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ガジェット 公開日 2023/06/29 10:48
分かりにくいがNTTドコモの隙を埋めた「irumo」、MVNOは太刀打ちできるのか
【連載】佐野正弘のITインサイト 第63回
2023年5月に、MVNOの「OCNモバイルONE」を展開しているNTTレゾナントを吸収合併したことで、料金プランに関する動向が注目されていたNTTドコモ。そのNTTドコモが、先日6月20日に新料金プランを発表している。
その内容は既報の通りであり、1つは従来NTTドコモが提供していた「ギガホ」「ギガライト」に代わって提供される、小容量から大容量までの領域をカバーする段階制プラン「eximo」。そしてもう1つは、OCNモバイルONEのサービスに代わり、MVNOとしてではなくNTTドコモ自身が直接提供する小容量のプラン「irumo」である。
それら2つに、従来提供してきた中〜大容量をカバーするオンライン専用の「ahamo」を加えた3プランが、NTTドコモの新たな料金プランとなる。だが新料金プランの発表直後から、内容が分かりにくいとの声が相次いだようだ。
理由の1つはネーミングである。一連のプランの名称は、ahamoに軸を置いたアルファベットの名称となったことから、「ギガホ」「ギガライト」など誰にでも内容が伝わりやすい名称ではなくなってしまったことは確かだろう。
だが、それよりも分かりにくいとの声が多かったのがirumoであり、実際OCNモバイルONEと比べると、料金の仕組みがかなり複雑になっている。OCNモバイルONEは、500MB〜10GBの5段階のコースが用意されており、料金は550〜1,760円。割引は、「OCN光」を契約することで適用される「OCN光モバイル割」のみ(最も安い500MBコースは適用外)であった。
だがirumoは、プラン自体は500MB〜9GBの4段階に減少しており、月額料金も500MBプランこそ月額550円とOCNモバイルONEから維持されているものの、それ以外は割引を適用しないと2,167円〜3,377円と大幅に値段が上がっている。加えて、適用される割引も「dカードお支払割」「ドコモ光セット割」、または「home 5Gセット割」の2つが存在しているため、より複雑になった印象を受ける。
さらに500MBプランに関して言えば、通信速度が最大3Mbpsと非常に遅く、5Gが利用できないなど他の3つのプランとの明らかな違いも存在している。それだけに、OCNモバイルONEのサービスと比べれば複雑で、内容的にも見劣りする印象を受ける人は多かったことだろう。
irumoの分かりにくさには無論、MVNOとしてではなくNTTドコモ自身が提供するサービスとなったことが大きく影響している。実際irumoの提供経緯に関して、NTTドコモは全スマートフォンユーザーの約半数の通信量が月当たり3GB未満と小量であることに加え、NTTドコモ自身が提供する小容量プランを求める声が多かったことを挙げている。
そして小容量、かつNTTドコモが提供することを求めるユーザー層は、スマートフォンにあまり詳しくなく、ahamoとは違ってドコモショップでのサポートを求める人が非常に多いと考えられる。それゆえ、irumoを提供する上では、小容量・低価格とショップでのサポートを両立する必要があり、オンラインでのサポートが主だったOCNモバイルONEと比べ運用コストが大幅に上昇したことから、このような仕組みになってしまったと推測される。
その苦悩ぶりは、irumoのサポート面からも見えてくる。実際、irumoの料金プランには「ドコモメール」、いわゆる携帯メールのサービスが含まれておらず月額300円のオプションとなっているし、ドコモショップでの設定サポートもいくつかは1回当たり1,100円がかかるなど、eximoと比べるとサポート面での弱さがうかがえるが、それもirumoのベースの価格を抑えるためだろう。
とはいえ、競合他社で低価格ながら店舗でのサポートを実現している、サブブランドの「UQ mobile」「ワイモバイル」にも割引の仕組みは存在しているだけに、irumoがそれらと比べれば一定の競争力を持つことは確かだ。またahamo同様、いわゆる家族割引の「みんなドコモ割」自体は適用されないものの、その対象人数にはカウントされるなど、別ブランドではなく料金プランとして提供しているが故のメリットもある。
