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NTTドコモは、4月12日から新映像配信サービス「Lemino」をスタートさせる。現在同社は映像配信として「dTV」を展開中だが、これをリニューアルしてブランド名も価格も機能も一新する。
なぜドコモは、このタイミングでサービスを一新するのか。そして、Leminoは国内映像配信ビジネスの中でどのよう地位を占めることになるのか。そのあたりを分析してみよう。
前述のように、LeminoはdTVを代替するサービスになる。ただし、dTVのブランド名を変えただけではない。利用するアプリや使える機器といった視聴環境、サービスのコンテンツ数、利用料金まで全てが変わる。
もっとも大きいのは利用料金の変化だろう。dTVは月額550円の定額制だったが、Leminoは基本サービスの場合は無料だ。最大18万本が視聴できる有料プラン「Leminoプレミアム」の場合、料金は月額980円になる。
dTVと比較してLeminoは、視聴可能なコンテンツ数が「ほぼ倍」(NTTドコモ)になっており、UI的にもコンテンツを見つけやすくする仕組みなどが整っている。そのような違いはあるものの、実質的に、倍の金額への値上げである。競争激化により低価格を維持しづらくなった……ということはあるのだろう。
ただ、本質は値上げの方にはない。重要なのは、サービスとして「無料」の方が主軸になっていることだ。
Leminoでは、有料プラン向けにオリジナルドラマなどの制作を行っていく。だが一方で、スポーツ中継や音楽ライブを含む、特に注目度が高いコンテンツについては、無料プランでも配信が行われる。
収益としては広告のほか、NTTドコモの「dポイントクラブ」や、同社の携帯電話サービス契約へつなげる、という部分からの「見えない利益」を想定しているようだ。
NTTドコモ側は、ひとまずユーザー数の目標を「2000万」に置いているとのこと。これは現状、有料サービスでは目指すのが難しい数字であり、当然無料サービスを含めてのものとなる。
このクラスの数字を持っているサービスとしては、具体的に「ABEMA」と「TVer」がある。ABEMAはワールドカップ配信などでも注目を集め、無料+有料での映像配信として確固たる地位を築いている。TVerも見逃し配信として当たり前の存在になり、今年1月の月間ユーザー数は2700万に到達した。
このクラスの数字には、家庭にテレビ局と同じレベルの存在として認知され、使われるものにならないと到達しない。ドコモはdTVのリニューアルに向けて、そういう大きな目標を掲げた、ということでもある。
NTTドコモと映像配信の関わりは長い。Leminoへと切り替わるdTVは、2015年4月に「dビデオ」からブランド変更している。dビデオは2013年1月にスタートしており、さらにその前身は、2009年5月に携帯電話向けとしてスタートした「BeeTV」になる。14年にもわたって映像配信をやってきたわけで、老舗中の老舗といえる。
スマホ時代になってdビデオに変わってから、ユーザー数は増えていく。画面が大きくなり、通信速度も速くなって画質も上がったことから、映像を見ることへの違和感が減ったためだろう。dTVに移行したのちには、早期に500万加入を実現し、日本で一番加入者の多いサービスという時期もあった。
だが、課題も多数あった。初期にユーザー数が多かったのは、当時は携帯電話契約時に特定のサービスに加入することで端末料金が割り引かれる、いわゆる「レ点営業」の結果でもある。そのため当時は、契約者は多いものの利用率が極めて低かった。正確な情報は出ていないが、関係者のコメントとしては、一時は契約者の20%しか使っていない……という時期もあったようだ。
レ点営業がなくなると、dTVを選ぶ人は減ってくる。一方、AmazonやNetflixなどの海外大手を中心に映像配信を見る人が増えてくるが、その競争にdTVは、なかなか絡めてこなかった。
BeeTVの時代から、NTTドコモの映像事業は、エイベックス・グループと提携する形で進められてきた。dTVはエイベックスのアーティストが関係するコンテンツや韓流ドラマなどで強みを発揮していたが、各社がオリジナル作品や独占配信などで差別化する中で、目立ちづらくはなっていた。
そこにコロナ禍がやってくる。エイベックス自身はコロナ禍で音楽イベントを開催できず、業績が悪化していた。逆に映像配信自体は、いわゆる「巣ごもり需要」で急速に加入者を伸ばす。マーケティングにもオリジナルコンテンツの制作にもお金がかかるタイミングであるが、ドコモとエイベックスの間ではなかなか歩調が合わなかったようだ。
