリングするときに何回も再生するのは難しくなっていきますから。
今回使ったのは、そのハーフインチのアナログマスターテープを、96kHz/24bitでアーカイブしていたデータです。実はアーカイブ作業は当初48kHz/24bitでしていたんですが、途中で一回止めて、今後を見据えて96kHz/24bitで最初からやり直した、という経緯があります。今思うとそうしておいてよかったですね。
192kHz/24bitも検討したんですが、当時のシステムの中で容量やコストなど様々な要素を考慮した結果、96kHz/24bitがベストだと判断しました。
—— なるほど。
オリジナルMixマスターにまで戻り、最新機材で編集をやり直し
島田:ZARDの音源はハーフインチのアナログマスターがメインですが、DATのマスターもあります。CDにするときに、ハーフから起こしたものとDATから起こしたものと2種類作って、最終的にどっちにするか比較試聴して決めている場合も有りました。それは曲によって様々でした。たとえば『サヨナラは今もこの胸に居ます』なんかはFeed Backがマスターなのですが、解像度の高いスピーカーで聴くと倍音成分の違いが分かると思います。スッキリ感がこの曲には良い作用をもたらしています。
ラフミックスの音源が最終的なCDになったり、ミックスしたものとラフミックスをいくつもつなぎ合わせて作った曲もありました。そのつなぎ合わせる作業を行う機材は今、当時よりもずっと進化している。なので今回のハイレゾマスタリングに際して、オリジナルの音源を現代の機材で改めて切り貼りしたりクロスさせたりしながらまとめ上げたんです。
寺尾:そういう意味では、今回のハイレゾに使ったマスターは“初めて使うもの”と言えるかも知れませんね。クロスする場所なんかも、もちろん一緒にしているとは思いますけど、当時のCDとは厳密に言うと違うかも知れません。
ハイレゾ化の作業は電源やケーブル類までこだわり
島田:それから、今回のハイレゾ化にあたっては、データの保存用HDDの電源や、PCに取り込む時のケーブル類なんかも全部見直したんです。やっぱり音が変わりますから。
A/Dコンバーターの間に使ったのはMADRIGAL AUDIO LABORATORIESの「CZ GEL-1」というXLRケーブルなんですが、実はこれ、15年くらい前に買ったけど使っていなかったもので。というのも、ケーブルのグレードの高さに当時のPCや音響機器が追いつかなくて、バランスが取れなかったんですよね。でも機材も進化して、CD制作当時とは環境が大きく変わりました。なので今回試してみたら、いいな!と。
—— 非常に細部までこだわっていることが分かります。ハイレゾ用のマスタリング、というのは具体的にどんなことをしたのでしょうか? CDのときとは方向性が違うんでしょうか。
島田:やっぱり違いますね。96kHz/24bitだと高域方向の情報が増えるので、全体的なバランスが高域方向に行くんです。なので低域を補強することで、“ロックっぽさ”を出しました。坂井さんの声の帯域については、伸びた高域方向の恩恵が発揮される部分なので、補強という意味ではほとんどしていません。
あとは、当時ここはこうしたかった…という思いが残っていた部分に手を加えたりですね。たとえば歌の頭のアタックを、一瞬だけポンと突くような。
—— それは具体的な曲で言うとどんな?
島田:『きっと忘れない』や『グロリアス マインド』の冒頭なんかですね。1拍に届かないくらい一瞬だけポン、と。そうすると抑揚がついてツカミが良くなるんです。
そんななか注目したいもののひとつが、2月10日からe-onkyo music / mora / レコチョクでスタートしている「ハイレゾ配信」だ。『負けないで』『揺れる想い』などの大ヒット曲 全52曲を収めたベスト盤『ZARD Forever Best 〜25th Anniversary〜』を、ハイレゾ用に新たにマスタリング。配信開始以来、アルバムランキングで1位を連続獲得し続けている。
今回、デビュー当時からZARDの楽曲制作に携わったディレクターの寺尾 広氏と、レコーディング/マスタリングエンジニアの島田勝弘氏にインタビュー。ハイレゾ化にあたってこだわった点や、坂井さんとのやりとりなど制作当時のエピソードなどをうかがった。
ハーフインチアナログマスターテープをもとに
ハイレゾ用に新規マスタリングを実施
—— ZARDのハイレゾ配信が決定したというニュースが流れた際は、オーディオファンからも喜びの声が多数あがりました。1991年のデビュー以来色あせないZARDサウンド、そして坂井さんの歌声をより味わい尽くせるハイレゾでの配信。ファンにとっては嬉しい知らせだったと思います。
寺尾さん(以下敬称略):音楽をより良い音で聴きたい、より良い音で届けたいという流れが大きくなって来ています。そんななか、ZARDの音源をハイレゾにしたらどんな風になるのかな、というのに興味を持っていたんです。
今回のハイレゾは、2016年…デビュー25周年のときに出したベスト盤『ZARD Forever Best 〜25th Anniversary〜』と同じ曲をセレクトしています。というのもこのアルバムは、いわばZARDの“代表選手”たちを集めたもの。春も夏も秋も冬も、どの季節でも、いつでもずっとZARDを聴いていただきたいという思いから選んだ“代表選手”たちを、もう一度ハイレゾで味わってほしい、と考えました。
—— このアルバムはBlu-spec CD2でも発売するなど音質にこだわって作られていることで知られていますが、高音質CD版が既に発売されているだけに、ハイレゾ版はCDをアップコンバートしただけなのかな?と思う方もいらっしゃるかも知れませんが……。
寺尾:いえいえ、違います。新しくハイレゾ用にマスタリングし直しているんです。
—— そうなんですね!
