HOME > ニュース > AV&ホームシアターニュース
公開日 2017/09/16 10:23
“日本一小さな映画館”「チュプキ」にAVファンが注目すべき理由
「本当のユニバーサルを目指す」
日本初のユニバーサルシアターにして日本で一番小さな映画館「CINEMA Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)」が、オープンから1周年を迎えた。それを記念して行われた『ガールズ&パンツァー 劇場版』特別上映会で、佐藤浩章支配人と岩浪美和音響監督が語ったトークの内容をレポートしたい。
CINEMA Chupki TABATA(以下、チュプキ)は、2016年9月1日、視覚障がい者の映画鑑賞をサポートしてきた「バリアフリー映画鑑賞推進団体City Lights」というボランティア団体が主体となって東京・田端に設立された。
ユニバーサルシアターとは、障害のあるなしに関わらず、誰もが一緒に映画の感動を共有できる映画館のこと。映画館に行くことをためらってしまっている人も、安心して楽しめる夢の映画館を創りたい、という思いでスタートしたプロジェクトには、ネットやSNS、クラウドファンディングの呼びかけに多くの賛同者が集まった。
座席は車いすスペース2席をふくむ17席で、補助席を導入すると最大20席。床には柔らかな人工芝が敷かれ、暗くなってもつまづいたりしないよう配慮されている。完全防音構造の鑑賞室も別に用意され、子連れでも気兼ねなく訪れることができる。
■プロが手掛けた“手が届く”機材での音響空間
特徴的なのは、コンシューマー向け機材で構築されたオーディオシステムだ。プロジェクターはJVCの4K対応モデル「DLA-X750R」で、120インチのホワイトスクリーンに投写。アンプはDENON「 AVR-6300H」、スピーカーにはDALI「opticon 1」を11台。BDプレーヤーはOPPO 「BDP-103DJP」で、サブウーファーにはB&Wの「ASW610」を常設。さらにELAC「SUB2090」もこの日のために用意された(本機も常設されるとのこと)。
これらのシステムは、岩浪音響監督のプロデュースにより「フォレストサウンド」と名付けられた。フォレストサウンドとは、劇場の前面、側面、後面、天井に計11.1chのスピーカーを配置、7.1.4chドルビーアトモス/DTS:Xに対応するシステム。「癒される森の中のような空間」というチューニングがなされているという。ちなみに、「チュプキ」とはアイヌ語で、月や木洩れ日などの「自然の光」を意味している。
一般的にサラウンドシステムは、フロントに大きなスピーカー、サイドやリアには小型のものを配置することが多いが、岩浪音響監督によれば「つながりの良い音、包まれるような空間を小さな映画館で作るために、すべて点音源に近い2ウェイの小型スピーカーで揃えました。刺激のありすぎる音ではなく、やさしい音ということで、いくつかの候補から、密度の高い音のヨーロッパのスピーカーを選んでいます」という。
もちろん、機材を揃えるだけでは良い環境は実現できない。そもそも、多くの物件を見て回るなかで、City Lights代表の平塚千穂子さんが「スクリーンが見えた」というインスピレーションもあって決定したという物件。映画館を想定して作られていないため、決して条件が良いとは言えなかった。
「部屋の側面が平行面になっていて、フラッター(歪み)が発生してしまうんですが、部屋の基本設計は動かしようがなかったんです。ローコストでフラッターの発生を減らすために、佐藤支配人が手作業でコルクを貼ったりしています」(岩浪音響監督)。
部屋の前方には大きなぬいぐるみやクッションが置かれ、壁にはインテリアが飾られている。優しい空間作りのためかと思っていたが、それだけではなく音作りの役にも立っているとのことだ。こうした対策は、限られた予算であることも理由となる。
「ただ高いものを集めるのではなく、低価格でも信頼性があって良質な機材で構成しました。本当に貴重な、善意のお金なので、少しも無駄にしないように。結果としては満足のいく音になったし、映画ファンの皆さんにも高い評価をいただけている」と岩浪音響監督は語った。
各座席には、左右のボリューム調整機能がついたイヤホンジャックを完備。詳しくは上映会の感想とともに後述するが、特別な音声ガイドや、上映される映画の音が流されている。3.5mmのジャックで、愛用のイヤホンが使用できることはもちろん、受け付けにWestone「AM PRO10」が貸し出し用として2台常備されている。