結果として2022年11月、dTVの提供母体である「エイベックス通信放送」について、エイベックス・デジタルが持っていた株式をドコモがすべて取得し、子会社化する。ここでエイベックスは、14年続いたドコモとの映像配信事業から、実質的に手を引くことになった。
そうなると、ドコモとしてはある種のテコ入れとして、サービスを完全に刷新する必要が出てくる。そこで出てきたのが、Leminoということなのだろう。
前述のように、Leminoは無料サービスを軸にする存在になった。有料サービスも広げたいだろうが、「有料ありき」で他社と競合するのは難しい、と判断したのだろう。
有料サービスの加入にはハードルがある。「1つしか契約しない」と決めている家庭は少なく、2つ、3つ、とサービスを併用するところが多い。とはいっても、すでに日本には有力なサービスが多数あり、今からそこに割り込むのは難しい。
一方で、無料のサービスであれば、加入のハードルが低いため、話題作りの方法によっては戦いようも出てくる。ネット配信ではスポーツイベントのライブ配信が相次いでいるが、Leminoでもボクシングの井上尚弥戦を1つのフックとして知名度を上げたいと考えており、井上尚弥戦は無料配信になる。
月額550円のままでは、海外大手との対抗は難しいが、単純に値上げしても競争力を保つのは難しい。ならば、全く新しいサービスに切り替えていくタイミングで、「広告ベースでの無料配信」を軸にリニューアルしよう、と考えても不思議はない。
有料と無料では、見られるコンテンツも見る人も少し違う。幅広い層にアピールすることは、Leminoから別のドコモのサービスへ送客する上でもプラスになる。
さらに言えば、ドコモは同時に「爆アゲセレクション」というサービスも始める。こちらはLeminoも含めた5つの映像配信について、ドコモの回線契約者にポイントバックするもの。例えばNetflixのプレミアムプラン(月額1980円)の契約者には360ポイント、Leminoプレミアム(990円)の場合で90ポイントが、毎月dポイントへと還元される。
すでに他社サービスを使う人が多数いることを前提とした上で、それらの加入者に魅力を提供した上で、回線契約とサービス契約の安定化を狙っている。過去とは違い、単純に契約を促すのでも、他社とガチガチの競合を目指すのでもなく、より幅広い層への浸透を目指すところが、「ドコモ単体での映像配信」の特徴ということになるのだろう。
なぜドコモは、このタイミングでサービスを一新するのか。そして、Leminoは国内映像配信ビジネスの中でどのよう地位を占めることになるのか。そのあたりを分析してみよう。
■実質値上げだが「無料」プランで攻める
前述のように、LeminoはdTVを代替するサービスになる。ただし、dTVのブランド名を変えただけではない。利用するアプリや使える機器といった視聴環境、サービスのコンテンツ数、利用料金まで全てが変わる。
もっとも大きいのは利用料金の変化だろう。dTVは月額550円の定額制だったが、Leminoは基本サービスの場合は無料だ。最大18万本が視聴できる有料プラン「Leminoプレミアム」の場合、料金は月額980円になる。
dTVと比較してLeminoは、視聴可能なコンテンツ数が「ほぼ倍」(NTTドコモ)になっており、UI的にもコンテンツを見つけやすくする仕組みなどが整っている。そのような違いはあるものの、実質的に、倍の金額への値上げである。競争激化により低価格を維持しづらくなった……ということはあるのだろう。
ただ、本質は値上げの方にはない。重要なのは、サービスとして「無料」の方が主軸になっていることだ。
Leminoでは、有料プラン向けにオリジナルドラマなどの制作を行っていく。だが一方で、スポーツ中継や音楽ライブを含む、特に注目度が高いコンテンツについては、無料プランでも配信が行われる。
収益としては広告のほか、NTTドコモの「dポイントクラブ」や、同社の携帯電話サービス契約へつなげる、という部分からの「見えない利益」を想定しているようだ。
NTTドコモ側は、ひとまずユーザー数の目標を「2000万」に置いているとのこと。これは現状、有料サービスでは目指すのが難しい数字であり、当然無料サービスを含めてのものとなる。
このクラスの数字を持っているサービスとしては、具体的に「ABEMA」と「TVer」がある。ABEMAはワールドカップ配信などでも注目を集め、無料+有料での映像配信として確固たる地位を築いている。TVerも見逃し配信として当たり前の存在になり、今年1月の月間ユーザー数は2700万に到達した。
