公開日 2006/10/11 16:39
炭山アキラがレポート − 第12回真空管オーディオフェアで見つけた魅力的な製品<その他編>
真空管オーディオフェアとは銘打っていても、アンプだけ展示すればよいというものではない。そこにはもちろんスピーカーやプレーヤーが必要だし、さまざまなアクセサリーも当然加わってくる。中にはスピーカーがメインの展示で、ソリッドステートアンプを使って鳴らしているブースもある。ここからは、そんな“アンプ以外”の注目製品を、気になったものから挙げていくこととしよう。
FALのSupreme-C90EXW。FLATは完全にネットワークなしで、ハイルドライバーは12kHz以上のみを受け持っている。-6dB/octのネットワークである
まず、今回の真空管フェアで一番感銘を受けたスピーカーは、チューブ・ビズとマックトンのブースで鳴らされていたFALのSupreme-C90EXWだった。FALの誇る平面フルレンジFLAT C90を片側2発搭載し、仮想同軸配置でハイルドライバー型のトゥイーターを配した製品だ。低音は2発のパッシブラジエーターが再生している。音はとにかく堂々としていながら微小方向の情報量が豊かで、情報量が極めて多いのに嫌な音がしないという、見事な再現だった。指向性の広さも大したもので、何と古山社長は90度以上にスピーカーを内振りさせてデモをしていた。さすがに軸上で聴く音と同じというわけにはいかないが、それでも不足なく音楽が楽しめるのには本当に驚いた。
コイズミ無線のオリジナル・スピーカーシステムESP-K1(右)。単純計算すれば30万円以上になってしまうそうだが、限定50台のみペアで18万9,000円で販売されるという
隣のコイズミ無線も、長年の本業であるだけに魅力的なスピーカーを持ってきていた。同社とアルパイン社のユニットを使った2ウェイ・ブックシェルフ型だが、昨年の展示モデルと比べても一段と鳴りっぷりとアキュラシーが向上し、輪郭鮮明で迫力たっぷりなのに高品位なサウンドが大きな魅力だ。サブウーファーも小型ながら大迫力の超低音を生み出している。もちろん、いずれもユニットは市販のものだが、これらを買ってきて適当な箱に取り付けると自動的にこういう音が出る、というものではない。試作を繰り返し、随所に長年のノウハウを盛り込むことで完成したサウンドなのであろう。
ザ・キット屋の復刻LS3/5Aの完成は近いか。ユニットの顔つきといいバッフルの吸音といい、オリジナル3/5Aを確かにほうふつとさせる仕上がりだ
サンバレーでは、店主・大橋氏のブログでも何度か言及されていた、往年のBBCモニターLS3/5Aの復刻プロジェクトの試作品が展示されていた。いまだ大橋氏の耳にかなうサウンドまで達していないのか、音なしの参考出品だったが、例によってその凝り具合は大いに期待できるレベルと見た。
仏SPRAVOXのフィールド型16cmフルレンジ165-2000EXC。全身真っ黒の上、キャビに内付けされているので現物はほとんど見えないが、丸形フレームで磁気回路はアルニコつぼ型ヨークのようなルックスである
ヒノ・オーディオのブースには、さりげなくとてつもないものが置かれている。何とフィールド(励磁)型のフルレンジである。仏SPRAVOXの16cmで、出力音圧レベルは最大95dB/W/mと大きい。今回はシースルーの箱に入れられていたのでちょっと素性をつかみかねたが、ぜひじっくりと音を聴いてみたい製品だ。また同社ブースには、エレクトロボイスの15インチ・ウーファーを片チャンネル×2発に大型ホーンを組み合わせたオリジナルのセットをdbx社製のチャンネルディバイダーを使ってマルチアンプ・ドライブしたものもデモされていたが、その圧倒的な迫力と意外な繊細さに驚き、チャンデバを入れてもセットで120万円そこそこという価格にまた驚いた。これはすごい。