こうした用途のイヤホンとしては異例の高性能だと思うが、これには理由がある。インイヤーモニター型のイヤホンの多くは遮音性が高く音漏れもしにくいが、外音も遮断してしまう。では外音を取り込めるアンビエント型(開放型)にすると、今度は音漏れが気になる。音声ガイドを聴きながら、上映中の映画の音も聴くために、そして音質も良く、といったバランスを取った結果、WestoneのAM PROシリーズが選択されたという。
■音声ガイドつき『ガルパン』で分かったこと
この日上映されたのは、『ガールズ&パンツァー 劇場版』。岩浪音響監督がサウンドを手がけ、日本各地で音にこだわった上映が行われたタイトルで、オーディオ・ビジュアルのファンからも注目を集めた。“爆音”や“重低音”をテーマに調整された上映が多かったが、ここチュプキでもまごうことなき“爆音”が体験できた。
砲撃や戦車の行進から生まれる重低音が、地面に接した足や、座席に預けた背中から振動となって感じられる。仕事柄、同程度の広さの部屋でサラウンドシステムを視聴することも多いが、コンシューマー向けの機器でこれだけの臨場感を体験したのは初めてだった。もちろん、ただ音量を大きくしたならうるさいだけになる。全体のバランスやサラウンド感を整えつつ、迫力を実現したまさにプロのチューニングだ。
チュプキでの上映では、音声ガイドや字幕が用意されている。『ガルパン』でも同じく、特別に用意された字幕付き映像が流されたが、耳を引くのは秋山優花里役の中上育実さんが担当した録り下ろしの音声ガイドだ。
音声ガイドと聞くと、視覚障害を持つ方がいま映像で何が起きているのかを把握できるよう説明する、といったイメージを持たれがちだ。実際にそうした使われ方が多いだろうが、チュプキの音声ガイドは少し違う。
一例を紹介したい。映像を見ていると、あんこうチームやカメさんチームなど、大洗女子学園の戦車が順番に映し出され、サウンドとしてはBGMが流れている。音声ガイドでは「アヒルさんチームの八九式中戦車が走っている」といった具合に、車両名まで解説される。
正直に言えば、記者はそのとき、走っている戦車の正体を初めて知った。分かる人には分かるのだろうが、分からない人には映像を見ても分からない情報が補完されるわけだ。試しに目を閉じてみると、軽く抑揚をつけた表現で、情景が頭に浮かんできた。また最後までイヤホンを着けたままでも、特に耳が痛くなったりもしなかった。
この音声ガイドについて佐藤支配人は、「音声ガイドの普及に少しでも力になれないか、と考えた」という。「音声ガイドは皆で楽しんでいいものだと思います。バリアフリーの映画館だと、かえって遠慮される方がいらっしゃるのですが、それは誤解です。誰でも一緒に見る、楽しむということができるんです」。
ちなみに、上映前に流れる注意事項などのアナウンスは、声優・小野大輔さんが担当。過去にはその縁もあり、映画『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』の音声ガイドを小野大輔さんが務めている。
また画面サイズについては、もちろん一般的な映画館に比べれば物理的に小さい。しかし、視聴距離が近く、音響も相まって迫力は十分だ。最前列に座ったが、無理なく全体が視界に収まり、見上げすぎて首に負担が掛かることもなかったので、かえって見やすいほどだった。
■「本当の意味でのユニバーサルを実現」
ユニバーサルシアターとして運営を続けるチュプキだが、苦労する点も多いようだ。「上映する作品は、月ごとに変更しています。それは障害を持つ方が介助を申し込むのに時間を要するので、上映が決まったことを知り、観たいと考えてからでも間に合うようにと設定しました。逆に、もし動員がふるわない作品だったとしても、1ヶ月は変えられないことになります」と佐藤支配人。
「月の来場者は平均500人くらいですが、日割りで一番少ない日は2人ということもありました。8月は1日平均80人を記録したり、作品によってバラバラです」と語られるように、オープンしてまだ1年、安定した客入りとはいかないようだ。また、公式でバリアフリー素材を作っていない作品に関しては、基本的に自費で制作しているという。
字幕がある邦画は数が少なく、DCP(デジタル・シネマ・パッケージ)を導入していないチュプキでは、メジャータイトルもなかなか上映できない。実際、チュプキで上映された作品のほとんどに字幕がついておらず、もちろん音声ガイドもなかった。「お客さんの姿を想像して、作品の声を聞いて、ひとつひとつ作っています」という。