このクラスの数字には、家庭にテレビ局と同じレベルの存在として認知され、使われるものにならないと到達しない。ドコモはdTVのリニューアルに向けて、そういう大きな目標を掲げた、ということでもある。
■エイベックスとの合弁から「独り立ち」
NTTドコモと映像配信の関わりは長い。Leminoへと切り替わるdTVは、2015年4月に「dビデオ」からブランド変更している。dビデオは2013年1月にスタートしており、さらにその前身は、2009年5月に携帯電話向けとしてスタートした「BeeTV」になる。14年にもわたって映像配信をやってきたわけで、老舗中の老舗といえる。
スマホ時代になってdビデオに変わってから、ユーザー数は増えていく。画面が大きくなり、通信速度も速くなって画質も上がったことから、映像を見ることへの違和感が減ったためだろう。dTVに移行したのちには、早期に500万加入を実現し、日本で一番加入者の多いサービスという時期もあった。
だが、課題も多数あった。初期にユーザー数が多かったのは、当時は携帯電話契約時に特定のサービスに加入することで端末料金が割り引かれる、いわゆる「レ点営業」の結果でもある。そのため当時は、契約者は多いものの利用率が極めて低かった。正確な情報は出ていないが、関係者のコメントとしては、一時は契約者の20%しか使っていない……という時期もあったようだ。
レ点営業がなくなると、dTVを選ぶ人は減ってくる。一方、AmazonやNetflixなどの海外大手を中心に映像配信を見る人が増えてくるが、その競争にdTVは、なかなか絡めてこなかった。
BeeTVの時代から、NTTドコモの映像事業は、エイベックス・グループと提携する形で進められてきた。dTVはエイベックスのアーティストが関係するコンテンツや韓流ドラマなどで強みを発揮していたが、各社がオリジナル作品や独占配信などで差別化する中で、目立ちづらくはなっていた。
そこにコロナ禍がやってくる。エイベックス自身はコロナ禍で音楽イベントを開催できず、業績が悪化していた。逆に映像配信自体は、いわゆる「巣ごもり需要」で急速に加入者を伸ばす。マーケティングにもオリジナルコンテンツの制作にもお金がかかるタイミングであるが、ドコモとエイベックスの間ではなかなか歩調が合わなかったようだ。
結果として2022年11月、dTVの提供母体である「エイベックス通信放送」について、エイベックス・デジタルが持っていた株式をドコモがすべて取得し、子会社化する。ここでエイベックスは、14年続いたドコモとの映像配信事業から、実質的に手を引くことになった。
そうなると、ドコモとしてはある種のテコ入れとして、サービスを完全に刷新する必要が出てくる。そこで出てきたのが、Leminoということなのだろう。
■無料で不利をカバー、「爆アゲセレクション」も
前述のように、Leminoは無料サービスを軸にする存在になった。有料サービスも広げたいだろうが、「有料ありき」で他社と競合するのは難しい、と判断したのだろう。
有料サービスの加入にはハードルがある。「1つしか契約しない」と決めている家庭は少なく、2つ、3つ、とサービスを併用するところが多い。とはいっても、すでに日本には有力なサービスが多数あり、今からそこに割り込むのは難しい。
一方で、無料のサービスであれば、加入のハードルが低いため、話題作りの方法によっては戦いようも出てくる。ネット配信ではスポーツイベントのライブ配信が相次いでいるが、Leminoでもボクシングの井上尚弥戦を1つのフックとして知名度を上げたいと考えており、井上尚弥戦は無料配信になる。
月額550円のままでは、海外大手との対抗は難しいが、単純に値上げしても競争力を保つのは難しい。ならば、全く新しいサービスに切り替えていくタイミングで、「広告ベースでの無料配信」を軸にリニューアルしよう、と考えても不思議はない。
有料と無料では、見られるコンテンツも見る人も少し違う。幅広い層にアピールすることは、Leminoから別のドコモのサービスへ送客する上でもプラスになる。
さらに言えば、ドコモは同時に「爆アゲセレクション」というサービスも始める。こちらはLeminoも含めた5つの映像配信について、ドコモの回線契約者にポイントバックするもの。例えばNetflixのプレミアムプラン(月額1980円)の契約者には360ポイント、Leminoプレミアム(990円)の場合で90ポイントが、毎月dポイントへと還元される。
すでに他社サービスを使う人が多数いることを前提とした上で、それらの加入者に魅力を提供した上で、回線契約とサービス契約の安定化を狙っている。過去とは違い、単純に契約を促すのでも、他社とガチガチの競合を目指すのでもなく、より幅広い層への浸透を目指すところが、「ドコモ単体での映像配信」の特徴ということになるのだろう。