公開日 2021/04/16 06:30
“ヒゲダンのドルビーアトモス” はこうして作られた − エンジニア古賀健一氏インタビュー
【特別企画】“DIY”で作られたこだわりのスタジオ
現代の音楽シーンで強い存在感を放つバンド・Official髭男dism。彼らが2月24日にリリースした「Universe + Official髭男dism ONLINE LIVE 2020 - Arena Travelers -」は、シングル「Universe」と昨年開催されたライブBD/DVDがパッケージされた製品だが、そのBDに7.1.4chのドルビーアトモス音声が収録されていることをご存知だろうか。
このドルビーアトモス音声を手掛けたのが、エンジニアの古賀健一氏である。古賀氏は昨年、個人スタジオ「Xylomania Studio(シロマニア・スタジオ)」内に自身のこだわりを詰め込んだイマーシブオーディオ対応スタジオを“DIYで”制作したのだが、そこにデノンの110周年記念AVアンプ「AVC-A110」を導入されたという。
今回、“ほぼ完成状態”だという同スタジオにて、古賀氏がイマーシブオーディオにかける想いや、AVC-A110を導入した理由などを伺った。
■「海外の人はもうL/Rの次元にいない。このままだと日本は取り残される」
ーー古賀さんはこのイマーシブオーディオ対応スタジオをDIYで作られたとのことですが、これだけのものを、それも個人で作ろうというのは並々ならぬことかと思います。どういった経緯で制作に至ったのでしょうか。
古賀健一(以下:古賀):僕自身、元々サラウンドが好きだというのもありますが、一昨年頃にハリウッドに勉強しにいく機会があって、その時に見学したソニー・ピクチャーズのスタジオが、全部ドルビーアトモス対応に改修中だったんです。
その時点では、日本のドルビーシネマ対応のスタジオは東映さんとグロービジョンさんくらいで、ましてや音楽に特化したものはほとんどなかったんです。その時「誰かがやらないと、日本は技術的に世界から取り残される。これは自分でやるしかない」と思ったのがきっかけです。
ーー確かに最近、Amazon Music HDやTidalといったストリーミングサービスがイマーシブオーディオの配信に力を入れ始めていますが、ラインナップはほぼ海外のアーティストですよね。
古賀:そのときは「もう日本は金輪際、世界に追いつけないかもな」と思いながら帰国しました。音楽に限らず映画も含めて、向こうの人たちはもうL/Rの次元にいないんです。映画業界だと、海外ではドルビーアトモスで上映されている作品なのに、日本には単なる5.1chの音声データしか送られてこない、なんてこともあるそうです。
ーーそういう状況をご覧になって、せめて周回遅れにならないように、というのがモチベーションになったと。とはいえ、日本の住宅事情ではサラウンドシステムの導入ハードルが高いのも事実です。古賀さんはどのようにしてサラウンドに目覚めたのですか?
古賀:僕は福岡の田舎の方の育ちで、ライブハウスとか映画館のような音楽に触れられる場所が身近になかったので、「東京に出たらマイコンポを買うんだ」っていう思いがあったんですよね。当時はAVという言葉すら知らなかったのですが、上京した時に秋葉原のお店に行ったらサラウンドコーナーがあって、「スピーカーがいっぱいあってかっこいい! いつかこれを買おう」って決めたのがきっかけです。
ただ、東京の専門学校に通った後に青葉台スタジオに入社したんですが、サラウンドの授業や仕事って一度もなかったんですよ。ライブミックスの仕事が多かったので「マルチチャンネルの方がライブの臨場感が伝えられる」と思って社長にも「サラウンドシステム買ってください」って直訴したんですけどね、ダメでした。
なので、初ボーナスでAVアンプを買って自宅にサラウンドシステムを組み、自分で作ったライブ素材をオーディオインターフェイスからAVアンプのプリインに突っ込んで、ひとりでサラウンドミックスの練習をしていましたね。
ーーつまり、独学でサラウンドミックスを始めたというわけですか。
古賀:SACDやDVD-Audioのソフトが色々出ていた時期だったので、映像作品だけでなくマルチチャンネルの音楽作品も買い漁って聴いて「なんでこういう素晴らしい世界があるのに、誰もやりたがらないんだろう」って思ってました。実際、仕事でも「サラウンドってよくわかんないんだよね」って人がほとんどでしたし。
初めてのサラウンドの仕事に関わったのは映画『ソラニン』で、その後チャットモンチーのライブ作品『変身TOUR '13@Zepp DiverCity』のミックスを担当することになった時、「ステレオの予算で良いのでサラウンドで作らせてくれ」と頼み込んだのが、最初のライブでのサラウンドミックスでした。