本当に何でもないルックスのユニットだが、声などを聴いていてうっかりはまり込んだら抜け出せなくなりそうな魅力を備えている。昔からヨーロッパには楕円フルレンジの名作が多いが、これもそのひとつに加えてやってよいだろう。キャビネットはブビンガ突き板仕上げ
ヒノ・オーディオと同室のサン・オーディオからも、面白いスピーカーが発表されている。何でも、フランスの倉庫に眠っていた名もなきブランドの楕円フルレンジだそうで、試しに聴いてみたら何とも魅力的な音がするので、キャビネットを開発し、限定発売にこぎ着けたのだという。音は、中低域にボンつく部分も散見されるが、それらを遥か遠くへ追いやってしまう声の帯域の味わいがいい。
押せば横方向にゆらりと動いては元の位置へ戻る、不思議なイメージのインシュレーターSHOK-ABSORBER50。「高域のギラギラが抑えられ全体的にマイルドに変化、しかし解像度はUPしました」とのこと。3個1組で4万7,250円
また同社ブースでは、浅い凹面の2枚の皿の間に球を挟み、その上にスピーカーなどを置くという格好のインシュレーターも発売していた。これもフランス生まれで、縦方向をしっかりと支えながら横方向は柳に風といった風情でふらつきを受け流す。機器や音の好みによって相性は出そうだが、面白いインシュレーターである。
山本音響工芸の16cmフルレンジFU-16。私も何度か見たことはあったが、音は聴いたことがない。極薄のストレートコーンでエッジレスというから、巨大なキャビネットや平面バッフルなどで使ってみたくなるユニットである
5階の右端にブースを持っていた山本音響工芸には、16cmフルレンジ・スピーカーユニットが展示されていた。同社はかつて自社製のスピーカーユニットを生産していたが、しばらく途絶えてしまっていた。それが、このたび復活させることに決まったそうだ。極めて軽そうなストレート・コーンで、昔のユニットはダブルコーンだったがこのたびはシングルコーンにするという。磁気回路は巨大なアルニコの外磁型である。
アムトランスのターンテーブルシートとスタビライザー(セットで9万8,000円)。私もテクニカAT677をいまだに使っているくらい、テーパー付きシートには信頼を置いている。少々高価だが、試してみる価値はあると思う
アムトランスのブースでは、ターンテーブルシートとスタビライザーが展示されていた。ターンテーブルシートはアルミ製で、往年のオーディオテクニカAT676や同677などとよく似た、ごく浅いすり鉢型のものである。これに盤を載せ、さらにスタビライザーを載せてやると、盤のソリが抑えられ、同時に密着性が高まって、再生音は大きく向上するものである。スタビライザーは真鍮製クロームメッキで、重量は1.3kgと大変に重い。大変魅力的な製品だが、プレーヤーによっては向かないものもあるので注意が必要だ。
SDサウンドA-301でフィーストレックスのスピーカーを鳴らす。何とも生きいきと弾けるようなサウンドが印象的だ。こういうハイスピードで張りのある色彩感豊かなサウンドは、現代オーディオがどこかで置き忘れたものではないかと思う
隣り合ったSDサウンドとテクソルのブースでは、同じフィーストレックス社のスピーカーがデモ用に用いられていた。採用モデルはNF-5かと思ったら、センターに黒いディフューザーが装備されているところからして、また別物のようである。音はとにかくハイスピードに切れ上がる勢いの良さが印象的で、低域もこの手の振動板が軽いフルレンジにしては大変よく伸びている。SDサウンドではアナログソースをかけていたが、ジリパチノイズは盛大に聴こえてくるのに不思議と耳障りではなく、楽音の一部として聴けるような端正さを聴き取ること
ができた。またSDサウンドではOTLで、テクソルではOPT付きで鳴らされていたが、それぞれの得失、持ち味の違いをしっかりと描き分けていたようにも思う。
トーラス・パワー社の電源フィルター。やはりこういう製品も「ホスピタルグレード」というのだろうか?
