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公開日 2013/05/28 19:54
NHK技研公開(3)小型化した立体カメラ/放送局ならではの超解像/劣化しにくい有機ELなど
多視点映像を実現する「ぐるっとビジョン」にも注目
5月30日から6月2日まで一般公開も行われる「NHK技研公開2013」。本項では、SHVやハイブリッドキャスト以外の注目展示について紹介していく。
■インテグラル小型テレビ
NHKでは、スーパーハイビジョンの後の目標として、立体テレビ放送の実用化を目指している。その一環で、微少なレンズアレーを撮影・表示の双方に活用して立体視を実現する「インテグラル立体テレビ」の研究を進めているが、今回の技研公開でも新たな研究成果が展示された。それが、従来比で10分の1程度に小型化し、さらに高画質化も実現したインテグラル立体カメラだ。
これまでは撮像素子より大きなレンズアレーを用いていたため、撮像素子に向けて集光するレンズが必要となり、この集光レンズの歪みが画質劣化につながっていた。新たに製作したカメラでは、撮像素子と同サイズの微小なレンズアレーを開発し、撮像素子と一体化。撮像素子とレンズアレーの間の集光用カメラレンズが不要となり、画質が向上した。なお、撮像素子の解像度は8Kと高精細で、これにより視点を増やしながら画質を高めることが可能となるという。
■放送事業者ならではの超解像技術
放送事業者ならではの超解像技術も展示されていた。通常の超解像技術では、機器側では元画像データがわからないため、データベースを参照したり、アルゴリズムを最適化するなどの方法で、元画像を推測しながら超解像処理を行う必要がある。NHKなど放送事業者の場合、解像度を落とす前の元画像データを持っているため、どういったパラメーターを使って超解像処理を行うと、より原画に近い映像を復元できるかを解析できる。解析したパラメーターを超解像処理で復元する際に利用すれば、より原画に近い映像に復元できることになる。
本日の展示では、4K映像をいったん2Kに縮小し、それを超解像で復元するデモを行っていた。さらに、これまではソフトウェアベースで超解像処理していたものを、今回FPGAを利用することで、リアルタイムに圧縮・復号することが可能になった。現在、様々なテレビメーカーが超解像技術の精度を高めるべく鎬を削っているが、「これらはデータベースが膨大になるなど、開発に負荷がかかる。元の映像を持っている放送事業者ならではの超解像技術として、今後も開発を進めていきたい」(NHK職員)という。
■被写体を追いかけ多視点映像を実現「ぐるっとビジョン」
複数台のロボットカメラを並べ、1つの被写体を自動的に追いかける「多視点ロボットカメラシステム」もユニークな試みだ。これまで、被写体を追いかけず、固定したカメラを並べるシステムは実用化していたが、今回のシステムでは、1人のカメラマンの操作により、複数のロボットカメラを一斉に被写体の方向へ協調制御することができる。今回のデモでは、9台のカメラを制御していた。
このシステムを使うことで、たとえばバスケの選手がゴールを決めた瞬間に、被写体の動きを止め、その周りを視点がなめらかに移動する映像を実現できる。NHKではこの映像を「ぐるっとビジョン」と呼んでいる。今後はロボットカメラの方向制御精度や運用性を向上させるとともに、上記のインテグラル立体テレビの撮影システムとしての有効性を検証していくという。
■低遅延な局用/ホール用デジタルマイク
低遅延なデジタルラジオマイクも展示された。放送番組の製作や劇場・ホールなどで、高品位な伝送を行うための無線マイクは「特定ラジオマイク」と呼ばれているが、国の周波数再編アクションプランに基づき、現在使っている800MHz帯から、別の周波数帯、あるいはホワイトスペースへと移行することが検討されている。
