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公開日 2019/12/06 22:30

2019年「音の日」記念イベントを開催。日本オーディオ協会が学生の優秀録音作品を表彰

「オーディオの未来を語る」トークセッションも
編集部:平山洸太
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一般社団法人日本オーディオ協会は、「音の日」に合わせてイベントを開催した。同協会では、エジソンがフォノグラフを発明したという1877年12月6日にちなみ、1994年より12月6日を「音の日」と定めて毎年イベントを開催している。

学生の優秀録音作品を表彰

今年2019年の同イベントでは、学生の「音楽録音作品」の表彰と受賞作品を発表。また特別講演として、オーディオ評論家 生方三郎氏などを招いて「オーディオの未来を語る」をテーマにトークセッションを行った。

開会に先立ち同協会会長の小川理子氏は、「12月6日は、音を記録して再生するという概念が生まれた、イノベーションの日。それを記念して1994年に音の日を制定して、それから毎年、音にちなんだいろいろな啓発事業をしている。本日は未来のオーディオを作る学生の作品と、オーディオの未来を語る講演という2本柱。令和元年度ということで、とても記念すべき音の日だと思う」と挨拶した。

一般社団法人日本オーディオ協会 会長 小川理子氏

学生の「音楽録音作品」の表彰と受賞作品発表

音楽録音教育・オーディオ教育の啓発に取り組む日本オーディオ協会では、学生の制作する音楽録音作品コンテストを開催し、優秀作品の制作者を「音の日」に表彰している。今年は28作品が応募され、4つの優秀作品に対して制作に関わった5名を表彰した。

加えて、それぞれの作品が披露されるとともに審査員からの講評も実施。名古屋芸術大学の長江和哉氏、日本工学院専門学校の我妻 拓氏、尚美学園大学の柿崎景二氏、日本大学の上埜 嘉雄氏、音響芸術専門学校の見上 陽一郎氏、日本オーディオ協会諮問委員の千葉 精一氏の6名が評価点を述べた。

優秀企画賞は、九州大学大学院の田島 俊貴さんによる作品「pm 04:29」(録音形式:2ch 44.1kHz 16bit)。女性ボーカルによるバンド演奏を録音したものだ。

優秀企画賞は、九州大学大学院の田島 俊貴さんが受賞

田島さんはコンセプトについて、「近年、CD以外に音楽を聴く手段・多様化が進むなか、ストリーミングに着目した」と話し、リスナーが聴く際の手段を意識してマスタリングを行ったと説明。またストリーミングサービスは「聴く側にとっても手軽だが、アマチュアのバンドにとっても気軽に世の中に広めることができる手段」と考え、実際に発信したいという思いもあったという。

この意図が高く評価され、「若い人たちがどのように音楽を聴いているのかを、身を持った体験をふまえ、(ユーザーに)音楽が届くように考えたというアイデアが素晴らしい」(長江氏)、「一番に音楽を大切にしたというところが素晴らしいと思ったし、何よりも聞く人がどのように感じるかを意識したところに素晴らしい作品だ」(我妻氏)とコメントした。

続いて優秀音楽作品賞は、名古屋芸術大学の福井楓栞さんの作品「Frank Martin/フルートとピアノのためのバラード」(録音形式:5ch 96kHz 24bit)。全指向性/単一指向性のマイクをそれぞれ同軸に置いて録音する方法 “シュトラウスパケット” を用いて、5chでフルートとピアノの演奏を録音した内容となっている。

優秀音楽作品賞は、名古屋芸術大学の福井楓栞さんが受賞

講評では柿崎氏が「ソファに座って鑑賞できる作品だと感じた。売られている音源と遜色なく聴けたので、音楽作品として素晴らしかった」とコメント。また上埜氏も「フルートの音に焦点があっていて優しい音だと感じた。素晴らしい録音だ」と高く評価した。

優秀録音技術賞では、洗足学園音楽大学の岩本双葉さんによるミュージカル作品「All That Jazz」(録音形式:5.1ch 96kHz 24bit)が受賞。岩本さんはこの賞を目標に毎年応募してきていたようで、「大学最後の年に受賞できて光栄です」と喜びを述べていた。

優秀録音技術賞は洗足学園音楽大学の岩本双葉さんが受賞

見上氏は講評で「定位の作り方やリバーブの作り方が奇想天外で、面白い。異次元の不思議な世界で聴いている感覚」と表現。また千葉氏は、演奏者ごと個々のマイクだけでなく、スタジオの4隅に立てたオフマイクを組み合わせるというミキシング方法について、「これはサラウンドを出す上でとてもいい技法。プロでもあまりやっていないかも」と技術力についても評価した。

そして今回、最優秀賞を獲得したのは、東京藝術大学の田中 克さん・増田義基さんによる作品「絶滅種の側から」(録音形式:5.1ch 96kHz 24bit)だ。会場では10分の作品のうち、序盤の5分程度が再生された。