またテクソルでは、カナダのトーラスパワー社が開発した医療用の電源フィルターを輸入/発売開始するという。医療用電源はごく微細なノイズもデータの読み間違いや誤動作の原因となりかねないだけに、フィルターには大変な高性能が求められるのだという。医療用の電源器具はこれまでもいろいろオーディオ界に福音をもたらしてくれた。本シリーズも期待しようではないか。
チャリオのハイグレード・モデルPremium2000。17cmウーファーと2.7cmトゥイーターによる2ウェイ・バスレフ型である。キャビネットの美しさは昔から変わっていない。ペアで15万2,000円
マックトンと同室の和光テクニカルのブースには、懐かしいチャリオのスピーカーが展示されているではないか。チャリオ製品は長く輸入が途絶えていたが、このたび和光テクニカルが代表権を得たのだという。明るく陽気でありながら繊細で高品位という、往年の持ち味はより磨かれているように聴き取ることができたから、これは大いに発展を期待したいところである。
山越木工房の製品群は、思わずため息が出るほど美しい。簡単に作り方をレクチャーしてもらったのだが、それでもこれらの大半はどうやって作ったのかまるで見当がつかない。まさしく「プロの手」による作品である
2回エントランスすぐ横の大会議室は例年即売場になっているが、その一角にブースを構えた山越木工房の製品群には目を奪われた。曲げ合板を使ったキャビネットかと思ったら、フィンランドバーチの薄い単板を使って1枚ずつ曲げ、重ねていくという手の込んだ工法だという。私もスピーカーは自分で作るが、このような工作は300年かかっても自分にできるようになるとは思えない。自作スピーカーの仕上げに悩まれている人、ご家族から苦情の出ている人は、思い切ってこういう工房に自分の設計を託してみるのもよいのではないか。
(炭山アキラ プロフィール)
まず、今回の真空管フェアで一番感銘を受けたスピーカーは、チューブ・ビズとマックトンのブースで鳴らされていたFALのSupreme-C90EXWだった。FALの誇る平面フルレンジFLAT C90を片側2発搭載し、仮想同軸配置でハイルドライバー型のトゥイーターを配した製品だ。低音は2発のパッシブラジエーターが再生している。音はとにかく堂々としていながら微小方向の情報量が豊かで、情報量が極めて多いのに嫌な音がしないという、見事な再現だった。指向性の広さも大したもので、何と古山社長は90度以上にスピーカーを内振りさせてデモをしていた。さすがに軸上で聴く音と同じというわけにはいかないが、それでも不足なく音楽が楽しめるのには本当に驚いた。
隣のコイズミ無線も、長年の本業であるだけに魅力的なスピーカーを持ってきていた。同社とアルパイン社のユニットを使った2ウェイ・ブックシェルフ型だが、昨年の展示モデルと比べても一段と鳴りっぷりとアキュラシーが向上し、輪郭鮮明で迫力たっぷりなのに高品位なサウンドが大きな魅力だ。サブウーファーも小型ながら大迫力の超低音を生み出している。もちろん、いずれもユニットは市販のものだが、これらを買ってきて適当な箱に取り付けると自動的にこういう音が出る、というものではない。試作を繰り返し、随所に長年のノウハウを盛り込むことで完成したサウンドなのであろう。
サンバレーでは、店主・大橋氏のブログでも何度か言及されていた、往年のBBCモニターLS3/5Aの復刻プロジェクトの試作品が展示されていた。いまだ大橋氏の耳にかなうサウンドまで達していないのか、音なしの参考出品だったが、例によってその凝り具合は大いに期待できるレベルと見た。
ヒノ・オーディオのブースには、さりげなくとてつもないものが置かれている。何とフィールド(励磁)型のフルレンジである。仏SPRAVOXの16cmで、出力音圧レベルは最大95dB/W/mと大きい。今回はシースルーの箱に入れられていたのでちょっと素性をつかみかねたが、ぜひじっくりと音を聴いてみたい製品だ。また同社ブースには、エレクトロボイスの15インチ・ウーファーを片チャンネル×2発に大型ホーンを組み合わせたオリジナルのセットをdbx社製のチャンネルディバイダーを使ってマルチアンプ・ドライブしたものもデモされていたが、その圧倒的な迫力と意外な繊細さに驚き、チャンデバを入れてもセットで120万円そこそこという価格にまた驚いた。これはすごい。