これを受けてNHKでは、移行先の周波数帯でも安定して利用できる低遅延型デジタルラジオマイクの伝送方式を開発。この伝送方式を利用したラジオマイクとイヤーモニターを試作した。ラジオマイクの遅延は1msecで、イヤーモニターはそれよりもさらに遅延が低い。音声は非圧縮のリニアPCMで飛ばすため高音質で、2チャンネルステレオモードを伝送可能にしたモードも備えている。
■劣化しにくい有機ELディスプレイ
有機ELディスプレイの寿命を高める新技術も搭載された。NHKではシート型ディスプレイの研究開発を以前から進めているが、今回、日本触媒と共同で、フィルム基板上でも長時間安定して発光する有機ELの開発に成功した。
今回発表された有機ELディスプレイは、酸素や水分の影響を受けにくい電子注入層の材料を開発。さらに劣化しにくい陰極用材料を使用した。加えて構造も工夫。陽極と陰極を入れ替え、基板上に陰極を成膜する逆構造とした。NHKでは、この逆構造有機ELを「iOLED」と命名し、長期間安定して発光するデバイスとして、今後も開発を継続していく。
■触覚を再現するシステムも進化
視覚障害者などに向け、「手で見るテレビ」を開発する研究も行われていた。その一環として、指を差し込み動かすと、立体データと指の位置を付け合わせ、どの位置に指があるかを解析して内部の突起を動かし、触覚を再現するシステムを展示していた。これまでは1点の突起を動かしていたが、今回は5点で刺激を与える装置を開発。1点では認知が難しい、角や輪郭などの特徴を、触って知ることができる。
■CGキャラクターが手話通訳するシステムも進化
NHKが従来から開発を進めている、番組内の文字情報データをもとに手話へ自動翻訳し、それをCGキャラクターが伝える技術も展示していた。今回は、輻輳や髪型などが異なる複数のキャラクターを選択可能になり、背景色にあわせてキャラクターを変えることで、より視認性を高めた。また画面内のキャラクター位置もリアルタイムに変更できるようになった。今後の課題はキャラクターの表情。現在は無表情だが、「手話では表情もコミュニケーションの重要な要素だ。これを実現するためには、文字情報から楽しい話題なのか、悲しい話題なのかを読み取る必要も出てくるが、まだそこまで手が付けられていない」(NHK職員)。
■インテグラル小型テレビ
NHKでは、スーパーハイビジョンの後の目標として、立体テレビ放送の実用化を目指している。その一環で、微少なレンズアレーを撮影・表示の双方に活用して立体視を実現する「インテグラル立体テレビ」の研究を進めているが、今回の技研公開でも新たな研究成果が展示された。それが、従来比で10分の1程度に小型化し、さらに高画質化も実現したインテグラル立体カメラだ。
これまでは撮像素子より大きなレンズアレーを用いていたため、撮像素子に向けて集光するレンズが必要となり、この集光レンズの歪みが画質劣化につながっていた。新たに製作したカメラでは、撮像素子と同サイズの微小なレンズアレーを開発し、撮像素子と一体化。撮像素子とレンズアレーの間の集光用カメラレンズが不要となり、画質が向上した。なお、撮像素子の解像度は8Kと高精細で、これにより視点を増やしながら画質を高めることが可能となるという。
■放送事業者ならではの超解像技術
放送事業者ならではの超解像技術も展示されていた。通常の超解像技術では、機器側では元画像データがわからないため、データベースを参照したり、アルゴリズムを最適化するなどの方法で、元画像を推測しながら超解像処理を行う必要がある。NHKなど放送事業者の場合、解像度を落とす前の元画像データを持っているため、どういったパラメーターを使って超解像処理を行うと、より原画に近い映像を復元できるかを解析できる。解析したパラメーターを超解像処理で復元する際に利用すれば、より原画に近い映像に復元できることになる。
