公開日 2010/12/09 18:49
KANKAWA×金野貴明 − 禁断のジャズ録音『ORGANIST』発売秘話<その1>
オーディオファ・音楽ファン必聴のソフトが登場
12月8日、CD(HQCD)、マスターCD-R、それから豪華アナログボックスという3種類の形で発売されたティートックレコーズのKANKAWA『ORGANIST』作品について、オーディオライター鈴木 裕氏により、KANKAWA氏とティートックレコーズの金野貴明氏にインタビューする機会を得たので、本日から3回にわけてレポートしていきたい。
なお、『ORGANIST』アナログボックスについては、本ファイル・ウェブでも受け付けている(注文は下記URLまで)。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
過去を気にせず自分の感性を頼りに録る
音楽にも録音にも歴史がある。クラシックの収録方法もジャズのレコーディングもそれぞれの時代の科学技術や録音メディアによって変化してきた。その蓄積の上に現在の多くの録音音楽は成立している。もしも現代のテクノロジー、現代のレコーディング用機材、現代のオーディオ用イクィップメントを前提に、いい意味で過去に積み上げてきたものを気にせず、徹底的にアーティスティックに録音したらどんなものが生まれてくるのだろう。
そんな疑問をしばらく前から筆者は持っていた。それはある意味、禁断の録音であるかもしれない。具体的に言えば、演奏の時間軸的な側面や音色的な構成を、あたかもプリズムで光を7色に分解するように聴かせてくれるオーディオケーブルが存在する。そういったケーブルを録音する過程で使うとどんな再生音を聴けてしまうのだろうか。更にそうした録音があり得た時、ミュージシャンの演奏の質は変わるのか。そのひとつの答えとなるようなソフトが誕生した。
このストーリーの主人公は二人。まず、ブルーズ、ソウル、ジャズの、今や伝説的なオルガン奏者であり、ヒップホップやポップスのミュージシャンとしても若い世代と交流するKANKAWA(以下カンカワ)氏。実際に会うと、ダンディでコテコテな(最大限の敬意を持って記すが)おっちゃんである。
もう一人の主人公はティートックレコーズのプレジデントであり、レコーディング・エンジニア。また、自分自身ミュージシャンでもある金野貴明氏だ。一瞬一瞬を無駄にしないで生きている空気感を漂わせている。この二人の出会いのエピソードが面白い。アプローチはカンカワ氏からだ。
「たまたまね、金野君が作ったCDを聴いたんですよ。ピアニストの北島直樹の。その録音は今まで僕たちが何十年も聴いてきたジャズのサウンドとぜんぜん違っていたね。驚いた。ハイクオリティ過ぎるし、鮮明過ぎる。でもそういう音が欲しくて、いっしょにレコーディングをしようと。調べたら下北沢に会社があるって言うから、クルマを飛ばして会いに行ったんですよ。どんな奴がああいうサウンドを作っているのかと思ってね。動物的なカンて言うか、どんな男なのか見てみたかった。そうしたら、自分のイメージとは違う人が出てきてびっくりしたね(笑)。若いし、金髪だし。エンジニアっぽくなかったね」
40年近いキャリアのある、カリスマとも呼ばれるような男が、聴いた録音に驚いてアポも取らず会いにいくのだ。しかも、実際に会えたのは3回目だったっという。そしてアルバムを作ることになった。しかし金野氏はこう語る。「ハモンドB-3というオルガン自体を意識して聴いたことがなかったんです。ポップスとかロックでひとつの楽曲の中でオルガンのサウンドを盛りこんだことはあったんですが、主役として聴いたことがなかった。カンカワさんの話を訊いて、僕自身、改めてオルガンを意識して聴いてみて、これをいい録音でできないかなと」
ということで、正式なレコーディングの前にテスト・セッションが設けられた。一回移動させるだけで10万円近い金額がかかるハモンドB3としては異例のことだ。
<「その2」に続く>
KANKAWA(カンカワ)プロフィール
ジャズオルガンの神・ジミー・スミスの愛弟子であり、ジャズを中心としながらジャンルを超えて絶大な支持を受けているオルガンジャズ・プレイヤー。クラブジャズ、ヒップホップの世界ではBlue Smithの名で人気を博す。デビューはTV番組「11PM」。第一回マウントフジジャズフェスティバルに出演後、渡米。ニューヨークハーレムで、東洋人初のバンドリーダーを務め、1991年にニューヨーク市長より「The best artist of the year」賞を受賞。国内外のジャズフェスティバルの出演を重ね、現在ではプロデュース業にも注力。
金野貴明 プロフィール
