公開日 2023/07/13 10:00
Ferrum audioの創業者が来日会見。旗艦DAC「WANDLA」は「これまで開発してきた中で最高の製品」
ハード/ソフトの双方から音質のためのノウハウを追求
(株)エミライが新たに取り扱いを開始したポーランドFerrum Audioの主宰者であるマルチン・ハメラ氏が来日。プレス向けカンファレンスが開催され、ブランド創立の背景から、最新フラグシップDACである「WANDLA」など同社の製品ラインナップの詳細まで、ハメラ氏自身の言葉で語られた。
プレスカンファレンスの冒頭、エミライで取締役・マーケティングディレクターを務める島 幸太郎氏は、現在の市場トレンドについて、デスクトップオーディオやリビングオーディオなどこれまでと違う製品の需要が高まっており、また、高音質なデジタル再生の追求やネットワークを活用した製品が増えてきていると分析。そのうえで、「ハードウェアだけではなくソフトウェアの独自技術を持っているメーカー、自社でノウハウを蓄積しているメーカーが今後優位に立っていく」という考えから、Ferrum audioの国内展開をスタートしたと語る。
1970年にポーランドで生まれたマルチン・ハメラ氏は、ワルシャワ工科大学で軍事や医療用の基板設計を学び、その後軍事関連企業勤務を経て、HEM社を立ち上げ、オーディオの製品開発に携わるようになったという。HEM社は、実はマイテック・デジタルのプロ/コンシューマー製品の開発を長年手掛けてきたことでも知られている。
「1998年より2015年まで、マイテック・デジタルのミハウ・ユーレビッチ氏ともにマイテック製品のプロ/コンシューマー製品開発にも関わってきました。ですが、HEM社が大きく成長し、スタッフも25人を超える体制となったことから、2019年より自社ブランドとしてFerrum audioを設立することになったのです」
Ferrum audioの立ち上げの理由について、「決して高すぎるものではなく、お求めやすい価格で優れた製品を作りたい」と考えたからだとハメラ氏は語る。Ferrumは「鉄」を意味するラテン語。ハメラ氏の父親はかつて鍛冶屋を営んでいたそうで、このブランド名からもハメラ氏自身が素材やマテリアルに非常に関心を寄せていることが窺える。
最初のプロダクトは、強化電源の「HYPSOS」。2020年にリリースされた製品で、リニア電源とスイッチング電源のハイブリッドモデルであり、5〜30Vまでソフトウェア制御で電圧を可変できるというのが大きな特徴。HYPSOSという言葉にはハイブリッド・パワーサプライという意味のほか、古ギリシャ語で「崇高」といった意味もあるという。ハメラ氏は同製品について「Sophisticated」(洗練された、高度な)という言葉で繰り返し形容しており、製品に込められた高度な技術が伺い知れる。
同社の製品ラインナップは現在4種類。強化電源のHYPSOSとアナログヘッドホンアンプの「OOR」(オア)、USB-DAC/ヘッドホンアンプの「ERCO」(エルツォ)、そして今年のミュンヘン・ハイエンドで発表されたフラグシップDACである「WANDLA」(ワンドラ)。いずれもデスクトップに設置しやすいコンパクトな筐体で、すべて同一サイズ・デザインとなっており積み上げて使用することも可能。
「WANDLA」については、エミライの村上氏よりさらに詳しい説明がなされた。「WANDLA」はドイツ語で「変換」を意味する「WANDLER」に由来する。内部写真を見てみると、コンパクトな筐体内に電源部/デジタル処理部/アナログ部が整然と配置されており、合理的かつシンプルに設計されていることが見て取れる。
特に「SERCEモジュール」と名付けられたモジュールには、高速処理が可能だというチップ「STM32H7」を使用した上で、USBレシーバーやMQAデコーダー、デジタルフィルターなど今のデジタル高音質再生に求められる様々な機能がまとめ上げられている。伝送ロスをなくし音質劣化を防ぐ意図で開発されたもので、こういったコンパクトなモジュールを構築できることにこそ、HEMの強みはあるようだ。なお、SERCEモジュールについては、今後他メーカーへのOEM供給なども検討しているとのこと。
ハメラ氏はWANDLAについて「これまで開発してきた中で最高の製品と考えています」と自信を見せる。「可能な限りソフトウェアもハードウェアもシンプルに設計することにこだわっています。特にI/V変換回路をシンプルな設計にできたことは、WANDLAの音質にも非常に貢献していると考えています」
WANDLAにはDACチップにES9038PROが搭載されており、後段にI/V変換回路が必要となる。開発にあたっては、コンピューターで回路をシミュレートし、実際にボードに実装、試聴する、というサイクルを何ヶ月もかけて繰り返し行った。7人のエンジニアとともに何度も試作を繰り返し、最終的には一番シンプルな回路が一番音質的に優れている、という結論に至ったのだという。時間をかけて音質を追い込んでいく開発手法は、WANDLAの他の構成部位の開発にも生かされているのだという。
今後ネットワークに関する製品をリリースする可能性があるのか、という問いに対してハメラ氏は、「将来的には考えています。ですが、これまでとは違う規模の製品開発が必要となるために、Ferrum audioとしての特徴や独自性をどうすれば製品に落とし込むことができるか考えていきたいです」と語る。
他のプラットフォームに乗っかるのではなく、ハードウェア、ソフトウェア双方について自社でノウハウを蓄積した上でこそ、Ferrum audioらしい製品を生み出すことができる、という強い矜持をハメラ氏からは感じることができた。