本日の展示では、4K映像をいったん2Kに縮小し、それを超解像で復元するデモを行っていた。さらに、これまではソフトウェアベースで超解像処理していたものを、今回FPGAを利用することで、リアルタイムに圧縮・復号することが可能になった。現在、様々なテレビメーカーが超解像技術の精度を高めるべく鎬を削っているが、「これらはデータベースが膨大になるなど、開発に負荷がかかる。元の映像を持っている放送事業者ならではの超解像技術として、今後も開発を進めていきたい」(NHK職員)という。
■被写体を追いかけ多視点映像を実現「ぐるっとビジョン」
複数台のロボットカメラを並べ、1つの被写体を自動的に追いかける「多視点ロボットカメラシステム」もユニークな試みだ。これまで、被写体を追いかけず、固定したカメラを並べるシステムは実用化していたが、今回のシステムでは、1人のカメラマンの操作により、複数のロボットカメラを一斉に被写体の方向へ協調制御することができる。今回のデモでは、9台のカメラを制御していた。
このシステムを使うことで、たとえばバスケの選手がゴールを決めた瞬間に、被写体の動きを止め、その周りを視点がなめらかに移動する映像を実現できる。NHKではこの映像を「ぐるっとビジョン」と呼んでいる。今後はロボットカメラの方向制御精度や運用性を向上させるとともに、上記のインテグラル立体テレビの撮影システムとしての有効性を検証していくという。
■低遅延な局用/ホール用デジタルマイク
低遅延なデジタルラジオマイクも展示された。放送番組の製作や劇場・ホールなどで、高品位な伝送を行うための無線マイクは「特定ラジオマイク」と呼ばれているが、国の周波数再編アクションプランに基づき、現在使っている800MHz帯から、別の周波数帯、あるいはホワイトスペースへと移行することが検討されている。
これを受けてNHKでは、移行先の周波数帯でも安定して利用できる低遅延型デジタルラジオマイクの伝送方式を開発。この伝送方式を利用したラジオマイクとイヤーモニターを試作した。ラジオマイクの遅延は1msecで、イヤーモニターはそれよりもさらに遅延が低い。音声は非圧縮のリニアPCMで飛ばすため高音質で、2チャンネルステレオモードを伝送可能にしたモードも備えている。
■劣化しにくい有機ELディスプレイ
有機ELディスプレイの寿命を高める新技術も搭載された。NHKではシート型ディスプレイの研究開発を以前から進めているが、今回、日本触媒と共同で、フィルム基板上でも長時間安定して発光する有機ELの開発に成功した。
今回発表された有機ELディスプレイは、酸素や水分の影響を受けにくい電子注入層の材料を開発。さらに劣化しにくい陰極用材料を使用した。加えて構造も工夫。陽極と陰極を入れ替え、基板上に陰極を成膜する逆構造とした。NHKでは、この逆構造有機ELを「iOLED」と命名し、長期間安定して発光するデバイスとして、今後も開発を継続していく。
■触覚を再現するシステムも進化
視覚障害者などに向け、「手で見るテレビ」を開発する研究も行われていた。その一環として、指を差し込み動かすと、立体データと指の位置を付け合わせ、どの位置に指があるかを解析して内部の突起を動かし、触覚を再現するシステムを展示していた。これまでは1点の突起を動かしていたが、今回は5点で刺激を与える装置を開発。1点では認知が難しい、角や輪郭などの特徴を、触って知ることができる。
■CGキャラクターが手話通訳するシステムも進化
NHKが従来から開発を進めている、番組内の文字情報データをもとに手話へ自動翻訳し、それをCGキャラクターが伝える技術も展示していた。今回は、輻輳や髪型などが異なる複数のキャラクターを選択可能になり、背景色にあわせてキャラクターを変えることで、より視認性を高めた。また画面内のキャラクター位置もリアルタイムに変更できるようになった。今後の課題はキャラクターの表情。現在は無表情だが、「手話では表情もコミュニケーションの重要な要素だ。これを実現するためには、文字情報から楽しい話題なのか、悲しい話題なのかを読み取る必要も出てくるが、まだそこまで手が付けられていない」(NHK職員)。