それでも、佐藤支配人は「お客さん同士で、“ここが空いていますよ”と席の整理や、駅までのご案内をしていただいたり、本当に色々な方のご協力があって、皆さんと一緒に作ってきた1年です」と笑顔を見せる。
また岩浪音響監督も「普通に映画が観たいのに、その場がない。けど、ここなら観れるんだ、ということが少しずつですが広がっているということを、この1年で実感しています。誰もが普通に同じ空間で映画を観られることが、とても大切なこと。これまで自分も考えていなかったことを学ばせていただきました」と1周年を迎えての実感を語った。
では、これから先の1年はどうなっていくのか。「チュプキの取り組みと、アニメ作品は相性が良いと思っています」と佐藤支配人は言う。「皆さんが知るきっかけにもなりますし、声優さんの音声ガイドは表現も豊かで、5.1chサラウンドの動きがとても鮮明に出ます。これからも定期的に、アニメ作品のラインナップを強めていきたい」
「チュプキのような取り組みが、どこのシアターでも当たり前になっていったら嬉しいです。それをアニメ作品の力を借りて広げていきたいです」(佐藤支配人)
そして岩浪音響監督も、「本当の意味での“ユニバーサル”を実現したい。チュプキの知名度を上げるということは重要ですが、色んな映画館にこうした取り組みが広がって欲しいです」と、佐藤支配人と同様の思いを語った。
◇ ◇ ◇
繰り返しになるが、チュプキは日本初のユニバーサルシアターにして日本で一番小さな映画館だ。その社会的意義は極めて大きく、オーディオ・ビジュアルのファンにとっても価値のある存在となっている。
限られた予算であることは、多くのオーディオファンも同様だろう。集められた機器は、一般的なオーディオショップ、家電量販店で販売されていて、かつ普及価格帯のものも多い。つまり、ユーザーと似た条件のなかで組まれた最高峰がチュプキの音響であると言える。
プロである岩浪音響監督が、「普通なら“これで良い”と感じていただけるはずです。あまりお金をかけずにホームシアターを構築したい、という方には参考にしていただけるのでは」と自信を見せる音響空間。“誰でも”の一員となって、体験してみてはいかがだろうか。
【CINEMA Chupki TABATA】
●営業時間 10:00〜23:00 (水曜定休)
●チケット料金 一般:1,500円/シニア(60才以上:1,000円/学生:1,000円/中学生以下:500円
●場所 〒114-0013 北区東田端2-8-4 マウントサイドTABATA
(JR山手線「田端駅」北口から徒歩5分)
●連絡先 TEL/03-6240-8480
©GIRLS und PANZER Film Projekt
CINEMA Chupki TABATA(以下、チュプキ)は、2016年9月1日、視覚障がい者の映画鑑賞をサポートしてきた「バリアフリー映画鑑賞推進団体City Lights」というボランティア団体が主体となって東京・田端に設立された。
ユニバーサルシアターとは、障害のあるなしに関わらず、誰もが一緒に映画の感動を共有できる映画館のこと。映画館に行くことをためらってしまっている人も、安心して楽しめる夢の映画館を創りたい、という思いでスタートしたプロジェクトには、ネットやSNS、クラウドファンディングの呼びかけに多くの賛同者が集まった。
座席は車いすスペース2席をふくむ17席で、補助席を導入すると最大20席。床には柔らかな人工芝が敷かれ、暗くなってもつまづいたりしないよう配慮されている。完全防音構造の鑑賞室も別に用意され、子連れでも気兼ねなく訪れることができる。
■プロが手掛けた“手が届く”機材での音響空間
特徴的なのは、コンシューマー向け機材で構築されたオーディオシステムだ。プロジェクターはJVCの4K対応モデル「DLA-X750R」で、120インチのホワイトスクリーンに投写。アンプはDENON「 AVR-6300H」、スピーカーにはDALI「opticon 1」を11台。BDプレーヤーはOPPO 「BDP-103DJP」で、サブウーファーにはB&Wの「ASW610」を常設。さらにELAC「SUB2090」もこの日のために用意された(本機も常設されるとのこと)。
これらのシステムは、岩浪音響監督のプロデュースにより「フォレストサウンド」と名付けられた。フォレストサウンドとは、劇場の前面、側面、後面、天井に計11.1chのスピーカーを配置、7.1.4chドルビーアトモス/DTS:Xに対応するシステム。「癒される森の中のような空間」というチューニングがなされているという。ちなみに、「チュプキ」とはアイヌ語で、月や木洩れ日などの「自然の光」を意味している。