株式会社ティートックレコーズ代表取締役。同社作品のすべてのプロデューサー、エンジニア。元々ミュージシャン(歌手)であるが、クオリティ的に納得できるものを作りたくて自分でレコード会社を設立。オーディオファンであることから、リスナーの視点を持った音作りを行っている。同社作品は『秋吉敏子 / 渡米50周年日本公演』で2006ミュージックペンクラブ録音録画最優秀賞他5つを受賞、『マーサ三宅 / Softly as I Leave You』で2009ミュージックペンクラブ最優秀録音・録画賞を受賞するなど高い評価を受けている
。
なお、『ORGANIST』アナログボックスについては、本ファイル・ウェブでも受け付けている(注文は下記URLまで)。
過去を気にせず自分の感性を頼りに録る
音楽にも録音にも歴史がある。クラシックの収録方法もジャズのレコーディングもそれぞれの時代の科学技術や録音メディアによって変化してきた。その蓄積の上に現在の多くの録音音楽は成立している。もしも現代のテクノロジー、現代のレコーディング用機材、現代のオーディオ用イクィップメントを前提に、いい意味で過去に積み上げてきたものを気にせず、徹底的にアーティスティックに録音したらどんなものが生まれてくるのだろう。
そんな疑問をしばらく前から筆者は持っていた。それはある意味、禁断の録音であるかもしれない。具体的に言えば、演奏の時間軸的な側面や音色的な構成を、あたかもプリズムで光を7色に分解するように聴かせてくれるオーディオケーブルが存在する。そういったケーブルを録音する過程で使うとどんな再生音を聴けてしまうのだろうか。更にそうした録音があり得た時、ミュージシャンの演奏の質は変わるのか。そのひとつの答えとなるようなソフトが誕生した。
このストーリーの主人公は二人。まず、ブルーズ、ソウル、ジャズの、今や伝説的なオルガン奏者であり、ヒップホップやポップスのミュージシャンとしても若い世代と交流するKANKAWA(以下カンカワ)氏。実際に会うと、ダンディでコテコテな(最大限の敬意を持って記すが)おっちゃんである。
もう一人の主人公はティートックレコーズのプレジデントであり、レコーディング・エンジニア。また、自分自身ミュージシャンでもある金野貴明氏だ。一瞬一瞬を無駄にしないで生きている空気感を漂わせている。この二人の出会いのエピソードが面白い。アプローチはカンカワ氏からだ。
「たまたまね、金野君が作ったCDを聴いたんですよ。ピアニストの北島直樹の。その録音は今まで僕たちが何十年も聴いてきたジャズのサウンドとぜんぜん違っていたね。驚いた。ハイクオリティ過ぎるし、鮮明過ぎる。でもそういう音が欲しくて、いっしょにレコーディングをしようと。調べたら下北沢に会社があるって言うから、クルマを飛ばして会いに行ったんですよ。どんな奴がああいうサウンドを作っているのかと思ってね。動物的なカンて言うか、どんな男なのか見てみたかった。そうしたら、自分のイメージとは違う人が出てきてびっくりしたね(笑)。若いし、金髪だし。エンジニアっぽくなかったね」
40年近いキャリアのある、カリスマとも呼ばれるような男が、聴いた録音に驚いてアポも取らず会いにいくのだ。しかも、実際に会えたのは3回目だったっという。そしてアルバムを作ることになった。しかし金野氏はこう語る。「ハモンドB-3というオルガン自体を意識して聴いたことがなかったんです。ポップスとかロックでひとつの楽曲の中でオルガンのサウンドを盛りこんだことはあったんですが、主役として聴いたことがなかった。カンカワさんの話を訊いて、僕自身、改めてオルガンを意識して聴いてみて、これをいい録音でできないかなと」
ということで、正式なレコーディングの前にテスト・セッションが設けられた。一回移動させるだけで10万円近い金額がかかるハモンドB3としては異例のことだ。
<「その2」に続く>
KANKAWA(カンカワ)プロフィール
ジャズオルガンの神・ジミー・スミスの愛弟子であり、ジャズを中心としながらジャンルを超えて絶大な支持を受けているオルガンジャズ・プレイヤー。クラブジャズ、ヒップホップの世界ではBlue Smithの名で人気を博す。デビューはTV番組「11PM」。第一回マウントフジジャズフェスティバルに出演後、渡米。ニューヨークハーレムで、東洋人初のバンドリーダーを務め、1991年にニューヨーク市長より「The best artist of the year」賞を受賞。国内外のジャズフェスティバルの出演を重ね、現在ではプロデュース業にも注力。
金野貴明 プロフィール
株式会社ティートックレコーズ代表取締役。同社作品のすべてのプロデューサー、エンジニア。元々ミュージシャン(歌手)であるが、クオリティ的に納得できるものを作りたくて自分でレコード会社を設立。オーディオファンであることから、リスナーの視点を持った音作りを行っている。同社作品は『秋吉敏子 / 渡米50周年日本公演』で2006ミュージックペンクラブ録音録画最優秀賞他5つを受賞、『マーサ三宅 / Softly as I Leave You』で2009ミュージックペンクラブ最優秀録音・録画賞を受賞するなど高い評価を受けている
。