なお「WANDLA」については、角田郁雄氏の自宅リスニングルームにて、Bowers&Wilkinsのスピーカーと組み合わせた試聴レビューも別記事で掲載している。デジタル・フィルターによる音質差やHYPSOS追加によるグレードアップのポイントについても解説しているので、こちらも併せてチェックしてほしい。
プレスカンファレンスの冒頭、エミライで取締役・マーケティングディレクターを務める島 幸太郎氏は、現在の市場トレンドについて、デスクトップオーディオやリビングオーディオなどこれまでと違う製品の需要が高まっており、また、高音質なデジタル再生の追求やネットワークを活用した製品が増えてきていると分析。そのうえで、「ハードウェアだけではなくソフトウェアの独自技術を持っているメーカー、自社でノウハウを蓄積しているメーカーが今後優位に立っていく」という考えから、Ferrum audioの国内展開をスタートしたと語る。
1970年にポーランドで生まれたマルチン・ハメラ氏は、ワルシャワ工科大学で軍事や医療用の基板設計を学び、その後軍事関連企業勤務を経て、HEM社を立ち上げ、オーディオの製品開発に携わるようになったという。HEM社は、実はマイテック・デジタルのプロ/コンシューマー製品の開発を長年手掛けてきたことでも知られている。
「1998年より2015年まで、マイテック・デジタルのミハウ・ユーレビッチ氏ともにマイテック製品のプロ/コンシューマー製品開発にも関わってきました。ですが、HEM社が大きく成長し、スタッフも25人を超える体制となったことから、2019年より自社ブランドとしてFerrum audioを設立することになったのです」
Ferrum audioの立ち上げの理由について、「決して高すぎるものではなく、お求めやすい価格で優れた製品を作りたい」と考えたからだとハメラ氏は語る。Ferrumは「鉄」を意味するラテン語。ハメラ氏の父親はかつて鍛冶屋を営んでいたそうで、このブランド名からもハメラ氏自身が素材やマテリアルに非常に関心を寄せていることが窺える。
最初のプロダクトは、強化電源の「HYPSOS」。2020年にリリースされた製品で、リニア電源とスイッチング電源のハイブリッドモデルであり、5〜30Vまでソフトウェア制御で電圧を可変できるというのが大きな特徴。HYPSOSという言葉にはハイブリッド・パワーサプライという意味のほか、古ギリシャ語で「崇高」といった意味もあるという。ハメラ氏は同製品について「Sophisticated」(洗練された、高度な)という言葉で繰り返し形容しており、製品に込められた高度な技術が伺い知れる。
同社の製品ラインナップは現在4種類。強化電源のHYPSOSとアナログヘッドホンアンプの「OOR」(オア)、USB-DAC/ヘッドホンアンプの「ERCO」(エルツォ)、そして今年のミュンヘン・ハイエンドで発表されたフラグシップDACである「WANDLA」(ワンドラ)。いずれもデスクトップに設置しやすいコンパクトな筐体で、すべて同一サイズ・デザインとなっており積み上げて使用することも可能。
「WANDLA」については、エミライの村上氏よりさらに詳しい説明がなされた。「WANDLA」はドイツ語で「変換」を意味する「WANDLER」に由来する。内部写真を見てみると、コンパクトな筐体内に電源部/デジタル処理部/アナログ部が整然と配置されており、合理的かつシンプルに設計されていることが見て取れる。
特に「SERCEモジュール」と名付けられたモジュールには、高速処理が可能だというチップ「STM32H7」を使用した上で、USBレシーバーやMQAデコーダー、デジタルフィルターなど今のデジタル高音質再生に求められる様々な機能がまとめ上げられている。伝送ロスをなくし音質劣化を防ぐ意図で開発されたもので、こういったコンパクトなモジュールを構築できることにこそ、HEMの強みはあるようだ。なお、SERCEモジュールについては、今後他メーカーへのOEM供給なども検討しているとのこと。
ハメラ氏はWANDLAについて「これまで開発してきた中で最高の製品と考えています」と自信を見せる。「可能な限りソフトウェアもハードウェアもシンプルに設計することにこだわっています。特にI/V変換回路をシンプルな設計にできたことは、WANDLAの音質にも非常に貢献していると考えています」
WANDLAにはDACチップにES9038PROが搭載されており、後段にI/V変換回路が必要となる。開発にあたっては、コンピューターで回路をシミュレートし、実際にボードに実装、試聴する、というサイクルを何ヶ月もかけて繰り返し行った。7人のエンジニアとともに何度も試作を繰り返し、最終的には一番シンプルな回路が一番音質的に優れている、という結論に至ったのだという。時間をかけて音質を追い込んでいく開発手法は、WANDLAの他の構成部位の開発にも生かされているのだという。
今後ネットワークに関する製品をリリースする可能性があるのか、という問いに対してハメラ氏は、「将来的には考えています。ですが、これまでとは違う規模の製品開発が必要となるために、Ferrum audioとしての特徴や独自性をどうすれば製品に落とし込むことができるか考えていきたいです」と語る。
他のプラットフォームに乗っかるのではなく、ハードウェア、ソフトウェア双方について自社でノウハウを蓄積した上でこそ、Ferrum audioらしい製品を生み出すことができる、という強い矜持をハメラ氏からは感じることができた。
なお「WANDLA」については、角田郁雄氏の自宅リスニングルームにて、Bowers&Wilkinsのスピーカーと組み合わせた試聴レビューも別記事で掲載している。デジタル・フィルターによる音質差やHYPSOS追加によるグレードアップのポイントについても解説しているので、こちらも併せてチェックしてほしい。