一般的にサラウンドシステムは、フロントに大きなスピーカー、サイドやリアには小型のものを配置することが多いが、岩浪音響監督によれば「つながりの良い音、包まれるような空間を小さな映画館で作るために、すべて点音源に近い2ウェイの小型スピーカーで揃えました。刺激のありすぎる音ではなく、やさしい音ということで、いくつかの候補から、密度の高い音のヨーロッパのスピーカーを選んでいます」という。
もちろん、機材を揃えるだけでは良い環境は実現できない。そもそも、多くの物件を見て回るなかで、City Lights代表の平塚千穂子さんが「スクリーンが見えた」というインスピレーションもあって決定したという物件。映画館を想定して作られていないため、決して条件が良いとは言えなかった。
「部屋の側面が平行面になっていて、フラッター(歪み)が発生してしまうんですが、部屋の基本設計は動かしようがなかったんです。ローコストでフラッターの発生を減らすために、佐藤支配人が手作業でコルクを貼ったりしています」(岩浪音響監督)。
部屋の前方には大きなぬいぐるみやクッションが置かれ、壁にはインテリアが飾られている。優しい空間作りのためかと思っていたが、それだけではなく音作りの役にも立っているとのことだ。こうした対策は、限られた予算であることも理由となる。
「ただ高いものを集めるのではなく、低価格でも信頼性があって良質な機材で構成しました。本当に貴重な、善意のお金なので、少しも無駄にしないように。結果としては満足のいく音になったし、映画ファンの皆さんにも高い評価をいただけている」と岩浪音響監督は語った。
各座席には、左右のボリューム調整機能がついたイヤホンジャックを完備。詳しくは上映会の感想とともに後述するが、特別な音声ガイドや、上映される映画の音が流されている。3.5mmのジャックで、愛用のイヤホンが使用できることはもちろん、受け付けにWestone「AM PRO10」が貸し出し用として2台常備されている。
こうした用途のイヤホンとしては異例の高性能だと思うが、これには理由がある。インイヤーモニター型のイヤホンの多くは遮音性が高く音漏れもしにくいが、外音も遮断してしまう。では外音を取り込めるアンビエント型(開放型)にすると、今度は音漏れが気になる。音声ガイドを聴きながら、上映中の映画の音も聴くために、そして音質も良く、といったバランスを取った結果、WestoneのAM PROシリーズが選択されたという。
■音声ガイドつき『ガルパン』で分かったこと
この日上映されたのは、『ガールズ&パンツァー 劇場版』。岩浪音響監督がサウンドを手がけ、日本各地で音にこだわった上映が行われたタイトルで、オーディオ・ビジュアルのファンからも注目を集めた。“爆音”や“重低音”をテーマに調整された上映が多かったが、ここチュプキでもまごうことなき“爆音”が体験できた。
砲撃や戦車の行進から生まれる重低音が、地面に接した足や、座席に預けた背中から振動となって感じられる。仕事柄、同程度の広さの部屋でサラウンドシステムを視聴することも多いが、コンシューマー向けの機器でこれだけの臨場感を体験したのは初めてだった。もちろん、ただ音量を大きくしたならうるさいだけになる。全体のバランスやサラウンド感を整えつつ、迫力を実現したまさにプロのチューニングだ。
チュプキでの上映では、音声ガイドや字幕が用意されている。『ガルパン』でも同じく、特別に用意された字幕付き映像が流されたが、耳を引くのは秋山優花里役の中上育実さんが担当した録り下ろしの音声ガイドだ。
音声ガイドと聞くと、視覚障害を持つ方がいま映像で何が起きているのかを把握できるよう説明する、といったイメージを持たれがちだ。実際にそうした使われ方が多いだろうが、チュプキの音声ガイドは少し違う。
一例を紹介したい。映像を見ていると、あんこうチームやカメさんチームなど、大洗女子学園の戦車が順番に映し出され、サウンドとしてはBGMが流れている。音声ガイドでは「アヒルさんチームの八九式中戦車が走っている」といった具合に、車両名まで解説される。
正直に言えば、記者はそのとき、走っている戦車の正体を初めて知った。分かる人には分かるのだろうが、分からない人には映像を見ても分からない情報が補完されるわけだ。試しに目を閉じてみると、軽く抑揚をつけた表現で、情景が頭に浮かんできた。また最後までイヤホンを着けたままでも、特に耳が痛くなったりもしなかった。
この音声ガイドについて佐藤支配人は、「音声ガイドの普及に少しでも力になれないか、と考えた」という。「音声ガイドは皆で楽しんでいいものだと思います。バリアフリーの映画館だと、かえって遠慮される方がいらっしゃるのですが、それは誤解です。誰でも一緒に見る、楽しむということができるんです」。
