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公開日 2013/06/10 20:02

シャープ、世界初「MEMS+IGZO」ディスプレイを公開 − 鴻池賢三が画質レポート

大画面テレビへの転用にも期待
鴻池賢三
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シャープは天理工場(奈良県天理市)で「新事業分野の取り組みに関する説明会」を本日6月10日に開催した。

新事業分野として挙げられたのは(1)ヘルスケア・医療 (2)ロボティクス・エンジニアリング(3)スマートホーム・モビリティ(4)食/水/空気の安心安全(5)教育 (6)革新商品の6点だ。天理工場は同社の要素技術開発を担う拠点であり、多数のデモ機と説明員による展示会も併せて開催された。

発表会場となったシャープ天理工場内、生産技術開発本部・新規事業推進本部が入る建屋

様々な興味深い技術が披露されたが、ここでは、オーディオビジュアルに関連の深いMEMSディスプレイについて、技術内容のレポートや映像インプレッション、ディスプレイとしての将来性について述べていこう。

■世界初「MEMS」+「IGZO」

MEMSディスプレイの公開は今回で3回目とのこと。ちなみに過去の2回は、5月カナダで開催されたSID(the Society for Information Display)と、6月7日にクアルコムが約60億円の追加出資を完了した会見の場とのことだ。

MEMSディスプレイのデモ機

また、ここで言う「世界初」とは、MEMSディスプレイ自体ではなく、シャープ独自の「IGZO」技術を組み合わせた点を指している。

■MEMSディスプレイとは?

そもそもMEMSディスプレイとはどんなものなのか。AVファンなら、単板式のDLPプロジェクターを想像すると良いだろう。基本構造は、MEMSシャッターという光の透過をオン・オフできる微細な窓が画素数分設けられており、バックライトを透過させたり遮ることで映像を作り出すというものだ。モノカラー映像の場合、明暗の階調はシャッターの開放時間と回数で表現し、さらにRGBのモノカラー映像を時間差で重畳するとフルカラー映像が得られる仕組みだ。RGBの切り換えは光源の切り換えで行う。

7インチ、1,280x800ドットのMEMSパネルが単体で展示された

単板式DLPに例えると、MEMSシャッターがDMDミラーに相当し、光源のRGB切り換えはカラーホイールに相当する。液晶パネルに対する原理面でのアドバンテージは、フルカラーの表現がRGBのサブピクセルを並べる並置法ではなく、時間差で重ねる重畳法である点だ。たとえ顕微鏡で見ても、画素がRGBに分かれて見えることは無い。またカラーフィルターを必要としないので、透過効率が高く、画面の高輝度化あるいは低消費電力化に向いている。

一方、階調表現やフルカラー表現が単位時間あたりの積分によるため、MEMSシャッターの動作が充分に高速でないと、バンディングやカラーブレーキングを起こす心配がある。

■映像インプレッション

今回のデモでは、7インチ、1,280×800ドットのパネルが単体で展示された。2014年末には携帯端末に搭載されるとのことで、完成度としては最終品に近いものだろう。デモは静止画のみだったが、重畳法によるサブピクセルを持たないカラー映像はやはり密度感が高く、色のキレも良い。色の鮮やかさ、彩度の深さも液晶とは格の違いを感じる。

液晶パネルのようにカラーフィルターを使用しない利点の一つが発色の良さ。赤の彩度は印象的

また黒の絶対的な沈みもパーフェクト。説明員によると、MEMSシャッターは物理的に光を完全に遮光できるので、液晶に対して原理的にアドバンテージがあると言う。カラーフィルターや偏光の影響がないので、斜めから見ても色の変化や黒の浮きはない。実際に確認すると、極度な斜めから見た場合でも、明るさが低下するだけだった。

シャッタースピード1/50秒で撮影。1/60秒以下だが頬にバンディングがはっきり見える。1/30秒だとバンディングは出ない

このような極端な斜めから見ても色のシフトや黒の浮きがない点で、MEMS方式は液晶方式よりもディスプレイとして優れた特性を持つと言える

表示はRGBそれぞれ8bitの計24bitで、このサイズの静止画を肉眼で見る限りでは、バンディングやカラーブレーキングは確認できなかった。説明員によると、1/60秒を1枚の画とし、R、G、Bのモノカラー映像3枚を重ねているという。実際にデジタルカメラのシャッタースピードを調整して撮影してみたが、1/30秒より高速に設定すると色割れが確認できた。このRGB切り換え速度はDLPと同等で、画面サイズを大きくして動画を表示すると、カラーブレーキングが知覚される可能性は高い。

■IGZOの貢献

IGZOは、従来のアモルファスシリコン系半導体に比べ、電子の移動が従来の20倍から50倍と高速な結晶性酸化物半導体である。今回のMEMSシャッターディスプレイにIGZOを組み合わせることで、シャッターの高速開閉が可能になった。言い換えると、8bitのカラー映像を表示できるようになったのはIGZOの貢献が大きいだろう。さらなる高速化が実現できれば、10bitへの多階調化や、カラーブレーキングの根絶も実現する可能性がある。

IGZOと同様の性能を持つ新たな半導体の登場も可能性はゼロではないだろうが、現時点で量産化の見込める技術は見あたらず、当面はIGZOの独壇場だろう。クアルコムが出資していることからも、正しい推測だと思う。

■大画面テレビもMEMSに?

説明員の話によると、MEMSによる数十インチクラスの大画面テレビ用パネルも技術的には可能だそうだ。逆に、展示品(7インチ、1,280x800ドット)以上の高密度化も可能という。実現できるかは生産設備次第だそうで、携帯端末向けの小型パネルを先行させる背景には、クアルコムの出資が大きく関係しているようだ。

全世界的に携帯端末に比べて利益の取れないテレビに、数十億円規模の投資を行うことは難しいご時世だろうが、MEMSは4Kや8Kなどの高精細時代にふさわしい技術であり、MEMSテレビの早期実現に期待したい。光源をLEDからレーザーに置き換えられれば、重畳法でカラーブレーキングもない、素晴らしいディスプレイに仕上げられるかもしれない。今後もMEMS+IGZOの動向に注目したい。

(鴻池賢三)

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