その後しばらくは2chの仕事ばかりでしたが、ここ数年は映画のサラウンドの仕事があったので、映画業界のエンジニアの方に、音楽業界とのサウンドの作り方の違いなど教えていただいたりしながら、最後まで責任を持って、良いものを作れるエンジニアにならないといけないな、と思うようになりました。その後ハリウッドに行く機会があり、今に至ります。
このドルビーアトモス音声を手掛けたのが、エンジニアの古賀健一氏である。古賀氏は昨年、個人スタジオ「Xylomania Studio(シロマニア・スタジオ)」内に自身のこだわりを詰め込んだイマーシブオーディオ対応スタジオを“DIYで”制作したのだが、そこにデノンの110周年記念AVアンプ「AVC-A110」を導入されたという。
今回、“ほぼ完成状態”だという同スタジオにて、古賀氏がイマーシブオーディオにかける想いや、AVC-A110を導入した理由などを伺った。
■「海外の人はもうL/Rの次元にいない。このままだと日本は取り残される」
ーー古賀さんはこのイマーシブオーディオ対応スタジオをDIYで作られたとのことですが、これだけのものを、それも個人で作ろうというのは並々ならぬことかと思います。どういった経緯で制作に至ったのでしょうか。
古賀健一(以下:古賀):僕自身、元々サラウンドが好きだというのもありますが、一昨年頃にハリウッドに勉強しにいく機会があって、その時に見学したソニー・ピクチャーズのスタジオが、全部ドルビーアトモス対応に改修中だったんです。
その時点では、日本のドルビーシネマ対応のスタジオは東映さんとグロービジョンさんくらいで、ましてや音楽に特化したものはほとんどなかったんです。その時「誰かがやらないと、日本は技術的に世界から取り残される。これは自分でやるしかない」と思ったのがきっかけです。
ーー確かに最近、Amazon Music HDやTidalといったストリーミングサービスがイマーシブオーディオの配信に力を入れ始めていますが、ラインナップはほぼ海外のアーティストですよね。
古賀:そのときは「もう日本は金輪際、世界に追いつけないかもな」と思いながら帰国しました。音楽に限らず映画も含めて、向こうの人たちはもうL/Rの次元にいないんです。映画業界だと、海外ではドルビーアトモスで上映されている作品なのに、日本には単なる5.1chの音声データしか送られてこない、なんてこともあるそうです。
ーーそういう状況をご覧になって、せめて周回遅れにならないように、というのがモチベーションになったと。とはいえ、日本の住宅事情ではサラウンドシステムの導入ハードルが高いのも事実です。古賀さんはどのようにしてサラウンドに目覚めたのですか?
古賀:僕は福岡の田舎の方の育ちで、ライブハウスとか映画館のような音楽に触れられる場所が身近になかったので、「東京に出たらマイコンポを買うんだ」っていう思いがあったんですよね。当時はAVという言葉すら知らなかったのですが、上京した時に秋葉原のお店に行ったらサラウンドコーナーがあって、「スピーカーがいっぱいあってかっこいい! いつかこれを買おう」って決めたのがきっかけです。
ただ、東京の専門学校に通った後に青葉台スタジオに入社したんですが、サラウンドの授業や仕事って一度もなかったんですよ。ライブミックスの仕事が多かったので「マルチチャンネルの方がライブの臨場感が伝えられる」と思って社長にも「サラウンドシステム買ってください」って直訴したんですけどね、ダメでした。
なので、初ボーナスでAVアンプを買って自宅にサラウンドシステムを組み、自分で作ったライブ素材をオーディオインターフェイスからAVアンプのプリインに突っ込んで、ひとりでサラウンドミックスの練習をしていましたね。
ーーつまり、独学でサラウンドミックスを始めたというわけですか。
古賀:SACDやDVD-Audioのソフトが色々出ていた時期だったので、映像作品だけでなくマルチチャンネルの音楽作品も買い漁って聴いて「なんでこういう素晴らしい世界があるのに、誰もやりたがらないんだろう」って思ってました。実際、仕事でも「サラウンドってよくわかんないんだよね」って人がほとんどでしたし。
初めてのサラウンドの仕事に関わったのは映画『ソラニン』で、その後チャットモンチーのライブ作品『変身TOUR '13@Zepp DiverCity』のミックスを担当することになった時、「ステレオの予算で良いのでサラウンドで作らせてくれ」と頼み込んだのが、最初のライブでのサラウンドミックスでした。
その後しばらくは2chの仕事ばかりでしたが、ここ数年は映画のサラウンドの仕事があったので、映画業界のエンジニアの方に、音楽業界とのサウンドの作り方の違いなど教えていただいたりしながら、最後まで責任を持って、良いものを作れるエンジニアにならないといけないな、と思うようになりました。その後ハリウッドに行く機会があり、今に至ります。
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