そうしたことを考えると、irumoの最大の狙いはOCNモバイルONEのユーザーではなく、携帯大手の安心感と小容量・低価格を求めて、UQ mobileやワイモバイルに流出している既存のNTTドコモのユーザーを繋ぎ止めることだといえる。実際、発表の翌日となる6月21日に総務省が実施した、「電気通信市場検証会議」の第37回会合におけるNTTドコモ提出資料を見ると、他社がグループ内のMVNOを取り込んで自社プラン(サブブランド)として提供し、ライトユーザーの獲得や囲い込みにつなげている一方、NTTドコモだけはライトユーザー向けのプランがなく、それがユーザーの選択結果に表れているとしている。
これまでNTTドコモとしては、そうした領域を他のMVNOと連携する「エコノミーMVNO」として展開しており、OCNモバイルONEもその1つであった。だが先の資料では、「エコノミーMVNOはサポートが十分でない等の課題があり、シニアライトユーザ層を中心にスマホの利便性をより多くのお客様へお届けする際に課題がある」と記述されていることから、他社サブブランドに対抗する上でエコノミーMVNOでは不十分だった様子がうかがえる。
その結果NTTレゾナントの吸収、そしてirumoの提供に至ったといえるのだが、そこで気になるのはirumoがMVNOに与える影響だ。NTTドコモとしては、新料金プラン提供後もエコノミーMVNOの提供を継続するとしていたが、顧客ニーズを考えればirumoの提供によりその存在感が大幅に失われ、エコノミーMVNOとして連携しているトーンモバイルや、TOKAIコミュニケーションズらは非常に大きな影響を受ける可能性が高い。
実際、電気通信市場検証会議の第37回会合資料における、MVNOの業界団体である一般社団法人テレコムサービス協会MVNO委員会の提出資料を見ると、NTTドコモの新プラン提供によって「エコノミーMVNOとしてはドコモショップでの販売拡大に期待していたが、大きな影響を受ける可能性」があるとの指摘がなされている。
加えて同委員会の資料を見るに、「NTTドコモが発表した新プランは、独立系MVNOが提供しているプランと料金が近接している」ことから、接続料の水準が不当でないかを検証する「スタックテスト」を要求するなど、強い懸念を示している様子がうかがえる。
NTTレゾナントの吸収とirumoの提供で、携帯大手3社の料金プランに隙がなくなり流出が減少することが予想されるだけに、今後MVNOに流れる顧客は一層減少し、より苦戦することは必至だ。このような状況をもたらした一因は、携帯大手に料金引き下げを強く求めた行政側にあるだけに、irumoの提供を受けて行政側がMVNO支援のため、どのような動きを見せるのかも注目されるところだろう。
■NTTドコモが新料金プラン「irumo」「eximo」を発表
その内容は既報の通りであり、1つは従来NTTドコモが提供していた「ギガホ」「ギガライト」に代わって提供される、小容量から大容量までの領域をカバーする段階制プラン「eximo」。そしてもう1つは、OCNモバイルONEのサービスに代わり、MVNOとしてではなくNTTドコモ自身が直接提供する小容量のプラン「irumo」である。
それら2つに、従来提供してきた中〜大容量をカバーするオンライン専用の「ahamo」を加えた3プランが、NTTドコモの新たな料金プランとなる。だが新料金プランの発表直後から、内容が分かりにくいとの声が相次いだようだ。
理由の1つはネーミングである。一連のプランの名称は、ahamoに軸を置いたアルファベットの名称となったことから、「ギガホ」「ギガライト」など誰にでも内容が伝わりやすい名称ではなくなってしまったことは確かだろう。
だが、それよりも分かりにくいとの声が多かったのがirumoであり、実際OCNモバイルONEと比べると、料金の仕組みがかなり複雑になっている。OCNモバイルONEは、500MB〜10GBの5段階のコースが用意されており、料金は550〜1,760円。割引は、「OCN光」を契約することで適用される「OCN光モバイル割」のみ(最も安い500MBコースは適用外)であった。
だがirumoは、プラン自体は500MB〜9GBの4段階に減少しており、月額料金も500MBプランこそ月額550円とOCNモバイルONEから維持されているものの、それ以外は割引を適用しないと2,167円〜3,377円と大幅に値段が上がっている。加えて、適用される割引も「dカードお支払割」「ドコモ光セット割」、または「home 5Gセット割」の2つが存在しているため、より複雑になった印象を受ける。
さらに500MBプランに関して言えば、通信速度が最大3Mbpsと非常に遅く、5Gが利用できないなど他の3つのプランとの明らかな違いも存在している。それだけに、OCNモバイルONEのサービスと比べれば複雑で、内容的にも見劣りする印象を受ける人は多かったことだろう。