最優秀賞は東京藝術大学の田中 克さん・増田義基さんが受賞

「どこで録ったか想像つきますか? この作品はダムの中で録りました」と田中さんが説明する同作品では、20秒から40秒という長い残響時間をもつ空間として、中空構造になっているダムの中で録音したという。録音には気温14度で湿度90%という過酷な環境の中で4日間がかかっている。

作品はこの残響時間( “ダムリバーブ” と説明)を活かし、後処理ではリバーブを一切かけていないとのこと。マイクのバランス調整やイコライザーは最低限しか行っておらず、基本的には無編集。そのため事前に音響測定した結果をコンピューターでシミュレーションしながら制作を行ったという。

演奏者は9名となっており、共同で制作を行った増田さんは「ダムの中の響きだから出来る音楽ということで制作した」とコンセプトを説明。またタイトルについては、「世界でここしか生きられないとなったときに、その暇つぶしのために音楽をやってると想像した」と、ダムという環境で制作していく中で思いついたと語った。

審査員の長江氏は、「改めてすごい作品だと思う。ここまで進めるのは並大抵のことではない、それを行えたのはすごいことだと思った。よくここまでやった」と高く評価。さらに我妻氏も「すごく緻密なことがされていて、それをよくぞやった。作品として仕上げて、ダムの世界に引き込んでいただける作品に仕上がったことが、称賛に値するのでは」と絶賛した。

音の日委員会の林委員長は、今回の総評として、「毎年感じるが大変レベルが高い。若い人たちにこういう録音技術を発表する機会を作ることで、広くオーディオ文化を広めていく。引き続き協会として、学生の皆さんに目指していただけるような賞にしていきたい」と今後の抱負を語った。

音の日委員会 林 和喜委員長

特別講演「オーディオの未来を語る」

続いて実際された特別講演では、オーディオ評論家の生形三郎氏をはじめ、e☆イヤホン副社長の岡田卓也氏、アスキーブランド総編集長の小林 久氏、そして弊社音元出版の押野由宇が登壇。オーディオの未来とその展望について、トークセッションを行った。

4名でトークセッションを実施

トークではまず各々の過去を振り返り。生方氏はオーディオ評論家という仕事の原点として、「オーディオとの出会いは、小学生の頃に楽器をやっていたこと。また大学では電子音響音楽をやっていたが、作品を作って発表する中で、技術に興味が湧いていった」と説明した。

オーディオ評論家 生形三郎氏

また岡田氏は「イヤホンが好きで沼にハマり、気がついたらeイヤホンで仕事をしていた」、小林氏は「中学のころ冨田勲の4chのレコードを借りて、定位が決まるとスピーカーが消えると聞いて試行錯誤した。オーディオって面白いと思い音の世界に興味を持ち始めた」、押野は「小中ではカセット、高校ではMD、大学ではCDと、常にマイベストでオーディオや音楽と触れてきた」と、それぞれがオーディオ好きの原点を語った。

音元出版 押野由宇

現在については、日頃からガジェットに多く触れている小林氏が「従来は据え置きだったが現在はポータブルが多い」と、音楽の楽しみ方の変化についてコメント。岡田氏は「eイヤホンのユーザーの年齢層は10代後半から30前半がメインになっていて、女性も増えてきている」と説明するなど、オーディオの裾野は広がってきているようだ。

e☆イヤホン副社長 岡田卓也氏

アンプやスピーカーといった従来のスタイルではなく、一体型でより手軽なBluetoothスピーカーが普及するなど、オーディオが多様化する昨今。「(オーディオは)局所的な趣味というよりは、日常的なところに移行している」と生方氏は説明する。

さらに「最近ではオブジェクトベースのサラウンド音源 360 Reality Audioの配信も始まっていて、ストリーミングサービスでもクオリティだけでなく体験方向で進化している」と小林氏。Amazon「Echo Studio」のように、1台で上方向を含めたサラウンド再生が可能なモデルも登場しており、注目しているという。

これを踏まえて小林氏は、これからのオーディオについて「空間にどう没入するのかが重要。サラウンドやVRなどの没入感はオーディオらしい体験だと思いますし、そういうのが体験できるようになれば」とコメント。岡田氏も「オーディオでしか出来ない体験や感動をどんどん作って欲しい」と述べた。

アスキーブランド総編集長 小林 久氏

生方氏は、「(これまでの音源と比較すると今のハイレゾ音源は)かなり品位が上がっていると思う。それがより手軽に聴けるようになってきている。オーディオからも音楽を聞いた時のエネルギーとして湧き上がるものをより享受できる時代になるんじゃないか」とコメント。また「オーディオの未来は明るい」と押野が締めくくるなど、今後の期待に溢れたセッションとなった。

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