島田さん(以下敬称略):実は10年以上前から、当時のアナログマスターテープをアーカイブするプロジェクトをしていたんです。1980〜90年代のミックスマスターは、ハーフインチのアナログマスターがデフォルト。でもテープは傷みが進んで、新しくマスタリングするときに何回も再生するのは難しくなっていきますから。
今回使ったのは、そのハーフインチのアナログマスターテープを、96kHz/24bitでアーカイブしていたデータです。実はアーカイブ作業は当初48kHz/24bitでしていたんですが、途中で一回止めて、今後を見据えて96kHz/24bitで最初からやり直した、という経緯があります。今思うとそうしておいてよかったですね。
192kHz/24bitも検討したんですが、当時のシステムの中で容量やコストなど様々な要素を考慮した結果、96kHz/24bitがベストだと判断しました。
—— なるほど。
オリジナルMixマスターにまで戻り、最新機材で編集をやり直し
島田:ZARDの音源はハーフインチのアナログマスターがメインですが、DATのマスターもあります。CDにするときに、ハーフから起こしたものとDATから起こしたものと2種類作って、最終的にどっちにするか比較試聴して決めている場合も有りました。それは曲によって様々でした。たとえば『サヨナラは今もこの胸に居ます』なんかはFeed Backがマスターなのですが、解像度の高いスピーカーで聴くと倍音成分の違いが分かると思います。スッキリ感がこの曲には良い作用をもたらしています。
ラフミックスの音源が最終的なCDになったり、ミックスしたものとラフミックスをいくつもつなぎ合わせて作った曲もありました。そのつなぎ合わせる作業を行う機材は今、当時よりもずっと進化している。なので今回のハイレゾマスタリングに際して、オリジナルの音源を現代の機材で改めて切り貼りしたりクロスさせたりしながらまとめ上げたんです。
寺尾:そういう意味では、今回のハイレゾに使ったマスターは“初めて使うもの”と言えるかも知れませんね。クロスする場所なんかも、もちろん一緒にしているとは思いますけど、当時のCDとは厳密に言うと違うかも知れません。
ハイレゾ化の作業は電源やケーブル類までこだわり
島田:それから、今回のハイレゾ化にあたっては、データの保存用HDDの電源や、PCに取り込む時のケーブル類なんかも全部見直したんです。やっぱり音が変わりますから。
A/Dコンバーターの間に使ったのはMADRIGAL AUDIO LABORATORIESの「CZ GEL-1」というXLRケーブルなんですが、実はこれ、15年くらい前に買ったけど使っていなかったもので。というのも、ケーブルのグレードの高さに当時のPCや音響機器が追いつかなくて、バランスが取れなかったんですよね。でも機材も進化して、CD制作当時とは環境が大きく変わりました。なので今回試してみたら、いいな!と。
—— 非常に細部までこだわっていることが分かります。ハイレゾ用のマスタリング、というのは具体的にどんなことをしたのでしょうか? CDのときとは方向性が違うんでしょうか。
島田:やっぱり違いますね。96kHz/24bitだと高域方向の情報が増えるので、全体的なバランスが高域方向に行くんです。なので低域を補強することで、“ロックっぽさ”を出しました。坂井さんの声の帯域については、伸びた高域方向の恩恵が発揮される部分なので、補強という意味ではほとんどしていません。
あとは、当時ここはこうしたかった…という思いが残っていた部分に手を加えたりですね。たとえば歌の頭のアタックを、一瞬だけポンと突くような。
—— それは具体的な曲で言うとどんな?
島田:『きっと忘れない』や『グロリアス マインド』の冒頭なんかですね。1拍に届かないくらい一瞬だけポン、と。そうすると抑揚がついてツカミが良くなるんです。
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