irumoの分かりにくさには無論、MVNOとしてではなくNTTドコモ自身が提供するサービスとなったことが大きく影響している。実際irumoの提供経緯に関して、NTTドコモは全スマートフォンユーザーの約半数の通信量が月当たり3GB未満と小量であることに加え、NTTドコモ自身が提供する小容量プランを求める声が多かったことを挙げている。
そして小容量、かつNTTドコモが提供することを求めるユーザー層は、スマートフォンにあまり詳しくなく、ahamoとは違ってドコモショップでのサポートを求める人が非常に多いと考えられる。それゆえ、irumoを提供する上では、小容量・低価格とショップでのサポートを両立する必要があり、オンラインでのサポートが主だったOCNモバイルONEと比べ運用コストが大幅に上昇したことから、このような仕組みになってしまったと推測される。
その苦悩ぶりは、irumoのサポート面からも見えてくる。実際、irumoの料金プランには「ドコモメール」、いわゆる携帯メールのサービスが含まれておらず月額300円のオプションとなっているし、ドコモショップでの設定サポートもいくつかは1回当たり1,100円がかかるなど、eximoと比べるとサポート面での弱さがうかがえるが、それもirumoのベースの価格を抑えるためだろう。
とはいえ、競合他社で低価格ながら店舗でのサポートを実現している、サブブランドの「UQ mobile」「ワイモバイル」にも割引の仕組みは存在しているだけに、irumoがそれらと比べれば一定の競争力を持つことは確かだ。またahamo同様、いわゆる家族割引の「みんなドコモ割」自体は適用されないものの、その対象人数にはカウントされるなど、別ブランドではなく料金プランとして提供しているが故のメリットもある。
そうしたことを考えると、irumoの最大の狙いはOCNモバイルONEのユーザーではなく、携帯大手の安心感と小容量・低価格を求めて、UQ mobileやワイモバイルに流出している既存のNTTドコモのユーザーを繋ぎ止めることだといえる。実際、発表の翌日となる6月21日に総務省が実施した、「電気通信市場検証会議」の第37回会合におけるNTTドコモ提出資料を見ると、他社がグループ内のMVNOを取り込んで自社プラン(サブブランド)として提供し、ライトユーザーの獲得や囲い込みにつなげている一方、NTTドコモだけはライトユーザー向けのプランがなく、それがユーザーの選択結果に表れているとしている。
これまでNTTドコモとしては、そうした領域を他のMVNOと連携する「エコノミーMVNO」として展開しており、OCNモバイルONEもその1つであった。だが先の資料では、「エコノミーMVNOはサポートが十分でない等の課題があり、シニアライトユーザ層を中心にスマホの利便性をより多くのお客様へお届けする際に課題がある」と記述されていることから、他社サブブランドに対抗する上でエコノミーMVNOでは不十分だった様子がうかがえる。
■懸念されるirumoがMVNOに与える影響
その結果NTTレゾナントの吸収、そしてirumoの提供に至ったといえるのだが、そこで気になるのはirumoがMVNOに与える影響だ。NTTドコモとしては、新料金プラン提供後もエコノミーMVNOの提供を継続するとしていたが、顧客ニーズを考えればirumoの提供によりその存在感が大幅に失われ、エコノミーMVNOとして連携しているトーンモバイルや、TOKAIコミュニケーションズらは非常に大きな影響を受ける可能性が高い。
実際、電気通信市場検証会議の第37回会合資料における、MVNOの業界団体である一般社団法人テレコムサービス協会MVNO委員会の提出資料を見ると、NTTドコモの新プラン提供によって「エコノミーMVNOとしてはドコモショップでの販売拡大に期待していたが、大きな影響を受ける可能性」があるとの指摘がなされている。
加えて同委員会の資料を見るに、「NTTドコモが発表した新プランは、独立系MVNOが提供しているプランと料金が近接している」ことから、接続料の水準が不当でないかを検証する「スタックテスト」を要求するなど、強い懸念を示している様子がうかがえる。
NTTレゾナントの吸収とirumoの提供で、携帯大手3社の料金プランに隙がなくなり流出が減少することが予想されるだけに、今後MVNOに流れる顧客は一層減少し、より苦戦することは必至だ。このような状況をもたらした一因は、携帯大手に料金引き下げを強く求めた行政側にあるだけに、irumoの提供を受けて行政側がMVNO支援のため、どのような動きを見せるのかも注目されるところだろう。