ちなみに、上映前に流れる注意事項などのアナウンスは、声優・小野大輔さんが担当。過去にはその縁もあり、映画『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』の音声ガイドを小野大輔さんが務めている。
また画面サイズについては、もちろん一般的な映画館に比べれば物理的に小さい。しかし、視聴距離が近く、音響も相まって迫力は十分だ。最前列に座ったが、無理なく全体が視界に収まり、見上げすぎて首に負担が掛かることもなかったので、かえって見やすいほどだった。
■「本当の意味でのユニバーサルを実現」
ユニバーサルシアターとして運営を続けるチュプキだが、苦労する点も多いようだ。「上映する作品は、月ごとに変更しています。それは障害を持つ方が介助を申し込むのに時間を要するので、上映が決まったことを知り、観たいと考えてからでも間に合うようにと設定しました。逆に、もし動員がふるわない作品だったとしても、1ヶ月は変えられないことになります」と佐藤支配人。
「月の来場者は平均500人くらいですが、日割りで一番少ない日は2人ということもありました。8月は1日平均80人を記録したり、作品によってバラバラです」と語られるように、オープンしてまだ1年、安定した客入りとはいかないようだ。また、公式でバリアフリー素材を作っていない作品に関しては、基本的に自費で制作しているという。
字幕がある邦画は数が少なく、DCP(デジタル・シネマ・パッケージ)を導入していないチュプキでは、メジャータイトルもなかなか上映できない。実際、チュプキで上映された作品のほとんどに字幕がついておらず、もちろん音声ガイドもなかった。「お客さんの姿を想像して、作品の声を聞いて、ひとつひとつ作っています」という。
それでも、佐藤支配人は「お客さん同士で、“ここが空いていますよ”と席の整理や、駅までのご案内をしていただいたり、本当に色々な方のご協力があって、皆さんと一緒に作ってきた1年です」と笑顔を見せる。
また岩浪音響監督も「普通に映画が観たいのに、その場がない。けど、ここなら観れるんだ、ということが少しずつですが広がっているということを、この1年で実感しています。誰もが普通に同じ空間で映画を観られることが、とても大切なこと。これまで自分も考えていなかったことを学ばせていただきました」と1周年を迎えての実感を語った。
では、これから先の1年はどうなっていくのか。「チュプキの取り組みと、アニメ作品は相性が良いと思っています」と佐藤支配人は言う。「皆さんが知るきっかけにもなりますし、声優さんの音声ガイドは表現も豊かで、5.1chサラウンドの動きがとても鮮明に出ます。これからも定期的に、アニメ作品のラインナップを強めていきたい」
「チュプキのような取り組みが、どこのシアターでも当たり前になっていったら嬉しいです。それをアニメ作品の力を借りて広げていきたいです」(佐藤支配人)
そして岩浪音響監督も、「本当の意味での“ユニバーサル”を実現したい。チュプキの知名度を上げるということは重要ですが、色んな映画館にこうした取り組みが広がって欲しいです」と、佐藤支配人と同様の思いを語った。
繰り返しになるが、チュプキは日本初のユニバーサルシアターにして日本で一番小さな映画館だ。その社会的意義は極めて大きく、オーディオ・ビジュアルのファンにとっても価値のある存在となっている。
限られた予算であることは、多くのオーディオファンも同様だろう。集められた機器は、一般的なオーディオショップ、家電量販店で販売されていて、かつ普及価格帯のものも多い。つまり、ユーザーと似た条件のなかで組まれた最高峰がチュプキの音響であると言える。
プロである岩浪音響監督が、「普通なら“これで良い”と感じていただけるはずです。あまりお金をかけずにホームシアターを構築したい、という方には参考にしていただけるのでは」と自信を見せる音響空間。“誰でも”の一員となって、体験してみてはいかがだろうか。
【CINEMA Chupki TABATA】
●営業時間 10:00〜23:00 (水曜定休)
●チケット料金 一般:1,500円/シニア(60才以上:1,000円/学生:1,000円/中学生以下:500円
●場所 〒114-0013 北区東田端2-8-4 マウントサイドTABATA
(JR山手線「田端駅」北口から徒歩5分)
●連絡先 TEL/03-6240-8480
©GIRLS und PANZER Film Projekt