ヒノ・オーディオと同室のサン・オーディオからも、面白いスピーカーが発表されている。何でも、フランスの倉庫に眠っていた名もなきブランドの楕円フルレンジだそうで、試しに聴いてみたら何とも魅力的な音がするので、キャビネットを開発し、限定発売にこぎ着けたのだという。音は、中低域にボンつく部分も散見されるが、それらを遥か遠くへ追いやってしまう声の帯域の味わいがいい。
また同社ブースでは、浅い凹面の2枚の皿の間に球を挟み、その上にスピーカーなどを置くという格好のインシュレーターも発売していた。これもフランス生まれで、縦方向をしっかりと支えながら横方向は柳に風といった風情でふらつきを受け流す。機器や音の好みによって相性は出そうだが、面白いインシュレーターである。
5階の右端にブースを持っていた山本音響工芸には、16cmフルレンジ・スピーカーユニットが展示されていた。同社はかつて自社製のスピーカーユニットを生産していたが、しばらく途絶えてしまっていた。それが、このたび復活させることに決まったそうだ。極めて軽そうなストレート・コーンで、昔のユニットはダブルコーンだったがこのたびはシングルコーンにするという。磁気回路は巨大なアルニコの外磁型である。
アムトランスのブースでは、ターンテーブルシートとスタビライザーが展示されていた。ターンテーブルシートはアルミ製で、往年のオーディオテクニカAT676や同677などとよく似た、ごく浅いすり鉢型のものである。これに盤を載せ、さらにスタビライザーを載せてやると、盤のソリが抑えられ、同時に密着性が高まって、再生音は大きく向上するものである。スタビライザーは真鍮製クロームメッキで、重量は1.3kgと大変に重い。大変魅力的な製品だが、プレーヤーによっては向かないものもあるので注意が必要だ。
隣り合ったSDサウンドとテクソルのブースでは、同じフィーストレックス社のスピーカーがデモ用に用いられていた。採用モデルはNF-5かと思ったら、センターに黒いディフューザーが装備されているところからして、また別物のようである。音はとにかくハイスピードに切れ上がる勢いの良さが印象的で、低域もこの手の振動板が軽いフルレンジにしては大変よく伸びている。SDサウンドではアナログソースをかけていたが、ジリパチノイズは盛大に聴こえてくるのに不思議と耳障りではなく、楽音の一部として聴けるような端正さを聴き取ること
ができた。またSDサウンドではOTLで、テクソルではOPT付きで鳴らされていたが、それぞれの得失、持ち味の違いをしっかりと描き分けていたようにも思う。
またテクソルでは、カナダのトーラスパワー社が開発した医療用の電源フィルターを輸入/発売開始するという。医療用電源はごく微細なノイズもデータの読み間違いや誤動作の原因となりかねないだけに、フィルターには大変な高性能が求められるのだという。医療用の電源器具はこれまでもいろいろオーディオ界に福音をもたらしてくれた。本シリーズも期待しようではないか。
マックトンと同室の和光テクニカルのブースには、懐かしいチャリオのスピーカーが展示されているではないか。チャリオ製品は長く輸入が途絶えていたが、このたび和光テクニカルが代表権を得たのだという。明るく陽気でありながら繊細で高品位という、往年の持ち味はより磨かれているように聴き取ることができたから、これは大いに発展を期待したいところである。
2回エントランスすぐ横の大会議室は例年即売場になっているが、その一角にブースを構えた山越木工房の製品群には目を奪われた。曲げ合板を使ったキャビネットかと思ったら、フィンランドバーチの薄い単板を使って1枚ずつ曲げ、重ねていくという手の込んだ工法だという。私もスピーカーは自分で作るが、このような工作は300年かかっても自分にできるようになるとは思えない。自作スピーカーの仕上げに悩まれている人、ご家族から苦情の出ている人は、思い切ってこういう工房に自分の設計を託してみるのもよいのではないか。
(炭山アキラ プロフィール)